第九話:尾行のお供に
高専の敷地内は森に囲まれているせいで、夕べから少しずつ強くなった風が吹きつけ、鬱蒼と生い茂る木々がざわめいている。ついでに窓がカタカタと揺れる音。その音を薄っすらとした意識の中で聞いていたわたしは、ふと目を覚ました。
「…朝か」
目が覚めた瞬間、小さな欠伸が出て、軽く寝返りを打つ。夕べは遅くまで皆とお喋りをしていたせいで少し寝不足かもしれない。冥さんと歌姫さん、二人と連絡がつかないという話を聞いて、何となく不安を覚えたわたしは一人で部屋に戻るのが嫌だった。だから硝子ちゃん達や、途中で任務を終えて戻ってきた七海くん達、皆でお喋りしたりトランプをしたりして過ごした。あんな大勢でババ抜きをしたのは初めてで、人数が多いとあんなにも白熱するんだということを初めて知った。故郷の山では幼馴染2人しか同じ年頃の子がいなかったせいだ。
(結局、最後の最後は五条くんと七海くんの先輩後輩バトルになったっけ…)
あの二人の駆け引きや騙し合いが見もので、早々に上がった後は見学してる方が面白かった。でもその合間にも、時々冥さんや歌姫さんに電話をしてみたものの、一度も繋がることはなく。心配で悶々としながらも0時を過ぎた頃にお開きになった。
――お母さんは強いから絶対に負けないよね!
――、それは違うわ。呪霊との戦いの中で絶対はないの。
ふと母に言われた言葉を思い出す。あれはわたしがまだ幼い頃のことだ。父も母も呪術師だったけど、わたしが受け継いだ術式は母のものだ。母よりも才能がなく、早々に引退した父はそれを知った時、わたしを優秀な呪術師にすることに躍起になった。でもわたしは――わたしから母を奪った呪術師という仕事を毛嫌いするようになっていた。
(別に呪術師が悪いわけじゃないのにね…)
要は嫌なのだ。呪術師になり、今のように仲間との絆が出来て、大切な人が増える。その大切な人達が危険な任務で命を落とす姿を見るのが、絶対的に怖いのだ。
五条くんと夏油くんに連れられて高専に来た時、二人が高専の術師の中で最強だと知った。まだ二年なのに彼らは強く、負け知らずだった。それを知った時、わたしは少なからずホっとしたのかもしれない。そんなに強いのなら、命を落とすこともないんじゃないかと。だけど――。
――呪霊との戦いの中で絶対はないの。
時々その言葉を思い出すと、やっぱり怖くなる。
――冥さんは強いから大丈夫だって。
夕べ、五条くんにそう言われた時、母の言葉が頭に浮かんだ。だからあんなことを口走ってしまったけど、五条くんにいらぬ心配をかけてしまったかもしれないと思った。別れ際も大丈夫か?と訊いて来た五条くんを思い出す。
(悪いことしちゃったかな…)
そんな事を考えていると、不意に欠伸が出た。
「…眠い」
今日は任務はなく、午前中は一般の授業しかない。とりあえず今はもう少し寝ていよう、と布団に潜り込む。授業中、居眠りしないようにしなくちゃ。そう思いながらウトウトとしていた時、窓の外から人の声が聞こえた気がして、わたしは再び目を開けた。
(今の声…五条くんと…夏油くん?あ…硝子ちゃんの声もする)
何やら話す声が何度となく聞こえて来て、わたしはベッドから出るとカーテンを少しだけ開いた。すると寮の玄関前で三人が何やら話しているのが見える。
「…今日は五条くん達も任務ないって言ってたのに…」
