第三十三話:密かなる告白



※性的表現あり



静かな寝室に時計の音だけが、かすかに聞こえてる。
生徒達の呪術実習を終えた後、五条くんは言ってた通り、自分の任務もサッサと終わらせてわたしを迎えに来た。
わたしはわたしで、実習を終えて高専に戻った後は、今の任務形態を覚えるのに補助監督の人から色々と教わっていて、教師や生徒の数、名前、術式。それらを把握するために資料を読みふけっていた。わたしが不在だった十年の間に色々細かいことも変更していたし、知らない人も増えた。いや、むしろ知らない人の方が多い。
わたしが学生だった頃にいた先輩達はほぼ亡くなっていて、その現実は少し悲しくなったけど、そう考えると、一つ上の先輩である五条くんと硝子先輩、そして夏油くんも離反して去年亡くなったとはいえ、任務で命を落としたわけじゃないから、三人とも十年という月日を生き延びてた唯一の学年なんだなと改めて凄さを思い知らされた。夏油くんがあんな形で離反しなければ、きっと今も一緒に高専で呪術師として健在だったはずだ。

(…それにしても…くっつきすぎじゃない…?)

ふと意識を背中に戻す。初日の疲れもあるというのに、なかなか眠れないのは、後ろにいる存在のせいだ。
今日は高専を出た後、二人で途中のレストランに入り、軽く夕飯を済ませた。マンションに戻ってからは、互いに別々でお風呂に入り、まだ中途半端な時間だったけど、わたしは疲れてたので早々に寝ることにした。
因みにこのマンションには一応、わたしの部屋が別にある。五条くんが気を遣って用意してくれたらしく、ちゃんとベッドもあった。なのに何故か一緒に寝かされることが多い。今夜も五条くんは一緒に寝るといって、早い時間にも関わらず、二人でベッドに入ることになってしまった。

(別に…意識してるわけじゃないけど…)

五条くんは反転術式を覚えたあの日から、あまり睡眠をとらなくなってたはずで、寝たとしても2~3時間で目が覚めると話していた。だから今夜も一人で夜更かしするのかと思えば、こうしてわたしにくっついて眠ってる。

――ひとりで起きてても寂しいでしょ。

なんて言ってわたしを寝室に連れ込んだ時は、一瞬"お仕置き"されるかも、と身構えて緊張しながらベッドへ入ったのに、特に何が起きるでもなく。わたしの額に軽くキスをしただけで、五条くんは「お休み」と言って眠りについた。そしてそこからわたしは延々と時計の針が時間を刻む音を聞き続けている。
眠いのに眠れないのは、五条くんがわたしを後ろから抱きしめるようにしてるせいだ。彼の体温が徐々に移ってくるから、また少し緊張してるのかもしれない。そんなことを考えてた時、かすかに後ろで動く気配を感じた。

…まだ起きてたの?」
「……う…うん…」

すぐ近くで声がして、僅かに心臓が跳ねた。どうやら目が覚めたらしい。五条くんにかかれば、背後からでもわたしが起きてるかどうかが分かるらしい。まあ、寝息とか空気とか、敏感な人ならそういうもので感じ取れるんだろう。

「ちゃんと寝ないと寝不足になるよ。明日も呪術実習あるんだから」
「…そっちこそ……(誰のせいだと)」

内心ツッコミを入れていると「僕はちゃんと仮眠したから」という声が返ってくる。でも五条くんの声はドキドキもするのに、安心する。不思議な感覚だけど、心地いい。
その時、五条くんが体を起こす気配がした。わたしも釣られて体を起こそうとしたけど、彼の手が伸びてきて阻止されたと同時に、横からギュっと抱きしめられた。

「ご、…五条くん?」

彼の大きな体にすっぽり包み込まれて、身動きが取れなくなる。

(こ、これは…マズい…)

