第十二話:天と地が入れ替わった日...⑵


星漿体の付き人の人が何者かに攫われたと連絡が入ったのは、五条くんと夏油くんが任務に出かけてから約数時間後の夕方ごろだった。その話を硝子ちゃんに聞いた後から、何となく胸の奥がざわざわしてて。夕飯後に七海くんや灰原くんと談話室でお喋りしている時も少しだけ気分が落ち着かなかった。

(あ…今日は星が見えない…)

食後のデザートを食べたり、ジュースを飲んだりしながら、灰原くんがいかに夏油くんを尊敬しているかというお決まりの話になり、七海くんがウンザリしてる顔を横目で見つつ。わたしは二人から離れて窓を開けると、少し曇った夜空を見上げた。昼間までは晴れていたのに、今は少しだけ雲が増えて、いつもは見える星が隠れてしまってる。都内じゃ滅多に見えない星も、山のふもとにあるこの場所からは意外とハッキリ見えたりする。高専の空気はどこか故郷の匂いがして落ち着く。あんなに毛嫌いしてた田舎なのに、実際似たような場所にいると落ち着くなんて、わたしもつくづく田舎者気質だなと苦笑が漏れた。

(五条くん達、大丈夫かな…今は犯人からの連絡待ちだってことだけど…付き人の人がさらわれるなんて思いもしなかったろうな)

そういう予想外の突発的なことが起こるのは、この世界じゃよくあることで。だけどそんな話を聞くたび、わたしは不安になってしまう。

――絶対はないのよ。

またしても母の言葉が頭に浮かんで、軽く頭を振った。

(そう…絶対はない。あの二人がいかに強くても、それは同じだ…。だからこそ、怖い)

わたしはきっと、他の呪術師よりメンタルが弱いんだろう。母を殺されてから、それはより顕著に表れ始めた。でも都会ほどわたしの住んでいた田舎に手強い呪霊はいない。仲間もいない。非術師の幼馴染と、数少ない村の大人達を守るだけなら、わたしと父だけで十分だった。だけど将来、それを母のように仕事にしようとはどうしても思えなくて、いつからか普通の女の子になりたいという願望が強くなってしまった。呪術師であることを捨てれば、不条理な死を目にしなくて済む。そう思ってしまった。一般生活の中にも不条理なことは山ほどあるのに、呪術師よりはマシだと、そっちへ逃げようとした。でも結局はこの世界から、自分の運命から、逃れられずに今、わたしはここにいる。危険な任務に出かけていく仲間の身をただ、案じることしか出来ない。

――ちゃんと帰ってくっからはいい子で待ってろよ。

ふと、先ほど五条くんと交わした最後の言葉を思い出した。いつもそうだ。もし何かあった時、あれが最後になるんじゃないかと思い出しては不安になってしまう。わたしの悪いクセだ。

(五条くんがいけない。最近、やたらと優しいから……)

いちいち人の心を乱すようなことばかり言って。だからこんなにも気になってしまうんだ。
ふと手元のケータイを見下ろして開く。あれから連絡はないけど、定期的に夜蛾先生へ連絡がきてるみたいだから、何か異変があればきっと夜蛾先生に報告がいく。それは分かってるけど何となく。そう何となくアドレスを開いて"こ"のところまでスクロールしていった。そこで五条くんと名前が表示され、指を通話ボタンへ伸ばす。でもその前に突如ケータイが鳴りだした。そのメロディ音にビックリして心臓がアニメのように飛び跳ねた気がする。バクバクした胸を押さえつつ、視線をケータイへ戻す。

「え…五条…くん…?」

画面に表示された名前を見て驚いた。今まさにかけようかと迷っていた相手だったからだ。

「も、もしもし」
『おー?』

今度は迷うことなく、すぐに通話ボタンを押した。

「……以心伝心?」
『…ハァ?』

第一声、思ったことが素直に口から出てしまった。

「今ね、わたしも五条くんにかけようと思ってたら先にかかってきたからビックリしたの」
『え、マジ?ならあと数秒待ってりゃ良かったなー』
「…どうして?繋がったなら同じじゃない」
『いや、ちげーだろ。からかかってくんのが嬉しいんじゃん』
「………」
『あれ?もしもーし』

