第二十四話...それが言えれば苦労はしない




※性的表現あり



「…ん…ぁっ」

耐えても耐え切れないほど、声が洩れる。ナカを擦られながら、散々弄ばれた乳首を指で挟まれ、悟の唾液でぬめるそれは指の腹でヌルヌルと滑った。

「…や…ぁっん」
「何で起こしてくれなかったの…?」

わたしを揺さぶりながらもスネたように目を細める悟は、少しの睡眠をとっただけでだいぶスッキリしたようだった。

「2週間触れたくてたまらなかった奥さんとやっと二人になれたのに」
「だ…だっ…て少しでも…休んで…もらい…たくて…んっ」

グイっと腰を押し付けられて、喉をのけ反らせる。両腕は頭の上に縛られた状態で固定されてるから、言葉通りされるがまま。
先ほど、目が覚めて自分が寝てしまったことに気づいた悟は突然起き上がった。その気配で目を覚ましたわたしを見て、さっきの続きと言わんばかりに抱こうとするから「まだ寝なきゃダメだよ」とちょっとだけ抵抗したら部屋着の腰ひもを引き抜かれて両手首を縛られてしまったのだ。悟は「が僕を気遣ってくれるの凄く嬉しいけど…我慢の限界」と言って強引に事を進めた。

(そりゃ、わたしだって2週間も放置されてたのは寂しかったけど…何も寝起きにこんなハードなエッチをしなくたって…)

しかもまだ朝方で外は薄暗い。こんな時間にこんな抱かれ方をしてしまったら、寝坊する未来しか見えない。

「…んっぁあ…っ」

悟のはいつにも増して硬く昂っている。わたしも久しぶりのせいでいつもよりも敏感になっているから、ナカを激しく攻められると簡単に達してしまった。それでも悟は許してくれない。

「ナカ…熱…あー…すっごいヒクついててとろとろ」
「…やぁ…つ、強…くしない…で…んんっ…」
「感じまくってるも可愛い…」
「…ひゃ…ぁ…っん」

悟が腰を打ち付けてくるたび、自分の声とは思えないほど甘い声が洩れてしまう。自分の意志とは関係なく、与えられる快感に身を震わせてはしたないほど感じている。あまりに気持ち良くて自然と涙が溢れてくるのだから不思議だ。気持ちが暴走しそうになっているからかもしれない。
悟は最初からわたしを感じさせるくらい丁寧に抱いてくれる人だった。だけど、彼を好きだと自覚した頃からは、その頃と比べものにならないほど蕩けさせられている。

「…凄い絡みついて来る…。のナカが…ずっと"欲しかった"っていってるみたいに…」
「…んっ…ち、…違…ぁっ」

口は素直じゃなくても身体は正直だ。悟の言う通り、わたしの身体はもっと欲しいというように、貪欲に悟を求めて離そうとしない。何度も奥を突きあげられて、そのたび軽く達してしまうほどに。気づけば両手の拘束も解かれているのに、もう抵抗する力もなければ、する気もなかった。

「…とろんとした顔して…ホント可愛いな、は…」
「…ん…あ…さ…とる…」
「…無理やりみたいに抱かれて…それでも健気に感じて…――、本当は僕のこと、好きなんじゃない?」
「―――ッ」

悟のその本心を見透かすような言葉に、一瞬思考が止まる。快楽の波も、肌を合わせあう熱さえ、一気に引いていく。

「……え…あ…っ…その…あ…」
「………え………?」

かぁぁっと音がしたのでは、と思うほど顔が赤くなったのは自分でも分かった。わたしを見下ろす悟の顔が驚きの表情へ変わったのも。人生初の異性への好意を気づかれたかもしれないという恥ずかしさで、この後、わたしはちょっとした脳内パニックになった。あまりの羞恥心で身体全体に力が入った。普通なら緊張と羞恥心を感じた場合、人は拳を握ったりして体を強張せるだろう。でも今のわたしは夫との行為の真っ最中で、こともあろうことか、別の場所に力が入ってしまった。

「え…いや…――えっあ…ぅ!待っ…」

悟を受け入れている場所が勝手にぎゅぅぅうっと締め付けてしまったようだ。悟の慌てた声が耳を掠めたものの、恥ずかしさで冷静さを欠いていたわたしは、延々とその場所を締め付けつけてしまったらしい。