こんな風に抱きしめられたら、余計にドキドキして眠れなくなってしまう。27にもなって男に免疫がないわたしには、これくらいのスキンシップでも心臓に悪い。鼓動が身体中に響いて、平常心が削ぎ落されていく。

「は、放して…」

男女がベッドの上でこんなことをしてるのはよろしくない。抱き枕になりきれればいいけど、体はますます硬直していくばかりだ。

「どうして?ああ、意識しちゃうとか。、体が強張ってる」
「……」

気づいてるなら放して欲しい。そう思っていると、不意に五条くんの手がわたしのお腹を更に抱き寄せた。

「眠れるようにしてあげようか」
「……え?」

どうやって?と聞こうとした時だった。お腹に回っていた手が脚の付け根辺りに移動して、ビクンと肩が跳ねた。パジャマ代わりにしている薄手のワンピースの上から下着の部分をなぞられ、下腹部の奥がジンジンと熱くなった気がする。こそばゆいようなその感覚に、慌てて五条くんの手首を掴んだ。

「く、くすぐったいってば…」
「くすぐったいのは、裏を返せば気持ちいいってことだよ」
「ん…」

五条くんが耳元で囁く。低くて甘ったるい声色が鼓膜に触れると、ゾクリと体が震えた。
さっきからおかしい。五条くんに触れられるだけで、体が変な反応をする。

「その声…もっと聞きたいんだけど」
「…ぁ…っ」

足の付け根にある手がゆっくりと動く。内腿を撫でたり、ショーツのラインをなぞったり。戯れにしてはきわどい場所だと思う。

「ダ…ダメ…」
「ダメ?」

すぐ傍で聞こえる五条くんの艶のある声は、愉悦を含んでいる気がした。わたしの反応を見て愉しんでいる。そう思うと腹が立つのに、この腕から逃れる術を知らない。

「ここ、触るよ」
「あ、ちょ…」

反論する間もない。ワンピースの裾をたくし上げられ、ショーツのクロッチ部分に五条くんの手が伸びてくる。するっと布の上から撫でられただけなのに、この前のようにピリピリとした刺激がそこから生まれた。

「…ちょ…と…ダメだって…言っ…んっ」

身を捩っても、あまり動くことが出来ない。背後から抱え込まれてるせいだ。
耳輪の辺りに口付けられ、ビクリとしたのと同時に、強張っていた身体の力が抜けた。脚の方もふっと力が抜けて緩んだらしい。五条くんの手が股に入り込んで、脚が開いてしまった。

「あ…ぅ…っんん…」

脚が開いた瞬間、五条くんの手がショーツの上をツツ…となぞっていく。下から上になぞり、上のある部分を撫でていった時、ビクンと腰が揺れた。前と同様、むず痒いような、でもそれとはまた別の何かが体を熱くして、脚の辺りがモジモジと悶えるようだ。

の腰、揺れてる。気持ちいい?」
「…ち、…違…」

そんなはずはないと思うのに、五条くんに触れられると、自分の身体じゃないような感覚に襲われてしまう。その感覚に戸惑っていると、五条くんは「ほんとに?」と囁きながらも、再び手を動かし始めた。布の上で何度か動いた後、クロッチの部分の端へと移動させる。そして何の躊躇いもなく、彼の指が中へ滑り込んできた。

「あ――…っ」

直接触れられた時、そこで初めて、その場所が湿っていることに気づいた。

「ん。濡れてる。体の方が素直だよね」
「そ…れは…ぁっ…ん」

動揺しながら反論しようとすると、五条くんはゆっくりと表面をなぞり、じわりと溢れてきた蜜を指で掬った。ショーツの中で五条くんの指が動くたび、むず痒い刺激とピリッとした甘い何かが強くなって、更に彼の指を濡らしていく気がする。それが凄く恥ずかしくて、洩れそうな声を押し殺した。

