lesson-21


※注意描写あり

1.

出張から戻って来た二人の様子がおかしいことに、家入は気づいていた。もどこか上の空で、五条に至っては背中にどんよりと闇を背負っている。そんな感じに見えた。これは何かあったのでは?と疑いたくなってしまう。そんな時だった。いつものように解剖室で仕事をしていた家入の元へ、五条が顔を出した。

「硝子!」
「何?こんなところまで…今、解剖中なんだけど」

マスクを外して怠そうに振り返ると、五条はどこか慌てている様子だった。

「二日前からが戻って来ないんだけど、硝子、何か聞いてない?」
「え、?」
「実家に戻るからってんで休暇届出してたのは知ってるんだけどさ。一日だけだったはずなのに昨日も今日も戻って来ないんだよ。学長には連絡来てるはずなんだけど、用事で京都に向かったらしくて移動中なのか電話も繋がらない。だから硝子、何か知らないかと思って」
「知らないけど…実家での用事が伸びただけじゃないの?が月に一度は実家に行くこと、アンタも知ってるでしょーが。何でそんな慌てる必要あるのかな」

淡々と応える家入に、五条の言葉も詰まる。明らかに動揺している五条の姿は、家入でもあまり見たことがない。やっぱりこれは何かあったな、と女の勘が働いた。

「仕事サッサと終わらせるから五条は上で待ってなよ」

家入がそう言うと、五条は一瞬気まずそうに視線を反らしたが、すぐに「分かった」と頷いた。この様子だと言いたくないけど聞いて欲しい、という複雑な心境らしい。

「ああ、缶コーヒー奢ってね」
「…はいはい」

ちゃっかりしてんなとブツブツ言いながら五条は解剖室を出て行く。その後ろ姿を見送りながら、家入は仕事を再開させた。半分以上、終わっていたので10分ほどで全ての過程を終了し、傷口を閉じる。処置した遺体を他の術師に任せると、家入は手袋とマスクを外し、手を念入りに洗った。五条と共に高専を卒業したあと、医師として働く家入にとってはこれが日常になりつつある。仲間を治療するのはもちろん、呪いによって殺された者の遺体を解剖する仕事も同じく多い。仲間の死を一番身近に感じてしまう瞬間だ。理不尽な仲間の死に憤りを感じて高専を離反した夏油の気持ちは分からなくもない。けれど、だからと言って何の関係もない一般人を殺すという思考は理解出来ない。

「…最近、活発になってきたな。夏油のヤツ」

ここ半年ほど、夏油の仕業だと思われるような遺体が増えている。それは報告書にまとめて上に提出してはいるが、五条を始めとした上級の術師が対処しようにも夏油は上手く痕跡を隠して、なかなか姿を現さない。なのに被害者は増えていく一方で、家入としては歯がゆい思いを抱えていた。離れて行ったはずの男が、じわじわと近づいて来てる気すらして、何とも嫌な気分だ。

(ここ最近は呪殺された遺体の解剖ばかりしてたからなぁ…少し休暇が欲しい…)

そんなボヤきともとれることを考えつつ、首を軽く鳴らしながらいつもの休憩所へと向かう。

(さて…今度は二人の間に何があったのかな)

休憩所のソファに座り、難しい顔をしている五条を見て、家入は溜息交じりで「お待たせ」と声をかけて歩いて行った。





2.

「…アンタ、バカなの?」

第一声がそれかよ、と思いつつ、五条は目の前で顔を引きつらせている同僚を睨んだ。そんなことは言われなくても自分が一番理解している。

「分かってるから。硝子の言いたいことは。でもちゃんと僕は我慢したし――」
「そーいうこと言ってんじゃない!何でそんな下らない嘘、言ったのよ?」
「いや、嘘じゃないし。寸前まではしたわけだから――」

と言いかけた瞬間、いつもの当たらないパンチが五条の顔面前で止まる。当たらないと分かってるんだし殴らなければいいのに、と五条は毎回思うのだが、家入曰く「分かっててもつい手が出るほどイライラする」らしい。

「で?!は完全にアンタとエッチしたと思い込んでるってわけね?」
「多分…」
「はあ…ったく…いくらからして下さいって言ってきたからって、そこは我慢すんのが先輩じゃないの?」
「だから我慢したって言ってんだろ。でもさ、酔ってるとはいえ、はいつもシッカリしてるし見た感じ分からないって。それにめちゃくちゃ可愛かったし、目なんかウウルウルして"先輩、最後までして下さい"って言われたら、僕だってそりゃーその気にくらい――」