「待って…!ちょ…そんな締められたらイッ――」

その声にハッとして、恥ずかしさのあまり顏を覆っていた両手を外した瞬間、悟はぶるりと身を震わせて、呆気なく達してしまったらしい。しかもやはり疲れていたようだ。イったことで再び睡魔に襲われたのか、隣に倒れ込んだ彼は少しすると再び寝息を立て始めた。

「…………」

そっと隣の悟に顔を向けると死んだように眠っている。その綺麗な寝顔を見ていると、さっきのドキドキがまた襲ってきた。

(あ……危なかった~~~~~ッ)

顔が燃えているかのように熱く、心臓が躍っているみたいにうるさい。あんなこと聞かれて、頭の中がめちゃくちゃになって思わずアソコを締めつけちゃったけど――何故?――結果的に誤魔化せたからラッキーだった。(!)

(悟もまた寝てくれたし…)

そこはホっと胸を撫でおろす。2週間もまともに寝てないんじゃ、いくら悟でも身体に悪い。

――僕のこと好きなんじゃない?

(悔しいけど……好きだよ…)

ジトっとした目で気持ち良さそうに眠る悟を睨む。大嫌いだったはずなのに。こんな想いになるなんて予想外だ。自分で引くくらい、悟のことを好きになってる。
さっき――あのまま問い詰められていたら、多分わたしはこの気持ちを伝えてしまってた。だんだん隠せなくなってる。言ってしまえばきっと傷つくって、分かってるのに――。

今、悟のそばには絶対に敵わない女性ひとがいるって分かってる。だけど、それでも。ここ最近の悟の態度に期待をしてしまう。
"もしかしたら"があるかもしれない、なんて――。

「好きだよ…悟…」

眠っている悟の頭に頬を寄せて、柔らかい絹のような白髪にそっと口付ければ、胸を疼かせるくらい優しい香りがした。







朝日の差し込む寝室で、不意に目が覚めた僕は無意識に隣にいるであろう彼女に触れようと手を伸ばす。だけど、どこへ伸ばそうともあの滑らかな肌に辿りつくことはなく。最後の手段として随分と軽くなった瞼を押し上げた。

「……?」

彼女の姿がどこにもないことがわかると、今度は枕元に置いたままのケータイで時間を確認する。AM:7:00――。ちょうど起きる時間帯だ。

(…さっき一度起きてを抱いて…また眠ってしまったのか――)

と、そこまで思い出した時、脳裏にの真っ赤になった顔が過ぎった。

「あ……そう…だ…っ――!」

飛び起きてベッドを抜け出し、下着とスェットだけ身に着けてすぐにリビングへ向かう。にどうしても聞きたいことがあった。

「…!どこ?」

リビングにもの姿はなく。彼女個人の部屋、僕の部屋、バスルーム、トイレ。あらゆる場所を探したものの、彼女の姿がない。

(こんな早い時間に仕事に出かけたってのか…?)

夕べはそんな話は一切していなかったはずだ。

「オマエに…どうしても聞かなきゃいけないのに…」

溜息交じりでリビングに戻ると、脱力したようにソファへ腰を下ろす。そこで目の前のテーブル上に一枚のメモを見つけた。

「……から…?」

一瞬、ホっと息をつき、すぐにメモを手に取る。だけど――。

"悟へ。しばらく実家に帰ります。"

「……………は?」

――その内容に、今度こそ僕の顏から血の気が引いた。








「あ、おはよう御座います!五条さん」
「おはよ~」
「おはよう御座います。五条術師!」
「うん。おはよ~」

五条悟、27歳。現代最強と名高い特級呪術師。そして今朝――嫁に逃げられた男。
そんなキャッチフレーズが似合いそうなほど、この日の五条はポンコツだった。


「……はぁぁぁああ…」

補助監督や後輩がいなくなった途端、爽やかな笑みから一転、ハニワにデフォルメされたような魂の抜けた顔になっている。何とも分かりやすい男だ。

「おい…その顏やめてくれるか?」

人がこれから不審死を遂げた非術師の解剖をしようという時に、背後で3頭身キャラのようになられるのは気が散る以外のなにものでもない。なのにこの同期はシレっとした様子で「その顏とは?」と訊いて来る。自分の顔を鏡で見ろと言いたい。