「…声、我慢しないで聞かせて」
「や…っ…ぁ…」

指を動かされるたび、室内に聞こえている時計の音に卑猥な音が交じる。とても自分の体から聞こえてるとは思えなくて、羞恥心でいっぱいになった。わたしの戸惑いに気づいたのか、五条くんはもう片方の手でわたしをぎゅっと抱きしめると「大丈夫だよ」と言って頬に口付けた。

「誰でもこうなるから心配しないで」
「……っ…」

誰でも――?それは誰のことなの?と聞いてしまいたくなった。
他の誰かとも、こういうことをしたの?と。
でもそれは具問だ。わたしと付き合う前から、五条くんが色んな女の子と会っていたのは聞いてる。付き合いだしてからは一度もそういうことはなかったと思うけど、わたしが離反した後のことは知らない。また、あったとしても、それをとやかく言う権利すら、わたしにはないんだから。

「…ん…ん…」

ぬるぬると恥ずかしい場所を何度も往復され、意志とは関係なく変な声が出てしまう。こんな鼻から抜けたような甘い声を、自分が出せることにも驚愕した。自分では変な声だと思う。なのに五条くんは軽く笑いながら「可愛い声…」と囁くから、首筋がゾクリとして、全身が熱くなった。

「痛くない?」

分かってて聞いてるんだろうか、と疑問に思いながらも首を振った。
まるで仔猫の頭を指先で撫でるくらいの刺激だから、当然痛みはない。むしろ、どんどん溢れてくるものが潤滑油になっているせいで、少しもどかしいぐらいだ。体の奥から何かを欲してるような疼きを感じるけど、だからと言って、どうされたいとかまでは分からない。内腿を摺り寄せて、このもどかしさを埋めたい気もするけど、五条くんの手があるせいで、それも出来ない。

「じゃあ、もう少し触るよ」
「え……ひゃ…」

五条くんはひとこと言った後、わたしの膝辺りまで一気にショーツを下げた。いきなり脱がされるのは恥ずかしい。でも膝で止まっていたショーツは五条くんの手によって、足首へ下げられ、あっという間に脱がされてしまった。
パジャマは着ているものの、下着をつけてない状態で落ち着かない。

「ご、五条…くん…」
「大丈夫、見えないから」
「そ、そうだけど…っ」

そうだけど、そういう問題でもない。そう言いたいのに、また動き出した指から与えられる刺激で、言葉にならない。しかも今度は表面をなぞるだけじゃなく、媚肉を開いて形をなぞり始めた。厭らしい動きが恥ずかしいのに、さっき以上に強い快感が襲ってくる。

「あぁっ…んぅ…んっ」

息が勝手に乱れ、短い呼吸を繰り返しながら、指の動きを感じ取るのでいっぱいいっぱいだ。どんどん溢れてくるその場所は、五条くんの指の動きに合わせて卑猥な音が鳴ってしまう。

「たくさん濡れてきたね。いい感じ」
「…ひゃ…ぁ」

五条くんは容赦なく、わたしの快楽のツボを刺激するよう、指の動きを徐々に激しくしてきた。一線を越えないとは約束してくれてるけど、こんな行為を一方的にするだけで、五条くんは満足なんだろうかと、ふと疑問に思う。

(もしかして…欲求不満とか?)

この前は十年も待った、というようなことを言っていた。でもその間、他の人にこういう行為を全くしなかったということでもないはずだ。五条くんなら、恋人という存在を作らなかったとしても、セフレの一人や二人、いてもおかしくはない。

「何か色々と考える余裕はあるみたいだね」
「…っ?」

不意に不機嫌そうな声が聞こえてドキっとする。

「余計なことは考えないで、僕に集中しようか」
「…あ…っ」

ほんの僅か、五条くんの声が低くなったと思った瞬間、わたしの身体が反転する。五条くんの方に向けられ、今度は向かい合う体勢になってしまった。急なことで恥ずかしさを感じ、慌てて俯こうとした時、顎を持ち上げられる。驚いて何度か瞬きをしている間に、わたしのくちびるは五条くんに奪われていた。ちゅっと甘い音を奏でながら、何度も触れ合う。キスはいつもされているはずなのに、やけにドキドキして。強く目を瞑った瞬間、くちびるの隙間から彼の舌が滑り込んできた。

