全国大会、会場――
「わぁ、皆、強そうやね」
続々と集まって来る他校の選手たちを眺めながら、少女は不安げにケンヤを見上げた。
「そぉかー?俺達の方が強いし心配せんでもええ」
ケンヤは優しい微笑を返し、少女の頭を優しく撫でる。
その一言に安心したのか、少女はニッコリ微笑むと「そう言えば侑ちゃん、もう来てるかな」とキョロキョロ辺りを見渡した。
「さあな…」
彼女の言葉にケンヤは気付かれないように顔を顰めた。
その名前を彼女の口からは聞きたくないといった表情だ。
「そのうち向こうから来るやろ。それよりアップするし、これ持っとって」
ジャージを脱いで少女に渡すと、そのまま皆の方に歩いて行く。
その時――後ろから「侑ちゃん!」という声が聞こえて来て、ケンヤはピタリと足を止めた。
「なあなあ、白石ー」
「何や、金太郎」
「何でケンヤ、不機嫌なん?さっきから、余所見ばぁっかしてウォーミングアップに集中してへんやん」
同じくアップをしながら無邪気な顔で尋ねてくる金太郎に白石部長はニヤリと笑った。
「んなもん、がらみに決まってるやろ」
「へ?が何かしたんか?」
「いや何かした、言うよりは…アレやな」
そう言いながらテニス部マネージャーでもあるがいる方向へと目を向ければ、金太郎も一緒に同じ方向へと目をやる。
「ん?と話してるノッポのメガネさんは誰や?」
「…金ちゃん知らんのか?あれは氷帝学園の忍足侑士や」
「え、忍足って…」
「そう、ケンヤの従兄弟。今は関東の氷帝に通てんねん」
「ひゃー!ケンヤの従兄弟かいな!ほなテニスも強いんちゃうの?」
瞳をキラキラさせて自分を見上げてくる金太郎に、白石も苦笑を零した。
――さっきまでケンヤを気にしてたかと思えば。
金太郎にかかれば興味の対象も秒ごとに変わってしまう。
「そりゃ強いで。氷帝の天才やら言われてるらしーわ。それに男前やし女にもモテモテや」
「ほーモテモテの天才かぁ!ほな、いっちょ、お手合わせでも――」
「ちょい待て!お前が入るとややこしなるから!」
「何やねーん!ワイ、ややこしせぇへんてー離してえーなー!」
白石に首根っこを捕まれた金太郎は子供のようにジタバタ暴れだした。
が、しかし白石は慣れているのか「お前もアップしとき」と言いながら、そのまま金太郎を運んでいく。
その時、金太郎の大声で気付いて顔を上げたケンヤに白石は軽くウインクを送った。
それにはケンヤの目も不機嫌そうに細くなった。
◇
◇
◇
「ったく…嫌味か」
ボヤきながらもアップを止めてに目を向ければ、すぐに「ケンちゃーん」と笑顔で手を振ってくる。
ついでに隣にいる従兄弟の侑士もニヤニヤしながら手を振ってきて、俺は軽く舌打ちをした。
「ケンちゃんもこっちおいでよー」
無邪気に嬉しそうな笑顔で呼ぶに、俺は仕方なく二人の方に歩いていった。
「おう、久しぶりやな、侑士」
「元気そうやな、ケンヤ」
相変わらずHくさい(!)伊達メガネをしている従兄弟を見て、俺は「まあな」とだけ返した。
「侑ちゃんはこれからすぐ試合なんやて」
「ほうかー。どことやるん?」
「青学や」
「青学…?ああ…お前が言うてた今年の優勝校か。何や、いきなり関東対決かい」
「そうや。一度負けてるし燃えるわ」
苦笑交じりで笑うと、侑士は軽く肩を竦めた。
「へぇ、因縁対決やなー」
「まあ今度は勝つけどな。お前んとこは?」
「んー俺らも関東の学校やったで。不動…なんたら言うトコや」
「ケンちゃんったら…不動峰やん」
「あーそうそう、それ」
に怒られ、俺は苦笑しながら指を鳴らした。
「なぁなぁ、侑ちゃん。試合終わったら一緒にご飯食べに行かへん?」
「俺はええけど…」
侑士はそう言いつつ、俺にチラっと視線を送ってきた。
しかも何だか得意げに。
