美しい終わりより




外を白く染めていく雪を眺めながら、ついてないと呟く。
こんなことなら、もっと早くに店を出るべきだった。
久しぶりの飲み会だったのと、思いがけない人の乱入で動揺し、ついつい飲み過ぎてしまったのが、そもそもの間違いだ。

硝子から「今夜、久々にどう?」と誘われ「いいね」と軽く返したまでは良かった。
だけど、待ち合わせた店へ一歩足を踏み入れた途端、私はこの場へ来たことを後悔するくらいに動揺した。

、お疲れ」
「…五条くん?」

まさか硝子が彼まで誘ってるとは思っていなかった。
いや彼の隣りに伊地知くんもいるけど。
あの様子じゃ無理やり誘われたのかもしれない。五条くんは分からないけど。
だいたい彼は下戸なのに何でこういう飲みの場が好きなんだろう。

「ほら、伊地知。が来たからどいてどいて。隣は可愛い女の子がいいから」
「全く五条さんは…」

五条くんが無理やり伊地知さんを追いやり、彼は硝子の隣へと移動した。
でも顔はまんざらでもなさそうだ。硝子は酒のメニューしか見てないけど。
五条くんは自分の隣を空けると「早く座りなよ」とサングラスをズラして私を見上げて来る。
その表情はいつもと変わらないのが少し憎たらしい。

「お邪魔します…」

仕方なく五条くんの隣に座ると、彼は「はまずビールだっけ」とメニューを開いてくれた。彼の前には何故かジョッキにグリーンの飲み物が入ってる。
多分ソフトドリンクだろうけどジョッキで飲むか、普通。

「うん。あ、あと――」
「枝豆ね」
「う…うん…」

何でも先読みして注文してくれる五条くんは何やら楽しそうで。
お酒も飲めないのにこういう場に来るのは好きだという彼と、前は硝子や七海くんも入れて四人でよく飲みに行っていた。
私はと言えば何とも言えない居心地の悪さを感じながらも、硝子や伊地知くんの手前、普段通りに元気な私を演じる。
五条くんはソフトドリンクでお酒のつまみをおかずにしながら、相変わらず皆が困るようなネタを振ってはひとりで笑っていた。
その間も私はお酒が進み、最後は硝子と同じく日本酒を飲んでいたけど、途中で酔いが回り眠くなったことで先に帰ることにした。

「硝子、私そろそろ帰るねー」
「え、もう?まだまだこれからだろ」
「でも今夜は雪予報だよ?」
「私は朝までコースだから雪が降ろうと関係ない。家も近いしね」

とろんとした瞳で微笑む硝子はやたらと色っぽい。
伊地知くんがきっと最後まで付き合わされるんだろうな、と思いながら、私は席を立った。

「私は朝早くてさすがに眠いから帰るよ」
「そっか。それじゃ朝まで付き合わせることは出来ないな。気を付けてね」
「うん。じゃあ、伊地知くん、五条くんも…また―――」

ね、と言おうとした途端、五条くんもコートを羽織って席を立った。

「送ってくよ」
「…え?」
「あーそうしてもらいなよ。もう遅いし、五条でもボディガードにはなるだろ」
「いや、僕でもって酷くない?最強だよ?僕は」
「はいはい…。っていうかアンタが送りオオカミになるなよ?」
「さあ?それは約束できないなあ」
「な、何言ってんの?」

そんなの冗談でも言って欲しくない。
一度は私を―――抱いたくせに。

私と五条くんは高専で同級生だった。
卒業後、あまり才能のなかった私は呪術師にならずに一度は社会人ってものをやってみたけど肌があわず。
結局は五条くんに誘われたのもあり、七海くん同様、二年後には高専に出戻るはめになった。
幸い自分に呪術師の才能はなかったけど、教える才能はあったようで、今は五条くんと同じく高専で教師をやっている。
硝子や五条くんとは同級生から同僚という関係に変わり、学生の頃とは違う――例えば今日みたいにお酒を飲んだり――楽しみも増えて、大人の遊びを満喫できるようになった。
でも、そのせいなのか、それとも酔って気が緩んでいたのか、私は先月やらかしてしまった。
学生の頃から、実は密かに想いを寄せていた五条くんと、つい勢いで一夜を共にしてしまったのだ。

