lesson-18




さっきから胸の奥がドキドキして苦しい――。

バスルームを出ると、は軽く深呼吸をしてから寝室のドアを開いた。

「五条先輩…?」

中は薄暗く、スタンドライトがほんのりとベッドの辺りを照らしているが、そこに五条の姿はなく。代わりに真新しいシーツが綺麗にセットされていた。

「ほんとに代えたんだ…」

皺ひとつないシーツに手を置いて軽く滑らせると、肌触りのいい質感が手から伝わって来る。普段はいい加減に見えたりもするが、こうして家に来てみると、五条の几帳面さが垣間見えた気がして、の中でまた一つ五条に対する印象が変わったかもしれない。

「あれ、出てたんだ」

そこへ五条が戻って来た。何故か手にはトレーを持ち、そこにはペリエとグラス。そして色々なフルーツを入れた皿が乗っている。五条はそのトレーをッベッド横にある木目調のスタンドテーブルへ置くとベッドへ腰を掛けた。

「風呂上りって喉乾くし、僕はいつもこれなんだよね。はい、も飲んで」

手を引かれ、隣に座らされると、今度はペリエを注いだグラスを持たされる。普段そんなに炭酸水を飲まないが、確かに風呂で火照った体にはピリっとする炭酸水が美味しく感じた。

「はい、あ~ん」
「え…?」

いきなり何だと顔を向けると、目の前にはフルーツフォークに刺さった苺があった。

「い、いいです。自分で――」
「いいから。ほら」

五条は手を引くことなく、の口元へ苺を持ってくる。甘酸っぱい香りがして、喉の奥がきゅっと鳴った。五条はが食べるまでこうしてるだろう。仕方なく出された苺を口に入れると、独特の甘酸っぱさが口内に広がった。

「ん、美味しい…少し凍ってる」
「あーこれ冷凍苺なの。風呂上りに食べるからフルーツは少し凍ってるの好きでさ。結構いけるでしょ」
「はい…とっても美味しいです。わたしも時々冷凍ミカン買ったりします」
「あーあれは永遠に美味いかも。考えた人、天才」

五条は笑いながら「ってことでミカンもある。まあ、これは実だけを凍らせたやつだけど」と今度はミカンをの口へ運ぶ。どうせ断っても無駄だと分かっているは素直にそれを口へ入れた。

「…冷た…」
「一気に体が冷えるよね。夏はこれいいかも」

そんな他愛もない話をしながら、暫しフルーツとペリエを楽しむ。もだいぶ気持ち的に落ち着いて来た。五条とデートのはずが急な任務で力を使い果たすことになるなんて、想像すらしていなかったものの、少しだけ五条の役に立てた気がして嬉しいという気持ちはある。

「…少しは落ち着いた?」
「はい…あの…五条先輩」
「ん?」
「さっきは…ありがとう御座いました」
「え?」
「助けてくれたんですよね…最後。何となく思い出して」

意識を失う前、もうダメだと思った瞬間、五条が落ちて来たコンクリートの塊を吹き飛ばしてくれた。もし五条が間に合わなければ自分も生徒達も危なかったはずだ。

「いや…低級呪霊に阻まれてたちのとこに行くのに数秒手間取った僕が悪かった。あそこで僕が術式で攻撃したら、それこそ危ないと思ったからさ」

それでもあの数の低級呪霊を体術のみで退けたのは五条の身体能力があってこそだろう。普通の術師ならもっと時間がかかったはずだ。

「…色んな場面を想定して訓練はしてきましたけど…今日のような場合もきちんと考えて対応しなくちゃと反省しました」
「いや、は十分できてたと思うよ。補助監督にしとくのもったいないかな」

ポンと頭に手を乗せられ、は驚いて顔を上げた。まさか五条の口からそんなことを言われるとは思わない。昔は散々バカにされてきたから余計に驚いた。

「な…何言ってるんですか。わたしは…戦えませんから」
「いや…今日みたいな防御も戦うことに入るって…僕はから教わったけど?」
「…え?」
「今日、もしがいなかったら…もう少し手こずってたし、生徒達にケガを負わせてたかもしれない」
「まさか…五条先輩ならきっと生徒達を上手く非難させてから戦闘だって出来たはずです」
「いや、僕そこまで器用じゃないでしょ。僕の術式はさ、攻撃に特化してるもんだから、ぶっちゃけ3人の生徒達を守りながら戦ったとして、アイツらも無傷じゃ済まない。だから…がいてくれて良かったよ」
「……っ」

優しい笑みを向けられ、の胸がぎゅっと何かに掴まれたような苦しさを覚えた。あんなにバカにされてきた自分の能力を、あの五条に認めてもらえた嬉しさは想像以上のものがある。少しだけ、泣きそうになった。

「あれ…何で俯くの」
「…い、いえ…」

溢れて来る涙を隠すよう下を向いたはずが、ポロリと瞳から零れ落ちての手を濡らしていく。それに気づいた五条が小さく息を飲んだ。

「え…何で泣くんだよ。僕のせい…?」
「ち、違います…これは嬉し泣き…で…」

慌てて手の甲で涙を拭いながら、は誤解させないよう首を振った。こんなことくらいで泣いてしまうなんて恥ずかしい。なのに一度溢れた涙は止まることなく、次から次に溢れて来る。こんな風に泣くのは随分と久しぶりだ。