制服姿の三人を見てわたしは首を傾げた。制服を着てるということは任務に出かけるということだ。でも珍しく硝子ちゃんまで一緒なんてどこへ行くんだろう。そこでふと夕べの夜蛾先生の言葉を思い出した。
(え、もしかして…冥さん達の援護の任務…?でも二日は待つって言ってたのに…)
そこまで考えた結果、わたしもすぐに出かける準備をした。部屋着を脱ぎ捨て、制服に着替える。窓の外を見ると、ちょうど三人が鳥居の方へ歩きだしたのが見えて、わたしは考える前に財布を持って急いで部屋を飛び出した。
△▼△
『―――次は~浜松~浜松~』
社内にアナウンスが流れ、わたしはそっとドアの窓から隣の車両を覗き見た。五条くんと夏油くんは向かい合って座り、何を話しているのか時々二人の笑い声が聞こえてくる。梢子ちゃんは駅弁に夢中のようで、二人とは反対側の席でのんびり食事をしているようだった。
(はあ…わたしもお腹空いた…)
朝、寝起きに飛び出してきたおかげで何も食べていない。でも買ったり食べたりしている内に見失うのが怖くて我慢していた。三人は高専から車じゃなく電車で移動し、新幹線に乗った。とりああえず手ぶらのとこを見ると旅行というわけでもなさそうだ。
(やっぱり夕べ夜蛾先生が話してた件かも…)
わたしがついて来てどうにかなるわけでもないけど、ただ心配でついて来てしまった。あまり近づくと五条くんにバレそうで、距離を取りながら尾行しなくちゃいけないのが大変だ。
少しして駅が近づいて来た時、徐に三人が立ち上がったのを見て、わたしは慌てて身を隠した。
(やっぱり浜松で降りるの…?)
さっき窓から覗いた時、三人の会話がかすかに聞こえてきて。
「今から浜松だと――」
と、その時夏油くんが言っていたのだ。行き先が分かったことで駅で迷うことなく浜松までの切符を買ったけど、冥さん達がどこで行方不明になったのかは聞いていない。本当にその任務なのかまでは分からなかった。
そんな事を考えながらも三人に見つからないよう少し離れた車両に移り、新幹線が停車するのを待った。車内もかなり混みあっているから、これなら見つかりにくいだろう。
『ドアが~開きま~す』
浜松駅に着き、間延びしたアナウンスと共に新幹線のドアが開いた瞬間、乗客たちが一斉にホームへと降りていく。その人混みに紛れながら三人を見失わないよう、わたしは足早に進んだ。五条くんと夏油くんが人より頭一つ分、身長が高いのも助かった。三人は駅を出るとタクシー乗り場まで歩いて行く。わたしも五人くらいの間を空けて後を追っていたけど、三人が乗ったタクシーの次の車に運よく乗ることが出来た。
「前のタクシー追って下さい」
何かの刑事ドラマで言いそうな台詞を改めて口にすると何となく恥ずかしくなったが、運転手のおじさんは楽し気に振り向き、
「何?彼女、刑事…には見えないし探偵さん?にしては若すぎるか…」
そう言いながらすぐに車を発車させた。
「い、いえ、そんなんじゃなくて…前の車に知り合いが乗ってるんです」
とりあえず怪しまれないよう、そう付け足したのが間違いだった。おじさんはますます楽しそうな顔をすると、バックミラー越しにわたしを見て「ああ、彼氏?」と言ってニヤリと笑う。
「は?い、いえ――」
「あ~!彼氏が浮気相手と浜松旅行に来たのを着けてきたんでしょっ」
「え?!ち、違います!」
「いやいや~そういうの結構あるからオジサン分かるんだよ。任せな、お嬢ちゃん。絶対見失わないから!」
