25-君に白状するならば


※性的表現あり



――最近、毎日のこと考えてるんだけど。

零れ落ちたその言葉は、意外と本当のことだった。
五条に抱かれたとすっかり誤解をしているに、実際は未遂で終わったことを打ち明けるつもりだった。けれどもから前の関係に戻りたいと告げられた時、五条は自分がそれを望んでいないことに気づいてしまった。だから咄嗟に、出ていた見合い話を利用してと強引に婚約関係に持ち込んだのは、他の男を遠ざける為だった。でも何故そこまでするのか、五条にもハッキリとした気持ちは分からない。ただの独占欲なのか、それとも――。

「…ぁ…っ」

抱えていたを乱暴にベッドへ転がし、上から覆いかぶさる。抵抗しようとする彼女の両手を組み敷いて上から見下ろすと、羞恥と驚きで戸惑うように揺れている瞳が、青い双眸に映った。

「ご…五条先輩…?」
「あの夜のことは思い出せたの?」
「え…?」
「記憶にないってことはの望んでた生殖行為の履修は出来てないってことになるよね」
「そ…それは…」
「じゃあ…まだトレーニングは終わってない。だろ?」

五条の問いに、の瞳が驚きで見開かれる。五条が唇を塞いで、性急に舌を念じ込んだせいだ。きっちりと締められていた彼女のネクタイをいとも簡単に解き、シャツのボタンを片手で器用に外していく。抵抗する両手の細い手首をもう片方の手でまとめてシーツに縫い付けると、絡めていた舌を解放して、今度は首筋に吸い付いた。

「んんっ…や…やめて下さ…」
「どうして?オマエが僕に頼んだよね。色々教えて欲しいって。今更やめてはないでしょ」

五条はこみ上げて来る例えようのない愛欲と苛立ちを感じながらも、それをぶつけるようにの体を攻め立てる。乱したシャツを引き抜き、下着を押し上げ、膨らみを揉みしだきながら、外気に触れてツンと主張をしはじめた淡い色の先端に吸い付く。咥内で舐めて舌先でつつくように刺激を与えれば、の喉がのけ反り、すぐに甘さを含む控え目な声が小さな唇から漏れ聞こえてきた。

「んぁ…や…やめ…て…」
が素直になるまでやめてあげない」
「……っな…何…を…」
「オマエは…あの夜、僕になんて言った?」
「……っ?」
「何で僕に体を許そうと思った?」
「そ…それは……ぁっ」

今では痛いくらいに硬くなった場所を舌先で弄ばれ、の全身がかすかに震えた。心臓が早鐘を打ち、熱が上がり、下腹の奥がジンジンと疼きだす。それを分かっているかのように、五条はスーツのズボンのベルトをあっさり外し、ジッパーを下ろした。そこへ手を滑りこませると、下着の上から割れ目を擦る。それだけでの腰がビクリと跳ねた。すっかり五条の愛撫に反応するようになった体は、余計に五条を昂らせていく。

「こんなに濡らしてるのに、忘れられる?」
「…ゃあ…んっ」

下着の上から主張している突起を指先で軽く押され、強い快感に襲われる。直接触られたわけでもないのに、体は勝手に次の愛撫を待つかのように更に蜜を溢れさせた。

「…ひゃ…ぁ」

下着の上をなぞっていた指が、脇からするりと入り込み、今度は直に擦られる。その場所を隠していた布を片寄せられ、ヌルヌルと何度も五条の指が割れ目を往復した。

「…んぁ…っゃあ…」
「気持ちいい?凄いよ、のここ」
「…ぁ…んっぁ…や…」

絶え間なく与えられる愛撫のせいで、次第に抵抗する力も失われて行く。とっくに両手は解放されているのに、今は切なげにシーツを掴むので精一杯だ。胸の先端を舌先で転がされ、濡れた場所を指で何度も擦られると、の理性も消え去り、今は五条のことしか考えられなくなる。

「せ…せんぱ…い…」
「ん?イカせて欲しい?」
「…んっあ…」
「まだダメだよ、イっちゃ」

言いながら、五条はたっぷりと濡れた場所に指を埋めていく。溢れるほどに潤みを帯びたそこは、何の抵抗もなく五条の指を飲み込んだ。

「…ぁ…あっ」
「…今日、凄いね。乱れてるも可愛い」

今では真っ赤に染まったの頬にちゅっと口付けながら、五条が艶のある笑みを向ける。ぼやけた視界の隅でそれを眺めながら、は快楽の波に溺れそうになっていた。曖昧だった恋心が、の中で真実味を帯び始めたのは、五条に触れられるたび、心が疼くからだ。その想いで体が反応していると、この時ハッキリ自覚した。