「ん…ぅ…」

生温かい舌の感触が気持ちいい。五条くんの熱い吐息に反応して、わたしの身体も自然に熱を放っているのが分かる。情熱的に求められてると分かるからこそ、余計に体のどこかが疼く。
口付けはしばらく続いた。まるで「好きだよ」と言っているようで、どんどん高揚して全身が火照ってしまう。それに呼応するかのように体の奥からジンジンと疼き始めて、先ほどまで触れられていた場所から、また何かが溢れてきたのを感じた。五条くんとキスをして、こんな風になるのは初めてだった。
集中しようと言ってたように、五条くんの動きに容赦がなくなってきた気がする。キスをしながら胸に触れ、もう片方の手を再び脚の間へ滑らせていく。

「ん…」

五条くんの手のひらが、わたしの胸を包み込んで、ゆっくりと揉み始める。最初は戸惑い、体を強張らせていたけど、次第に与えられる刺激に慣れてきたせいか、時折ビクンと体が震える。
さっきから感じていたもどかしい何かは、体が「感じている」状態なのかもしれない。五条くんが触れるところ全てが同じ感覚になる。
いつの間にか胸元のボタンが外され、かすかに外気を感じた時、恥ずかしさで身をよじろうとした。でもすぐに戻され、首筋に吸い付かれる。

「ん…っ」

五条くんはわたしの肌を堪能しながら、執拗に求めてくる。すでに頭の奥が沸騰してるように熱くて、とっくに体の力は抜けていた。

「ご、ごじょ…く…」

何も身に着けていない胸を彼の目に晒し、恥ずかしさで顔を背けた時には、もう直接触れられていて、胸の先を捉えられていた。

「…ぁっ…ん」

揉みしだきながら、五条くんの指は悪戯に胸の先を弄ってくる。指の腹で撫でられると強い刺激が全身を駆け巡るようで、無意識に声が漏れてしまう。自分の甘ったるい声が絶え間なく出るのが嫌で、咄嗟に手で口を押えようとした。でも五条くんにつかさず「押さえないで」と言われてしまった。

「で…で…も…」
「大丈夫。可愛いから」

可愛いって、そんなバカな。こんな鼻から抜けた声が可愛いわけないのに。
そうは思うのに、やっぱり五条くんに触れられると、どうしても止められない。

「…ひゃ…あ…っ」

五条くんは慣れた手つきでパジャマをはだけさせていくと、少しずつくちびるを下げて、指で転がしていた場所を口に含んだ。軽くくちびるで食んだ後、柔らかい舌で擦るように舐め上げられる。言葉に出来ない快感が広がって、さっき以上に甘い声が漏れてしまった。

(…どうしよう…わたしの身体…どんどんおかしくなってく…)

脚の間に伸びた手が、すでに濡れそぼる場所へ再び触れると、この前と同様、敏感な部分をぬるりと撫でた。強い刺激を受けて勝手に背中がしなる。

「可愛い、

わたしがどんなに乱れていても、それを含めて全部が「可愛い」と褒めてくれる五条くんの思惑に、完全にハマっている気がした。

「…あ…っ」

敏感な芽を撫でてた指がするすると下がって、入口へゆっくりと押し込まれていく感覚。ぞれだけで全身がゾクゾクとして、涙がじわりと目尻に浮かぶ。

「いっぱいほぐしてあげるから、力抜いて」
「…あ…や…め…ぁぅっ」

容赦のない動きで埋め込まれて行く指を感じて、声が震える。気づけば脚の間に五条くんの体が入り込み、大きく開かされていた。

(…恥ずかしい…のに…抗えない…くらい、気持ちいいって…何なの…?)

