lesson-07


※軽めの性描写あり


1.

「…ん…ふ…」

静かな室内に唇の交わる水音が響く。舌を絡め合っていると、腕に抱いたの体から震えが伝わって来る。ついでに体の力を失っていくのを感じた。このままだとまた腰を抜かしてしまうと思った五条は、の腰を支えながらベッドの上に座らせ、自分もベッドの端へ膝をつくと覆いかぶさるようにキスを深めていく。そうすることで重力に従い、の体が自然とベッドへ沈んでいく。押し倒されたと感じて驚いたのか、胸元を掴んでいた手に、更に力が入った。

(こんなにビビってるのに降参しないんだな…)

昨日と同様、の体はガチガチだ。こうして唇を合わせているだけで身を震わせ、極度の緊張状態であることは、五条にも伝わって来る。なのに止める気はないのか、ジっと耐えているように見えて、五条は内心苦笑した。
本来、高専内で色恋沙汰など起こす気もなかった五条が、後輩のぶっ飛んだ頼み事を引き受けたのは、自分が断れば確実に他の男に頼むと思ったから。まずそれが一番心配だったのと、もう一つ、キスだけで大ダメージを受けていたを見て、絶対に途中で降参するはずだという思惑もあった。なら散々ビビらせれば、こんなバカげたことをやめてくれるのではという淡い期待すらしていた。しかし蓋を開けてみれば、新ルールなるものまで考えて来たのだから、さすがの五条もの頑固さは一筋縄ではいかないと身を以て理解した。

(いや、でも…この先に進めばさすがにビビるだろ)

キスで諦めないのなら、が望む通り、新ルールを行使させてもらおうと、の体を支えていた手をそっと胸の膨らみへ滑らせた。は一度着替えて来たのか、普段のスーツ姿ではなく、白いシャツにカーディガンを羽織っている。まずは上のカーディガンのボタンを外し、シャツの上から胸を揉みしだく。その瞬間の肩が僅かに跳ね、震えがいっそう強くなった。すると、が唇を離して「あの…」と口を開いた。

「どうした?やっぱり怖い?」
「い、いえ…」

の顔はすでに真っ赤になっていて息が苦しそうなほどだったが怖がっている感じではなく。不思議そうに五条を見上げると、

「も…揉むことに何の意味が…?」
「えっ?」

まさかの質問に五条もギョっとしたようにを見下ろす。

「意味って…そんなの……」

と言ったところで、思わずふっと笑みが零れた。

「気持ち良くするためでしょ」

そのまま胸に置いた手に力を入れて、膨らみを掴む。さっき触れた時も思ったが、下着をつけている感触がない。直に柔らかさが伝わってくる。

「ってか…、もしかしてノーブラ?」
「え、あ…お、お風呂に入って来たので…」
「それは……エロいな」
「え…」

ニヤリとしながらの耳元で囁くと、五条は胸の先端辺りを指で擦り上げた。の体がビクンと反応し、手ごたえを感じる。

「何で揉むのかって聞いたけど…挿入以外のこういう行為は…全部愛撫」
「…っそ、…そうなんですね…」
「体で覚えて」
「わ…わかり…ました…」

耳元で話されると、吐息が首筋へかかり、くすぐったい。ついでにゾクゾクとしたものが首の後ろに走る。先ほどから五条に触れられると、体のあちこちがムズムズするのだ。

「…んっ」

不意に首筋へ吸い付かれ、強い刺激に声が洩れる。首回りがゾワゾワして肌が粟立つ感覚だった。五条はそのまま首筋へ口付けながら少しずつ下がっていくと、主張している胸の先端をシャツごと口へ含み、軽く歯を立てた。

「…んっ」
「…すっ飛ばしすぎた?」

ふと目を開ければ、五条がニヤリとした笑みを浮かべながらを見下ろしている。

「だ、大丈夫です…っ」

思わずムキになって応えると、五条は優しい眼差しで微笑み「ラジャー」と応えるや否や、のシャツの中へ手を忍ばせて来た。

「……っ」

直に肌へ触れられた感触に、肩が跳ねて声が出そうになる。ついでにくすぐったさが肌から伝わり、全身にむず痒いような刺激が走った。

「…ぁっ」

五条の手は少し冷んやりとしている。その手が直に胸を揉み、硬くなった先端を優しく擦ったり、つまんだりと色々な刺激を与えて来る。

「…どう?」
「…っく、くすぐった…ぃです…んっ」

五条が刺激を与えるたび、の体がビクビクと跳ねて、嬌声に近い声が漏れ始めた。それが嫌なのか、自分の手で口を押えているのを見た五条は、その手を外し、もう一度口付ける。舌を入れ、すぐに絡めとりながら、指で先端に刺激を与えていくと、口内にのくぐもった声が洩れ落ちる。