今、思えばバカだったとしか言いようがない。
あの日もこんな風に飲んだ後、五条くんに送ってもらった。
お酒で気が大きくなった私は、まだ五条くんと一緒にいたいなんて思ってしまった。
そして家に着くなり「寄ってく?」などと口走ってしまったのだから目も当てられない。
いや、でもすぐに「冗談だよ」とは言った。
なのに五条くんは「取り消しは無効ね」と言って私の家に上がった。
そこからはあまり覚えていない。五条くんと何を話したのかすらうる覚えで。
後から考えれば、私は相当酔っていたんだろうと思う。
朝、起きて隣に五条くんがいた時の驚きといったら、言葉では言い表せない。

「おはよー」

なんて五条くんは普段と変わらないテンションで言うから、実は何事もなく、ただ一緒に寝ただけなんだと思えてきたくらいだった。
それに私は裸ではなく、シャツを一枚羽織っていたし、五条くんも素っ裸ではなかったように思う。あまり彼の方を見られなくて、それも定かではないんだけど。
でもホッとしたのもつかの間、五条くんに「夕べのは凄かったね」なんて意味深なことを言われ、本気で固まってしまった。
その日はどうやって仕事をこなしたかすら覚えていない。
五条くんとも顔を合わせづらくて、今日まで避けてどうにかやり過ごして来た。
告白もしてないのに体の関係から入る、それも一回だけの関係なんて最悪だ。
あれ以来、五条くんからも特に個人的な連絡はなく、私からもしないから今夜はあの日以来、久しぶりに言葉を交わしている。

「あーさみぃ~。マジで雪降るんじゃない?」
「…うん」

外へ出た途端、冷たい北風が吹きつけて来て、五条くんは首を窄めながら空を見上げている。
彼の隣りを歩きながら、こっそり横顔を盗み見れば、形のいい唇から白い吐息がふわりと漏れていて。
サングラスの合間から見える碧も、相変わらず綺麗だ。
私の視線に気づいて、ふと見下ろしてくる彼は学生の頃より少し大人っぽい表情を見せて来る。五条くんの持つ独特の空気は、やっぱり好きだなと思ってしまう。
この気持ちは誰にも言ったことがない。仲のいい硝子にでさえ。
言えば絶対に趣味悪い、なんて笑われるだろう。
でも他の人にはそうでも、私にとっての五条くんは青春時代を共に過ごした仲間であり、友達であり、初恋の人なのだ。

「どうしたの。僕の顏に何かついてる?」

ジっと見上げていると、五条くんは苦笑気味に私の額を小突いた。

「うん」
「え、嘘。何ついてんの?」
「……鼻と唇」
「………」

ボソっと言った私に、五条くんは呆れたように口を開けていて、多分目も細くなってるはずだ。

「あのね、。そういうの古いから」
「でも引っかかったじゃない」
「ああいうのは引っかかったとか言わないし」

そう言って五条くんが笑った時だった。
白いものがふわふわと空から落ちて来て、アッという間に大粒の雪へと変わって行く。

「あー…降って来ちゃった」
「通りでタクシー止まってないよね」

駅前まで歩いて来たが、確かに一台も止まっていない。
なのにすでに行列が出来ている。
これでは一時間以上、待たなければいけないかもしれない。

「はあ…ついてない」
「あれじゃ無理そうだなー。も寒いだろ」
「…うん。寒いし眠い」

アルコールもだいぶ回って来て、今は睡魔の方が強い。
本当なら今すぐベッドに倒れ込みたいくらいに。
でも歩いて帰るにはキツイくらいに私の家はここから少し遠いのだ。
はあ、と溜息をつけば、私の口からも白い吐息が風に舞った。

「じゃあ、さ」
「ん?」
「僕んち、来る?」
「え?」

ドキっとして顔を上げると、五条くんはマフラーで口元を覆いながら私を見下ろしている。

「五条くんちって…。あ、前都内で部屋借りたって言ってたとこ?」
「うん、そう。こういうことがあった時用の部屋だから」
「そ、そっか…」

頷きながらも私の脳内はどうしようで埋まっていた。
今度は五条くんの方から誘ってくれたことは嬉しいけど、またなし崩しにそんな関係になっていいんだろうか。
いや、まだそんなつもりで誘って来たなんて分からないけど。

「どうする?」
「えっと…」

ひょいっと顔を覗き込まれ、寒いはずなのに頬が熱くなった。
どう応えようか焦っていると、業を煮やしたのか、五条くんはいきなり私の手を掴んだ。

「え、ちょっと」
「はい、行くよー。の返事待ってたら凍えちゃうしねー」

五条くんは苦笑気味に言いながら、私の手を強引に引っ張って行く。
驚いたけど、でもその強引さが今の私には嬉しかった。
迷ってるくせに、やっぱり五条くんとまだ一緒にいたいという気持ちは少なからずあるから。

