第二十二話...熱を孕む夜に




※性的表現あり



悟の特別な人には、わたしはきっと敵わないけど。でも、やっぱりそれでも好きだから――。

――オマエがそばにいてくれるだけでいい。

その言葉がどれほど嬉しかったか。
わたしを抱きしめる悟の体温を感じながら、いっそこの想いをぶちまけたいとすら思ってしまう。でも言えば困らせるかもしれない。悟は子作りの為にわたしを選んだに過ぎないのに。かつてのわたしが、そうだったように。

「で、でも…どうするの…?妊娠してないのに妊娠してるなんて言っちゃって…次の排卵日は一ヶ月も先なのに」
「…そんなのどうでもいいよ」
「…ど、どうでもいいって…」

ハッキリ言い切られてドキっとした。それって、わたしとのこと?それとも…親戚たちに嘘を言ったこと?聞きたいのに怖くて聞けない。一人悶々としていると、不意に身体を抱えられ、悟の膝の上に座らされてギョっとした。恐る恐る視線を上げれば、薄闇に青い水晶のような虹彩が優しく揺れていた。

「…悟?」
「排卵日なんてどうでもいいってこと。ていうか、普通の排卵日は毎月くるでしょ」
「で、でもそれじゃダメなの…!悟の術式を全て継承する子を授かるには――」

と言いかけたくちびるに悟の細く綺麗な指先が添えられる。

「分かってる。だけど僕はとなら普通に授かった子でも嬉しいよ」
「……え、…」
は?前から僕との子供、欲しいって言ってたけど…普通に妊娠した子は欲しくない?」
「そ、そんなこと…っ」

慌てて首をふれば、悟は優しい笑みを浮かべてわたしの額にちゅっと口付けた。たったそれだけで幸せを感じるんだから単純だと自分でも笑ってしまう。だけど――。

「わ…わたしも…悟との子供なら…欲しい。例え普通の子でも…」

言った瞬間から顔が熱くなった。思い切って言いすぎたかなと後悔しそうになる。政略結婚で子作り前提の関係なのに、今のは暗にアナタが好きですと言ってしまったようなものかもしれない。特に悟が何も言ってくれないから余計に不安になってきて、再び視線を上げてみた。

「……っ」

悟の顔を見上げて思わず息を飲んだ。いつもなら余裕たっぷりの表情でわたしを見下ろす悟の顔が、かすかに赤く染まっていたからだ。いつもわたしを翻弄するのは悟の方で、余裕なのも悟の方だ。なのに今の彼はそのどちらでもない。

「悟――」

と思わず赤くなっている頬へ手を伸ばそうとした。でもすぐに手首を掴まれ、ぐいっと引っ張られる。悟がベッドへ倒れ込むと自然にわたしが覆いかぶさるような体勢になった。

「全部…本当のことにしたい」
「…え…ん…っ」

悟の腕が伸びて首の後ろを引き寄せられると、すぐにくちびるが重なる。悟のくちびるがわたしの舌を食むと、恥ずかしいほどに腰が揺らいだ。二つのくちびるの間でねっとりと絡み合う口付けに、上顎がくすぐられた。体の深いところに火が灯ったあとは、くすぐったさが甘い快楽へと変わっていく。

「…ん…ふ…」

腰を抱き寄せられ、悟が上体を起こしながらキスを仕掛けて来る。自然と彼の太腿をまたぐような体勢になり、ドレスのスカート部分が付けねまで捲れた。下腹部に、熱くそそり勃ったものが当たっている。悟がキスだけで興奮してくれているという事実に、わたしの身体もいっそう火照って蕩けてしまいそうだ。ただ一つ気になるのが――。

「ん…ダ、ダメ…ドレスがグシャグシャになっちゃう…」

せっかく悟が選んでくれたものだ。出来れば大切にしたい。なのに悟は「また買ってあげるよ」と言いながら、スカート部分を更にまくって太腿を撫で上げる。その感触にゾクリと肌が粟立った。

「…んっぁ…」

悟の脚の上に跨っているせいで、彼が足を開くと必然的にわたしの脚も開いてしまう。ショーツの上から悟の指先が敏感な場所を探るように撫でつけて来た。

の感じるとこ、すぐ見つかった」
「……ぁっあ…ん、」

指で刺激を与えられ、早くも屹立しはじめる突起を、悟が指腹で押し込むように刺激して来る。自分の意志では脚を閉じることも出来ず、ただ悟から与えられる刺激に背中を反らすことしか出来ない。

「…んゃ…あ…そ、そこ下着…」
「濡れちゃうからやだ?」

愉しげに問いかけてくる悟に何度か首を縦に振ると、今度は下着を片寄せて亀裂を直に撫でられる。

「ん、ぅ…っぁあ…」

浅い溝を指で往復されると、愛液が誘いだされるかのように溢れて来るのが分かった。

「…っあ、ぁん…」
「ここ、気持ちいい?」

かすかな笑みを含んだ声が、やけに淫靡に鼓膜を刺激して、わたしは応える前に喘ぐことしか出来ない。気づかないうちに背中のジッパーが下ろされ、ドレスのトップスの部分だけを下げられていた。プツっとブラジャーのホックを外されれば、ストラップレスのせいで簡単に落ちてしまう。裸の胸を悟の眼に晒しただけなのに、左右の先端がツンと主張し始めた。

のここ、舐めさせて」
「…な…っ…何言って…」
「自分から近づけるだけでいいから」
「…そ…なの…恥ずか…しい…んぁ」

淫らな誘惑に、愛液の溢れる場所がきゅっと収縮する。まるで悟を求めてるかのようで、余計に羞恥心が煽られた。

「ほら、早く」
「む…無理…」
「できるよ。僕に可愛いとこ食べさせて」

亀裂の浅いところを撫でていた指で、膨らんだ陰核をトントンとノックするように打ち付けられ、ビクンと腰が揺れて思考が乱される。

(じ、自分から……?)