「…声、出て来たね」
「……っ」

キスの合間に言えば、の顏が一気に赤くなる。

「も…もう…二度と声は出さな…」
「無理でしょ」
「で、出来ます…っ」
「ほんと?」

五条は更にベッドへ体を乗せると、の上に覆いかぶさった。古いベッドがギシっと軋む。そのたびはビクリと肩を震わせながら、五条を見上げた。瞳いっぱい涙をためているのに、それでも逃げようとしない姿は五条の目に健気に映った。

「……んっ」

再びシャツの中へ手を入れ、胸をやんわりと揉みしだきながら、さっきよりも硬くなった先端を指の腹で撫でるように擦り上げると、はすぐに口を手で抑えた。

「…ん…んっ」

指で刺激を与えるたびに、真っ赤な顔で洩れる声を抑えている姿は逆に扇情的に見えて、五条もだんだんと変な気分になってくる。必死に我慢しているが可愛く見えて、自然と笑みが浮かんだ。

「気持ちいい…?」
「…わ…わかりませ…ん…」
「じゃあ、これは?」

言いながら、きゅっと優しくつまむ。その瞬間、「んんっ」との口から声が洩れ、体が僅かに跳ねた。

「く…くすぐったい…です…」
「くすぐったく感じるところは性感帯だから、慣れれば気持ち良くなってくるよ」
「そ…そう…なんですか…?」

薄っすらと目を開けたが五条を見上げる。その目にはやはり涙がたまっていて、潤みを帯びた瞳はやけに可愛く見える。その瞳に吸い寄せられるかのように、五条は自然にの唇を塞いだ。

「ん…ぁ…」

胸を優しく刺激しながら舌を絡ませると、の体がふるりと震える。小さな嬌声ごと飲み込むように深くキスをしながら、五条自身も体が熱くなってくるのを隠せない。さすがにこれ以上、触れ合っているのはマズいと感じ、ゆっくりと唇を解放して、シャツの中から手を引き抜いた。

「…はい。終わり」
「え…?」
「今日はここまでにしとこ」
「ま…まだ平気…です…」
「どの辺が?」

首まで赤く染まり、呼吸はずっと乱れっぱなしのを見て、五条は苦笑した。これ以上続ければ、にとっての精神的負担も大きくなってしまう。

「だいぶ進めたつもりだけど…たぶんはこのくらいの速度が日常生活とトレーニングを進める上で限界値なんじゃない?」
「そ…そんなことは…っ」

と言いながら体を起こしたは、手足に力が入らないことに気づいた。

「ほら、無理しない」

五条は笑いながらシャツのボタンを留め直して、の頭を軽く撫でた。

「だ…大丈夫…です…」

そう言いながらも、顏は熱が集中し、心臓はバクバクと早鐘を打っている。そのまま口から飛び出してしまうんじゃないかと思うくらい心臓を酷使している気がした。

「立てる?」
「…た、立てます…」

と、はベッドの下へ足を下ろしたが、やはり力が入らず、がくんと膝が折れそうになった。五条が慌てて手を差し伸べ、どうにかその手に掴まりながら立ち上がった。

「た、たびたびお手数おかけします…」
「いや」
「さ…さっき五条先輩が言ったこと…当たっているかもしれません」
「でしょ?」

胸元をぎゅっと腕で隠すようにしながら、は悔しそうに認めた。強がってはいたものの、初めて異性に肌や体を触られたことは、少しばかり刺激が強すぎたようだ。

「じゃあ、今日はこの辺で」

五条は身を屈めると、の頬にちゅっと口付け、「ひとりで戻れる?」と顔を覗き込む。は真っ赤なになりながらも「平気…です」と応えた。いくら何でも高専の寮まで五条に送ってもらうわけにはいかない。

