第二十九話...死が二人を分かつまで



※性的表現あり




月明かりだけが照らすベッドの上に寝かされ、わたしの心臓は緊張マックス状態になった。自分の思いを伝えて玉砕する予定・・のはずが、悟からも好きだと言われて未だに夢うつつ状態が続いてる。

「…悟…」
「ん?」

わたしを上から見下ろす青い虹彩は、どんな星よりも、どんな宝石よりも綺麗に輝いてて、自然に頬が熱を帯びていく。

「本物…だよね…」

手を伸ばして、そっと悟の滑らかな頬へ手を添えれば、それをぎゅっと握られた。

「本物だよ」
「夢じゃない…?」
「夢じゃない」

何度も確認しなければ不安だったけど、手の温もりはこれが現実だと伝えてくる。ああ、本当に悟とわたしは気持ちが通じ合ったんだと実感がこみ上げてきた。

「ご、ごめんね…」
「ん?何が?」
「色々……誤解…しちゃってたし…季利子さんのことも…」

素直に謝ると、悟は一瞬キョトンとした顔をしたけれど、すぐに笑みを浮かべてわたしの額にキスを落とす。

「僕もごめん…誤解させるようなこと言ったりして…本当はもっと早く話そうと思ってたのに…先に気持ちを伝えていたら季利子のことも誤解させなかったのに…でも――」

と、そこで言葉を切ると、悟が視線を反らす。まだ何か明かされていない秘密でもあるのかと、わたしはかすかに体を強張らせた。

「何度も話そうとしたんだけど…二人きりになるとが可愛すぎてつい、毎回ベッドに押し倒してしまったと言いますか…」
「……は?」
「いや、僕のせいだ。僕のこらえ性がないのが悪い。だけど10年以上ずっと好きだった子と結婚したんだから浮かれて当然でしょ」
「え…」

自分が悪いと認めながらも、最終的に当然だと言い放つ悟が可愛く見えてしまうのだから、わたしも相当末期なのかもしれない。でもまさか、そんな前からわたしのことを想っててくれたなんて知らなかった。なのにあんなに意地悪なことばかり言って来るんだから、悟も相当捻くれてたみたいだ。
自然の流れのように互いのくちびるが重なると、今まで離れていた心までが重なるような気がした。
――これで、本当の夫婦になれるの?
その答えは、まだこれからかもしれない。

「…ん、」

口内をやんわりと愛撫されて、着ていたシャツのボタンを外されると黒のキャミソールが露わになる。すぐにブラジャーまで外され、初めてじゃないのに、だんだんと恥ずかしさがこみ上げてきた。

「…初めての時の透け透けのも良かったけど…黒いのもそそる」
「…ぁっ」

くちびるを離してわたしを見下ろしてくる悟は、指先で軽く胸の先端を擦ってくる。布越しに屹立した乳首をつままれ、甘く声が跳ねた。

「あの時はまだも処女だったのに頑張って僕を誘ってくれたんだっけ」
「…ん…ぁっ」

――だって、あの時は早く子供を作らないと、と焦ってた。

薄手のキャミソール越しにツンと硬くなった場所を甘咬みされて、それだけで腰の辺りがきゅっとなった。更に敏感になった乳首がキャミソールを押し上げてるのが、やけに厭らしく見える。悟もそう思ったのか、その場所へ舌を伸ばして舌先で捏ねるから、ビクンと肩が跳ねて鼻から声が抜けていく。

「…ぁ…んん…っ」
、感じやすくなったな…もうこんなになってる」
「…んぁっ」

布を押し上げて自己主張している場所を舌先で弾かれ、思わず声が跳ねる。唾液で布が肌に張りついているから余計に恥ずかしい。悟がそれを引き上げて脱がせにかかった。

「こんなに硬くして…可愛い」
「ぁ…っ」
の感じやすいところ、全部舐めてあげる」
「…え、ゃ…あ…っ」

悟はすぐさま色づいた部分を口へ含んで唇と舌でねっとり吸い上げる。

「…ひぁ…ん」

ちゅっちゅと音を立てて吸われると、恥ずかしさで全身が熱く火照っていく。逃げ打つ腰を引き寄せるように、悟の手がスカートを捲り上げてくる。いや、スカートだけじゃなく、ショーツの更に内側に指が割り込んできた。

(これだけで濡れちゃってるのバレちゃう…)

胸を吸いながら亀裂を撫でられ、二本の指でその場所を開かれる。すでに濡れている溝を中指が縦になぞり、思わず背中がしなった。ぬるぬると動かされると、たまらずはしたない声が洩れる。

「…んぁ…ふ…」
「気持ちいい…?」

熱くなった粘膜を撫でられると、くちゅくちゅと卑猥な音が鼓膜を刺激してくるのが恥ずかしい。中指が膨らんだ芽と濡れた入口を何度も往復していく。想いを告げ合った後の初めての行為だけに、いつも以上に羞恥心が煽られる。そのせいで膝を閉じようと無意識に足が動く。でもそのタイミングで悟は最後の一枚を脱がせていった。