いきなり照れるようなことを言うなと思いつつ、軽く咳払いをすれば『電波悪い?』と見当違いなことを言ってくる。本当に五条くんはどうしちゃったんだろう。最初はそんな素振りもなかったはずなのに、ある日いきなり「好きだ」発言。それ以降、いつもわたしの情緒を壊しにかかってくるから嫌になる。

『あーそれより何か用事だった?』
「…え?」
『オレにかけようとしてくれてたんだろ?』
「あ……べ、別に用があったわけじゃ…」

ただ、無事な様子を確かめたかった。それだけだ。なのに五条くんはまたしても見当違いなことを言いだした。

『あーオレの声が聞きたかったと。そーかそーか』
「な…誰もそんなこと言ってないし…!」
『照れるなよ』
「照れてないっ」

そう叫んだ時だった。背後から『何をデレデレしておるのじゃ!気色悪いっ』という女の子の声がかすかに聞こえてきた。もしかしてこの子が星漿体?と思っていると、五条くんは後ろに向かって『うっせーぞ、クソガキっ』と叫んでいる。その後ろで夏油くんの『悟…言い方』と窘めるような声まで聞こえてきた。

『ったく…人が電話中なのに乱入してくんな…』

五条くんはブツブツ言いながら『あー悪いな。外野がうるさくて』と苦笑した。

「ううん…さっきの子が星漿体の女の子?元気な子だね」
『ああ、マジで生意気でさ。まあ面白い奴だけど。それよりは何してたんだよ』
「え、わたし?今は…夕飯後に談話室で七海くん達とお喋りしてた」

途中から離脱してたけど、と心の中で付け足すと、五条くんはオレも早く戻りて~とボヤいていた。この様子だと敵にはそれほど苦戦していないみたいだ。

「付き人の人が誘拐されたって聞いたけど…大丈夫なの?」
『ああ。それがさっきあちらさんから連絡来てさ。明日沖縄まで行くことになった』
「え、沖縄…?!」
『受け渡し場所に指定してきたんだよ。だから今は空港近くのホテル入ったとこ。今夜は寝ずの番だな、こりゃ』

何で沖縄?と驚いたけど、星漿体の子まで連れて行くらしい。まあ二人の傍が一番安全だから当たり前か。

「でもいいなぁ、沖縄。行ったことない」
『あ、マジで?あーそっか。オマエ、東京出てくるまではずっと故郷にいたって言ってたもんなー』
「うん…沖縄って年中暖かくてお花もいっぱい咲いてる海の綺麗な場所なんでしょ?」
『そうそう。ああ、じゃあ何か土産でも買ってってやろうか』
「えっ!いいの?」

お土産、と聞いてテンションが上がるなんてわたしもかなりちょろい女だ。だけど――。

『いいよ。何がいい?』

いいよ、なんて優しい声でそんなことを言う五条くんにドキっとさせられる。何か会話が恋人同士のそれっぽくて、少し恥ずかしくなってきた。

『あーアレか?ジンベイザメのヌイグルミとか』
「ヌイグルミって…子供じゃないってばっ」

ケラケラ笑ってからかってくるところはやっぱり五条くんだと呆れつつ、ジンベイザメのヌイグルミはちょっとだけ惹かれてしまう。だいたい海の生物を生で見たことがないのだから、わたしにしたら巨大な魚がいるなんて未知の世界だ。

『甘いお菓子も結構あんぞ。ちんすこうとか』
「え、何それ。変な名前」
『甘いお菓子だって。クッキーみたいなやつ。あとはサーターアンダーギーとか?』
「………」

またまた覚えられない名前が飛び出し、脳内にクエスチョンが浮かぶ。名前からは全然そのブツを想像できない。揚げ菓子だと説明されたけど。

「じゃあお菓子と…何か沖縄っぽいアクセサリーがいいな」
『アクセサリー?』

てっきり"ハァ?我がまま言うな"と言われるかと思ったのに、五条くんは『分かった。探してみるわ』とすんなり約束してくれた。あまりに意外で少し呆気にとられていると、キンコーンというチャイムらしき音。