何を勘違いしたのか、運転手のおじさんは急にやる気を出すと、三人が乗ったタクシーの後ろまで車を走らせる。間に三台の車がいたものの、急にスピードを出したおじさんの運転に、勘の鋭い五条くんや夏油くんが気づくんじゃないかヒヤヒヤした。
「ったく、こんなに可愛い子がいるのに浮気なんて許せないなぁ」
「え、だ、だからそういうんじゃなくて――」
「やっぱ浮気できるくらいだから彼氏もカッコいいんでしょ?君も凄く可愛いもんね。高校生?」
「……は、はあ、まあ」
わたしの話など聞こうともせず、勝手に話を作り出したおじさんに、もう好きに想像して下さい的な気持ちになってきた。きっと退屈な日常に「尾行」という刺激がやってきて、多少ハイになってるんだろう。それでも運転の方は確かなようで、言った通り三人が乗ったタクシーを見失わないよう上手く距離を空けて尾行してくれている。そして暫く走った頃、前のタクシーが街道から外れる脇道へと曲がった。
「あれ?この先は何もないんだけどなあ。"アレ"以外は」
どこかの観光名所にでも行くと思っていたのか、次第に狭くなる道を走る前の車を訝し気に見ながら、おじさんは首を傾げた。
「アレ…って何ですか?」
その様子が気になり尋ねると、おじさんは苦笑気味にバックミラーへ視線を向けた。
「いや…この先の林道を抜けたところに地元じゃ有名な心霊スポットってやつがあるんだよ。古い洋館なんだけどね」
「……(それだ!)」
その話を聞いてわたしはピンときた。やっぱり五条くん達は冥さんと歌姫さんの救出任務を受けてこの場所に来たのだ。夜蛾先生は少し様子を見ると言っていたけど、それが早まったのかもしれない。
「あ~これ以上近づいたらバレちゃうな…」
場所が場所だけに、今は前のタクシーとこのタクシーの間を走る車はない。極力、距離を空けて走っていたおじさんは「どうする?お嬢ちゃん」と聞いて来た。その時、前のタクシーが緩いカーブを曲がったところで停車するのが見えて、おじさんもカーブ手前で慌てて車を止めた。
「ああ…あの奥は車が通りにくいから、もしかしたら歩いて行くのかな。って本当にあの洋館に行くのか。変わってるね、彼氏」
「え?」
「浮気相手と心霊スポット巡りでもする気かな。あはははっ」
「……」
相変わらず一人で話を作っているおじさんに返す言葉もなくなり困っていると、
「あ、降りて来た!」
「……っ?」
その言葉に窓から身を乗り出すと、ちょうど降りて来る五条くんが見えた。身長がある分、かなり頭をかがめて降りて来た五条くんは、サングラスを直しながら奥の林を見上げてキョロキョロしている。運よくカーブが死角となり、少し後ろに止まっているわたしの乗ったタクシーにはまだ気づいてないみたいだ。意識して振り返らず先に進んでくれたら、このままやり過ごせるかも、と考えていると、おじさんまでが窓から身を乗り出した。
「へえ~!こりゃ想像以上のイケメンだね~!背も高いし、髪も…あれわざと白く染めてるの?サングラスなんてお洒落なんだねー!彼氏は」
「い、いえ、だから彼氏じゃ…」
彼氏彼氏と連呼され、次第に恥ずかしくなってきた。そんなわたしの様子にも気づかず、おじさんは再び窓から顔を出す。
「あ!!あの子かい?彼氏の浮気相手って」
「へ?」
一人盛り上がっているおじさんの言葉に前を見ると、五条くんの後から降りて来たのは硝子ちゃんだった。口には煙草を咥えている。おじさんは硝子ちゃんを勝手に浮気相手と勘違いしたようだ。(!)
