Last-紫陽花の咲く頃には


※性的表現あり

1.

とのトレーニングを進める中で、どうにも抑制できない思いが何度となくこみ上げたのも、全ては心の問題だった。彼女への負担を減らしたいとデートを申し込んだのも、それは単に五条が本当にとデートというものをしてみたかったからだ。が五条を意識する前に、きっと五条の方がに惹かれ始めていた。

「…だから…僕の負け」
「負け…?」
「そ。だから…褒賞はなし」

言ってから少しだけ惜しかったかな、とは思う。せっかくが自分に好意を寄せ、身体を許そうとしてくれているのだ。けれども五条は褒賞という形でを抱きたくはなかった。

「もったいない気はするけど、まあ…僕とは婚約してるんだし、このままいけばの夢は叶えられることになるけど…どう?」
「え…婚約って…本気でわたしと…」
「結婚?する気しかないけど」
「えっ?!」
「え?何でそんなに驚くわけ?僕がふざけて好きでもない女と婚約すると思ってたの?」

酷く驚くを見て、五条は僅かに目を細める。

「えっと……まあ…」
「……僕も信用ないな」

素直に頷くに、五条もガックリと肩が下がる。確かに最初は本当に結婚するとか深く考えていたわけじゃない。でも気持ちに気づいた今、この流れは五条にとっても望むところだった。

は嫌?僕と結婚するの」
「……っ」

ハッとしたように顔を上げたは、思い切り首を振って頬を赤く染める。その顏は反則だと五条は思った。

「じゃあ…今日から本当に身も心も、は僕の婚約者ってことで…いい?」
「………はい」

瞳を潤ませ、真っ赤な顔でコクンと頷くを見て、五条の胸がまた大きな音を立てる。これまで色んな女を相手にしてきたが、ここまで心を揺さぶられた子はいなかった。まさか堅物と思っていた後輩に惚れてしまうなんて、さすがの五条も想像すらしていなかった。

「…ぁ…ご、五条先輩…?」

再びベッドへ押し倒され、が驚いて視線を上げれば、五条は意味深な笑みをその綺麗な顔に浮かべている。シーツで隠している滑らかな肌に覆いかぶさり、自分を見上げているの唇へ軽くキスを落としながら、さり気なくシーツを剥がしていく。

「ちょ…あの…」
「ん?」
「ま…またトレーニング…ですか…?」

真っ赤になりながら訪ねて来るに、五条は一瞬キョトンとした。さっきまでは大胆なことまでしようとしてたはずのが、急に恥ずかしそうに身を捩ったからだ。

「もうトレーニングする必要なくない?」
「え…?」
「だっては僕に触れられることにすっかり慣れたわけだし――」
「な…慣れたわけじゃ…っ」
「でも最初の頃よりはガチガチじゃないでしょ」

言いながらも再び唇を塞ぎ、今度はやんわりと舌を絡ませる。そうすることで一瞬強張ったの身体も、すぐに力が抜けて来た。五条が唇を離す頃にはすっかりと蕩けていて、大きな瞳がとろんとしている。しかし太腿に硬く昂ったモノを押し付けられて、小さく息を飲んだ。ふと五条を仰ぎ見れば、普段は余裕の笑みを浮かべている五条の顏が、切なそうに呼吸を乱している。

「せ…先輩…?」
「さっき…言ってくれたは本心…?」
「さっき…」
「僕を悦ばせたいって言ってたでしょ」
「…あ……あれは…」

かぁぁっと頬を赤く染め、の瞳が揺れる。すっかり忘れていたものの、先ほどは気持ちが昂って随分と大胆な申し出をしてしまったことを思い出す。

「こんなこと言うとアレだけど…そろそろ僕も限界というか…」
「え…?」
が可愛すぎて疼くというか…」
「……っ?」

だから、いい?と五条に言われ、鼓動が跳ねる。再び唇を塞がれ、何度も啄まれながら、気づけば五条の手がの手を熱く昂った場所へ導いていく。一瞬体に力が入ったものの、その場所へ触れるとビクンと反応があったのが分かる。それが愛おしいと感じた自分に驚いた。絶頂を迎えた直後で気持ちが昂っていたのは間違いないが、さっき五条に言った言葉は本心からのもので。いつも優しくトレーニングを進めながら気持ち良くしてくれる五条に何かお返しがしたいと思ったのも本当だ。