『ああ、ルームサービス頼んだんだよ。飯食う暇なくてさ。――あ、傑!出て』

五条くんが後ろにいる夏油くんに応対を頼んで、彼がはいはいと言いながらルームサービスを受けとりに行ったような気配がした。

「そ、そっか。じゃあ…切るね」

これから食事なら、と思って言った言葉だったのに、五条くんは不満そうに『えー』と言い出した。

『もう切んのかよ。もう少し――』

と五条くんが言った時だった。何やら背後で悲鳴のような声とドタバタ騒がしい音がして、五条くんは『ったく…こんなとこにまで残党かよ』と舌打ちをしている。

「え、ど、どうしたの?」

今の音は只事じゃないと慌てて尋ねると『ホテルのスタッフに化けた呪詛師が来たけど傑がやっつけた』ということだった。すでに取り押さえたということでホっと胸を撫でおろす。ホテルの部屋でも安心はできないみたいだ。そう考えると護衛任務は想像するよりも大変らしい。

『あー…これからコイツ、尋問しねえと。ったくおちおち電話もしてられねえ』
「あ、うん…分かった。あの…気を付けてね、ほんと」
『分かってる。ああ、じゃあお土産楽しみにしてろよ』

五条くんはそれだけ言うと、電話を切った。

「…呪詛師って…大変だ」

まさか電話の最中も襲ってくるなんてビックリしてしまう。でもあの様子じゃ確かに寝る暇などないだろうな、と思った。その時、灰原くんが「電話、五条さんから?」と訊いてきた。騒いでたから聞こえてしまったようだ。

「うん。何か明日沖縄まで星漿体の付き人の人を助けに行くんだって。でも今も呪詛師が襲って来たらしいけど」
「えっ?それで」
「夏油くんが捕まえたっぽい」
「え、夏油さんっ?さすがだなぁ~!」

灰原くんはひたすら夏油くんを尊敬してるようで、感心しきりだ。以前、灰原くんに「五条くんは尊敬してないの?」という素朴な疑問をぶつけると、爽やかな笑顔のまま「信頼も信用もしてるけど破天荒すぎて手本にしようにも参考にならない」とよく分からない答えが返ってきた。まあ何となくふわっと分かる気もするけど。

「でも五条さんが電話かけてくるなんて珍しい。何の用だったの?」
「さあ?あ、でもお土産何がいいって聞かれたかな」
「「えっ」」
「え?」

七海くんと灰原くんが声を揃えて驚くから、こっちまで驚いてしまう。何か変なことでも言ったのかと思っていると、七海くんが細い目を更に細めて「明らかに人を見てるな、あの人…」と呟いた。何でも出張の際、お土産を買って来てくれるのは夏油くんだけで、五条くんは買ってきても全て自分用とのことだった。何とも五条くんらしいエピソードだと笑ってしまった。

「え、でもその五条さんがちゃんにお土産?やっぱり本気ってことか…」
「だね」
「え、何が…?」

灰原くんの言葉に七海くんまでが頷いてるのを見て、つい訊いてしまった。二人は何故か驚愕した顔でわたしを見ている。

「まさか気づいてない…?五条さんの気持ちに」
「そこまで鈍くないだろ、も」
「む…どういう意味よ」
「いや、五条さんって…ちゃんのこと好きだよね。確実に」
「そう、確実にな」
「……な…」

二人に言われて顔が赤くなる。確かに最近そういうことを言ってくるようにはなったけど、未だに半信半疑のわたしがいて、あまり深く考えないようにしていた。そもそも初恋もまだのわたしに、あの分かりにくい五条くんが本気かどうかなんて分かるはずがない。二人にそう言うと、彼らは互いに顔を見合わせ、灰原くんにいたってはケラケラ笑いだした。

「いや、本気でしょ。どう見ても。なあ?七海もそう思うだろ」
「まあ……最初は信じられなかったけどね」
「……本気って…だって…五条くん凄くモテるよ?何度か任務手伝いに行った時も、非術師の子達にキャーキャー言われてどや顔してたし」
「あー…」