五条くんの借りてる部屋は駅から徒歩数分のところにあった。
大きな高層マンションの最上階で、室内はどこのビップルームだと思うくらいにお洒落な空間が出来上がっている。

「うわー凄い部屋…。家賃高そ~」
「まあ、僕、特級呪術師なんで」
「げ、やな感じ…」

大きなリビングの窓から外を眺めてた私が、振り返ってジトっと睨めば、彼は楽しそうな笑い声をあげた。

「何か飲む?あ、お酒はないよ、もちろん」
「あ、うん。わかってるよ。それにお酒はもういらない」
「んじゃーこれ」

五条くんは大きな冷蔵庫からお洒落な瓶のペリエをグラスに注いで私にくれた。

「ありがとう…はぁ~サッパリして美味しい」
、かなり飲んでたもんね」

五条くんもペリエを飲みながら、マフラーを外し、コートを脱いだ。
さっきはまともに隣にいる五条くんを見られなかったから気づかなかったが、今日は高専の黒い制服ではなく、黒のタートルに黒のボトムスを穿いている。
私服くらい黒じゃなくて他の色にしたらいいのに、と前に言ったら「呪術師が真っ白い服を着てんのって何か違わない?」とよく分からない言葉が返って来た。
イメージの問題らしい。五条くんは絶対に白も似合うと思うのに。

、寒くない?風呂でも入る?それとも寝る?」
「え、あ…さ、寒いけど…」
「だよね。コート脱がないしだと思った」

五条くんは笑いながら暖房をつけると、すぐにバスルームへと歩いて行く。
でもさすがに五条くんの部屋でお風呂に入るのは気まずい。

「あ、あの…五条くん…お風呂はいいってば」
「そう?でも寒くない?」
「平気。暖房も効いて来たし」
「ならいいけど…あ、じゃあ寝る?、眠たいんだよね」
「う、うん、まあ…」

五条くんはお酒を飲んでいないからか、いつも以上にテキパキと動いて私を気遣ってくれる。
その姿を見ていると、今日まで避けて来たことに罪悪感を覚えた。
いっそ、あの日のことをきちんと聞いてみようかとも思う。

「あ、あの…五条くん」
、こっち来て―」
「え…?」

振り返ると五条くんはいつの間にか寝室に行っていたようで、廊下から声が聞こえて来た。
すぐに声のした方へ行くと、五条くんは寝室でベッドを整えてくれている。

「ここ使って。僕もまだここそんな泊ってないし布団とか全部揃えてないんだけど毛布はあったから」
「あ…ありがとう…。え、五条くんは?」
「僕はどこでも寝れるから平気」
「え、で、でも寒いよ?雪降ってるのに…」

部屋を出て行こうとする五条くんが心配になって言えば、彼はふと足を止めて振り向いた。

「じゃあ…、一緒に寝てくれんの?」
「え…っ?」
「この前みたいに」

その一言にドキっとして肩が跳ねてしまった。
これまで普通に会話をしてたから、その話題を出すのはどうかと躊躇っていたけど、まさか五条くんの方から言って来るとは思わない。

「…えっと…」

返事に困っていると、五条くんはゆっくりと私の方へ歩いてきて「やっぱ後悔してる?この前のこと」と訊いて来た。
また鼓動が僅かに跳ねて、顔を上げると、五条くんはサングラスを外して、その碧い輝きを私に向ける。
私は五条くんのこの瞳に弱い。
心の中全てを持って行かれそうなほどに、彼の目と目が合うとどうしようもなく好きだと感じてしまうから。