(そんなこと言ったら梢子ちゃんブチ切れそう…。"こんなクズと私が浮気だぁ?!"な~んて…)
普段の二人のやり取りを思い出しながら軽く吹きだしそうになった。するとまた運転手のおじさんが大きな声を上げた。
「あれ?!もう一人男の子がいるよ?!」
今度は助手席から夏油くんが降りて来るのを見て、おじさんは更に驚いている。
「いや~彼も身長高くてカッコいいなあ!ずいぶん大人っぽいし今の子って皆あんな感じ?っていうか、どっちが君の彼氏?え、まさか四角関係?!」
「……(もはや何も言うまい)」
一人で大騒ぎしているおじさんの相手も疲れて来て、わたしはこの先どうしようか考えた。三人がこのまま心霊スポットへ向かってくれれば、わたしも見つからずにタクシーを降りてついていけそうだ、と思ったその時。
「あ、まずい。後ろから車が来ちゃったよ」
「え…?」
おじさんの言葉に驚いて振り向くと、もう一台黒い車がこっちへ走ってくるのが見えた。この林道は車が一台通れるくらいの幅しかなく、このままではわたしたちが邪魔になってしまう。
「参ったな…バックして少し広いところに止めないと後ろの車が通れない…」
「あ、じゃあそうして下さい。わたしもすぐには降りられないし…」
「そう?悪いね」
おじさんはそう言いながら、後ろから来た車の運転手に「少しバックしますんで」と声をかけている。だけどその車に乗っていた人物はおじさんに何やら言葉を返すと、電話をしながら降りて来るのが見えた。
「……あの人確か…」
見覚えのある顔が降りて来た瞬間、わたしは思わず後部座席のシートに慌てて身を隠した。
「え、知ってる人?まさか学校の先生?」
わたしの様子に気づいたおじさんが驚いたように尋ねてきた。でもわたしが答えようとしたその時、不意に後部座席の窓をコンコンと叩く音が聞こえて軽く鼓動が跳ねる。すでに見なくても誰なのかは分かっていたけど、恐る恐る窓の方へ顔を向けると、そこには思った通り、満面の笑顔で手を振る五条くんがいた。
「ご、五条くん……」
「え?」
おじさんはキョトンとした顔で振り向き、そこで車の横に立っている存在に気づいた。
「あ、彼氏にバレちゃった?」
おじさんはギョっとしたように慌てている。その間も五条くんは笑顔のまま(怖い)指をチョイチョイと動かす仕草をしたのが見えて、仕方なく窓の開閉ボタンを押す。
「こ~ら、。こんなとこで何してんだよ」
「え、えっと……」
五条くんは窓枠に両肘を乗せ、笑顔で聞いてくる。こういう笑顔の時の五条くんは少しだけ怖い。
「じ、実はその…」
どう説明しようか迷っていると、わたしが答えるより先におじさんが後ろを振り向き、口を挟んできた。
「何って君ね。この子は君が浮気相手と旅行に来たのを知って追いかけて来たんだよ。可哀そうじゃないか、こんな可愛い子がいるってのに浮気なんて」
「――は?浮気?」
「お、おじさん!その話は――!」
最悪なことにおじさんは自分の妄想を事実だと信じ込み、五条くんに説教をし始めた。軽い眩暈がする。
「君は男の僕から見ても凄くイケメンだからモテるのは仕方ない。でもね、この子はこんな所まで追いかけてくるくらい君のことが好きなんだよ。その気持ち何で分からないんだ」
「……はあ?」
「……(穴があったら入りたい)」
淡々と説教をしてくるおじさんに、五条くんも最初はキョトンとした顔をしていたものの、何かを察したのか「なるほどね」と言って不意に笑い出した。
「オジサーン。オレ、浮気なんてしてないって」
「な、何?」
「オレはこの子だけを愛してるからさー」
「ご、五条くん…?!」
話に合わせてとんでもないことを言い出した五条くんにギョっとした。説教をかました当のおじさんはストレートに「愛してる」と言ってのけた五条くんをマジマジ見つめると、軽く赤面しながら咳ばらいをしている。
「じゃ、じゃあ…あの女の子はなんだ!浮気相手だろう?」
「は?」
