私は何してるんだろう。
夜に一人、公園でブランコに乗ってるなんて、かなり危ない女だ。
人が通ったら幽霊と間違えられるかもしれない。
ふと真夏の夜空を見上げながら溜息をつき、手に持っている大きな箱を見下ろした。
今日は高校二年になってから付き合いだした彼氏の誕生日。
前から準備をして、ケーキを焼いた。なのにアイツときたら―――。

「―――いらない」

まさか、そんな言葉が返って来るとは思わなかった。

「…え?」
「俺、甘いもん嫌いなんだよ。しかもホールって…ありえねーわ」

顔をしかめながら、さも迷惑そうに言われた時、ケーキを食べて貰えない事よりも、そっちの方がかなりショックだった。
そのたった一言ですっかり気分が落ちてしまった。
サプライズをしたかったから確認もせずに勝手に焼いて来たのは私だし、それは仕方ないとしても…。
言い方って凄く大事だと思う。
ついでに「それよりさ…」と急に身体を密着させて来た彼氏に、少し驚いた。

「別のもん欲しいんだよね、俺は」
「…別の物?」
「…いいだろ?そろそろ付き合って三か月だし」

そう言いながら顔を近づけて来るなり、キスをしてきた。
でもいつもと違うのは、そのまま後ろに押し倒されて、乱暴に胸を揉んで来た事だ。
欲しい物って言うのは物じゃなくて―――。

「アイツ、最低…」

あの後、いきなり押し倒されて「プレゼント代わりにヤらせてよ」と言われた瞬間、思わず突き飛ばしてしまった。
ムードすら作れないのかと思う。する事は同じかもしれないけど、言葉とか雰囲気とか、女の子はそういうものを大事にしたい生き物なのだ。
なのにプレゼント代わりにヤらせろ、なんてハッキリ言って誰でもいいからヤりたいだけの男のセリフにしか聞こえなかった。
そんな男に処女を捧げるなんて冗談じゃない。
クラスでは明るくてリーダーシップのある彼が頼もしく見えてたけど、付き合ってからの彼は思いやりもデリカシーもない、ただの自己中男に成り下がった。こっちが本性だったのか。

「…はあ。夏休み明けに顔合わせるの憂鬱…」

多分これでアイツとは終わりだと思う。というか少しの好きも冷めてしまった。
人生で二度目の恋がコレなんて、私も男運がなさすぎない?
それにしても…と突き飛ばした後のアイツの顔を思い出して失笑する。
鳩が豆鉄砲ってああいう顔の事を言うんだろうな。

「――誰と会うのが憂鬱だって?」
「―――ッ」

不意に背後から声がして、私は慌ててブランコから立ち上がった。
そこに立っていたのは背の高い、白髪の男。
こんな夜にサングラスをかけている人なんて、彼くらいしかいない。

「…五条くん…?」
「よぉ、久しぶりじゃん」

彼は相変わらず皮肉めいた笑みを浮かべながら、ポケットに手を突っ込んで歩いて来た。







「こんな夜に公園のブランコ揺らしてる危ない奴がいるから、てっきり呪霊かと思ったわ」
「……あのね。五条くんの眼ならそのじゅ、呪霊?か人間かくらい見分けつくんでしょ?」

ジロリと睨みつければ、五条くんは昔のようにサングラスを僅かにズラすと、その宝石のように綺麗な瞳を私に向けながら当然と言いたげにニヤリと笑みを浮かべた。
その強気な顔すら、今は懐かしく思える。
五条悟―――。
中学の時のクラスメートで、少しの間、付き合っていた事もある、いわゆる"元カレ"だ。

「んで何してたんだよ、こんなとこで。オマエ、家すぐそこだろ」
「五条くんこそ…全寮制の何とかって専門学校に入ったんでしょ?お盆で帰省でもしたの?」
「まあ、そんなとこ。忙しいって言ってんのにお盆くらいは顔を見せに来いって毎晩鬼電だよ、あのババァ」
「あははっ。おばさん元気?」
「元気過ぎて困ってるわ…。たまに会うんだって?」
「ああ、うん。近所だからね。学校帰りとか時々」
「知ってる。オマエに会ったとか、いちいちメールしてくるからな。誰だよ、アイツにケータイなんてもん持たせたの」