見覚えがあるのか、七海くんが顔を引きつらせながらも苦笑を洩らした。

「あの人達は彼の外見しか見てないから。五条さんもそれをよく分かってるから適当に遊んでるんだろうけど」
「え…?」
「あ…」
「バカ、七海!」

七海くんが珍しく"しまった…"みたいな顔をしてる。ということは今の発言は事実ということになる。何だろう。何か今凄くモヤっとした。

「五条くん、そんなに遊んでるんだ」
「え、あ、いや…そこまでは…」
「………(怪しい)」

あの七海くんが視線を泳がせてる。ここまで狼狽える彼を、わたしは見たことがない。

「何だ。じゃあやっぱりからかってるだけか」
「え…?」
「だいたい、あの五条くんが田舎娘のわたしに本気で好きだとか言うはずないし」
「は?好きだって…言われた?あの五条さんに?」

わたしがボヤいた言葉に七海くんがギョっとした顔をしている。灰原くんまでがムンクみたいな顔になってる。でもそこまで驚くことじゃないと思う。そんなに女の子と遊んでるなら誰にでも言ってそうだし。なんて、ちょっとだけショック受けてるわたしはいったい何なんだ。本気で言われたとでも思ってたのかな。免疫なさ過ぎて自分でもよく分からないけど、やっぱりモヤモヤする。

「言われたけど…でもどうせ冗談――」
「い、いや…五条さんが女性に好きだと言った話は一切聞いたことが――」

と七海くんが言いかけた時だった。談話室のドアがガラリと開き、夜蛾先生が顔を出した。

「ああ、ここにいたのか。オマエ達」
「…夜蛾先生?どうしたんです?」
「ちょっと三人に頼みたいことがあってな」

そう言いながら夜蛾先生は、わたし達三人の顔を見渡した。

「明日、悟たちの援護部隊として沖縄まで飛んでくれ。オマエ達の担当教師には許可をとってある」

そう告げられた瞬間、灰原くんとわたしは瞳を輝かせ、七海くんだけはガックリと頭を項垂れてしまった。



△▼△


「うわぁー!!何これ!広ーい!」

傑が空港まで迎えに行って連れて来たは、部屋に入ると瞳をいつもの倍はキラキラさせて感動している。それを見れただけでもオレは満足だ。
ここは全室プール付きのオーベルジュで、限定5室しかないプライベートヴィラだ。夕べ、たち一年が援護の為に沖縄に来ると報告を受けてすぐ、オレの独断と偏見で勝手に予約しておいた。シーズン前ということで、他に客はいないから完全貸し切り状態だった。

「素敵…」
「気に入った?」
「あ、五条くん…ここ何?ハリウッド?凄く素敵」

両手を組んで涙目になっているも、初めて乗る飛行機にはビビりまくってたらしいが、これまた初めての沖縄でテンションも最高潮に上がってきたようだ。

「沖縄~って感じだろ?目の前は海だし」

そう言って指をさすと、天内と黒井さんが浜辺ではしゃいでるのが見えた。六眼でざっと確認したが、この近くには呪霊も呪詛師も来てないようで、この敷地からは勝手に出るなと言ってある。

「あ、あの子が星漿体の…あ、付き人の人も無事だったんだ」
「ああ。速攻で助けて昼にはここに来た。ああ、昼飯は?」
「まだだけど…で、でもいいの…?わたしだけ来ちゃって」

はふと現実に戻ったのか、少し不安げな表情でオレと傑を見上げて来る。まあ、それも無理はない。七海と灰原の男組は沖縄の空港を見張らせている。でもの役割はオレや傑の負担を少しでも軽くするよう援護をしながら天内の護衛も手伝ってもらうという大役だ。何でかと言うと、の階級を今の二級から一級に上げたがってる人物がいるらしい。推薦するに当たって、少しでも大きな任務経験を積ませて欲しいと、夜蛾先生が頼まれたようだ。それには今受けている星漿体護衛の任務が最適だと思ったんだろう。そう言う思惑もあって今回、だけここへ連れて来たというわけだ。実際、幼い頃から厳しい訓練を受けて来たはすでに術師として出来上がっている。至極当然な判断だと思う。

「遊びに来てるわけじゃねーんだから気にすんな」
「…そうだけど…。あ、後で七海くん達に差し入れ持っていくのはいい?」
「いいよ。ここのレストランで適当に見繕ってってやればアイツらも喜ぶだろ」
「うん」