「…ぁ…ッ待っ…」
「待たない。これからは脚を閉じるの禁止」
「……えっ…んん…ぅ」

一糸まとわぬ姿で今度は膝を大きく割られる。濡れた粘膜を指腹がなぞってぬぷりと体内に埋め込まれた。ゆっくりと抽送しながら胸の先も舌で舐られ、同時に与えられる快感に身が震えてしまう。いつもそうだ。悟に触れられると、全身を支配される。悟の与えてくれる快楽に、わたしは喘ぐことしか出来なくなってしまう。

「…ナカ、僕の指に馴染んできたね…凄く吸いついてくる」
「…や…ぁ…ン…っ」

浅い場所を出し入れされ、そのたび湿った音が響く。息が苦しいくらい嬌声が洩れてしまう。

「や…ダ…ダメ…」

胸とナカを同時に刺激され、一気に絶頂が近づいてくる。悟は何もかも分かっているようにナカのある部分を指で刺激してきた。その指に導かれて後から後から蜜が溢れてくる。

「…や…ぁあ…イ…イっちゃ…うから…」
「いいよ。イって」

指が奥を抉るように抽送が速まり、そこから甘い痺れが生まれては広がっていく。

「…や…ぁ…ダメ…んんっ…」

腰から背骨を伝って絶頂の予感が駆け巡る。深い場所を優しく突いている指に、腰が勝手に動いてしまう。限界まで引き絞られた快楽を手繰り寄せるように、悟は胸の先を吸いながら指をだんだんと速めていった。

「…ぁあ…っぁ…ああ…――」

脳天まで突き抜けるほどの快楽に四肢が強張り、身を震わせた。その後に襲って来る倦怠感で、シーツに力なく沈んでしまう。こんなに早くイカされるとは思わなかった。

「…さと…る?」

ふと体が軽くなったことで目を開けると、いつの間にか悟の位置が下がっている。え、と思った瞬間、両膝を押し上げられた。

「ひゃ…ま、待っ…て、悟――」
「…待たないって言ったでしょ。もっとイカせてあげるからはジっとしてて」
「え…や…ぁ…ダ、ダメ…ふ…ぁっ」

感じきって更に敏感になっている突起にくちびるを寄せて、ちろっと悟の舌先が掠めた。たったそれだけで達したばかりの場所がひくつくのがわかる。また達してしまう、と思ったその時、悟の指が入口を押し広げ、ナカにぬぷっと柔らかいものを押し込まれる。その瞬間、目の前がチカチカした気がした。

「…ひゃ…あ…ンっぁあ…――」
「…またイっちゃった?可愛い」
「も…ダメ……ぁ…あっ」

達してる最中だというのに、溢れる蜜を舐めとられ、膨らみきった芽を口唇で弄ばれる。全身が性感帯になったようにビクビクと跳ねて、連続でイカされてしまった。

「…も…意地…悪…」

意識が朦朧して、息も絶え絶えで文句を言えば、悟はやっと上体を起こしてわたしに覆いかぶさった。

が可愛いから何度でもイカせたくなるんだよ」

わたしの火照った頬にも口付けを落とし、悟が微笑む。わたしだけこんなに感じさせられて、悟だけ涼しい顔をしてるんだから嫌になる。あげく指と舌で何度も満たされたと言うのに、まだ足りないというように下半身、ううん、体の奥が疼いて来るのだから自分でも驚いてしまった。

「……僕もそろそろ我慢出来ない…」
「ん……待っ…」

未だにジンジンとしている場所に熱いものが押しつけられる。恐々と視線を上げれば、いつもは澄んだ青が今は男の欲を孕んでいて、わたしを奪いたいと言うようにゆらゆらと揺れていた。

「悟…」

力の入らない腕を伸ばすと、彼が圧し掛かってきた。細身に見えてしっかりと筋肉のついた男の体。割れた腹筋から劣情へと繋がるラインが美しい獣のように見えた。亀頭が入口をこじ開けるように埋められて、それだけで敏感になった場所からまた新たな快感が走る。

「…っっ…あ…ぁあっ」
のナカ、熱くてとろとろ…少し挿れただけで吸い付くの分かる…?」
「…あ…や…ぁ…ナカ…変になる…」
「…ここ?」
「…ん…んっ」

悟はわざとゆっくり腰を動かし、張りつめた先端が浅いところへ入ってくる。感じ過ぎている場所に硬い昂ぶりが侵入してきて、背中がゾクゾクとしなった。でも一気に奥まで突き上げるのではなく、悟は入り口付近を何度か往復している。それが物足りなく感じるのが怖い。

