第十一話...船内にて




※性的表現あり




「…ほんとにビキニだ…でもふりふりデニム生地でめちゃくちゃ可愛い」

――実はにプレゼントがあるんだよね。

なんて言いだした悟がくれたもの。それは水着だった。泳げないと言っているのに「着るだけでいいから」と無理やり渡され、船内のベッドルームで今、わたしは人生初の水着を着ようとしている。

「こ、これくらいなら…普通の服だと思えば着れるかも…」

ビキニと言っても想像していたデザインとは違い、デニム生地のカジュアルなものだったこともあり、少しだけホっとする。下もホットパンツみたいなデザインで、腰の太いベルトのデザインがレトロな可愛さを出している。おかげで厭らしさもなく、可愛い感じに仕上がった。

「可愛い…」

パンツの方は浅い感じでお臍よりも下にベルトの部分が来るから、スタイルも良く見えるしシルエット的にもお洒落だ。でも全体的に鏡でチェックをしていた時、視線を感じて鏡で背後を見ると、入口のところに悟が寄り掛かってコッチを見ていることに気づいた。ギョっとしてバスタオルで胸元を隠しながら「ま、まだ着替えてるんだけどっ」と文句を言う。でも悟は笑いながら「僕は絶賛覗き中♡」と全然反省の色がない。

「の、覗かないでよ…っ」
「え、夫婦なのに?せっかくの海だし眺めのいいもの見たい」
「海を見てよ!」

ふざけた回答をする悟にムカっときて、海を指さしながら思わず突っ込む。

「は…早く出てくれないと困る――」

と言いながら背中を向けた瞬間、後ろから伸びて来た腕に抱きすくめられて、声を上げる間もなく、奥に設置された大きなベッドへ押し倒された。

「ちょ…っと…悟…っ?やめ…」

着たばかりの水着のジッパーを簡単に下げていく悟に「脱がさないで…っ」と抵抗をしてみても、力で敵うはずもない。

「こ、こんなとこで…やめて…っ」
「海の上だし誰もいない」

覆いかぶさって来た悟は、いつものふざけた感じじゃなく、どこか余裕のない顔でわたしを見下ろした。両脚の間に体を入れられ、カッと頬が赤くなる。あげく下半身に硬いモノが押しつけられて心臓が大きな音を立てた。

(なんかおっきくなってる…!)

こんな真昼間から何を考えてるんだと悟を睨む。この前までは全然、手も触れようとしなかったくせに。何故かよく分からない怒りがこみ上げて涙が浮かんだ。ここ最近、悟が急に近づいて来たりするから、わたしも混乱してしまうんじゃないか。そんな思いをつい悟にぶつけた。

「な…何でこんなことするの…?最初は全然、手なんか出して来なかったくせに…っ」
「……え?だって、それはさぁ…」

悟は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに小さく溜息を吐いた。

「…はじめての夜…そっぽを向いて震えてたに…僕が手を出せると思う?」
「……え?あ…っ」

簡単に水着を脱がされ、露わになった胸の先端へ、悟は軽く口付けると、「でも一度触れたら…もう我慢できない」と呟く。

「んんっちょ…こ、こんなとこで…」

軽く刺激を与えられ、硬くなり始めた場所を口に含まれて吸われると、強烈な快感が走って全身が震えてしまう。こんな太陽の光が入るカーテンも何もない部屋で、恥ずかしいことをされている現実に目を背けたくなる。与えられる快楽に抗いたいのに、抗えなくなるほど悟は強引だった。

「…ぁう…っ」

下のジッパーも下げられ、水着も強引に脱がされると、脚を開かされた。こんな明るい場所で見られてると思うと、恥ずかしくて死にそうになる。

「やぁ…見ないで…っ」
「何で?凄く綺麗なのに」
「……っあ」

脚の間に顔を埋めていく悟から目を反らした瞬間、ぬるりとした柔らかい舌が割れ目を舐め上げた。あまりに強い刺激に腰が何度も跳ねる。脚を閉じたいのに、そんな余裕もなくなるほど、激しく攻め立てられ、陰核をちゅうっと吸われた瞬間、ビクンと脚が跳ねた。

