最終話...夫婦らしく



※性的表現あり




深夜の自宅。夫婦二人だけの寝室で、夢と現実のはざまにいる状態の中、わたしの体はまだ揺さぶられている。
想いを告げ合ってから約二カ月。あの日から毎晩のように悟から求められて、今夜も連続して抱かれていた。肌と肌がぶつかるたび、二人の間で蜜の混ざり合う卑猥な音が洩れる。

「…は………好きだよ…」
「…ん…っあ…」

あの夜、わたしの気持ちを知ってから、悟は行為の最中も惜しみなく想いを口にしてくれるようになった。そのたび胸がキュンっと音を立てて、それがスイッチかのように体まで反応してしまう。今夜は"狐憑きの排卵日"だから、なおさら快感の波が尋常じゃないほどに押し寄せてくる。

「…凄い…締め付けすぎ」
「だ…だっ…て…悟が……」

好きなんて言うから――。そう抗議したくても言葉にならなかった。最奥を突かれて、そこから大きな快感が押し寄せ、全身を包んだからだ。

「…んっあ…ぁあ…っ――」
「またイっちゃった…?可愛い…」

気が狂いそうなほどのオーガズムが脳を侵食して、声が掠れるほどに喘がされている。でも前と少し違うのは悟も息を乱していることだ。想いあっていると互いに分かっただけで感じ方が変わったみたいだ。
薄っすら目を開ければ、白く細やかな肌が視界に入る。女のわたしよりも美しい肌をしている悟の体がほんのりと赤く染まっている。色素が薄い人だけど、さすがに鍛えているだけあって想像以上に筋肉質だ。無駄な肉がないなんて羨ましいくらい。その割れた腹が何度もわたしを押し上げる。じんわりと汗ばむ悟の肉体は本当に綺麗で、艶めかしい体はわたしを貪るように貪欲に求めてくるから苦しい。

「…も…もう…ダ…メ…おかしく…なり…そう…」
「…まだ二回しかしてないでしょ」
「…う…」

そうだ。現在三回目のエッチの途中だった。今日はきっかり定時まで働いた後、任務から戻った悟が向かえに来て、一緒にスーパーへ行って夕飯の買い物をしてから帰宅した。二人でわたしが作ったご飯を食べて後片付けをしていたら「もう我慢が出来ない」と言わんばかりに後ろから抱き着かれて、キスをされた。お風呂にも入れさせてもらえないままベッドへ連れこまれ。あれよあれよという間に裸にされて、何の躊躇いもなく汗をかいてるはずの肌をじっくりと舐められ、恥ずかしい場所まで丁寧に可愛がられてしまった。

――汗をかいてる方がの匂いがするから好き。

よく考えればとてつもなく恥ずかしいことを言われた気がする。ずっとお預けされてたみたいに夢中で愛撫をした後は、たっぷりと挿入をされる。一度達したくらいじゃすぐに復活する悟は、休む間もなくわたしを抱きたがるから恥ずかしくて仕方ない。
確か最初に抱かれた夜、性欲は強い方だと言ってたけれど、わたしは完全に見くびっていた。というか、それまでは多少我慢してくれてたらしい。それを聞いて驚いた。

「…のナカ、とろとろすぎて気持ち良すぎる…すっごい絡みついて来るし可愛い」
「…ぁっ…そ…それ…や…ぁ…っ」

大きく脚を開かれて、悟は抽送しながらもぷっくりとした芽を指で弄ってくるのが厭らしい。すっかりと敏感になってしまった場所をヌルヌルと擦られるたび、ビクビクと脚が震えてしまう。

「気持ちいい…?いっぱい濡れてる」
「…そ…んな…ぁっン」

ずんっと腰を押し付けられ、子宮口に当たった感覚があった。そこから甘美な刺激がまた広がっていく。

「…そろそろ…イキそう…奥に出すから僕につかまって」
「…ん…っ」

言われた通り、悟の首にしがみつくと、汗ばんだ悟の腕にぎゅっと抱きしめられる。準備が出来たのか、そこから何度も激しく腰を打ち付けられると、目の前がチカチカして霞んでいく。奥を連続して突かれたことでわたしも達してしまった瞬間、締め付けたことで悟も奥へと全てを吐き出したようだった。収縮を繰り返していた身体が一気に弛緩して、乱れた呼吸だけが室内に響く。悟はわたしを抱き寄せると、額にちゅ…っとキスを落として「大丈夫…?」と尋ねて来た。

「ん…もう起き上がれない…」
「じゃあ僕が抱っこしてお風呂入れてあげようか」

顔を悟の胸に押し付けると、ぎゅっと強く抱きしめられた。珍しく汗ばんだ悟の肌が気持ちいい。それに甘い香りが強くなってる気がした。

「…ん?何…?」
「悟の匂い、好き」

鼻先をくっつけると、悟がちょっとだけ照れ臭そうに笑った。さっき悟が言ってた言葉の意味が分かった気がする。

「…子供、出来るかな…」

ふと思い出して自分のお腹を擦る。今回の"狐憑きの排卵日"は今夜で終わる。三日三晩、濃厚なセックスをしたのだから今度こそ妊娠しても良さそうなものだ。でも悟は僅かに顔をしかめると「僕はまだいらないけど」と言った。その言葉を聞いてちょっと驚く。