(わたしは……本気で五条先輩のことを…)

あの夜以来、何度となく自問自答を繰り返していた複雑な想いの答えが、久しぶりに五条に触れられたことで見えてしまった。一歩手前で踏みとどまろうとしたはずなのに、手前どころか一歩も二歩も先をいってしまうほど、目の前の男が恋しいと感じている。
最初は感じの悪い先輩だった。術式のことをからかわれるたび、苦手意識を強めていった時期もある。それでも過去にが勝負を挑んだことで少しだけ歩み寄り、現在は面倒な先輩ではあるけど、苦手意識はなくなっていた。それだけのはずだったのに。

自分の無茶苦茶な頼みを聞いてくれたばかりか、いつもの体や心のことを気遣ってくれる五条に、気づけば好意を持ち、肌を触れ合わせることでその想いが気づかないうちにいっそう深くなっていたなんて、今日まで自身も思っていなかった。

「…こんな時に考えごと?僕に集中して」
「…え…ぁ…ぁ…ひゃ…ぁっ」

いつの間にか移動していた五条が脚の間に顔を埋めた瞬間、指で解されていた場所に口付けられ、軽く腰が跳ねた。脚を押し広げられ、そこをぬるぬると舐められるたび、下腹部の奥が疼きを増していく。五条は何もかも気づいているかのように、再び愛液のあふれてくる場所へ指を埋めて内壁を擦り、小さく主張した突起を唇に挟んでは舐めて優しく転がした。

「ん、ぁあ…っ」

一度覚えた快楽の波は、絶え間なく施される愛撫ですぐに脳天まで駆け抜けていく。手で支えていた脚が小刻みに震えて、力を失うのを感じた五条が上体を起こすと、はくたりと四肢を弛緩させ、白い胸を激しく上下させていた。

「だいぶ上手にイケるようになったね」
「…ご…五条…先輩…」

涙で濡れた目尻に口付けながら、五条がの頭を優しく撫でる。さっきまでは強引なほど意地悪だった手が、今は蕩けるくらいに優しく髪を梳いていく。この時、は初めて素直に五条へ身を預けることが出来た。

「…痛いとこはない?」

息が整うまでしばらくジっとしていると、五条がの頭を抱き寄せ、額に口付けながら訊ねてくる。さっきよりも声のトーンは落ち着いていた。

「へ…平気…です…」

呼吸が少し楽になって来たところで、が小さく頷いた。しかしには気になることが一つだけあった。それを聞く前に五条が体を起こす。

「じゃあ…お風呂沸かしてくるからが先に――」
「もう…おしまいですか…?」
「…え?」
「トレーニング…」

そう呟いて顔を上げると、戸惑い顔の五条と目が合った。

「まだ…してないこと…ありますよね」
「…?」

言いながらも、の頬は熱を帯びていく。だけど言わずにはいられなかった。先ほどから硬いものがの腰に当たっているのは気づいている。それは五条自身がを愛撫しながらも欲情していたということだ。なのに五条はだけをイカせておしまいにしようとしている。一度は体を繋げたはずなのに、何故今日は最後までしようとしないのか。はそこが気になってしまった。体がここまで反応しているというのに、あの五条が何もしないのは何となくおかしい。そう感じた。

「ちょ…何してんの…っ?」

そっと膨張してる場所を手で触れてみると、そこはいっそう硬さを増した。同時に五条が慌てた様子で腰を引こうとする。その反応に違和感を覚えたものの、は恥ずかしいのを堪えて、ゆっくりと服の上から五条の昂ぶりを撫でるように手を動かした。しかしすぐに五条の手で手首を掴まれる。

「…どうしたの」
「五条先輩が…ツラそうなので」
「……いやツラいのはツラいけど…がこんなことする必要ない――」
「どうしてですか…?」
「どうしてって…」

潤んだ瞳で真っすぐ見つめてくるに、今度は五条の方が戸惑った。

「いつもはこんなことしないでしょ」
「…そうですね。でも…これでも知識だけは増えました。トレーニング中も勉強したので」
「知識…?」
「はい…相手を悦ばせる方法…とか…」
「……は?」

言った後で顔から火を噴いたのでは、と思うほどの顏が真っ赤になった。五条もまた、今のの言葉に鼓動が跳ね、頬がじわりと熱くなる。その上、何かを期待した体が素直に反応するのが分かった。あの堅物のがそこまで性に対して積極的な発言をしたのは初めてで、余計に興奮を覚えてしまう。

「自分で何言ってるか分かってる…?」
「…はい。まだ履修していない行為のことです」
「……そう」

意外と真剣なを見て、五条は寝た子を起こしちゃったかな?と内心苦笑した。自分の気持ちや、の想いを確認したくて始めた少し強引なまでのトレーニングで、今度はの方に火がついてしまったようだ。