「…わ…わたしで良ければ」
「え…」

言った後で首まで真っ赤になったを見て、五条の胸もドクンと跳ねる。だが当然経験のないはどうしていいのか分からない。

「や、やり方を教えてもらえますか…」

隣へ横になった五条を見上げ、恥ずかしいのを堪えながら訪ねた。

「…え、あ…えーと…」

改めて言われると五条もやけに恥ずかしくなって来た。しかし自分の下半身には今、の手が触れている。そう思うだけで反応してしまうのだから困っってしまう。

「わ…動いた…」
「そりゃーが触ってると思えば反応するよ」
「え…」

ドキっとして顔を上げたの額にそっと口付けると、五条はの手に添えて「じゃあ…こうして優しくさすって」とやり方を教えていく。は言われるがまま、ぎこちない手つきで五条のモノを擦りだし、「い、痛くない…ですか?」と訊いて来る。痛いどころがもどかしいほどの気持ち良さだ。

「もっと強くても平気」
「え、ほ、ほんと…ですか」
「うん…っていうか脱いでいい?」
「……っは…はい…」

直に触ってということだと理解したはクラクラするくらい顔に熱が集中していく。なるべく見ないようにしながら、再び五条の手に導かれて、恐る恐る硬く勃ちあがった場所へ手を添えた。

「…あ…っ」

初めて触れた男性器の感触に驚き、僅かに手を引きかける。想像以上に硬くて驚いた。

「やっぱりやめとく?」

彼女の様子を見て、五条が苦笑気味に尋ねると、は「や、やめません…」と慌てて手の力を抜く。その姿がいじらしくて、五条は真っ赤に火照った頬へちゅっと口付けた。

「ここ…握って、そう。こう…上下にゆっくり動かして」
「…は…はい」

従順にも自分の言う通りにするを見ていると、五条の欲も自然と高まる。そもそもこんな行為を指導しながら行ったことはなく、五条にとっても初体験だった。

「き、気持ちいい…ですか?」
「うん…ってか…やべ…何かコーフンするかも…」
「…っ?」

正直、上手いとは言えない動きであっても、相手がということと、そのぎこちなさが逆に新鮮で変に気持ちが昂って来る。五条の言葉で真っ赤になり瞳を潤ませるの顔を見てしまえば尚更だ。一方、の方も同じように気分が昂っていた。自分が施す愛撫で「コーフンする」と言いながら五条の息が乱れていくのを見ていると自身の体も何故か火照って来る。男が感じている姿がこんなにも色っぽいとは思ってもいなかった。そこでふと座学をした時に学んだ方法を試してみたくなった。手でする行為もあるが、一般的に男性を悦ばせるにはこれが一番だと載っていた方法だ。それを読んだ時はこんな破廉恥な行為は絶対にムリだと思っていた。なのに今、五条が感じている姿を見ていたら、どうしてもしてあげたくなった。

「……?……っぁっ」

不意に体を起こしたに気づき、五条が目を開けた。その瞬間、に触れられ、痛いくらいに硬くなっている場所が、湿ったもので覆われる感触にビクりと腰が跳ねる。

「ちょ、何して……う…」

横たわる五条の下半身の辺りに身を屈めたは、その小さな口の中へ五条のモノを含んでいく。驚いた五条も体を起こそうとしたものの、ヌルヌルとした場所でしごかれ、たまらず声を洩らした。あまりに気持ち良く、そして久しぶりだったこともあり、一気に体が上り詰めていく。

「……ちょ、…あまり激しくしたら…イ…イク…って…」

初心者は加減を知らない。必死に脳内でイメージしつつ、口の中にある熱を刺激していたはどう使えばいいのか分からない舌を適当に動かした。そのせいで敏感な場所へ強い刺激を与えてしまい、あまりの快感に五条はたまらず喉をのけ反らせた。あげくこみ上げて来る射精欲を止められず、の口の中へ全ての欲を吐き出す。

「っん…ゴホッ」

突然口の中へ射精をされたことで驚いたはよく分からないままそれを飲み込み、激しく咽てしまった。

…っ何やってんの…!いいから全部吐き出せって」

慌てて起き上がると、五条はの背中を擦り、心配そうに顔を覗き込む。しかしは全て飲んでしまったようで、咽ながらも「へ、平気です…」とどうにか返事をした。

「平気じゃないでしょ…ったく…」

五条はティッシュを取ると、の濡れた口元を丁寧に拭いて、そのままぎゅっと抱きしめた。

「……はあ。ごめん」
「え…何で謝るんですか…?」
「いや、だって…我慢できずに出しちゃったし」

情けない、と言いたげに五条がボやく。その様子に不安になったは、僅かに体を離すと五条を見上げた。

「き、気持ち良くなかったですか…?」
「…いや…その逆でしょ」

五条は困ったように眉を下げ、苦笑を洩らした。

「え?」
「気持ち良すぎて…我慢できなかったんだし。、あんなこと、どこで覚えたの」
「………っ」
「ったく…オマエにはいっつも驚かされてる気がする」
「す、すみません…」