「なあ、ケンちゃん、ええやろ?」
「あ、ああ…そうやな…」
が哀願するような目で見てくるし、俺は仕方なく頷いた。
それには侑士も苦笑いなんて零しとる。
ほんまムカつく従兄弟や。
「ほな、試合終わったら連絡入れるし。ケンヤも頑張りや」
「お前もな」
互いに何となく牽制しあい、バチンとハイタッチをする。
でもはそんな空気なんて感じてもいないのか、無邪気に戻っていく侑士に手を振った。
「後で東京、案内してなー!」
その言葉に侑士は俺に見せた事もないような優しい笑みで手を振り返した。
「はぁ、侑ちゃんも全然変わってへんかって安心したわ」
侑士の姿が見えなくなるまで手を振ってたは、やっと気が済んだのか、皆のところへと歩き出す。
その後ろをついて行きながら「しょっちゅう電話しとるんやろ?そんなんで変わらんもないで」と素っ気なく返した。
大人げないとは思うけど、やっぱり侑士が絡むと心がせまなるんはしゃーないことや。
「もぉー電話で話すのと実際に会って話すんは全然ちゃうやん」
は可愛く頬を膨らませて振り返る。
その顔見てしまえば、もう何も言えない。
「ー!ドリンクーちょーだいなー」
そこへ今年のルーキーでテニス部きってのヤンチャくんが元気に飛び跳ねながら走ってくる。
「金ちゃん、さっき渡したの、もう飲んだん?」
は苦笑交じりでそう言うと、急いで皆の方へと走っていった。
それを見送りつつ、何となく俺はテンションが落ちて軽く溜息をつく。
アイツは俺の気持ち、ちっとも分かってへん。
は俺と侑士の幼馴染で昔から仲が良かった。
無邪気で素直なを、気付けば女として見るようになって5年。
なのにアイツは俺のことを男としては見てないようだ。
…の割りに、侑士のことは意識してるように見える。
侑士の通う学校が関東大会で敗退したと聞いた時も凄くショックを受けていて、アイツの方が落ち込んでたっけ。
そんな事が何度もあったことでずっと気になってた。
だからこの大会に侑士の学校も参加する事になったと聞いた時、俺はからかい混じりにに尋ねてみた。
「前から思てたけど…お前、侑士に会える時はほんまに嬉しそうやなぁ。好きなん?」
その質問に対して、は照れくさそうな笑顔を浮かべてこう言った。
「好きと言うか…侑ちゃんは…私の初恋の相手やねん」
その一言に俺はかなりのショックを受けた。
心配してた事が現実になり、ハッキリ言うて俺はかなり動揺した。
それに今思えばアイツが東京の学校に行くとなった時、は大泣きして引き止めてた。
それを見て少なからず、の侑士に対する気持ちが何なのかって漠然と俺の心に不安という感情を植えつけたんや。
侑士は侑士で、そんなの気持ちに気付いてるか知らんけど、俺の気持ちだけはとっくに見抜いてるようで、さっきのような挑戦的な態度をしてくる。
あのスルドサならの気持ちにも気付いてるんかもしれんけどな…。
そしてアイツものこと――
「ケーンちゃん♡」
「気色悪い呼び方すな、蔵ノ介~」
人がへコんでる時に限って、この人はタイミングよく声をかけてくるしたまらん。
振り返れば案の定、ニヤニヤした顔で我が部の部長さんが立っていた。
「まーたフラれたん?」
「フラれてへんわっ」
間髪入れずに返して睨めば、白石は両手を上げてホールドアップをした。
「おーこわ。まーた人のいい幼馴染を演じとったんちゃうん」
「ほっとけ」
プイっと顔を反らしアップの続きを始めると、白石は苦笑交じりで視線をへと向けた。
俺も何となくそっちに目を向ければ、は金太郎や千歳、小春らといった部の連中に囲まれて楽しそうに笑ってる。
その笑顔を見てると、何となく俺まで笑顔になった。
「そろそろ告ったらどうや?男の片思いなんて気色悪いで」
「うるさいのぅ…」
…って、何でコイツに俺の気持ちバレてんねん!