ナカをゆっくりと抽挿されると、全身が粟立つ。そのたび蜜が増えて、指の動きにあわせながら、くちゅくちゅと卑猥な音を立てた。
その時、五条くんが体勢を変えて、顔を脚の間へ埋めていく。同時にこの前の夜のことが頭を過ぎって、思わず腰を引きかけた。でもすぐに彼の腕に固定されてしまう。

「ダメ。逃げないで」
「…や…そ、それ…ダメ…」
「ゆっくり寝たいんでしょ?なら、いっぱい感じさせてあげないと」
「……っ?」

どういう理屈?と思わず突っ込みそうになったけど、それは言葉に出来なかった。五条くんのくちびるが、濡れてぐずぐずになっている場所へ触れたからだ。

「…ん…ぁあっ」

舌先で蜜を舐め上げ、亀裂に沿って上下に動かされると、我慢できないほどの快感が押し寄せてくる。時折、尖らせた舌先でどこかを刺激しながら、蜜を舐め上げていく動作で、脚がガクガクと震えてしまう。恥ずかしいのに、自分で止めることが出来ない波にあっさり流されていく。

「…ぁ…ダ、ダ、メ…そんなの…っ」

腰が痙攣したみたいに、ビクビクと何度も動いてしまう。恥ずかしいのに、溺れてしまいそうなほどの快楽の波が押し寄せて、ナカを指で擦られながら、不意打ちのようにちゅぅっと芽を吸われた時、わたしは容易く堕ちてしまった。

「んんぁぁ…っ」

この前の時よりも激しい電流に撃ち抜かれ、背中が浮くほどしなっていく。息が苦しくて、涙が零れた。

のイった顔、ほんと可愛い」

上体を起こした五条くんはわたしに再び覆いかぶさると、濡れた自分のくちびるを見せつけるようにペロリと舐めた。何故濡れているのかを理解した時、顏に熱が集中していく。でも文句を言えないほど、わたしは強い脱力感を覚えていて、指の先すら動かせない。
ただナカに埋められた指は、収縮を繰り返す場所を更にほぐすようにゆっくりと動いて、わたしを追い詰めてくる。

「…ぁ…ダメ…もう…」
「まだだよ。だってここ、もっと良くなるし」
「…んぁ」

五条くんの指がナカで曲げられ、どこかを刺激する。お腹の裏側に当たった感覚は、達したばかりの敏感な身体を更に押し上げていく。

「ここ、気持ちいいと思うんだけど」
「…ぁあ…」

同じ場所を攻められ、ビクンと腰が跳ねた。

「うん、ここだな」

五条くんが執拗にナカを擦るから、呼吸もままならないほど感じてしまう。

「そろそろ指を増やしても痛くないかも」

様子を伺いつつ、五条くんは挿入する指を増やしていく。この前は僅かにヒリヒリした感覚が残ったものの、今は五条くんの言った通り、全然痛くない。ただ増えた分だけ圧迫感があり、余計に気持ち良さが増した気がする。

「も…ダメ…」

頭がおかしくなりそうなほど、感じさせられて、わたしは頭を振りながら五条くんの腕を掴んだ。それでもまだあまり力が入らない。

「大丈夫、もう少し…」

何が?と思っていると、五条くんの指が曲げられ、いいところを擦ってくる。丁寧にじっくりと。それだけで背中をしならせ、悶えることしか出来ない。あまりに強い快楽で、次第に頭が朦朧としてきた頃、一気に高みへと押し上げられた。もうすでに声も出ないくらいに、快感の渦に飲まれていたかもしれない。突然、目の前が弾けて、さっき以上に強い快感に襲われる。そこで頭が真っ白になってしまった。