「その腑抜けた間抜け面だよ」
「……ひどっ!」

五条はショック!といった顔で寝転がっていた解剖室のベンチから起き上がると、また溜息を吐いて壁に寄り掛かった。

「ご遺体は調べて結果が出たら連絡するから待ってなくてもいいぞ」
「…うん」

振り向かないまま伝えても、五条は動こうとしない。こういう時は何か聞いて欲しいことがあるということだ。面倒くさいのは昔と少しも変わらない。

「どうせと何かあったんだろ」
「……え、何で分かるの」
「…そりゃ、オマエがそうなるのはあの子が関係した時だけだからな。昔から」
「…………」

思い当たることがあったのか、五条はふと顔を上げて「そーだっけ…」と苦笑いをその口元に浮かべた。目隠しのせいで表情は分かりにくいが、付き合いが長い分、今コイツはどういう顔をしているのかくらい手に取るように分かる。

「……が…今朝、家を出て行ったんだ」
「は?」

さすがにそんな内容とは思わず、ついメスを落としそうになる。

「ケータイには出てくれないし…メッセージを送っても既読スルー。話すことすら出来てない。どうしては急に――」
「…夕べ、何があったんだ?彼女と」

一旦解剖作業を中断して、私は同期の話を聞くことにした。五条はどうでもいいが、のことは昔から可愛がってきたという自負がある。彼女が何を思って五条の元を離れたのかが気になった。最近は昔よりも五条を受け入れてるように感じていたからなおさらだ。
五条は私の質問に困ったような様子で頭を掻いた。

「いや…夕べ…というか今朝方…のことなんだけど」

ついでに珍しく歯切れも悪い。いったい朝方という時間に何があったんだと問い詰めれば、五条は私にこれまでの経緯を話し出した。

「…というわけで目が覚めたらがいなかった。ねえ、これどういうことだと思う?」
「はあ…聞かなきゃ良かった…」

話を聞き終えた後、心底そう思った。何が悲しくて夜の――朝方らしいが――夫婦生活の話を朝っぱらから聞かされなきゃならないんだと溜息が洩れる。

「そういうのいらないから。硝子はどう思うのか聞かせてよ」

五条は相変わらずマイペースで、目隠し越しにジっと私を見ている。この男は昔から女心というものを少しも分かっちゃいないのだ。呆れるほどに。

「さあな。私が分かるわけないだろう?しいて言えば…」
「……し、しいて言えば…?」
「デリカシー0のゴミセックスをしたんじゃないか?」
「………(グサッ)」

私の揶揄する一言で、五条は分かりやすくショックを受けたようだ。手で胸を抑えながら、ヨロヨロ立ち上がると、意外にも真剣な様子で私を見つめた。

「で、でもはめちゃくちゃ感じてた――」
「帰れ」

ジロリと睨みつければ、五条はぐっと口を閉じ、トボトボととその大きな背中を丸めながら解剖室を出て行こうとした。その情けない後ろ姿を見て溜息を吐くと、「おい、五条」と呼び止める。

「もう一つの可能性もあるぞ」
「え、なに?なに?」

期待を込めたようにパっと振り向く五条に、私もニヤリと笑みを浮かべた。この男、のことではからかい甲斐があるから面白い。

「単なるヤりすぎでオマエに飽きた、とかな」
「………っ!!」

五条は今度こそ打ちのめされたような様子で、静かに解剖室を出て行った。

「……バーカ」

苦笑しながらそれを見送ると、自分の仕事を再開させる。聞いた限りじゃはきっと五条のことを好きだと自覚しているはずだ。でも何か引っかかることがあって素直になれてないようにも感じる。自分の本心を、五条に気づかれたくないとすら思ってるかもしれない。

「原因があるとすれば……彼女のことかな」

京都からやって来た五条の"元婚約者"。私から見ればあの二人に色恋なんてもんがないことくらいすぐに分かる。だけど、幼い頃から五条と婚約させられていたは恋愛をしたことがないのだから、そんなもの分かるはずもない。きっと今頃になって元婚約者が近くに来たことが、を悩まさせている気がした。それと――七海に聞いたが、五条の失言のこともある。

「…"愛がない"なんて…どこまでいってもバカだな、アイツは」

術師として、教師として、はたまた一人の人間としては器用すぎるほど器用なクセに、ことのことだけは不器用なんて笑ってしまう。

「五条にも器用にこなせないことがあったんだな。ウケる」

でもこればかりは当事者同士が素直になるしか道はない。夫婦になっても未だ上手く恋愛が出来ていないのだから世話の焼ける同期と後輩だ。

「たった一言…好きだって言えば簡単なのに」