「す…すみませ…ん…止まらなくて…」

と言った瞬間、ふわりと風が動いて、気づけば五条の腕に抱き寄せられていた。ドキっとして離れようとしたものの、背中に回った腕は更に強く抱きしめて来る。

「ご…五条…先輩…?」
「…泣くなよ。オマエに泣かれるとどうしていいか分かんない」

抱きしめながら頭を優しく撫でてくる五条に、は頬が熱くなった。耳元で聞こえた声は確かに戸惑うような声色で。まさか自分が泣いたくらいで五条が動揺するとは思わなかった。

「す…すみません…で、でもホントにただの嬉し泣きですから…五条先輩に…褒められると思っていなかったので…」

きちんと分かりやすく説明すると、五条は少しだけ体を離しての顔を見下ろした。

「僕に褒められたくらいで泣いてるの…」
「え…だって…貴重ですから…」

素直に頷くと、五条は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにふっと笑みを浮かべた。

「そんなことで泣くとか…可愛いね、オマエ」
「……え、ん…ぅ」

不意に顎を持ち上げられたと思ったら、いきなり唇を塞がれた。更に背中を抱き寄せられ、顏が上に向くと薄く開いた唇の隙間から柔らかい舌が侵入してくる。いつもよりも性急なキスに、の呼吸も自然と乱れてしまう。

「…ん、」
「やっぱ、この恰好いいな」
「え…あ…」

先ほど渡された着替えは五条のシャツ一枚。それを裸に羽織っただけだ。

「ちょ…五条…せんぱ…ぃ」

ボタンを器用に外していく手を慌てて掴むと、五条はの耳へちゅっと口付ける。耳輪をなぞるように舐められ、の肩が僅かに跳ねた瞬間、ベッドへ押し倒された。

「…っちょ…」
「…トレーニング、するんでしょ」
「こ、こんな急に…ぁっ」

太腿を撫で上げた手が、容易くその場所へ辿り着く。五条は首筋へ唇を滑らせ、シャツのはだけた胸元へ下りていくと、すでに主張している場所を口に含んだ。

「んん…っ」

舌先でこねるように先端を舐られ、強い快感が一気に押し寄せてくる。前にされた時よりも激しく、五条の指で撫でられた場所からはじわりと溢れて来るのが分かった。

「今日は濡れるの早いね」
「…ん、や…ぁ…」

胸をやんわりと愛撫しながら、潤みの帯びた場所を何度も指が往復していくたび、腰が跳ねる。五条に言われた通り、今日はやけに体が敏感に思える。五条の与えてくる甘い刺激に、体は素直に反応していた。

「…ん、ぁ…あ…」
「すご…、ここ弄るだけでどんどん溢れてくる…いつもよりリラックスしてるし…デート効果じゃない?」
「そ…そう…かも…ゃ…あ」

ぬるぬると動く指先が膨らんだ芽を掠るたび、勝手に腰が跳ねてしまう。明らかに今までとは違う感じ方に、も怖くなって来た。

「もしかして…くすぐったいの消えて来た…?」
「……あ…そ…そう…かも…しれませ…ん…ぁ」

言われて気づいた。前ならどこに触れられてもくすぐったい方が強かった。いや、今も多少くすぐったさはある。けれど、それはすぐ全身が震えるくらいの快感に変わっていく。

(頭が…おかしくなりそう…)

五条が指を動かすたび、ゾクゾクとしたものが駆け上がり、快感が全身を飲み込んでいくのが分かる。体が勝手に跳ねて声が漏れてしまうのを止められない。その様子を見ていた五条はふと笑みを浮かべての頭を優しく撫でた。

「…じゃあ…今日このままイってみる?」
「……え…」
「この前、途中でやめたでしょ。オーガズムってやつ」
「い…っいえ、それは…」

その時のことを思い出してかぁぁっと顔が赤くなったのが分かる。しかし怖いという思いと同時に、そこを乗り越えればこの行為も慣れるのでは、という期待も多少あった。

「……そ…それはすぐ出来るものなんですか…」
「んー。人に寄るから何とも言えないけど…はわりと早いんじゃないかな」
「そ…そう、なんですか…?」

そっと五条を見上げると、意味深な笑みがを見下ろした。

「だって、めっちゃ感度いいもん」
「…そ…そう…なんですね…」
「どうする?」
「で……では…履修させていただきます…」
「…ぶはっ」

真っ赤な顔で頷くを見て、五条は小さく吹き出した。

「な…何ですか」
「いや…」

五条は笑いを噛み殺しつつ、の唇へ軽くキスを落とす。

「…可愛いなあと思ってさ」
「…ん」

再び指で膨らんでいる芽を優しく撫でられ、そこからジンジンとした熱が広がっていく。それが何を意味するのかはも理解していた。

「じゃあ…遠慮なく」

五条はペロリと唇を舐めると、体を下へずらしての膝裏を持ち上げた。