とそこまで言いかけて言葉を切った。家入の殺気のこもる目で睨まれたからだ。ただ五条としても言い分はある。

「僕らは約束してたんだよ」
「…約束?」
「そう。はトレーニングの為の提案をしてきたけど、それを引き受けるに当たって僕は自分に惚れさせるつもりでやるって彼女に言った。そしてもそれを承諾した。もしそうなった場合の報酬は…をもらうってことにしてね」
「…は?アンタ、そんなこと言ったわけ」
「あの時はどうしたらがあんなバカげたトレーニングを諦めてくれるか考えてたんだよ。まあ結局、意志が固くて何を言っても無駄だったけど」
「じゃあ…今回の未遂事件はその報酬としてってこと?」
「まあ…それはが言ってきたし」

その時のことは今でもはっきりと五条の脳裏に焼き付いている。珍しく酒に酔ったを見た時、新幹線に乗ることは諦め、彼女に話した通り駅前のホテルへチェックインした。シングルの空き室はないので空いてると言われたダブルを取って、と部屋に向かったのも本当だ。そこで互いにシャワーを浴びて、さあ寝ようという時、から「トレーニングしてくれませんか」と言い出した。最初は酔っているようだし、と五条は寝ることを提案したものの、は平気ですと意外としっかりした応えが返って来た。そこで「なら少しだけね」と言って五条はをベッドへ押し倒した――。



****



「…ん…」

ツンと主張する先端を口に含んだだけで、が身を捩りながら甘い声を上げる。酔っているせいか普段よりも声に艶があった。これまでの成果なのか、体も五条の愛撫に素直に反応するようになっていて、指で軽く触れただけで潤みを帯びて来る。

「…もう濡れて来た」
「んっ…い、いちいち言わないで…下さ…い…」

敏感な場所を指で撫でられ、見悶えながらも羞恥心は失っていない。アルコールで火照っている顔が余計に熱を増して、真っ赤に染まっていく。

「こういうトークも必要だから慣れて」
「…え…そ…そう…なんですか…?」
「まあ…男ってさ。相手が感じてくれてるか凄く気にする生き物なんだよね。体はこうして刺激を与えればある程度反応はあるとしても…本当にその子が本心から気持ち良くなってくれてるかどうかは、また別の話だから、行為の最中に聞きたくなるんだよねー。人にも寄るだろうけど」
「…分かり…ました…ぜ、善処します…」

真っ赤になりながらも素直に頷くを見て、五条は小さく吹き出した。

「かーわいい」
「……は?」
のそういうとこ、好きなんだよね、僕」
「……っ」

行為の最中。五条もそれなりに男としての欲が全身に回り始め、青い瞳は存分に熱を孕んで揺れている。その顏で魅惑的な笑みを浮かべられれば、まして好きだと言われてしまえば、さすがのも胸の奥が大きな音を立てる。店で気づいてしまった自分の中にある嫉妬という感情を打ち消そうと、普段よりも多少無茶な飲み方をしたのは分かっている。しかしアルコールでは誤魔化せないほど、心臓が素直に反応していた。

「…ん…ぁ…っ」

五条の唇がの首筋へ吸い付くかのように落とされ、そこから甘い刺激がピリピリと広がっていく。今までよりも過度に体が反応してしまうのは、が五条を意識してしまっているせいだ。首筋へキスを落とされるたび、ビクンと肩が跳ね、更には擦られているところが濡れていくのが自分でも分かった。それには五条もいち早く気づいたようだ。

「…何か、いつもより感じてない…?」
「そ…そんなこと…は…」

さすがと言うべきか。やはり経験豊富な五条からすれば、女の反応を熟知しているようだ。怪訝そうに顔を上げると、上からの顔を見下ろした。目を合わせていられないくらいに恥ずかしく、はつい視線を反らしてしまった。トレーニングを頼んだ最初の頃は、恥ずかしいという思いも強かったが、それは行為に対してであって、五条に照れていたわけではない。なのに今はまるで逆の感情がの中で芽生えつつあった。五条に触れられていると思うだけで全身にゾクゾクとした快感が走る。そのまま指で刺激されただけで軽く達してしまった。