「触って…いいですか…?」
「…っ…僕が…我慢出来なくなってもいいの」
「…だって…今更、ですよね…。わたしと五条先輩は前に一度、してるんですから」
「……はあ。随分と大胆になっちゃって」

の言葉に五条が溜息交じりで項垂れる。でもは「五条先輩の指導のおかげです」と至って真面目に応えた。その答えに、五条がどうしたものかと困ってしまった。は未だに五条に抱かれたと思い込んでいるようで、もしこの場で五条がその気になっても平気だと思っている。しかし実際は最後までしたわけじゃないので、は清い身体のままだ。

(いつ本当のことを言おうかと思ってたけど…もし話したら、はどうするんだろう)

ふとそんな思いが五条の胸に過ぎった。が何故か自分から離れようとするせいで、おかしな独占欲が生まれて無理やり婚約者にした。それは他の男に触れさせたくないからだ。それが自分の我がままだとは分かっているし、今日も勝手に苛立って、少々強引すぎたことも分かっている。なのには五条を受け入れ、今またトレーニングを再開させるかの如く、大胆な申し出をしてくる。ここで真実を話すべきなのかもしれない。本当は、あの夜、二人の間に最後までの行為はなかったことを。

「五条…先輩…?」

黙ったままの五条に気づき、が不安そうな顔で見上げて来る。五条は軽く深呼吸をすると、真実を話すべく口を開いた。

…あの夜、僕はを抱いてない」
「……え?」
「厳密に言えば……途中までは挿れた」
「………」
「でもそこで寝ちゃってさ。だから……最後までは…してない」
「……は?」
「いや、ほんとにごめん」

五条の言葉に、の瞳が大きく見開かれた。驚愕といってもいいほどの驚きようで、さすがに五条も申し訳なく思った。

「じゃ…じゃあ…わたしは…」
「まあ…処女、だよね」
「えぇぇ…っ?で、でも…挿入したって…」
「でも奥まで挿れたわけじゃないし…」
「な…」
「すぐ説明しようと思ったんだけど…、記憶がないって言うし、だからつい盛っちゃったというか…」

と笑って誤魔化す五条だったが、は放心したように固まっている。

「おい……?大丈夫…?」

の目の前で手を振りながら、五条が声をかける。するとはハッと我に返って何度か瞬きをしたあと、五条を見上げた。

「え…じゃあ…今回わたしと婚約したのは…責任を取ろうとしたわけじゃないってことですか…?」
「責任…?いや、違うけど…」
「………」
「え、…?」

急に脱力したように両手をついで項垂れるに、五条もギョっとしたように顔を覗きこむ。すると「良かった…」という小さな呟きが聞こえた。

「……良かった?」

何が?と問おうとした時、ふとは顔を上げて五条を見つめた。

「…だって…わたしの事情を知っている五条先輩が、責任を取ろうとしてるのかと思っていたので…そうじゃなくて良かったと言ったんです」
「…え」
「だって…そんな婚約は不本意ですから…」
「どうして…?」

が頑なに婚約することを拒否する姿勢だったことを思い出した五条は、その理由が気になった。あの夜、五条に好意があると言っていたにも関わらず、抱かれたと思った途端、離れようとしていた理由も分からない。するとは柔らかい笑みを浮かべて五条を見上げた。

「五条先輩には…そんな枷をはめたくありません」
「…枷…?」
「好きでもない相手と結婚するなんて、五条先輩らしくありませんから」
「……」
「わたしとのことはあくまでトレーニングであって、その先にもし本当に抱かれることがあったとしても、五条先輩に責任を負わせようとは思っていません」

キッパリ言ったは、どこか吹っ切れたような表情をしている。それがあまりに綺麗で、五条は自然と胸が高鳴るのを覚えた。これまで何度も可愛いと思わされたが、が自分のことを思い、そこまで考えてくれていた事実が嬉しい。そして気づいた。何故、を他の誰にも触れさせたくないのか。それは――。

…」
「…はい」
「僕、のことを好きじゃない、なんて言ったっけ」
「え…?」

そこでが驚いたように顔を上げる。その赤く染まった頬に手を伸ばすと、五条はそっと唇を重ねながら、角度を変えて何度も口づける。に触れてもいいのは自分だけだというように、優しく啄み、最後にちゅっと音を立てて唇を解放すると、戸惑うように揺れている瞳を見つめて、五条は微笑んだ。

「このゲーム…多分僕の方が先に負けてる」

言いながらも、五条がハッキリと自覚した瞬間だった。