「もう濡れてきた…気持ちいい?」
「や…ち、違…っぁ」

ずぷりと指が埋め込まれてく感覚に、ナカがひくつくのが分かる。どんなに嫌だと言ったところで、身体は悟から与えられる快楽の味を知ってしまったからだ。それでも最後の抵抗とばかりに押し戻そうと、脚の間に顔を埋める柔らかい銀髪へ手を伸ばしたものの、絶え間なく与えられる快楽のせいで、わたしの手は弱々しく彼の頭へ置いただけに留まる。その間も温かな舌はわたしを追い詰めるかのように割れ目をねっとりと舐め、時折蜜をすするような音を立てた。あまりに恥ずかしくて、涙がポロポロと零れ落ちる。この責め苦から逃れようとしても、手足は思うように動いてはくれない。

のここ、トロトロ」
「んっぁあ」
「ここもだいぶ剥けてこんなに膨らんでるし…気持ち良さそうだね、

陰核を舌で転がしつつ、指を抽送しながら悟が呟く。すでに何回イカせられたか分からない。小さな波が幾度となく押し寄せて、もうやめて欲しいのに行為は続く。

「も…もう許して…ぁっあ」
「こんなに感じてるのに?凄い溢れて来る」

ナカを掻きまわす指は増やされ、そこから卑猥な音が立つ。その音を鼓膜が揺らすたび、頭が沸騰してるのかと思うほど、思考がどろどろに溶かされていく。

「…ゃぁ…っこ、こんなひどいことされた…ら…ほんとに嫌い…になるから…っ」

つい口をついて出た言葉。でもすぐに後悔したのは、体を起こした悟がわたしをうつ伏せに倒した時だった。

「…ゃ…さ、さと…る…?」

わたしの体を後ろから包むように覆いかぶさってきたのを感じて、ゴクリと喉の奥が鳴る。

が僕のことを嫌いでも…別にかまわない…」
「……っ」

悟の言葉が棘のように心臓にいくつもの穴を空けていく気がして、涙が零れ落ちた。

(――恋をしよう、なんて…やっぱり本気で言ったわけじゃなかったんだ…)

その時、グイっと腰を掴まれ、手前に引かれることで、お尻を突き出す格好になった。それが何を意味するのか理解した時、質量のあるものがたっぷりと可愛がられた場所へ埋められていく。

「んんぁっ…ぁっ」

あまりの圧迫感に喉をのけ反らせると、ベッドに置かれていた悟の手が口内へ侵入してくる。

が僕のことを嫌いでも…」
「う…ぁあ…んっ」
「それでも……僕は――」

耳元で悟が何かを呟いた気がしたけど、よく聞こえなかった。それよりも悟の膨張したものが奥へと埋められていくたび、ゾクゾクとした快感で身が震える。やがて全てを挿入した悟は、腰を打ち付け始めた。
船の中で恥ずかしいことをされ、なんて乱暴な抱き方をされてるんだろう。そう思うと涙が止まらないのに、体は快楽へと沈んでいく。その時だった。すぐそばに落ちていた悟のケータイが、着信を知らせるように震えだした。無意識に視線を向けると、ディスプレイが光って相手の名前がハッキリと視界に入る。そこには"季利子きりこ"という女の名前。それはわたしも何度か会ったことのある、悟の幼馴染の名前だった。

(季利子…さん…わたしの…前の悟の婚約者だった人だ…)

激しく貫かれながらも、頭の隅でそんなことを思い出した。京都の良家の令嬢だという彼女は、わたしが生まれる前まで悟との結婚を約束されていたようだ。二人の親が同じころに妊娠をしたと分かった後に両家との間で交わされたもので、元々親交のあったこともあり、生まれたのが男と女だったなら結婚させようと、互いの両親が決めていたと聞いたことがある。なのに五条家はその約束よりも、悟の妻に"狐憑き"のわたしを選んだ。悟が六眼だったのが大きな理由だろう。

(まだ…連絡取りあってたんだ…)

悟と季利子さんは仲が良かった。同じ歳であり、物心ついた頃から引き合わされ、まるで兄妹のように育って来たと母から聞いたことがある。

(…関係ない。悟が誰と連絡を取りあおうと…何をしてようと…わたしには…)