五条くんは呆れたように項垂れていて思わず吹き出してしまった。
彼の母親は良い家の出のお嬢様育ちで、今だって凄い御屋敷に住んでる世間的に見ればセレブな奥様でもある。
なのに本人はとても気さくで、イイ感じにほんわかしてるから初対面の時から話しやすかった。
でも、そうなんだ。おばさん、私の事、五条くんに話してたんだ。
じゃあ、彼の事もバレてるかのかもしれない。

「…ああ、そういやオマエ、彼氏できたんだって?」
「……(やっぱりバレてる)」

前に二人で歩いてたら、五条くんのお母さんにバッタリ出くわした事があったのだ。

「ってか、その持ってるデカい箱は何?」
「これは…その、」
「オマエが家にも帰らず、こんなとこで貞子みたいに鬱々してたのと関係あんのか」
「さ、貞子って…言い方!」

五条くんのこういう所少しも変わってないと思いつつ、何でも見透かすような瞳で見られて、私は言葉に詰まった。
そこで仕方なく五条くんに今日あった事を簡単に説明した。

「ぶはははっマージで?ソイツ、バッカだねぇ~」

五条くんは案の定、馬鹿笑いをして、皮肉めいた笑みを私に向けた。

「んで?オマエは落ち込んで一人寂しくブランコこいでたのかよ」
「落ち込んでないもん。あんな奴、もう彼氏でも何でもない」
「ふーん。ま、のケーキ食いもしないような男、振っちゃえばー?」
「…え?」

五条くんの何気ない言葉にふと顔を上げると、彼はケーキの箱を指さして「それ貰っていい?」と訊いて来た。

「あ…うん。これで良ければ」
「さんきゅー」

五条くんは嬉しそうに箱を抱えると徐に開いて「おー俺の好きなイチゴのケーキ!」と喜んでいる。そう言えば五条くんは甘い物が好きだった。
だから昔バレンタインデーにケーキをあげた事を思い出した。
今の彼氏なんかと違って、あの時の五条くんは凄く喜んでくれて…私も嬉しくなったっけ。
そもそも五条くんと付き合う事になった一年半前の冬――。
あれは中学三年のもうすぐ卒業という時期で、一年の頃に同じクラスだった女の子二人から、変なお願い事をされたのがそもそものキッカケだった。







さん、ちょっといい?」

ある日休み時間にクラスに顔を出したその二人は、今では校内でも目立つグループに入ってる大林さんと中村さんだった。
見た目も派手で学校で禁止されているのに髪は茶髪に染めてメイクもしている。
今はクラスも違うし、たまに廊下で話す程度の仲で、そんな二人が一体何の用だろうと不思議に思った。

「どうしたの?」

廊下に呼び出してきた二人はニコニコと笑顔を浮かべていて、特にネガティブな話でもなさそうだ、と安心したのもつかの間。
最初に話を切り出したのは二人のうち、どちらかと言うと仕切りたがりの中村さんだった。

「あのさ、さんのクラスにいる五条くん。最近また学校に来はじめたんだって?」
「え?あ、ああ…。何か家が特殊な家系みたい。その事情で忙しかったとか言ってたけど…また最近来てるかな。彼がどうかした?」

そこで二人が顔を見合わせ、そしてまた私を見ると、中村さんがニッコリ微笑んだ。

「実はさんにお願いがあって」
「…お願い…?」
「その五条くんに彼女がいるかどうか聞いてきて欲しいの」
「…え?」

そんな些細なお願いだったが、最初に言われた時は意味が分からず、戸惑った。
ただこの空気からして、きっと二人の内どっちかが五条くんの事を好きなのだろうとは気づいた。それなら自分達で訊けばいいのに、何故私になんか頼むんだろう、と思っていると、それまで黙っていた大林さんが口を開いた。

