ほんのひとつの言葉さえ



最初に会った時、真っ白いお花みたいな女の子だと思った。太陽の光の中で笑っている彼女の笑顔が、凄く眩しかった。

高専一年目の時、と狗巻棘は呪術師として出会った。
呪言師の棘は間違って人を呪わないよう普段の会話の時は語彙をオニギリの具で統一している。それを知ると最初は敬遠されたりするのだが、は違った。何とかコミニュケーションをとろうと一生懸命、棘に話しかけた。返事がオニギリの具だけだとしても、今度はその意味合いを知ろうとしてくれた。理解しようとしてくれた。そして次の日、はある助っ人的なものを持って棘のところへやって来た。

「狗巻くん、この翻訳機に何か言葉を入力して」
「…しゃけ」

彼女から翻訳機を受けとり、棘がまず入力したのは【】という彼女の名前。本当なら、出来ることなら、それは自分の声で、言葉で、呼んでみたい名前だった。でも棘の代わりに翻訳機が『』と呼んでくれた。

「え、私の名前…入れたの?」
「しゃけ…」
「えへへ…何か照れる」

本当に照れくさそうに笑う彼女の笑顔に、この日棘は恋をした。普通に話せない自分と会話をするのは大変だろうと思うのに、は棘の前でそんな態度は一切出さない。出逢って一週間もしないうちに「しゃけ」が肯定、「おかか」が否定だと気づいたし、ツナマヨ、高菜はその場の状況によって変わって来るのも分かってくれた。それはが棘を理解しようとしてくれるからだ。

そんな彼女のことを、棘は大好きになった。

「今度は何を打ち込んでるの?」
「…ツナツナ」
「ん-?どれどれ」

が……』

「私が…何?」
「おかか……」

出来れば自分の言葉で、好きと言えたらいいのに。




ほんの一つの言葉さえ
吐けない唇