「これだけでイったの?」
「……そ…そんなこと…言われても…」

くすりと笑われ、恥ずかしさで顔を背けると、火照った頬にキスが落とされる。それだけで息苦しいくらいに心臓が早鐘を打つ。これまで必死であまり考えたことはなかったが、に触れる時の五条は限りなく優しい。酔っているふわふわとした頭で思い返しながら、男性は皆、こんな風に優しく触れてくれるものなんだろうかと考えた。大切なものを慈しむかのような愛撫は、恥ずかしいという感情をかき消して、本能を直に刺激してくるようだ。もっと触れて欲しい、とすら思いながら、五条の唇を受け止め、彼の齎す甘い刺激に身を任せた。

「ん、ぁあ…っ」

随分と滑りの良くなった場所を五条の大きな手のひらに撫でられただけでまた絶頂を迎えて、の呼吸もさらに乱れていく。

「今日の、いつもよりも感度いいね…気持ちいい?」
「…や…ぁあ…」

五条の唇が胸から腹へ移動し、下腹部の辺りまでおりていく。その先を思うと恥ずかしさがこみ上げるのに、二度も達した体は脱力し、抵抗する力もない。結果、五条の好きなように弄られ、濡れそぼった場所を舌で刺激されただけで、絶え間なく快感が襲って来る。

「も…ダメ…ぁあ…」
「ん?ギブアップ…?」

溢れて来る蜜を絡めながら、五条がぷっくりと主張しているところを吸い上げた途端、三度目の絶頂がを襲い、持ち上げられた脚が震えた。

「…大丈夫?」

ぺろりと唇を舐めながら上半身を起こした五条が、心配そうにの顔を覗き込むと、涙の溢れた瞳で見上げられ、ドキっとした。

「せ…んぱい…」
「ん?」
「何か…変です…」
「変…?」
「まだ…」

はそこで深い息を吐いた。いつもなら絶頂を迎えた後はそれまでの愛撫で疼いていた場所がスッキリするのに、今は逆に下腹部の奥が熱を持ち、ムズムズするような感覚がある。

「もしかして…奥の方が疼いてる?」
「…は…はい…」

五条に指摘されて、素直に頷く。この感覚が何なのかは分からないが、本能で五条に触れて欲しいと思ってしまった。この疼きを止められるのは五条だけのような気がするのだ。

「あー…それは…何度か達したことで子宮が反応してるんだと思うよ」
「え…」

それはどういう意味だと言いたげにが小さく瞬きをした

「でもそれは僕じゃ静めてあげられないかな」

五条が苦笑交じりでの頬に手を添える。その手に思わず自分の手を重ねた。

「…ど…して…ですか?」
「どうしてって…それはさ…最後までしないと…きっとダメだから」
「最後……?」
「うん。セックスするってこと」
「ぇ…」

五条の説明にの瞳が見開かれた。

「…結婚して子供を作る時までしない。そうだろ?」

言いながら五条がの頬をそっと撫でる。そんな刺激ですら、心臓が容易く鳴った。

「それとも…最後までして欲しい?」
「……っ」

その言葉にドキっとした。五条に言われると素直に頷いてしまいそうになる。頭の奥ではダメだと分かっているのに、本音を言えば今、目の前にいる五条にそうして欲しいと思っている。

(この気持ちは……まさか本当に五条先輩のこと…?)

今、この場でNOと言えば、いつものように五条は黙って身を引いてくれるだろう。でもそれはの方が嫌だと思ってしまった。この後に五条が自分から離れていく姿を想像すると、思わず五条の手を掴んでしまった。アルコールで気分が高まっていたせいもあるかもしれない。けれども、この瞬間のは五条のことを欲しいとすら感じていた。異性に対し、こんな感情を抱いたことは初めてだ。

「最後まで……して下さい…」

体を起こそうとしていた五条を引き留め、ついそんなことを口走っていた。

「…は?マジで言ってる…?」
「……はい」
「いや…え?でも…」
「先輩…言いましたよね…?」
「ん?」
「僕に惚れた時はわたしをもらうって…そういう…ゲームでしたよね…」