「こ…後悔なんかしてない」
「ほんとに?僕、ずっと避けられてた気がするんだけど」
「そ、それは…」
「僕としてはちゃんと話したかったんだけどね」

ポンと頭に手が乗せられ、ふと顔をあげれば五条くんの唇が綺麗な弧を描いている。
どうしてそんなに優しい眼差しを向けてくれるんだろう、と胸が苦しくなってしまう。

「話すって…何を?」
の気持ちとか、僕の気持ちとか?」
「って、ちょ、何で脱がすの?」

五条くんの指が私のコートのボタンを一つ一つ外していくのを見て思わず後ずさった。
それでもその長い腕からは逃れられず、簡単にコートを脱がされてしまう。

「だって寝るのにコートはいらないでしょ」
「そ、そうだけど…って、ふ、服はいいってば」

いきなり着ていたニットに伸びて来た五条くんの手を反射的に掴むと、彼は僅かに笑みを零した。

「もしかして、このまま寝る気?」
「だ、だって…」
「まあ、いいけど」

と五条くんは私の手を引いてベッドへ座らせると「どうせベッドで脱がすから」と意味深な笑みを浮かべた。

「な…何…」
、この前のこと覚えてないんだろ」
「え…っ?」
「僕と話したこと」
「そ…それは…」

何の話をしたんだろう。確かに覚えてはいないんだけど。
私が目を泳がせてしまったからか、五条くんは肯定と受け取ったようで、深い溜息を吐かれた。

「いいよ。後で教えてあげる」
「え…?ん…っ」

ドキっとして顔を上げた瞬間、唇が重なりあった。
驚いて目を見開いたと同時にベッドへと押し倒され、気づけば五条くんの顏が真上に見える。
彼の碧い双眸は熱を孕んでいるというより、どこかスネたように細められていた。

「ご…五条く…ん、」

言葉を発する前にまた唇が塞がれ、角度を変えながら優しく啄まれる。
心臓がドキドキうるさくて、触れ合う唇の熱で全身まで火照って来るような気がした。
その時、唐突にあの日のことを思い出す。
あの夜も、こうして五条くんとキスを交わしている光景が脳裏を過ぎって、ドクンと鼓動が大きく跳ねた。

「ご…ごじょ…んぅ…」

薄く開いた唇からぬるりと舌先が侵入してきて全てを食べられてしまうんじゃないかと思うくらい口内を貪られる。
静かな室内に唇が交わる音が響いて、全身の力が抜けていく。
それを見計らったかのように、五条くんは器用にニットを脱がしていった。
冷えた室温を感じ、慌てて胸元を隠せば、五条くんは「隠さないで」と耳元で囁いた。
その声にゾクリと肌が粟立ち、同時に耳を彼の舌が掠めていき、先ほどよりもゾクゾクとした刺激が首元に広がって行く。

「ん…っ」

耳の穴に舌先を差し込まれ、卑猥な音がハッキリと脳に伝わる。
いつの間にか背中に回っていた五条くんの手がホックを外して胸元が緩むのを感じた時、恥ずかしさで身を捩った。

「今日はあまり酔ってない…?」
「…んぁ…そ…そんなことな…ぃ」

首元に吸い付きながら、五条くんは「今日は敏感だから」と笑みを含んだ言葉を投げかけて来る。
じゃあこの前はどうだったんだと、また忘れてる記憶を探してしまいそうになった。
気付いたら五条くんの手が無防備な胸を揉みしだき、再び唇が重なり合う。
執拗に舌先を絡めながら、五条くんは指で胸の尖りを優しく擦り上げてくる。
その刺激で体がビクビクと勝手に反応してしまうのが恥ずかしい。
恥ずかしいと思うのは、やっぱり酔いが冷めて来ている証拠なのかもしれない。

「…感じてる可愛い」
「そ…そういうこと…言わない…で」

ゆっくりと唇を離した五条くんは扇情的な笑みを浮かべて私を煽って来る。
首筋を唇でなぞるようにしながら、その先の膨らみにも口付けた五条くんは「照れてるはもっと可愛い」と言って硬く主張している場所を口へと含んだ。

「んあ…っ」

指先で弄られ、舌先が尖りを丁寧に舐め上げていく感覚に、お腹の奥が疼くように熱くなる。
それを敏感に察したのか、五条くんの手が太ももを撫でながら指先が下着の中へ吸い込まれて、すでに潤んでいる場所へと到達した。

、凄い濡れてる…気持ちいい?」
「だ…だから…や…っ」

指が敏感な芽を何度も往復していき、甘い刺激で更に奥からトロリとしたものが溢れて来る。
五条くんの好きなようにされてるのが恥ずかしいのに、抗議の声はすぐに嬌声へと変わってしまうから嫌になる。

「…んんっ」

遠慮のない指先が泥濘に押し込まれ、ゆっくりと抽送を始めた。
指で擦られるたびに卑猥な音がするのは、私が感じすぎてるせいだ。
胸の尖りを舌先で擦られ、指が何度もやらしく轟く。
同時に親指で主張し始めた芽を押しつぶされ、強い刺激で声が跳ねる。

