最終話:十年目の告白・後編―そこから始めよう―



※性的描写あり




「話って…何か悪い話?」

何となく気まずい空気になったところで一瞬、五条くんの目がかすかに細められ、わたしは慌てて首を振った。

「わたしの…気持ち」
「…気持ち?」
「まだ…ちゃんと伝えられてないから…」

恥ずかしいのを堪えて言葉を紡ぐと、五条くんは初めて驚きの表情を浮かべた。それも当然かもしれない。これまでその手の話をさりげなく拒んできたのはわたしの方だ。でも今日、久しぶりに五条くんと顔を合わせて、また触れられて、好きだと自然に思えた。
それをきちんと伝えたい。過ちを犯した過去は変えられないけど、この想いだけはあの頃からわたしの中で大きく育っていたんだと、今更ながらに気づいたから。

「わたし…五条くんのことが好き…気づくのが遅くなったけど…わたしはきっと10年前のあの時から、五条くんのことをちゃんと好きだった…。それを伝えたかったの」

人生初の告白だ。心臓が口から飛び出そうなほどドキドキしてるのが分かった。
でも何も言ってくれない五条くんに少しの不安が過ぎる。

「な、何か言って…」

つい急かすように言ってから、恐る恐る視線を上げてみた。でもそこでわたしも言葉を失ったのは、五条くんが見たこともないほどポカンとした顔をしていたからだ。

「ご…五条…くん…?」
「……え?」

彼の腕を掴んで揺すると、五条くんはハッと我に返ったように、彷徨ってた視線をわたしへと戻した。どうやらビックリしてたらしい。

「…えっと…本気で言ってる?」
「え?」

五条くんは未だに半信半疑といった顔で、わたしをジっと見下ろしてくるから、そこは素直に頷いた。今更告白なんて恥ずかしいと思っていたはずなのに、いざその言葉を口に出してしまえば、信じられないくらいに素直になれる。

「ひゃ…っ」

突然ガバリと抱きつかれ、今度はわたしがビックリさせられた。五条くんは凄い力でわたしを抱きしめながら「ヤバい…死ぬほど嬉しいってこういう感じ…?」と呟いている。でもきっと同じことをわたしも感じているかもしれない。好きな人に「好き」だと言えただけなのに、これまでの綯い交ぜになっていた複雑な感情が、全て洗い流されたみたいに胸の奥がスッキリしてる。
わたしはこの人が好きなんだと思うたび、五条くんから伝わる体温すら愛しく思えるから不思議だ。

「…今更だけど…10年前…バカな選択をしたと思ってる。ごめんね…」
「……全くだよ」
「……っ」

五条くんの一言でドキリとして顔を上げると、少しだけ不機嫌そうに細められた青い瞳がわたしを見下ろしていた。

「何もない部屋を見た時…どんなに絶望したか分かる…?」
「う…ご、ごめんなさい…」

再会してから初めて責めるような言葉をぶつけられた。でも責められて当然だ。もし明日、ここへ来て同じようにガランとした部屋を見せつけられれば、そして五条くんがどこか知らないところへ行ってしまったなら、きっとわたしはその絶望に耐えられない。

「ごめん…ごめんね…五条くん…」
「…うん」

やっとその言葉を言えて、五条くんも受け止めてくれたのを感じた。途端に胸がいっぱいになって涙が溢れてくる。わたしは随分と遠回りをしたけれど、本当に好きな人の傍に戻って来れたと思うと、幸せな安堵感に包まれていく。
その時、背中にあった彼の手が動いて、わたしの頭へ添えられた。少し顔をあげると、優しいキスが降ってくる。五条くんとは何度もキスをしているはずなのに、触れられただけで全身が粟立つくらいにドキドキしてしまった。

「…わ…」

触れるだけのキスに酔わされて、幸せに浸っていたはずが、急に体を押し倒されて、柔らかいスプリングで体が跳ねる。視線を上げると、さっき以上に熱っぽい五条くんの瞳と目が合った。

「…もう我慢しないでいい?」

その言葉が何を指しているのかが分かって、またしても心臓が変な音を立てる。一気に不安だったり、怖いといった想いが過ぎっていくけど、不思議と嫌だとは思わなかった。ううん、むしろわたしの方が限界だったのかもしれない。