潤んだ瞳で見上げて来るに、五条の喉が小さく鳴った。五条の方はとっくに限界が来ている。

「…それは…僕に惚れたって…言ってるの?」

理性が飛んでるかもしれないに、最後の確認をすれば、は小さく「はい…」と頷いた。それには五条の方が驚きで息を飲む。

「わたし…五条先輩に触れて欲しいって…思ってます…」
「……」
「先輩に触れられるだけで…ドキドキします…」

頬を染めながらそんな言葉を言われ、五条の方がドキドキさせられた。女に対してこんな風になったことは一度もない。

「ほんとに…いいの?」
「……はい」
「じゃあ……もう遠慮しない」

ハッキリ言ってを愛撫していた時から痛いくらいに下半身が勃ちあがっていた。五条は最後の理性を振り払い、本能のままにの腰を自分の方へ引きよせる。濡れた場所へ指を伸ばせば、そこは未だに潤みを帯びていて、そこへ自身のものをあてがった。

「たっぷり濡れてるから痛みは少ないと思うけど…念のため力は抜いてくれる?」

の頭を撫でながら言えば、目を瞑ったが小さく頷いた。唇へちゅっとキスを落とし、首筋へも唇を落とすと、の体がかすかに震えて白い胸がかすかに上下している。その滑らかな肌に手を這わせて、胸の膨らみを揉みしだきながら主張している先端を指の腹で擦った。

「ん…っ」

の口から小さな声が洩れて、意識がそっちへ向いている間に、ゆっくりと自分のものを埋め込んでいく。さすがに中はキツく、もツラそうに呼吸を乱していて、それに気づいた五条が「…痛い?」と声をかけた。

「へ…平気…です…」
「いや…平気って感じじゃなくない…?」

ぎゅっと目を瞑り、五条の腕を掴んでいる手にも力が込められる。まだ入り口を開いただけで殆ど挿れていないが、は痛みより圧迫感の方が強いようだ。

「だ…大丈夫です……」

健気にもはそう呟くと、自然と入ってしまった力を抜いて行く。すると抵抗感が消え、五条のものが入りやすくなった。

「挿れるよ…」

ツラいのを堪えて、五条が呟くと、がかすかに頷いたのが分かった。あまり痛みを感じないよう、ゆっくりと挿入していくと、それだけで擦れる部分から快感が全身を襲って来る。今日まで散々焦らされていたにも等しい五条は、このまま思い切り貫きたい衝動を抑えながら、怖がらせないよう腰を進めていく。するとの体がかすかに跳ねて中が急激に閉まっていくのを感じた。

「く……締め付けすぎ…これじゃイっちゃいそう」
「…ん…何か…体が…ぁあ…っ」

更に腰を押し進めた時だった。が身を震わせ、高い嬌声が口から洩れた。その瞬間、更に締め付けられ、五条も危うくイきそうになるのをどうにか堪えた。

「…マジでイったの?」

途中まで挿れた途端、達したのか、の全身から力が抜けていくのを感じて、五条は少しだけ驚いた。の体もかなり限界だったらしい。だが五条が驚いたのは、がグッタリとしていることだった。

「え……?おい…大丈夫?」

慌てて自身を引き抜き、の顔を覗き込む。すると薄っすら開いた口から小さく呼吸音が聞こえて来る。ホっとはしたものの、意識を飛ばしてしまったを見ながら、五条は深い息を吐く。

「ウソだろ…?この状況で放置…?」

色々と気分も体も盛り上がっている中、五条はがっくりと項垂れ、シーツの波へ倒れ込んだ。



****



「……って、じゃあ…はそういうの全く覚えていなかったと。そういうこと?」
「そ。次の日に驚いてたしね。告白めいたことを言ってくれたことも覚えてないからショックだったなー」
「いや、笑い事じゃないでしょ!じゃあ何でに最後までしてないって言わなかったわけ?」
「そりゃあ……多少は僕のこと意識してもらいたいし。思い出してくれればいいなと思ったんだよ。まあ最後までしてないけど挿入はしたわけだから――」

とヘラヘラした途端、またしても家入が拳を固めたのを見て、五条は静かに口を閉じた。

「…悪い」
「ったく…!も何で五条なんかに惚れるかな…!アンタ、トレーニング中、変な魔術でも使ったんじゃないのっ?」
「酷いなあ。何も使ってないよ。ただ優しくを可愛がってただけ――」

とそこでジロリと血走った目に睨まれ、再び口を閉じた。この同僚には冗談も通じないらしい。

「とにかく…が誤解してるならサッサと本当のこと話して来て。悩んでるかもしれないでしょっ」
「分かってるよ…」

キャンキャンとうるさい家入に辟易しながら、五条はの実家はどこらへんだっけ、と考えていた。