嬉しそうな笑顔を見せるに、オレまで釣られて笑顔になると、隣にいた傑がニヤニヤしながら見て来るから地味にウザい。

「…何だよ」
「いや別に。嬉しそうだなぁと思ってただけさ」
「…チッ」

傑はアロハシャツを羽織り、テラスからプライベートビーチをのんびり歩いて天内達の方へ行ってしまった。となればと二人きりだ。目の前に見える青い空に真っ白な建物がリゾート気分を盛り上げてくれるし、なかなかいいムードかもしれない。この部屋も広々とゆったりしていて五人で泊っても余裕なほどに解放感がある。は庭のプールまで出ると、手で水を掬って「気持ちいい~」と楽しそうな声を上げた。

「そう言えば、オマエ、水着って持ってきた?」
「え、水着?持って来てないけど…っていうか持ってないし」
「は?持ってねーの」
「だって山には泳げるような場所なかったもん」
「…プールは?学校にあんだろ」
「生徒が三人しかいない学校にそんなものあると思う…?」
「あー…」

ジトっとした目で睨まれ、つい苦笑が漏れる。となれば当然…

って泳げなかったりする?」
「………悪い?」
「いや、可愛いけど」
「…は?」

思わず本音が口から零れ落ちた。まあこの任務が終わるまでは会えないと思ってたのに、急にこんな展開になって顔を合わせてるから、オレも少しテンションが上がってるのかもしれない。

「そ、そーいうのやめてよ…」
「あ?そういうのって…何だよ」

今の今まで機嫌が良かったが急に不機嫌そうにそっぽを向くから何事かと思った。はどこか落ち着かないような様子でモジモジしていたものの、ふとオレを見上げて睨んで来る。何かマズいことでも言ったか?と考えていると、は「だから…」と言いにくそうに口を開いた。

「か、可愛い…とか…好きとか…そういうの言わないで」
「…何で」
「だって…嘘言われても嬉しくないし…どうせ誰にでも言ってるんでしょ、調子いいこと」
「ハァ?言ってるわけねーだろ。こんなこと誰が言うか」
「だ、だって…女の子と適当に遊んでるんでしょ?七海くんが言ってたもん」
「…は?七海…?」
「わたし、そーいうの嫌だから。都会のカップルには憧れてるけど、遊びで女の子を口説くような人は――」
「いや、ちょっと待て!」

の勘違いに驚きつつ、心の中で(七海~~~~!!)と殺意が芽生えた瞬間だ。後で覚えてろ、アイツ。

「何を聞いたのか知らねーけど、オレはオマエ以外に好きとか言ったことねえよ」
「……え、嘘」

本気で疑ってたのか、は困惑したような表情でオレを見上げた。まあが高専に入る少し前まではちょっと遊んだ時期もあったが、別に誰彼構わず手を出してたわけじゃないし、オレから口説いた覚えもない。

「嘘じゃねえし。っていうかの前でオレが他の女を口説いたことある?ねーだろ」
「そ…それは…」
「オマエのことも遊びで口説こうとしてるわけじゃねえから」
「……っ」

の顏が一瞬で赤く染まり、恥ずかしそうに俯いてしまった。そういう顔をされると変な気分になるからやめて欲しい。ただ誤解されたり信じてもらえないのはオレとしても困る。ここはハッキリ言っておかないと、恋愛偏差値0のには伝わらないかもしれない。

「…オレはのこと本気で好きだから」
「五条くん…?」
「それだけは覚えとけ。ああ、で、ちゃんと真剣に考えろ」
「考えるって…」
「だから…オレの彼女になるかどーかだよ」

言いながら指で額を小突けば、ますます彼女の顔が赤くなる。ぶっちゃければ、めちゃくちゃ可愛いから抱きしめたい。でもそこに邪魔者が戻ってきてしまった。

「何をしておる!サッサと――って、ああ?!」

海から走って来たのか、天内が息を切らせながら部屋に飛び込んで来ると、を見た瞬間、素っ頓狂な声を上げた。

「お、お主…こやつのケータイの待ち受けの子じゃな?!」
「――…っ!」
「え?待ち受け…?」

オレが両手で顔を覆った瞬間だった。