「え、どうして…?跡取り欲しいんでしょ…?」

六眼と無下限呪術を継承した子供。五条家が喉から手が出るほどに欲しがってると知っている。てっきり悟も同じ気持ちだと思っていた。本来なら同じ時代に六眼は二人も生まれない。けれど、わたしだけがその特別な子を産むことが出来るのだ。だからこそ五条家はわたしという"狐憑き"を欲しがった。なのに当の本人はあまり乗り気な感じがない。
悟はわたしの問いに「勘違いしないで欲しいんだけど…」と苦笑を洩らした。

との子供が欲しくないわけじゃない。けど、跡取りとか、そういう名目だけで僕はと結婚したいと思ったわけじゃない。家の人間がどう思おうと、僕はとの子供なら自然に出来ればいいなと思ってる」
「悟…」
「でも今はまだ欲しくないってのも本音。だってやっと両想いになったのに子供が出来たらの愛情が半分その子供に持ってかれるわけでしょ?そんなの嫌だし。には僕だけを愛して欲しい」
「……え、今欲しくない理由って…それ?」
「…他に何があるんだよ」
「……」

またしても驚いてしまった。まさか自分の子供に悟が嫉妬をするなんて思わない。

「それに妊娠したら長い間、を抱けなくなるし…絶対に僕は耐えられない自信がある」
「そ…そんな真顔で言われても…」

キリっとした顔で言われて、さすがに呆気に取られてしまう。そりゃわたしもそのことを一度も考えなかったか、と聞かれればNOだけども。悟の子供は欲しい。でも今すぐじゃなくていい。本音はそんなものだ。だって結婚したばかりで、それも最近やっと両想いだと気づけたのだから、まだ新婚気分…ううん。恋人気分を味わいたいという気持ちはある。長い間、婚約してても婚約者らしいことは出来なかったから。ただ…

「で、でもこの前は妊娠の嘘がバレて、皆をあんなに落胆させたばっかりだし…」
「ははは、あの時はめちゃくちゃ怒られたよね。僕の両親、貧血起こしてたのウケたけど」
「わ、笑ってる場合じゃ…」

ウチの家はどうにか宥めることが出来たけど、五条家や親戚連中は怒り心頭といった様子だったらしい。特に娘を愛人に、なんて進めてきた人たちは再びそんな話を持ちかけてきてるらしいし、地味にわたしは気が気じゃなかった。

「子供が出来るまであの人たち、諦めなさそうだし…」
「大丈夫だから心配しないで。僕は愛人なんか一切作る気ないから。だけで手いっぱい」
「…む。何よ、それ。まるであたしが手のかかる子供みたいに…」

ちゅっと頬にキスをしながら笑う悟を睨むと「はたまに子供みたいだろ」と意地悪な顔をする。

「食後は絶対デザート食べたがるし、一緒にゲームやったら勝つまで止めないし、呪術師の妻なのに心霊番組を怖がるんだから」
「そ、そんなの悟も同じじゃない…デザートも悟が好きだから作ってるのに、それにゲームだって悟の方が絶対大人げないもん。わたしが出来ない裏技だすんだから」
「それはがムキになって挑んで来るのが可愛いからでしょ」
「……っ…」
「可愛いっていうとすぐ赤くなって、ほんと可愛いよね、は。また僕に襲われたい?」
「え?ち、違…ひゃ…っ」

またしても覆いかぶさってくる悟に驚いて視線を上げると、すでに宝石のごとき青い瞳が良からぬ熱を孕んでいるように熱っぽく揺れていた。

「ダ…ダメ…もう…んぅ」

拒否の言葉を言わせないよう、悟はすぐにくちびるを塞いでくる。排卵日の時はキスをされるだけで敏感に体が反応してしまうのを知っての確信犯だ。

「…さ…さと…る…ン…ふ…」
「キスだけで感じてるも可愛い…」

たっぷりとくちびるを濡らされ、また呼吸が乱れてしまう。こうなると拒否する気持ちは遥か彼方へ追いやられてしまうのだから嫌になる。だけど、好きな人に求められることがこんなにも幸せなんだと思い知らされた。
墓場のような結婚になるはずだったのに――今、わたしは凄く幸せだ。



△▼△



「どーしたんだ、腰なんか押さえて」
「…硝子先輩」

ランチ時、食堂に入ったところで肩をポンと叩かれ、わたしは慌てて姿勢を正した。まさか夕べしすぎましたとは言えない。でも言わなくても察したのか、硝子先輩は苦笑気味に「お疲れ」と言って肩をポンポンと叩いてくる。それには頬がかぁっと赤くなってしまった。とりあえず一緒にランチをしようと言うことになり、テーブルにつく。硝子先輩も今日は日勤らしい。