「五条くんって近寄りにくい空気でしょ?だから声かけにくくって…」
「え、そう?五条くん、見た目があれだから近寄りがたい雰囲気だけど、話すと結構気さくだよ?口悪いけど」
「だからそれ!」
「え?」
さん、五条くんと席が隣でクラスで唯一彼と普通に話が出来るんでしょ?私、聞いたんだ。市川から」

市川というのは五条くんの後ろの席の男子だ。私と五条くんが話してるのを見てたんだろう。

「唯一って事もないと思うけど…」
「え、でも他の女子が話しかけても不愛想って聞いたけど」
「ああ、あれは変に質問攻めにするからじゃないかな。彼の家のこと」

五条くんの家は普通の家庭とは違うらしい。
前に先生たちが話してたのを聞いた事があるけど、悪い物を祓う何とかって仕事をしていて、彼の家はその界隈で有名な御三家の内の一つらしい。
だから中学を卒業したら、そういう専門的な学校に入る事が決まっているらしく、だからなのか学校にもほとんど来ない。
よく分からないけど私的には陰陽師みたいな仕事をしてるのかな?と勝手に思っている。
そもそも私はその手の怖い話が苦手で、家の事について五条くんにアレコレ聞いた事は一度もなかった。

ただ、クラスの女子だったり、こうして他のクラスの子達が色々と詮索したくなる理由は、私にも分かっている。 彼、五条悟はとんでもなくイケメンだからだ。
染めたのではなく天然の髪色がアッシュというより白髪に近く、彼の瞳の色は日本人離れをした碧色。
そしてすでに身長が190近くもある長身とくれば、学校中の女子が放ってはおかない。
だけど、あまりにイケメン過ぎて誰も気軽に話しかけられないみたいだ。
クラスの女子は同じクラスという特権で時々話しかけたりはしてるけど、何で学校に来ないのとか、家は何してるの、なんてプライベートを根掘り葉掘り聞くから、最近は五条くんもウザいといった態度を出すようになった。
そう言うのもあって他のクラスである二人もきっと話しかけづらいのかもしれない。

「お願い!彼女いるか聞くだけでいいし」
「それは…別にいいけど」
「ほんと?助かる!」

中村さんは嬉しそうに私の手を握ると、「聞いたらすぐ教えてね」と言って、チャイムが鳴ったのと同時に自分のクラスへと戻って行った。

(…何か私が勘違いされそうだけど、まあ頼まれたって言えば聞きやすいかなぁ…)

変なお願いされちゃったな、とは思ったけど、私もその辺は少し気になっていたから、この機会に聞いてみるのもありかもしれない。
と言うのも、実は私も五条くんが好きだったからだ。
初めて隣の席になった時、五条くんがジっと私の事を見て来るから「何?」と訊いたら、いきなり肩に触れて軽く叩いた事があった。

「何したの…?」

と訊いた私に、彼は「いや別に」と言って教えてはくれなかったけど、後から訊くと俗にいう低級霊みたいなものが憑いていたのを彼が祓ってくれたようだ。
その手の話は苦手でひどく怖がった私に、五条くんは「俺が傍にいるから大丈夫だっつーの」と笑って言ってくれた。
彼のその笑顔を見て、胸が音を立てたのは仕方ない事だと思う。
それ以来、何かと五条くんとは話すようになった。
クラス内で唯一話せるのは私としても嬉しかったけど、こんなにカッコいい五条くんに彼女がいないはずがない、と内心少し心配ではあった。
同じ中学にいないのは分かっている。
でも彼くらいなら高校生、それか大学生のお姉さまとだって付き合っていても不思議じゃないと思う。と言っていきなり彼女いる?と訊くのも躊躇われて、今日までその辺は考えないようにしていた。でもまさか彼女たちに頼まれる事になるなんて。

(早速今日の放課後にでも訊いてみよう…)

そう思いながら私も教室へと戻った。








「え、五条くん、帰っちゃったの?」
「ああ、ついさっきな。何で?」

後ろの席で帰り支度をしていた市川が不思議そうな顔をしている。
今、帰られたら明日学校に来るかどうかも分からない。
とりあえず追いかけようと、私は「何でもない」とだけ応えて、すぐに教室を飛び出した。