「我慢…しないで」

わたしが五条くんを好きになるまで――。
そんな約束、とっくに完成してる。
五条くんはちょっと微笑んで、わたしの頬へ手を添えた。その温もりにピクリと肩が跳ねる。

「いいの…?の気持ちがハッキリ分かった今、途中でやめてやれないけど」
「……いい」

はなからそのつもりだった。なんて恥ずかしくて言えないけど、わたしも途中で止められるなんて嫌だと、今は本気で思ってるから。

「最後まで…抱いて欲しい」

五条くんが欲しがっているであろう言葉を口にすると、彼は少し驚いたように瞬きを繰り返した。でもすぐ意味深な笑みを浮かべてくる。

「フーン…随分と大胆になったね、も」
「だ…誰のせいだと…っ」

カッと顔が熱くなって、つい言い返す。散々焦らしてきたのは五条くんのクセに、本人は至って涼しい顔だ。

「僕のせい?」
「……だって…」

クックと肩を揺らす五条くんを睨む。こんな甘い復讐を企てた本人はどこか楽しげで、少しだけ憎たらしい。

「まあ、お仕置きのつもりではあったけど」
「……(ホントにお仕置きのつもりだったのか…)」

ジトっとした目で見上げると、五条くんは身を屈めて、わたしの額へ優しく口付けた。

「でも…そろそろ僕も限界だったから良かった」

耳元で囁く声にドキっとさせられる。だけど今度はくちびるにキスをされそうになって、それを慌てて止めた。一つ思い出したのだ。

「…ま、待って!」
「…何?今度はが僕を焦らす気?」

またしても五条くんは不機嫌そうに口を尖らせて、わたしの頬を軽くつまむ。

「ち、違う…でも…シャワーに入らせて…わたし、任務帰りで汗かいちゃったし…」

焦らすつもりはないけど、初体験なのにシャワーも入らないで、というのはさすがに気が引けた。だから「お願い」と言ってから体を起こそうとした。なのに、その体を再び押し倒され、あげくには圧し掛かってくる五条くんにギョっとしてしまう。

「いいよ、シャワーなんか。からいい匂いしかしないし」
「そ、そんなバカな…」
「ダーメ」

慌てて起き上がろうとするわたしを、やっぱり五条くんは制止した。

「このままでいい」
「で、でも――」

と言いかけたくちびるを強引に塞がれ、鼓動が跳ねる。最初から舌を絡めとられ、口内で優しく吸われると、さっきの余韻が再燃するかのように、ゾクゾクと全身が粟立つ。五条くんの器用な指先が制服のボタンを外し、中に着ていたタンクトップの上から胸に触れてきた。優しく揉まれているだけなのに、全身がジンジンしてくる。五条くんの手によって、あっという間に上着やタンクトップを脱がされ、ブラジャーのホックまで外されてしまった。そのいつもより性急な動作が、彼の余裕のなさを伝えてくる。
上半身を裸にされたと気づいた時には、もう直接触られて胸の先を捉えられていた。

「ご、五条…く…ん…」

揉みしだきながら、彼の指が胸の先を悪戯に弄ってくる。

「声、聞かせて」

五条くんの体が少しずつ移動して、彼の顔が胸元へ寄せられた瞬間、指で転がしていた先端をくちびるが捕らえた。

「…んん…ッ」

硬くなった先端をくちびるで食んだあと、舌で擦るように舐め上げられる。快感がこみ上げて、わたしはさっき以上に乱れた声を上げていた。

…可愛い」

合間に囁かれ、腰が砕けそうになる。五条くんはいつもわたしがどんなに乱れようと、それを全て合わせて可愛いと褒めてくれるから、恥ずかしいのに嬉しいという思いがこみ上げてきた。

「もっと感じて」

再び五条くんが体勢を変えて、少しずつ身体を下げていく。スカートを捲られ、ショーツを下ろされた瞬間、太腿を持ち上げられると恥ずかしい部分が彼の視線に晒されたのが分かった。

「ん…や…ぁっ」
「ここ、もうトロトロになってる」

内腿に口付けながら、五条くんが呟く。自分でも自覚があるだけに恥ずかしさで、つい足を閉じてしまいそうになる。それを手でやんわりと止めた五条くんの顏が、脚の間に埋められていく。

「ん…ぁっ」

恥ずかしほど濡れた場所へ口付けられ、腰がビクリと跳ねてしまった。奥から溢れてくる蜜を舐められ、舌で媚肉を開いて啜られると、頭の後ろがジーンと痺れてくるようだ。これまでの比じゃないくらいに快感が襲い、わたしは全身を震わせた。隠れていた場所を剥かれて舌で転がされると、足先までビリビリと痺れが走る。
その内ナカに指を挿入されて、たっぷり濡らされた場所で動かされると厭らしい音がしてきた。唾液と愛液が交じり合い、何の抵抗もなく奥まで指を突き立てられる。