「その後は上手くやってるみたいじゃないか。五条と。ケンカもなし?」
「…はあ。そう言えば…してないかも」
「ふ~ん。ま、仲がいいのは良いことだな」

ニヤニヤしながら親子丼を頬張る硝子先輩は「安心したよ」と言ってくれた。彼女なりに心配してくれてたのは知っている。

「で…あれ以来、夏油の方は音沙汰なし?」
「はい…護衛も倍の数になっちゃったけど、特にあれ以来、危ないことはないです。ただ…年内にまた迎えに来るって言葉が気になって…」

夏油先輩は確かにそう言って去って行った。あの様子じゃまだわたしのことを諦めたわけじゃない。年内と言っても残り一カ月と少ししかない。それが少しだけ怖かった。そんなわたしを見つめながら、硝子先輩は小さく息を吐いて長い髪を掻き上げた。

「夏油はのこと可愛がってたからね。まあ…今になってそんなことするとは思わなかったけど」
「…可愛がってもらったのは感謝してます。あの頃のわたしは凄く孤独だったし…。でもやっぱり子供は産んであげられません」
「はは、そりゃそうだ。まあ…その辺はのバカ旦那がきっちり守ってくれるだろ――」

「誰がバカ旦那だって?」

突然、悟の声がしてギョっとした。硝子先輩と声のした方へ視線を向けると、悟と七海先輩が仲良くわたし達のテーブルまで歩いて来る。今日は二人で任務と言ってたけど、もう戻って来たらしい。

「お早いお戻りで」
「ちょっと硝子さぁ。に僕の悪口言うのやめてくれる?まあ、きっちりは守るけども」

悟は口を尖らせながら、わたしの隣に座った。七海先輩は硝子先輩の隣に座ると呆れたように溜息をついている。

「この人の嫁バカに拍車がかかってるんで、からかわない方がいいですよ」
「いや七海。嫁バカって、それも悪口だろ」

と言いつつ、悟の腕はちゃっかりわたしの腰を抱き寄せている。これはさすがに食事がしにくい上に恥ずかしい。現に今ちょうど入って来た真希ちゃんにも「おーおー相変わらずイチャイチャしてんなあ」とからかわれてしまった。隣で乙骨くんが「真希さん、からかっちゃダメですよ」と窘めてくれている。あの二人も何となく仲良しに見えるんだけどな、といつも思う。

「新婚はイチャイチャするもんだから」
「いや、家でやれよ」
「真希、午後の任務、増やされたいようだね~」
「げえ、職権乱用すんな、悟!」

真希ちゃんは文句を言いながら、乙骨くんと仲良く他のテーブルについた。悟は相変わらず生徒にパワハラをしてるようだ。わたしから見ても理不尽な先生だと思う。

「ダメだよ、職権乱用は」
「え、しないよ、そんなこと。僕は優しいからね~。生徒にもにも♡」
「ちょ、キ、キスはしないで」

んーっとくちびるを近づけてくる悟から顔を反らすと、途端に不機嫌になるから困ってしまう。それを見た硝子先輩は思い切り「ぶはっ」と吹き出して、七海先輩は軽く頭を振りながら溜息を吐く。こんな日常が当たり前になってきた。

「ま、だいぶ夫婦らしくなってきたな。二人とも」
「まあ、それは否定しませんけど」

二人に言われると何となく恥ずかしくなってしまうけど、でも長いことわたしと悟を見守ってくれてた人にそう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。

「僕と、お似合いだって♡」
「えっ」
「いえ、そうは言ってません」

間髪入れずに七海先輩が突っ込むのも最近はお約束みたいになっている。それに対して悟はやっぱり先輩風を吹かせて、七海先輩にウンザリされるところまでがデフォルトだ。

「お、七海もお仕置きされたいみたいだな」
「勘弁して下さい…」

思った通りの展開で笑ってしまった。わたしとしては何だかんだ仲のいい先輩と後輩が羨ましいなんて思ったりもするけど、そんなことを言えば今度はわたしが七海先輩に睨まれるから口が裂けても言えない。
ただ、この当たり前にある日常の中で、これからも悟と夫婦らしく過ごしていくことが、今のわたしの目標だ。
とりあえず、近々行われる圭吾と季利子さんの盛大なる婚約披露パーティに、悟と一緒に出席するのが、公式の場では初めての夫婦の共同作業になりそうだ。


END....



終わりましたー!前回の話で気持ち的に完だったので今回はちょっとしたオマケ話となります。
すでに夫婦なのにこじれた二人を書いただけで30話もいくとは思いませんしたが笑
最後までお付き合い下さった方は本当にありがとう御座います!
狐憑きを掘り下げると言うよりは「こじれた夫婦が本当の夫婦になるまで」のお話みたいなものでした。
なので子供が産まれるまでを描こうか迷ったのですが、やはり想いの成就が目標だったので、これにて完結とさせて頂きます。
また次の連載も考えてますので、お暇な時にでも楽しんで頂ければ幸いです。
本当にありがとう御座いました💑