「や…ごじょ…く…」
「いいよ、イって」

指の動きが次第に激しくなり、声が洩れそうな口を五条くんの唇で塞がれる。
敏感に感じるところを執拗に弄られ、再び芽を擦られた瞬間、背中がしなるくらいにビクビクと体が震えて、五条くんの指を締め付けてしまった。

「この前も思ったけど…イった時の、可愛いよね」
「……な…やめ…て…恥ずかし…いよ…」

乱れる呼吸を整えようとしてるのに、五条くんは蕩けるような甘い瞳でそんなことを言って来る。
それだけでも、はしたないくらいにあそこが疼いてしまうのが怖い。
でもやっぱりあの夜、私は五条くんと…
そんなことを考えていたら、いつの間にか服を脱いだ五条くんが覆いかぶさって来た。
額をくっつけ、切なそうな吐息を吐きながら「挿れていい?」と聞いてくるのは反則だと思う。
それに私が返事をする前に、彼の指が下着を引っかけ、ゆるゆると下げていく。

「ちょ…っと待っ」
「今夜はもう待てない…」

五条くんは私の唇や頬にキスを落としながら、そんな事を呟く。
そのうち下着は脱がされ、硬く膨張した先端が濡れそぼる場所にあてがわれた。
珍しく余裕のなさそうな五条くんに、また胸が鳴ってこれから先にもたらされることを思うと少しだけ怖くなる。
あの夜のことを覚えていないのだから、今が私にとっては五条くんとの初めてなのだ。

(…ん?ちょっと待って。いや…違う。今、五条くん…今夜はって言った…?)

小さな違和感にふと視線を上げた時、もろに五条くんと目が合った。
私のその表情で気づいたのか、五条くんはイタズラを見つかった子供みたいな笑顔を見せる。

「…ご…五条…くん…まさか…」
「あ、バレた?」
「…あ、あの夜、もしかして…」
「うん。ほんとはキスだけ。あとは何も……してない」

え、と声をあげようとした時、五条くんはニヤリと笑い、容赦なく昂った自身を押し進めた。
その圧迫感と激痛に、私は一瞬息を吸い込んだ。

…僕にあっさり騙されるなんて、ほんと可愛いね」

全てを受け入れた場所からは声も出ない程の痛みが走り、五条くんも辛そうに吐息を吐いた。

「この前は、初めてだって言って怖がったから…やめたけど…今日はやめてあげないって、さっき決めた」

痛いのを必死で堪えてる私を見下ろし、五条くんは情欲に孕んだ瞳で微笑んだ。

「ずっと好きだったのは僕も同じだから―――」

悔しいくらいに綺麗な顔で、五条くんは私を騙した。
それでも何もないまま失うよりは、騙されたまま、彼に抱かれたいと思ってしまった。

「…少し痛み引いた?」
「……う、うん」
「じゃあ…動くよ?」

どうやら私の為に我慢しててくれたらしい。
そういう何気ない気遣いとか、本当に腹が立つほど好きだと思った。
私が黙って頷けば、五条くんは小さく息を吐き出して、ゆっくりと抽送を始めた。

「…は…っ…気持ち良くて…我慢出来ない…かも」

切なそうに呟いた五条くんは、緩急をつけながら少しずつ腰を速めて打ち付けてくる。
痛みで声が何度か跳ねたけど、五条くんの初めて見せる快楽を貪るような顔を見ていると、それも我慢出来た。
学生の頃から彼が好きで、大人になっても好きで、でもどんどん素直じゃなくなったから何も言えなくて。
あの夜、私が酔って彼を誘わなければ今夜の嘘もなかったし、こうして想いを成就させることもなかった。
あのまま片思いで終わらせなくて良かった。

…―――」

五条くんの動きが速くなり、私の意識が飛びそうになる。
互いの熱で全身が汗ばむのが分かった。

「…んんぁ…っ」

一層速くなった律動で、痛みとは違う痺れが混じって来る。
その瞬間、五条くんが体を軽く震わせるのが分かった。
すでに心に溢れている気持ちを抑えきれずに、そっと呟いた。

「五条…くん…好き」

浅い呼吸を繰り返していた五条くんは、ふと笑みを浮かべると、汗で濡れた額にちゅっとキスを落として、甘い言葉を囁いた。



美しい終わりより、無様な続きが欲しかった