いつからか、こんな事を言うてくるようになって最初はギョっとしたっけ。
だいたい簡単に言うけど、長いこと幼馴染をやってる俺にとっちゃ、改めて告白すんのだって、めっちゃ勇気がいることやねんで。
そんな俺の思いも知らず、白石はストレッチの終えた俺の肩に腕を回して皆の方を見た。
「モタモタしてたら、他の奴に盗られんで」
「はあ?」
「皆、地味に狙いやと思うしなぁ」
「な…っ」
白石の言葉に俺はギョッとした。
そらまあはマネージャーやし、よう働いてくれるし、何より我が校でダントツの可愛さがある。そして、そんなの事を部の皆が可愛がってるのも知ってる。
でも狙ってるなんて初耳や。
「嘘やろ…?」
「ほんまや。皆、幼馴染でもあるケンヤの手前、よう言わんけどな。俺には分かる」
「………」
何や、自信満々で言い切る白石に不安げな視線を向け、再び皆の方を見た。
はやっぱり皆に囲まれて楽しそうな笑顔を浮かべてる。
普段ならクールな千歳や銀、そしていつも男同士でツルんでるユウジや小春、
光や金太郎かて、皆がには優しい笑顔を見せて……
と言うよりは鼻の下が伸びてるやないか!
そう言われてみれば確かに皆の態度はそう見えなくもない気がしてくるから不思議や。
(つーか、そのニヤニヤはやめい、白石!)
「どうや?焦ってきたか?」
「……あ、焦るも何も…アイツは…もともと侑士のことが好きなんや…多分やけど」
「ほぉ、そうなん?でもこの前に"侑ちゃんとケンヤどっちが好きなん?"って聞いたら俺に"どっちも同じくらい好きや"言うてたけどなぁ」
「…えっほんま?って…何でそんなこと聞いてんねんっ!」
ギョっとして睨むと、白石は呆れたように肩を竦めた。
「そら俺も気になるからやん」
「な、何でやねん…ってまさかお前も…」
そう言って言葉を切ると、白石はニヤリと笑った。
「そら、あんな可愛くていい子は滅多におらんし、あのほんわかしたトコも俺のツボにドストライクやわー」
ほんま、コイツの黒さは侑士と同等や。(つーか何がストライクやねん!俺がホームラン打ったろか!)
「ま、うかうかしてたら俺が先に告ってまうで!」
あっけらかんと言い放ち、俺の背中をバシっと叩くと、白石は「ー俺にもドリンクちょーだいなー」と走って言ってしまった。
その場に取り残された俺は唖然としつつ、わざとに抱きついている白石を見て拳を握り締める。
今までみたいに侑士だけ気にしとったらええ言う状況でもないと分かり、足元から不安が駆け上がってきた。
(うかつやった…まさか、そんなライバルが多いとは思わんかったし!)
急に心の奥がざわついて、気付けば俺は皆の元へ走り、の手を引っ張っていた。
「きゃ、ケンちゃん?!」
「お、ケンヤ、何ばしよっとね。をどこ連れて行くと?」
「あー!ケンヤがをさらったでーっ」
「きゃーケンヤくぅーん、素敵ー!ワタシもさらってぇ~♡」
「浮気か、コラ。しばくぞ…。ってかケンヤー!お前もヌケガケかー!」
後ろから皆の罵声や冷やかしが聞こえるけど、この際シカトや。
そのまま戸惑うの手を引き、人気のない方まで歩いていった。
「ちょ、ちょぉケンちゃん、どうしたん?!どこ行く気やねん…」
俺の行動には驚いているのか、足を緩めると不安げな顔で見上げてくる。
辺りに人がいない事を確認すると、俺は足を止め、困ったような顔をしているを見つめた。
「…」
「な、何?ケンちゃん…」
「お前…俺と侑士、どっちが好きなんや?」
「…え?」
「白石には、どっちも同じくらい言うたらしいやん。でも俺はそんなの嫌や」
「…ケンちゃん…?」
鼓動が激しく波打ってうるさいくらいに響いているのが分かる。
今まで築き上げた"幼馴染"という城を今、ぶち壊そうとしている自分に、自分でも驚いていた。
そしても怪訝そうな顔で俺を見つめている。
でも心なしか、頬が赤く染まってるように見えた。
「…何でそんなこと聞くん?」
「知りたいからに決まってるやろ。お前…侑士のこと、どう思てるん?好きなんか?」