「…んあ…ぁあ…」

膨らんでいる敏感な場所を舐められながら、奥を突かれた瞬間、最初の絶頂に襲われ、目の前が真っ白にはじけていく。それでも五条くんは愛撫を止めることなく、わたしはその後に何度もイカされてしまった。

「涙でグチャグチャ…」

荒い呼吸を繰り返しているわたしを見下ろした五条くんは、濡れた目尻にも口付けて、頬、くちびるにもキスを落としていく。でも珍しく五条くんの息もかすかに乱れていた。

「…挿れていい?」

遂にこの時がきたんだと、朦朧とした頭の隅で思った。未だに余韻が残る体を感じながらも、小さく頷いて見せると、開いた脚の間に五条くんが自身の体を入れてくる。
その瞬間、濡れた部分に硬く熱いものが押しつけられ、腰がかすかに跳ねてしまった。

「怖くない…?」
「…だ、大丈夫…」

わたしがどうにか応えると、五条くんはかすかに微笑んだ気がした。
その嬉しそうな顔を見るだけでドキドキしてしまう。
ああ、とうとう承諾してしまったと思ったけど、心の準備は出来ている。

「力抜いて、ゆっくり息を吐いて」
「……う、うん」

少しの緊張を覚えつつ、五条くんにしがみつく。細いわりに筋肉質の身体に包まれてドキドキしていると、濡れた場所をこじ開けるような質量のあるものが埋められていく。

「…挿れるよ、

耳元で囁かれるエッチな響きは、破壊力が凄かった。その言葉だけで散々焦らされていた体がじんと熱くなって、また奥から蜜が溢れてくるのが分かった。経験はないのに、すっかり体は五条くんから与えられる快楽を知ってしまっている。だからなのか、ゆっくりと入ってくる昂ぶりを感じても、痛みはそれほど感じなかった。その代わり、ものすごい圧迫感だ。

「…ぁ…あっ」
「…く…いい感じ…。もう少し力抜いて」
「…ん…ぁ…」

ゆっくりゆっくりと五条くんが入ってくるのが分かる。じわじわと質量が増して、最後は一気に押し込まれた。

「…ん…」
「…全部入った…大丈夫…?」
「…う…ん…お、思ったほど…痛く…ない…少し…鈍痛があるかな…ってくらいで…」
「…良かった。慣らした甲斐があったかも」

五条くんはホっとしたように言ってわたしの額にキスを落とす。くちびるも塞がれて、たっぷりと口内まで解されてしまった。

「そろそろ動いても大丈夫そう?」
「…ん…多分」
「じゃ…ゆっくり動くね」

コツンと額を合わせながら五条くんが微笑む。その顏が幸せそうで、こっちまで笑みが零れた。やっと繋がれたという幸福感が強くて、涙がまたじわりと溢れてくる。
五条くんは言った通り、ゆっくりと腰を動かし始め、少しずつスピードを速めていく。でも途中、切なげに吐息を洩らしながら「ヤバい、すぐ持ってかれそう…」と呟く。その意味が分からなくて不安になったわたしを見て、五条くんは「気持ち良すぎてヤバいってこと…」と苦笑した。

も気持ちいい?」
「…わ…わかんな…んっ」

思っていた快楽とは少し違うけど、苦しいほどの圧迫感は消えてきて、ただ奥を突かれるたび、疼いてた場所からじわりと甘い何かが生まれてくるのは分かる。

「ずっと…を抱きたかったから気持ちが今ヤバいことになってる…」
「え…」
「なるべく優しくしたいけど…我慢できないかも…」

五条くんはそう言った瞬間、腰の動きを速めていく。狭い場所を無理やり突き上げられ、何度も抽送されていると、次第にナカがじんわりと快楽の波に侵食されていく気がした。

「…や…ぁっああ…っ」

抜き差しされる速度が増せば増すほど、五条くんのものが更に硬くなっていく。ガチガチになった屹立の先でナカを執拗に擦られると、お臍の裏側辺りから最奥まで痺れるような快感が襲ってきた。