「じゃあ僕は先に戻るけど…」

と五条はドアのほうへ歩きかけて、ふと振り向いた。

に一つだけ忠告」
「え…?」
「今度からお風呂上りでも下着はつけておいで」
「…な…何故、ですか…?」

壁に掴まりながら、どうにか歩いていたが足を止めて五条を見ると、五条は困ったような表情を浮かべていた。

「脱がす楽しみがあるから」
「…はっ?」
「ってのは冗談でー」

の反応がいちいち面白いのか、五条は軽く吹き出すと、「いくらなんでもノーブラじゃ、誰かに会った時に困るでしょ」と肩を竦めた。

「来る時はいいとしても…帰りにそんな顔のまま誰かに会って、あげくノーブラじゃエロい目で見られちゃうだろうし」
「…ど…どんな顏…してるんですか、わたし」

五条の指摘に慌てて頬へ触れると、燃えているかのように熱い。

「んー。どんなって…顔は赤くて目も潤んでる。呼吸も荒いし…ちょっとエッチだよね」
「な…」

は驚愕したように五条を見上げた。いつもと違うのは分かっていても、自分がそんな顔をしているという自覚はない。五条は苦笑しながら身を屈めての目を見つめた。

「そーいう顔、僕以外に見せない方がいい」
「わ…分かりました……今後は気をつけます」
「うん。じゃあ…お休み」

そう言って五条は素早くの唇にちゅっとキスをした。まさかの不意打ちにギョっとしたのか、がよろけながら一歩あとずさる。

「あ、時間外だっけ」
「そ、そうです…!」
「はいはい。じゃ、気をつけて戻れよ」
「は、はい…。ありがとう…御座いました」

医務室を出て行く五条にそう声をかけ、ドアが閉まった瞬間、はその場にしゃがみこんだ。

「はあ……苦しい」

落ち着け、落ち着け、と唱えながら、乱れた呼吸を少しずつ整えて、少しだけ息が楽になって来た頃、深い息を吐いた。

(反省点は多いけど…だいぶ進んだわ…あと数回で習得できるはず…)

思った以上に進むことが出来た気がして、は少しばかりホっとしていた。なのに――不意に先ほどの行為が脳裏を過ぎる。

"体で覚えて――"

五条に言われた言葉と、胸に触られた感触が一気に脳内を占めて、再び足の力が抜けていく。

(立って…立って…こんなことくらいで腰を抜かすようじゃ、この先に進めない…)

どうにか気持ちを奮い立たせ、壁に掴まりながら立ち上がる。

「ひとりで立てた…」

膝は未だにガクガクするものの、どうにか立ちあがったは、震える足で医務室を後にした。明日も任務が待っている。寝る前に今日の報告書をやらなくてはいけない。は気持ちを切り替え、途中コケながらも、ゆっくりと寮へ向かって歩き出した。



2.

その頃、一足早く寮に向かって歩いていた五条は、自分の体の異変に気づいていた。ふと立ち止まり、視線を下へ向ける。

(はぁ…昨日は大丈夫だったけど…さすがに今日は無理だったな…、可愛すぎるし…)

溜息交じりで自分の部屋へ戻ると、自分で処理をする為、ティッシュへと手を伸ばす。そこでふと気づいた。

「え、待って…もしかして僕…毎回コレやんの…?きっつ…」

触れられるし、その気にさせられるのに、最後まで出来ないという現実を突きつけられ、五条は延々とお預けされている犬のような気分になった。

「しっかし…、大丈夫か…?このまま進めて本当にいいものか…」

うーん、と悩みつつ、出来ればもっとに打ち解けてもらいたいと五条は思った。これまで先輩後輩で付き合って来たが、それ以上でも以下でもなかった為、何となく二人の間の空気はぎこちない。せめてもっと親しくなっての気持ちを楽にさせてあげることが出来れば、と考えた。

「やっぱお互い何も知らないってのが良くないな…」

そう思った五条はふと良いことを思いついた。

「ダメ元で明日、に提案してみるか…」

そうと決まれば少しだけ気分も軽くなる。ただ、一度その気になった体はなかなか静まりそうになく、やはり自分で処理をしなければ眠れそうにない。

「…ってか大人になってから初めてするかも」

溜息交じりでボヤくと、五条は早々にティッシュへ手を伸ばした。