「いつの間に帰ったのよー」

必死で走って学校を飛び出すと、一気に家の方向へと走る。
実は私の家と五条くんの家は近い。
近所にある大きなお屋敷が五条くんの家だと知ったのは、彼と同じクラスになってだいぶ経ってからだった。
正門と裏門の住所が違う家を、私は初めて見た。

「家に入られちゃったら、さすがにあの家のインターフォン押す勇気はないぞ…?」

でも同じ方向に帰ってるはずだから走って行けば途中で追いつくはずだ。
今日じゃなくてもいいかもしれないけど、こう見えて何となく頼まれた事を明日でいっか、と後回しに出来ない性格だった。

「あ、いた…!」

前方に見覚えのある白髪と背の高い後ろ姿を見つけて、私は「五条くん!」と必死に叫んだ。

「待って!五条くん!」
「……?」

何度か呼んでやっと気づいてくれたようで、五条くんは驚いた顔で振り返った。

「はあ…追いついた…」
「…何だよ。どうした?」

一気に走ったせいで乱れた息を整えている私のところまで、五条くんが戻って来てくれた。

「う、うん…あのね…。五条くん…に…ちょっと聞きたい事があって…。はあ…疲れた」
「聞きたい事?何だよ」
「う、うん。それが―――」
「あ、喉乾かね?」
「え?」
「俺、喉乾いて、あそこでコーラを買おうと思ってたの」

五条くんはそう言いながら近くの自販機の方へ歩いて行く。
自然に私も後を追う羽目になり、コーラを買っている五条くんの背中を見上げた。

(ほんと大きいな…五条くんならスポーツ全般、何でも出来そう)

彼はスポーツ万能だった気がするけど、部活はどこにも入っていない。
家の事とかで忙しいと前に話していた。
でも五条悟はスポーツだけじゃなく、学校に来てないにも関わらず勉強だって出来るし、むしろ出来ない事を探す方が難しいという、いわば完璧な人だと思う。
こんな凄い人が家の事情とやらで他の事を出来ないのはもったいない、なんて密かに思っていた。

「ほら」
「…きゃ」

振り向いた五条くんはいきなり冷たいものを私の頬に押しつけてきて、一瞬ビックリした。
見ればそれはコーラの缶で「やるよ」と手に持たされてしまった。

「あ…ありがとう」
「別に。オマエも走って喉乾いてそうだったし」

お礼を言うと五条くんはプイっと顔を反らして歩いて行く。
そして目の前の公園に入って行った。

「え、帰らないの?」
「あ?だって、オマエ、俺に何か聞きたいことあんだろ?」

五条くんはそう言いながら公園のベンチに腰を掛けた。
そんな改まって聞く体勢になられても、私としては切り出しにくい。
もっと歩きながらサラっとした感じで聞きたかったのに。
そう思っていると「座れば?」と隣を指さされ、仕方なく彼の隣へ腰を掛けた。
教室で隣の席に座るのと、こうして外のベンチで隣に座るのとでは何となく空気も、距離感だって違う。ハッキリ言って、私はこの時かなり緊張していた。

「で?何?聞きたい事って」
「え?あ…えっと…ですね…」
「ぷ…っ何で敬語?」

五条くんは軽く吹き出すと、今ではトレードマークになっている黒いラウンド型のサングラスを少しズラした。
――何でも彼の瞳は特殊な力があり、特注のサングラスをしていないと酷く目が疲れるらしく、学校でも公認だった――
そうする事で見える空色のキラキラした瞳が、私を捉える。
常にサングラスで隠されている綺麗な瞳を、こんなに近くで見る事は殆どないから、緊張が一気に加速してきた。
夕焼けに照らされると、更にその輝きが強くなる気がする。
次第に鼓動が早まり、私は緊張を解すのに軽く咳払いをして、改めて五条くんを見上げた。