「…ぁっ…」
「…あー…もう無理…」

五条くんの動きが激しくなって、わたしも限界に近いほど、意識が朦朧としてきた。最初にあった鈍痛に似た違和感もすでに消え、今はただただ快楽に向かって体が上り詰めようとしている。それを追うような本能剥き出しの執拗な動きは、甘い拷問のようにすら感じた。理性はとっくに溶かされ、おかしくなってしまいそうだ。

…っ」
「…ぁ…ああ…――」

すでに喘ぐ声すら枯れて出てこない中、体の奥から一気に快感が押し寄せてきた。一瞬で頭が真っ白になり、目の前がチカチカと爆ぜるような光を感じる。覚えてるのは最後に五条くんの強い腕に抱きしめられていたこと。
五条くんはそのまま果てたようだった。



「…、起きてる?」
「……うん」

空が少し白み始めた頃、蕩けたような甘ったるい声で名前を呼ばれて、ふと視線を上げる。何度か抱き合ったあとで五条くんは珍しく寝落ちをしたけど、もう起きたみたいだ。わたしはわたしでシッカリ体をホールドされてたから、寝るに寝られず、かといってベッドから抜け出すことも出来ないまま、五条くんの少し汗ばんだ胸元に顔を押し付けていた。

「…ん」

五条くんはまだ少し眠そうにしながらも、わたしの額にくちびるを寄せて、ちゅっとリップ音をさせながら口付けた。

「もしかして起きてたの…?」
「うん」
「ごめん、僕だけ寝ちゃってたか」
「いいよ。五条くんの寝顔はレアだし」

そう言って笑うと、五条くんもちょっとだけ笑ってわたしを抱きしめた。

「今、目が覚めた時、一瞬、さっきのことは夢かと思って焦った」
「そうなの…?」
「でもが腕の中にいたから凄く安心したよ」

そう言いながら、五条くんのくちびるが再び額に触れて、そのまま下りてくると、くちびるも軽く啄んでいく。額同士を合わせながら見つめてくる五条くんの瞳は、いつにも増して情熱的で、わたしを慈しんでいるのがハッキリと伝わってくる。今までもそうだったけど、関係を持つ前と今とでは熱量が全く違う気がした。これは…何か嫌な予感。

「…ん」

キスをされて、胸の辺りに五条くんの手が伸びてくると、余韻の残る肌がすぐに火照ってきてしまう。

「…もう一回していい?」
「…っね、寝ないの…?時差ぼけで疲れてるんじゃ…」
「いい…を抱いた方がぐっすり眠れる気がする」

さっき連続で三回もしたのに?と言ってしまいそうになったけどやめておく。普通、こんなにするものなのかなと不思議に思うけど、わたしにとっては五条くんが何もかも初めての人だからサッパリ分からない。

「いい…?」

そう訊いてくるくせに、手はちゃっかり肌を弄り始めてて、断るような空気でもなく。ただ、わたしに触れている時の五条くんの緩んだ表情が可愛くて、その顔をもっと見ていたいと思ってしまうのだ。

「ほんとに寝なくて大丈夫…?」
「いい。を抱きたい」

出張疲れよりも、時差ぼけよりも、わたしのことを抱きたいという言葉に、心が蕩かされてしまう。そしてまた、ベッドから離れさせてもらえなくなった。
五条くんとのこの時間が幸せで、心地良くて。これまで何を迷ってたんだろうと、自分の愚かさを責めたくなった。
彼と歩めるはずだった10年間という長い時間を無駄にした気がして、大きな後悔が押し寄せてくる。
だけど、きっとその時間も、わたしを成長させるためには必要だったんだと、そう思える自分もいた。

「ん…」

わたしに触れる五条くんの手が、くちびるが、凄く優しい。
それを感じるたび、わたしの心は満たされていく。
何度も愛されて、少しずつ五条くんに馴染んでいくのを感じながら、わたしはまた、五条くんから与えられる快楽に溺れていった。


△▼△


「何だ。夕べもお盛んだったのか?」
「いたっ」

バシっとお尻を叩かれ、慌てて背筋を伸ばして振り返ると、そこにはニヤニヤした硝子先輩と冥さんが揃って立っている。
今夜は久しぶりの女子会をしようという話になり、硝子先輩行きつけの店があるという浅草橋まで来ていた。