「もっと奥がいい…?」
「……う…ん…」

思わず頷いてしまい、かぁっと顔が熱くなる。悟はかすかに笑ったようだった。

「素直で可愛い」

くちびるを短く吸われて、そのままズンっと腰を打ち付けられた。隙間もないほど密着したことで、奥まで埋められたことが分かる。欲していた場所に悟のモノが突き当たった。

「…ぁ…ぁっん」

悶えるように身をくねらせると、片足を高く持ち上げられ、より深く繋がろうとする悟に貪られる。腰を打ちつけられるたび、ナカがきゅうっと収縮して、悟を閉じ込めようとする体は、あなたが好きだと叫んでいるようだ。刻まれる律動に長い髪を揺らして、彼の腕の中で浅い呼吸を繰り返す。何度抱かれても最奥を突かれるのは切なくて苦しい。

…好きだよ」
「……ん…ぁ…わ…わた…しも…好き…」

これまで何度肌を合わせても、互いに言えなかった言葉を伝え合う。それだけで快感が全身を包んでいくのだから不思議だ。

「こんなに感じて…ほんと…は可愛い…」

嬌声のとまらない口を、悟がキスで塞ぐ。舌と舌が絡み合い、どちらのものか分からない唾液を飲み込む。

(もう…おかしくなりそう…)

さっきよりも激しく腰を打ち付けられるたび、わたしは何度もナカで達している。喘ぐ声が掠れるくらい喘がされて、体力の限界が近かった。ずんずんと悟のモノがそれ以上挿れられない場所にまで届いている。なのにもっと奥まで繋がりたいと言うように、何度も深いところを振動が襲う。そのせいで何度目かの絶頂感がこみ上げ、またきゅうっと締め付けてしまった。

「……もう…あ…っ…ん」
「…いいよ…。一緒にイこう…。一番奥で出すから」

悟も絶頂が近いのか、いっそう激しく抽送が速まる。そのせいで快楽のツボを何度も突かれて、脳天まで痺れるようなオーガズムに襲われた。

「んあ…ぁあっ」

一気に締め付けたせいで悟の体がぶるりと震えた。振動が粘膜越しに伝わり、奥深いところを抉られる。

「……っ」

わたしの名前を呼びながら、悟は奥に全てを吐き出した。静かな室内に互いの荒い呼吸音が響き、甘やかな揺らぎの中で悟がわたしの耳元に口を寄せた。

「愛してる…」
「……っ…?」

いきなりの愛の言葉に驚いて、気怠いはずの体がビクリと跳ねる。まだ繋がったままなのに、ついそこも無意識に締めつけてしまったようだ。

…またそんな締め付けて……まだ足りない…?」
「ち…違…さ、悟が急に……あんなこと…言うから…」

朦朧としてた頭がいきなりの甘い告白で一気に覚醒した。散々エッチな行為をした直後だというのに、今の一言で恐ろしいほどの照れが襲って来る。

「…思ったこと言っただけだよ」
「悟……」

愛してる、なんて初めて言われた。胸の奥が苦しくなって、何故か自然と涙が溢れてくる。好きな相手に言われると、こんなにも幸せで満たされた気持ちになるなんて知らなかった。

「え、何で泣くの…っ?どっか痛い…?やっぱ無理させた?」
「ち、…違う…どこも痛くない…」

溢れて来る涙を見た悟が思いのほか慌て出して、わたしは思わず吹き出してしまった。途端に綺麗な瞳が半分に細められ「泣いたり笑ったり…どっちなの」と悟がスネている。その顏を見てたら溢れてくる想いをわたしも口にしたくなった。

「わたしも…悟のこと愛してる…って思ってた」
「え…」
「ひゃ…っ」

悟が驚いた顔をした瞬間、まだ繋がっている場所がぐっと大きくなったのが分かった。一瞬目が合い、今度は耳まで熱くなってしまった。

「な…何で…?」
「いや、何でって……普通、勃つでしょ…好きな子に愛してるなんて言われたら……」
「え、で、でもわたし…もう限界――ひゃ…ぁ…んぅ」

拒否させないと言うように、悟が緩やかに抽送を始めて、散々感じさせられた場所が再び快楽を得ようと貪欲に悟のものへ絡みつく。

「可愛すぎでしょ。僕が欲しいって言ってる」
「…や…ち、が……ぁ…待っ…」
「違わない。は体の方が素直だよね」

嬉しそうに微笑む悟は、またわたしをじんわりと追い詰めようとしてくる。

「何度も抱くのは…僕が愛してるってことだから」

だからもっとを感じさせて――。悟はそう呟いて、わたしに優しいキスを一つ。
愛情の海へ流されて、行きつく先がどこかなんて知らない。だけど悟が一緒ならどこでもいいと今なら思える。わたし達は随分と遠回りをしてしまったけれど、これからはその分も悟と一緒にいたい。出来ることなら死が二人を分かつまで。夫婦のままでは足りないから、もっと先の未来で、本物の家族になれるようにと願った。
まずはこの甘い夜を、いつまでも二人で感じていたい。そう、密やかに思った。