「……はぁ…はぁ…」
「ちゃんとナカでイケたね。偉い偉い」
「…な…なか…?」

五条くんはわたしの髪を撫でながら頬にちゅっと口付けた。薄っすら目を開ければ、彼はどこか満足そうに微笑んでいる。でもわたしの全身はベッドに沈み込んでいく感覚に襲われて、動くことも出来ない。そのうち瞼が落ちて、強い倦怠感に襲われた。

「良かった。これで眠れそうだね」

五条くんの優しい声がすぐ近くで聞こえて、軽く体を抱き寄せられた感覚。でも口を開くことすら億劫で、わたしの意識は深淵に落ちるかのように閉じられていく。最後に「好きだよ…」という五条くんの告白と、くちびるにかすかな温もりを感じて、そこでわたしは意識を閉じた。



△▼△



「あれ、何か先生、スッキリしてんね。夕べは良く寝れた?」
「………まあ」

虎杖くんのツッコミに若干、頬が熱くなるのを感じながら応えると、彼は元気いっぱいに「オレも!布団入ったら秒で寝るの得意」と無邪気に言ってくる。わたしの笑顔はきっと引きつってたに違いない。
夕べ、またしても五条くんの魔の手に堕ちて、エッチな行為を許してしまった。だけどいつの間に眠ってしまったのか、朝、五条くんに起こされるまでは死んだように寝てたらしい。目が覚めた時、頭も体もスッキリしてたから、凄く驚いたけど。

(五条くんはわたしに何か魔法でもかけたの…?ただエッチなことしかされてない気がするのに…)

しかも起きた時はきっちりとパジャマは元に戻されていたし、まさか夢だった?と思うほどだった。五条くんはいつもと変わらない様子で朝ご飯を作っておいてくれたし、それをしっかり食べて。至れり尽くせりな朝だったように思う。
ふと、伏黒くんにちょっかいをかけてウザがられてる五条くんへ視線を向ける。夕べはあんなことをしておいて、朝には何事もなかったかのような態度だった。今も普段と変わらず。だから余計にわたしの中ではモヤモヤしたものが溜まっていた。

「――というわけで~今日は秋葉原の廃ビルで実習だから」
「おぉ!秋葉原なら帰りにメイドカフェ行こうぜ」
「ハァ?絶対に嫌!私、渋谷に行きたい~」
「…だから遊びじゃねえって」

昨日同様、三人はそれぞれ好きなことを言いながら、伊地知くんが待つ門の方へ歩いて行く。でも今日はわたしも任務があるから、同行は出来なくなった。

「行ってらっしゃい」

皆に手を振って見送りをしていると、五条くんがふとわたしを見て歩いて来た。

は今日、吉祥寺一件だよね。終わったら電話して」
「え、でも五条くん、午後は地方じゃなかった?」
「そうだけど、無事に終わったかどうか心配だし」
「あ…ブランクあるから?」
「それも少しあるけど、ただ声が聞きたいだけとも言う」
「……ま、毎日聞いてるじゃない。今だって…」

わたしの言葉に、五条くんはふっと笑みを浮かべて指でアイマスクを軽く押し上げる。そうすることで、綺麗な蒼眼が露わになった。

「本音はずーっとそばにいて欲しいんだけど」

そんな甘い言葉を吐きながら、ただわたしの頭を優しく撫でる。それだけで容易く心臓が音を立てるのは、夕べのことがあったからだろうか。
ううん、きっと…わたしを見つめる五条くんの眼差しが、愛しいと伝えてくるからだ。

――好きだよ。

夕べの密かな告白は、やっぱり夢なんかじゃない。
眠ったわたしにそんな言葉を零すくらい、五条くんはわたしのこと――。

「じゃあ、ちゃんと電話して」
「…わ、分かったから…早く行かないと、また野薔薇ちゃんに怒られるよ」
「はいはい」

ぐいっと背中を押せば、五条くんは苦笑交じりに歩いて行く。その後ろ姿を見送っていると、どうしようもなく胸の奥が疼いた。
鈍いわたしが、その意味を知るのはもう少し先のことだ。