そんな恥ずかしいこと出来るはずもない。頭ではそう思うのに、その快楽をわたしは知っていた。くちびるであやされ、舌で転がされ、軽く吸い上げられる喜悦を、悟から嫌というほど教え込まれてしまった。ただ悟と違ってこういう経験が浅いわたしは、やっぱり恥ずかしさで躊躇いが生まれる。どうしようか迷っていると、悟は焦れたようにわたしの腰を抱き寄せてきた。

「…んっ」

一気に距離が縮まり、胸元に悟の顔が近づく。あっと思った時には綺麗な造形のくちびるが「いただきます」と動いて、主張している場所を口へと含んだ。

「…っあ…ぁあ…や…ぁっ」

ちゅうっと強めに吸われ、同時に入口へ指を差し込まれる。隘路あいろを広げるように指が押し入ってくる感覚に勝手に腰が揺れてしまう。

「ここ、弱いよね」
「…ぁっん」

狭隘な蜜路の浅いところを、指がくちゅっと音を立てて擦ってくる。

「…や…ぁ」

どうして分かるんだろうと不思議に思うほど、そこばかりを重点的に弄られている。確かに他の部分よりも悟が言う場所を刺激されると脳天にまで響く気がした。何故か弱点を知られたような恥ずかしさがこみ上げて顔を反らすと、すぐに悟の腕で引き戻されてしまう。

「逃げるなよ。感じてるとこもっと見せて」
「……や…やだ…ぁっ」

最初は一本だったものが今では二本に増やされ、内側から圧迫するように、悟は長く美しい指で翻弄してくる。全身が性感帯になっている気がしてならない。触れられるとこ全てが疼いて苦しい。

「…はあ…もう無理。挿れたい」
「…んっあ」

くちゅっと湿った音をさせて指が引き抜かれると、すぐに体が反転してベッドへ押し倒された。スーツの上着を脱ぎ捨てる音、カチャカチャとベルトを外す音が静かな室内に響いて鼓動が小さく跳ねる。この瞬間だけは何度迎えても慣れる気がしない。ショーツを脱がされ、すっかり濡らされた場所へごりっと熱く硬いものが押しつけられ、ぬるぬると何度か入口を往復された。でも普段よりも何となく質量がある気がして、ふと視線を下げたのがいけなかった。

「…な…んでそんな…」

大きくなってるの?とはさすがに口には出来なかった。これまで何度も悟に抱かれたけど、まじまじと見たことはなく。でも明らかに普段よりも大きくなっている気がした。悟はわたしの様子を見て何かを察したのか、軽く苦笑しながら「何でって…」と言いながら覆いかぶさってくる。

が欲しくて勃ってるんだけど?」
「…っあ、あの…もう少し言葉をふわっとオブラートに…」
「包めないないくらい僕が興奮してるって気づいてる?」

またしてもストレートに言われて顔が熱くなる。だけど、悟がわたしに欲情してくれてると思うと凄く嬉しかった。

…」

名前を呼ばれて、視線を上げればくちびるを塞がれる。同時にナカへ昂ったものがずぷりと押し入って狭い場所を押し開いていくのが分かった。その間も舌を絡み取られ、互いの熱を分け合い、火照った肌が更に密着する。悟のキス一つで逆らえなくされて、舌の深い愛撫で、わたしの身体は悟を受け入れてしまう。

(やっぱり…いつもより…凄いかも…)

一気に奥まで挿入され、すぐに腰を打ち付けられる。わたしの形に沿うようにピタリとハマるみたいに入って来る。

「…んっぁあ……ふぁ…」
「腰が動いてる。…」

無意識に感じ過ぎてしまっているのかもしれない。理性が飛んで、今は悟から与えられる快楽に溺れてしまいそうだ。

「今日はのいいとこ、いっぱい擦ってあげる。それで上手にナカイキ出来たら、全部奥に出してあげるから」

耳元で囁いた通り、それからは一方的に悟に攻められ、子宮口をノックされるように突かれた。ズンズンと最奥を抉られるたび、電流の如く甘い快感が突き抜けていく。

…可愛い」

わたしを攻め立てながら、吐息交じりで悟が呟く。

「…可愛すぎて…今夜は我慢できないかも」
「…ひゃ…ぁっ」

言葉の通り、いつもよりも激しく、わたしはすでに意識がもうろうとしてきた。悟の子供が欲しいと言っただけなのに、ここまで激しくされるとは思わなかった。彼のどこを刺激してしまったんだろう。頭の隅でチラっと掠めた疑問は、ナカのどこかを突かれたと同時に思考の隅へ追いやられてしまった。

「…ぁ…も…ッダメ…ぁっ」
「…奥で出すよ…
「……っ…んん…」

身体の奥まで愛されて、熱が残るまでは全てを忘れていられたのに。
だけど物事はそう上手くはいかないものだというのを、わたしは次の日、知ることになった。







「では…明日から高専さんにお世話になります」
「いや、こちらこそ人手不足なところに季利子さんのような方がサポートに来て頂けるのは有難いことです」
「嫌やわぁ。夜蛾学長さんはお口が上手やし」

季利子が恥じらうように笑うと、夜蛾のゴツイ顔が途端にニヤケ始める。
それを横目で見ていた七海は、また一波乱ありそうだな、と小さな溜息を吐いた。