前のタクシーにもたれ掛かり、何事かとこっちを見ている硝子ちゃんをおじさんが指さしている。途端に五条くんが徐に顔をしかめた。
「ありえねー!あんな狂暴な女と浮気するわけねーじゃんっ。冗談きっついねーオジサーン」
本人が近くにいるのに、さらりと暴言を吐く五条くんに、さすがの妄想おじさん(!)も呆気に取られている。その時、後ろの車に乗っていた男性が怪訝そうな顔で歩いて来るのが見えた。
実は先ほど後方から来たのは高専の補助監督だ。多分この人は道が塞がれている為に歩いて行こうとして、先に来ているであろう五条くんに報告の電話をしたに違いない。そして後ろにタクシーがいる事を知った五条くんの意識がこちらへ向いたことで、わたしの気配にも気づいたんだろう。
「五条くん、どうしましたか?早く行かないと―――」
「ああ、今行く」
補助監督に言われ、五条くんはわたしを見るとすぐに車のドアを開けた。
「つーわけだしもおいで」
「…え?」
「このまま一人で帰せないし」
「……っ…」
「どうせ冥さんや歌姫のことが心配でついてきたんだろ?」
「そ、それは…」
何て応えようか迷ったがバレてしまったものは仕方ない、と言われるがままに車を降りた。素直に車を降りたわたしを見て五条くんニッコリ微笑むと、今度は運転席を覗き込む。
「オジサン、いくらー?」
「え、あ…えっと二千八十円になります」
「はーい。んじゃーこれ。あ、釣りはいらないよ。尾行代♡」
「え?あ、ありがとうございます!」
わたしのタクシー代を五条くんが支払うと、おじさんは予想外のチップに喜んでいる。そして何故かわたしに満面の笑みを見せた。
「お嬢ちゃん、良かったね!彼氏が浮気してなくて!いい彼氏じゃないか!お似合いだよ」
「えっ?いや、だから違う――」
「じゃあ末永くお幸せにー!」
「あ…」
最後の最後までわたしの話は一切聞かず、自分の妄想を信じ込んだまま、運転手のおじさんは笑顔で走り去って行った。ある意味最強かもしれない。
「ぶは…!あのオッサン、おもしれー」
「ご、五条くん、笑いごとじゃないってば!ただ尾行してくれって言っただけなのに勝手に妄想で話を作り出しちゃうし…」
「いやーでもオレがの彼氏で浮気旅行って…!ウケる」
「それも相手は硝子ちゃんらしい…」
そう言って五条くんを見上げると、五条くんもわたしを見る。そしてお互い同時に吹き出した。
「ぷっぁははははっ!マジウケんだけど、あのオッサン」
「わたしも途中から否定するの疲れてスルーしちゃってて」
「オレらの後ろでそんな楽しい展開になってたとはね。オレがイケメン彼氏でが可愛い彼女ね。ま、お似合いっつーのは大当たり」
「な、何、それ…」
「だってお似合いだろ?」
五条くんは得意げな顔でそう言ってニヤリと笑う。わたしは照れ臭くて「何言ってんの…」と誤魔化してしまったけど、他人から見ればわたしと五条くんはそんな風に見えるんだ、と思うと、どこか変な気持ちになった。
そこへ待ちくたびれたのか、怖い顔をしながら硝子ちゃんが歩いて来るのが見えた。
「おっそーい!五条、いつまで待たせる…って、あれ?!?!」
「お、お疲れ様です…」
「何でここにいるのー?って、まさか…五条が呼んだとか?」
「そ、そうじゃなくて…」
「チッチ。がオレのそばにいたくて追いかけて来たんだよな~?」
「え?!ち、違うってば…っ」
わざとそんな説明をする五条くんに思わず顔が赤くなった。何か非常にマズい展開だ。そこへ夏油くんまでが来てしまった。
「あれ…??!…まさか悟…お前が彼女を呼んだのか」
「だーから違うって。がオレの浮気を心配してー」
「浮気ぃ?何の話よ、五条」
「ご、五条くん!!それはあのおじさんの妄想で――」
「あのぅ……そろそろ任務に行かないと歌姫さんたちが心配ですので…」
同じ下りを延々しているわたしたちにしびれを切らしたのか、補助監督が困り顔で歩いてきて、結果わたしもその現場へ同行することになった。