「…そ、そりゃ…好きやで?でも――」
「アイツと同じなんて言葉、聞きたない。俺はどっちが好きか聞いてんねん」
ハッキリ言って口から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしてる。
他の女が相手なら、いつものように軽いノリで何でも言えるのに、の前じゃまるで小学生みたいや。
「なぁ…答えてぇな」
「そ、そやから…何でそんな事――」
「お前が好きやからに決まってるやろっ?」
「―――ッ」
勢いに任せて溢れ出しそうな想いが口から零れ落ちる。
その時のの表情も、鮮明に脳裏に焼きついた。
「ケ、ケンちゃん…?」
大きな瞳が驚きと戸惑いで揺れている。
頬もさっき以上に赤く染まって、今にも泣いてしまいそうなが、やっぱり愛しく感じた。
「…ずっと…好きやったんやで?でもお前は俺のこと幼馴染としてしか見てへんやろ思て言えんかった」
バカみたいに顔が火照る。
なのに告ったそばから幼馴染としての関係まで失うかもしれんという恐怖が俺を支配した。
それでも、ここで引き下がるわけにはいかへん。
俺の一世一代の告白を取り消す気もない。
「……俺はお前が好きや。本気で好きやで…?」
「…ケンちゃん…」
俯いてるの頭に、いつものように手を乗せ軽く撫でると、は赤い顔のままやっと俺を見た。
大きな瞳を潤ませて見上げてくるから、我慢も限界で、強引に細い手を引き寄せ抱きしめる。
「ケ、ケンちゃ…」
「好きや…どーしょもないくらい。は…俺のこと、どう思てるん…?」
華奢な体を抱きしめながら、ドキドキうるさい心臓の音を聞かれてると思うと、そっちの方が恥ずかしくなった。
これから試合だってのに、こんなに心臓を酷使して大丈夫か、と変な心配までしてしまう。
「答えて…くれへんの…?」
抱きしめたまま問いかけると、の体がわずかにビクリとする。
ああ…やっぱりアカンのかな…
まだ早すぎたやろか。
いきなり過ぎてかて混乱してんのとちゃうかな。
自分の心臓の音を聞きながらも、頭の隅でそんな事を考える。
白石に乗せられて、勢いに任せての告白やから、なおさら後悔という俺らしくない言葉が脳裏を掠めた。
「……?」
そこでハっとした。
抱きしめている腕から、かすかにの体が震えているのを感じたから。
「…お前…泣いて…るんか?」
「……っ」
そこで慌てて体を離せば、の瞳から大きな涙が零れ落ちるのが見えた。
「わ、悪い…俺、泣かすつもりは――」
「…う、ううん…」
アタフタとしながら顔を覗き込むと、は思い切り首を振った。
「ち、違う…ビックリして…」
「…わ、悪い…」
「…ううん…」
はまた首を振った。
そして涙で濡れたままの瞳で俺を見上げた。
「…私…部長にどっちも、なんて言うてへん…」
「……へ?」
何の話か一瞬、分からなくてマヌケた声を出す俺に、は真っ赤な顔のまま目を伏せた。
「確かに…白石部長には…その…どっちが好きか聞かれたけど…」
「…ああ…え、でも――」
やっと話が見えて口を開きかけた。
が、は黙って首を振るだけ。
そこで俺は、さっきのの言葉を思い出し、ハっとした。
「ほなら…お前…何て答えたんや…?」
「………」
俺の問いにはドキっとしたように顔を上げた。
この反応を見て、俺の心臓にまたしても負担がかかる。
(やっぱり…侑士の方が…)
と考えたくもない事を想像していると、が小さく口を開いた。
「…ちゃんて…」
「え、何や?聞こえへん…」
の肩に両手を乗せて顔を覗き込む。
するとは耳まで赤くして、小さく一言――
「ケ、ケンちゃん…て…答えた…」
「…は?」
一世一代の告白までして、相手からOKとも取れる言葉をもらったのに、俺は情けない声で聞き返すハメになった。
「う、嘘…やん」
「ほ、ほんま…」
「え?そやかて白石の奴は――」
そこでアイツのニヤけた顔が浮かんだ。
(あ、あんのヤロォ~~~~~~~ッッ!)
