想いの欠片は声となる

※性的描写あり


全てを言葉にしなくたって想いは伝わる。棘くんからは名前すら呼ばれたことはないけれど、彼のくちびるが私の名前を呼びたそうにしてるのは知ってる。でも私はこうして棘くんと触れ合ってるだけで、心も体も満たされて行くんだよ。

「…しゃけ」

私の言葉に棘くんは嬉しそうに微笑んだ。その可愛らしい顔とは裏腹に、塞がれたくちびるの隙間から柔らかい舌が滑り込んで、私のと絡み合う大人のキスを仕掛けて来る。繋がってる部分は熱くて、体も熱くて、どうにかなってしまいそうなほどに彼を感じてる。私の中を優しく刺激するように動く棘くんを下から見上げると、頬が上気して凄く気持ちいいって顔をしてた。その表情を見ていたら軽く達してしまった私は何て厭らしいんだろう。でも普段は可愛くて蕩けるくらい優しい棘くんが、快楽を貪る姿はギャップがありすぎてとても扇情的なのだ。

「…ん、棘くん…そこ…ダメ」
「……おかか」

達したばかりなのに、不意にいいところを突かれてビクンと腰が跳ねた。軽く締め付けてしまったからか、棘くんは口元に意味深な笑みを浮かべて首を振る。普段とは全然違う意地悪な表情に、ドキっとさせられた。

――やめてあげない。

そう言ってる気がする。その予想は当たっていたようで、棘くんは何度もそこをゆるゆるとした動きで突いて来る。突かれるたび、またじわりと蜜が溢れて、擦られるたび卑猥な音を立てた。私の中を楽しむような焦らす動きにじわじわと追い詰められていく。次第に脚の指先までビリビリと甘い電流のような刺激が走り抜け、全身がゾクゾクと粟立った。でもイきそうになる寸前、彼の動きが弱まって、抽送が更にゆっくりとしたものに変わった。

「明太子…」
「ん…ぁ…と…げくん…?」

まだダメ、そう言ってるんだと気づいて、切ない吐息を吐き出せば、棘くんのくちびるに吐息ごと塞がれる。深く交わって何度も啄まれると、くちびるから伝染したように甘い疼きが下腹部までじわりと広がった。キスだけでこんなに感じてしまうほど、私は棘くんに夢中だった。
名前を呼んでもらえなくても、好きだと言ってもらえなくても、こうして体を重ねることは出来る。棘くんを感じることは出来る。それに愛の言葉は、私から言えばいい。

「棘…くん」
「…ん?」
「好き。大好き…」
「…しゃけ」
「…あ…っ」

それまでゆっくりと動いていた棘くんに、ぐいっと腰を押しつけられた瞬間、体が何度か跳ねるくらいの快感が襲った。それまでの焦らすような動きじゃない。確実に上り詰めていこうとしている。

「は…ぁ…」

棘くんの口からかすかに洩れる掠れた音が、私の耳まで刺激していく。くちびるに吸い付かれ、私の声は全て棘くんの口内へ消えて、どろどろの熱に溶かされてしまいそうだ。息をするのも忘れて、夢中でくちびるを求めながらも、いっそう激しくなる腰の動きに私も追い詰められていった。

「…棘…く…ん…ぁっ…」

絶頂が近いのか、腰の動きが速まって、私の方が先に何度もイってしまった。そのせいで棘くんのものを強く締め付け、そこで彼も小さく声をあげた。ぶるりと身を震わせながら熱い欲望を全て吐き出した棘くんは、肩で息をしながら私の隣にゆっくり寝転んだ。細いけど筋肉質な腕が伸びて来てぎゅっと抱き寄せて来る。素直に身を任せながら、互いにしばらく荒い呼吸を繰り返していると、棘くんのくちびるが私の耳に押し付けられた。

「ん…棘くん…?」
「……す」
「え…?」

思わず顔を彼の方へ向けると、棘くんは優しい笑みを浮かべながら、今度は私のくちびるをちゅっと啄んだ。その後に一言――。

「…き」
「……き?」

おにぎりの具じゃない。何を言いたいんだろう?と思った瞬間、「き」の前に呟いた言葉を思い出した。

"す"
"き"

好き――。
一つ言葉を呟いて、間をあけて続きの言葉を口にしてくれたんだ。そう気づいた時、じわりと涙が浮かんでしまった。

「お、おかか…」
「う、うん…ごめん…でも嬉しい…」

泣き出した私を見て、棘くんは慌てたように濡れた頬を指で拭ってくれた。なのに涙はバカみたいに溢れて止まらない。
言葉なんかいらないと思ってたのに、抱き合えればそれで良かったのに、こうして棘くんの口から紡がれる愛の告白は、十分すぎるほど私を満たしてくれた。

「棘くん…ありがとう。大好き」
「…しゃけしゃけ」

最後はいつものおにぎりの具で返事をしながら照れ臭そうに微笑むから、私もつい笑顔になる。そのまま自然とくちびるを寄せて、私達はまたキスをした。重なり合う熱は、まだ冷めそうにない。