ケータイから視線を反らし、ただ悟に揺らされ、喘がされる。こんな場所で、無理やり抱かれて、わたしは一体何をしてるんだろう。

「…んぁあ…っ」

最奥を突かれ、激しくナカが波打ち、背中が反りかえるほどの快感が突き抜けていく。初めて経験する絶頂感に思考すらも消し飛んだ。

「…

悟の甘い声に名前を呼ばれても応えることが出来ず、全身が見悶えするほどの甘い快楽に溺れそうになった。

「…可愛い」
「…ん…っ」

気づけば仰向けにされ、くちびるにちゅっと口付けられる。濡れた目尻や額にも悟のキスが降って来て。その間もゆるゆると腰を動かされるたび、イったばかりで収縮を繰り返すナカが、彼のものをもっと欲しいとでもいうように締め付ける。

「もっと…こえ、聞かせて…
「…ゃ…ぁ…ふ…ぁ…」

甘い声で囁いて、触れるだけのキスを繰り返す。酷いことをするくせに、優しくする。まるで甘い罠に落とされているみたいで、心がざわめいた。
悟なんて、大嫌いのはずなのに――。







「……ん…?」

気怠さの中を漂いながら、ふと目が覚めた時、目の前に長く綺麗なまつ毛が見えてぎょっとした。悟は体ごとこっちを向いて、わたしを抱きしめながら眠っている。

(こ、これ…かなり恥ずかしい…!)

悟の裸の胸に顔を寄せていたのかと思うと、頬がカッと熱くなった。いつの間に意識を飛ばしてしまったんだろう。

(と、とにかく離れなくちゃ…)

体を離そうと少しずつ、横へ移動していく。なのに悟はわたしにすり寄るようにまた身体を寄せて来た。

(…ぎゃっ。何かすりついてきた…っ)

焦って動きが止まった時だった。

「……」
「……っ(ギク)

わたしの顔に頬を寄せながら、悟が呟いた。さっきとはまた違う恥ずかしさで、じんわりと頬が熱くなっていく。寝ながらわたしの名前を呼ぶなんて反則すぎる。

「………」

起きてるのかと思って目の前の綺麗な顔をジっと見つめてみたけど、かすかに寝息が聞こえてるから起きてはいないらしい。
嫌な奴なのに、嫌いなはずなのに――こういう気持ちにさせないでよ。

「あー…もう…っ」

逃げるのを諦めて、大人しく悟の胸に顔を押し付ける。散々汗をかいたはずなのに、悟からはふわりと甘い香りがした。

(何…?イケメンは汗もいい匂いだったりするわけ?っていうか…子供みたいな顔で寝ちゃって…)
(か、可愛いなんて思ってないんだから…。きゅんとなんてしてないんだから)

恥ずかしくて、思考が全く定まらない。もう――本当にどうしちゃったんだろう、わたしは。

それから一時間後――太陽が傾き始めた頃に、わたしと悟はマリーナへと戻った。

「わ…っと…」

久しぶりに地上へ下りて足を置いた途端、力が入らなくてよろけてしまった。

(あーダメだ…エッチなことされすぎて腰が…)

気怠さの残る腰を擦りながら、悟の後ろをついて行く。でも不意に彼が足を止めてわたしのところへ歩いて来た。

「ひゃ…っ」

それは突然だった。さっきのように膝裏を持ち上げられ、気づけばまたお姫様抱っこをされている。ギョっとして「お、下ろしてよ」と言ってしまった。でも悟は平然とわたしを抱えながら歩いて行く。

「やっぱり固いベッドでやりすぎたか…ごめんね、
「……ぐっ」
「すぐ駐車場だから」
「や…だから…っひとりで歩けるし!」
「はいはい。黙って抱かれててね。奥さん♡」
「……っ…(何で嬉しそうなの…)」

ニコニコしながら歩いて行く悟を見上げながら、自然と心臓が早鐘を打つ。顔がほんのり熱くなっていくのが嫌だ。

(大嫌い…悟なんて…)

こんなに何度も繰り返しているのに、心臓だけがドキドキと落ち着かない音を鳴らしてる。
結婚をして初めてのデートは、こんな形で静かに終わりを迎えた。