「驚かさないで下さい…」
「腰を押さえて情けない姿で立ってるからだろ」
「う…」

硝子先輩は笑いながら「店はこっちだから」と先を歩いて行く。その後から冥さんと並んで歩き出した。冥さんと飲むのも久しぶりだ。

「でもまあ…彼女が言うように、五条くんとは相変わらず仲良くしてそうだね」
「…え?」
「ここ。赤くなってる」

冥さんは自分の首元を指さして、ニヤリと笑みを浮かべている。それを見てハッと息を飲んだ。すぐにバッグからスマホを出して鏡アプリを開く。それで首元を確認すれば、今朝つけられたであろうキスマークがバッチリと残っていた。

「…最悪。バタバタして出てきたから気づかなかった…」

そこで思い出した。任務に同行してくれた新田さんが、今朝顔を合わせた時に、何故かわたしをガン見してきたことを。その後は薄っすら頬を赤らめてそっぽを向いていた。あれはコレを見てたのかと改めて恥ずかしくなった。

「案外五条くんも情熱的なんだな」
「そ…そういう話は…聞かないで欲しいです」
「はは、照れなくてもいいじゃないか。名実共に恋人同士になってくれて、私も嬉しいよ」
「…はあ。って何で冥さんが嬉しいんですか」
「五条くんが調子良ければ良いほど、世の中が平和になる。そう考えるとは世界平和に一役買ってるんだから凄いことだよねぇ」

どこまで本気で言ってるのか分からない冥さんの話を聞いて、わたしはただ笑って誤魔化すしかない。世界平和はこの際置いておいて。まずはキスマークをつけないでもらうよう帰ったら注意しなくちゃと心に誓う。まあ、流されてしまうわたしも悪いんだけど。

「ところで…五条くんとは本当に結婚する予定なのかい?」
「…え?あ…えっと…まあ…多分…そうなる気が…」

いきなりの質問に戸惑いつつ、最近の五条くんを思い出す。任務から帰るたび「ここの教会はなかなかだった」とか「このホテルのチャペルは物凄くお洒落だった」と言いながら、あちこちのパンフレットを持って帰ってくるのだ。まだ何も決めていないし、彼のご両親にさえ会ってないのに、五条くんは一人でどんどん決めていこうとする。ウチのお父さんにだって、まだ五条くんとのことを話していないというのに。
でも次の冥さんの言葉で、わたしは目が点になった。

「ああ、だったらの御父上が今度上京するらしいから、五条くんを紹介してあげるといい。の相手があの六眼だと知って大喜びしてたから」
「……は?」
「ん?」
「あ、あの…わたしの父というのは…」

サッパリ意味が分からず聞き返すと、冥さんは不意にニッコリと微笑んだ。怖い。

「言うの忘れてたけど、の御父上は私の先輩に当たるんだ。昔からご贔屓にしてもらっててね」
「な……」
が晴れて一級呪術師になれたことも大喜びしてたよ。おかげで報酬は倍額くれたんだ。気前がいいよねえ」

冥さんはくつくつと笑いながらネタをばらしていく。そんなことは一切知らなかったわたしは、これまでの色んなことを思い返す羽目になってしまった。


△▼△


「…五条くん、朝だよ」
「…ん」

連続出張と生徒達の引率で珍しく疲れてるのか、五条くんは目を瞑ったまま、わたしに抱き着いてきた。

「起きないの?」
「…起きる」

そうは言うのに一向に起きる気配がない。起きるどころか、まどろんだままわたしを抱きしめてきた。そのまま首元に顔を埋めて匂いを嗅ぎながらくちびるを寄せてくる。

「…ん、くすぐったい…」

抗議をしてもやめようとせず、むしろ楽しんでる様子だ。

「五条くん、起きてるでしょ」
「……起きてないよ」
「嘘ばっかり」

その証拠に彼の手がわたしのお尻まで下がって、気づけばやんわりと撫でている。

「生意気な生徒と、呪霊の相手で疲れてるんだし、今くらいを堪能させて」

いつもそんなことを言って朝から求めてくるんだから、内心随分と元気じゃないかと思う。こういう時は必ずわたしが逃げられないよう拘束してくる辺り、絶対に策士だ。でもそういうところも好きだなんて、わたしもどうかしてる。
五条くんは日々、大勢の非術師の命を救う、現代最強の呪術師。
そんな彼が家ではこんなに甘々で可愛い人だと、わたし以外、誰も知らない。

わたしの長い長い初恋はようやく実を結び、甘い復讐と共に終わりを告げた。
そして、五条くんとの新しい恋は、まだ始まったばかりだ。



...END