「あ、あのね…五条くんって…今、彼女…とかいるの?」
「……え?」
「えっと、どうなのかなって…思って…」

五条くんは酷く驚いたような顔で私を見ている。
唐突にそんな事を聞かれたのだから当然かもしれない。
そして私はと言えば、友達に頼まれたという一番肝心な説明をすっ飛ばしている事に気づいた。
これは絶対私が五条くんに彼女がいるかどうか気になっているみたいな空気になってる。
いや、本当に気にはなってるんだけど。

「……あ、あの…五条、くん?」

あまりに何も言わない彼に、私はだんだん気まずくなってきた。
クラスの女子同様、変な質問をした事で、五条くんの気分を害したのかもしれないと少し心配になる。
五条くんは未だ私の顔をジっと見つめていて、その綺麗な瞳で凝視されると、やっぱり多少ドキドキしてしまう。
その辺の芸能人より数倍も顔面偏差値が高いのだから、女の子なら誰でもこの顔で見つめられれば、頬が赤くなるんじゃないかと思った。
でもダメだ。今、赤くなってしまっては本気で誤解されそう。いや、誤解じゃないんだけど、バレたら気まずい。
だからもう一度、今度は友達に頼まれたことを伝えようと思った。

「五条…くん、あのね―――」
「いない」
「え?」
「彼女はいない」

不意に五条くんが応えてくれて、私は内心ホっとした。

「そ、そっか…。あ、実は」
「でも好きなやつはいる」
「…えっ?」

突然の言葉に驚いて、予想以上の声をあげてしまった。
そんな私を五条くんはどこか真剣な顔で見つめている。
何となく視線を反らして、何でこの質問をしたか伝えなければいけないのに、上手く言葉が出てこない。
やっぱり五条くんに好きな人がいるという事実に、この時の私は少し動揺していた。

「そ…そっか。まあ…好きな人くらいはいるよね―――」
「あのさ」
「え…?」
「何で…そんなこと訊いて来たわけ?」
「あ…だ、だから、」

友達に頼まれて、というたった一言が出てこない。
五条くんがあまりに真剣な顔で私を見ていて、それも相まって色んな感情が頭の中をぐるぐる回ってるせいだ。

「オマエ、俺のことが好きなの?」
「……ッ」

ドキっとした。これまで生きてきた中で一番、心臓が音を立てた瞬間だったかもしれない。
心配してた通り、さっきの質問は私一人の意思でされたと思われてしまった。
こんな形でバレたくなんてないのに。
でも五条くんの問いに「違う」とは言えない。だって本当に、私は彼の事が―――。

「……す、好き、です」

この場の空気に流されて、つい気持ちを口にしてしまった瞬間、顏から火が出るかと思ったくらいに恥ずかしくなった。
五条くんが「マジ…?」と一言だけ呟いたから余計に、何で言ってしまったんだろうと、すぐに後悔という二文字が胸を過ぎる。

「えっと…あの、やっぱり」

今のなし、と言おうとした。冗談だよって言おうとした。完全に引かれてると思ったから。
だけど、五条くんが不意に俯いてる私の顔を覗き込んで、そして―――。

「俺も」
「…え」
「俺もオマエが好きだなって…思ってた」

この時、私の頭の中は"嘘"という言葉が乱れ飛んでいた気がする。

、顔上げて」

彼の手が私の頭にそっと置かれた感触に、また鼓動が跳ねる。
でも恐る恐る顔を上げると、夕日を背にした五条くんの笑顔が、かすかに見えた。

「…ぷ。オマエ、顔真っ赤じゃん」
「だ…だって…は、初めてだし…こんなこと…言うの」
「あ~俺も」
「え…嘘…」

絶対にモテるであろう五条くんが、告白の一つもした事がないなんて信じられない。
いや、モテるから自分では告白しないという意味かも。

「何で嘘?」
「だ、だって…モテるでしょ、五条くん…」
「まあ…否定はしないけど。でも自分から好きになったのは初めて」
「…え…初め、て…」

という事は五条くんが初めて好きになった人っていうのは―――。

「そう、が初めて」

どこか照れ臭そうに笑ってくれた五条くんの顏は、今でもハッキリ覚えている。
あの頃の私は―――。



彼の、その笑顔が
ただひたすらに好きでした

皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…【Nelo Angelo...Owner by.HANAZO】