アイツの企みに気付き、握り締めた拳がわなわなと震える。
そこで俺はまんまとアイツの作戦に引っかかり、煽られてに告白してしまった事に気付いた。
「ケ、ケンちゃん…?」
何も言わない俺に不安になったのか、が恐々と顔を上げる。
涙で濡れた瞳と目が合う。
そこでやっと我に返り、今の怒りなんか綺麗に飛んで行った。(俺も単純やな)
今は怒ってる場合とちゃう。
長年の想いが叶ったんやから。
そう思いながら、再びを抱き寄せる。
さっきみたく遠慮がちではなく、思い切り細い体を抱きしめた。
何だか胸がいっぱいで、もう言葉も出てきぃへん。
ただ風が揺らす木々の音だけが辺りに響いている。
どれくらい、そうしてたのか。
不意に遠くから、試合開始の放送が流れてるのに気付いた。
「…行かな…」
「…うん」
そっと腕を緩めると、が赤い顔のまま頷いた。
「色々聞きたいこととか、話したい事があるけど…それは後でな…?」
「…う、うん」
少し余裕の戻ってきた俺の言葉に、が頷く。
そのまま手を繋ぎ、二人で皆のいる場所へと歩き出した。
「ケ、ケンちゃん、急がんでもいいん…?」
「大丈夫。間に合うって」
遠慮がちに繋がれた手をギュっと握り締め、そう言うと、もやっと笑顔を見せてくれた。
「頑張ってな?」
「ああ、俺、今めっちゃ燃えてるから」
そう返せば、が恥ずかしそうに俯いた。
そんなを見ていると、ちょっと欲が出てきて、一旦足を止める。
「ケンちゃん…?」
いきなり立ち止まったから、は驚いて顔を上げた。
その瞬間、素早く唇を重ねると大きな瞳が見開かれた。
「これでパワー全開や。絶対勝つし応援宜しくな」
「ケ、ケンちゃん…っ」
真っ赤になったに再びキスをすると、自然と体が熱くなる。
今の俺は誰にも負ける気がしなかった。
その時、遠くから仲間の賑やかな声が聞こえてきた。
「こらーー!ケンヤ!いつまでイチャついてんねん!試合始まるでー!」
「イチャつくんは試合終わったらにせぇー!」
「アイツら…」
遠くで手を振って叫んでいる皆の様子を見て、奴らは初めから俺を引っ掛けてたんやと改めて気付いた。
「後でしばいたる…」
「え?」
その呟きに、がキョトンとして俺を見上げる。
きっとは皆に誘導された告白なんて思ってもいないんやろなと思いつつ、俺は優しく微笑み返す。
「ほな、いっちょ行って来ますか」
恋が一つ叶ったくらいでこんなに力が出るものか、と自分でも驚きながら、と二人で皆のところへ走っていく。
後で合流する侑士に、この事を伝えた時の事を想像してニヤケながら(黒)俺は銀と二人でダブルスの試合に挑んだ。
◇
◇
◇
「アイツ、ほんま単純やったで、侑士くん」
「そやろ?昔からや。全くモタモタしてからに」
試合の終えた侑士がケンヤの試合を見に来た時、白石がとの事を報告すると、呆れたような笑みを浮かべた。
「ここまでお膳立てしてやったんやし今日はケンヤのおごりやな」
「そやな!何や美味いもんでも食わしてもらおか」
「ほな、東京で美味い店、知ってるし俺が案内するわ」
「おおきに。ああ、でも…ほんまにこれで良かったん?侑士くんものこと…」
「…………」
白石の言葉に、忍足侑士は優しい笑顔を見せながら、青い空を見上げる。
その時「不動峰ダブルス2、石田・神尾ペア棄権」と放送が流れ、辺りは大歓声に包まれた――
従兄弟と幼馴染と愉快な仲間?