コツンと額をくっつけながら笑う五条に、の頬は再び赤くなる。無我夢中だったものの、冷静になってみると自分の大胆な行動が一気に恥ずかしくなって来た。数か月前の自分なら絶対にしない行為だ。五条のトレーニングを受け、五条を好きになり、どんどん変わっていく自分が怖くなる。でもその気持ちとは裏腹に、今の自分は嫌いじゃない。何故かそう思えた。あんなに興味のなかった行為が、本当に好きな相手だと全てが意味のあることに思える。こうして強く抱きしめられる心地良さも、時折、額や頬へ触れる唇も、そこから広がる甘い疼きも、全部が幸せに感じた。

「あ、あの…五条せんぱ…」
「あーもう…せっかく我慢してたのに…今すぐオマエを抱きたくなってきた」

突然、耳元で五条が呟き、ドクンと鼓動が鳴った。

のせいだよ…どうしてくれんの」
「そ…そんなこと言われても…ひゃ」

ぐるりと視界が回り、気づけば五条を見上げている。体に纏っていたシーツを奪われ、裸体を宝石のような青い双眸に晒している事実に、カッと頬が熱くなった。

「あ、あの五条先輩…?」
…」
「は…はい…」
「僕とオマエは婚約してるんだし…このまま将来は結婚するって決めたよね」
「は…い…先輩が良ければ……」

真剣な眼差しで見つめて来る五条にそう呟き、恥ずかしそうに目を伏せる。そのの仕草に五条はまた胸の奥が小さく鳴った。これがときめくということか、とそこで五条は初めて気づく。

「なら…今、を抱きたい」
「……えっ」
「先に煽ったのだよね」
「あ…煽ったわけじゃ…」

と言いかけた時、また太腿に熱を感じてドキっとした。さっき出したばかりだというのに、すでに復活したようだ。

「コレの責任とって」
「え、責任…」

の頬にキスをしながら五条が苦笑する。

「あんな見せられたら…あれだけで収まるわけないでしょ」
「……で、でも…」
「…僕に抱かれるのイヤ?」
「そ…れは…」

嫌なはずがない。自身、このまま五条に身を委ねたいと思ってしまっている。その時点で答えは見えていた。

「イヤじゃない…です…」

の出した答えに、五条が優しく微笑んだ。






2.

「おっはよー!硝子」

そのウザい声にウンザリしつつ足を止めた家入は、何も感情を隠さないまま半目状態で振り向いた。すると廊下の向こうから何とも血色のいい顔をした五条が満面の笑みを浮かべて歩いて来る。人より長く歩幅のあるコンパスで家入のいる場所までアっという間に辿り着いた。

「何だよ、その顔。どんよりしちゃって呪霊かと思った」
「はあ?高専の敷地で、しかもこーんな可愛い呪霊がいるもんですかっ」
「え?可愛い?どこ?どこにいるの、その可愛い呪霊」

わざらしく手を額に翳し、キョロキョロと探すフリをする五条を見て、家入の殺意が止まらない。しかしどうせ殴ったところで術式に邪魔をされるので、無駄な体力は使わないでおこうと決めた。

「ったく…何ではこんなアホと…」
「あ?何か言った?」
「別に!っていうか無駄に艶のいいその顔見てるとムカついて仕方ない」
「あー硝子は徹夜明けでお肌もボロボロだもんねー。あげく癒してくれる男もいないんじゃ欲求不満にもなるよなー。かわいそー」
「……っ…っ」

五条の言いぐさに家入の拳がぎゅううっと握られ、怒りで手がプルプルしている。

「…ふ…ふざけんな!五条!」

やはり殴らなければ気が済まないとばかりに、家入が拳を繰り出したのと同時だった。

「あ…五条先輩と硝子先輩」
「あ、~♡……ぐっ」

が来たことで術式を自動で解除してしまった五条の腹に、たまたま家入の右ストレートがさく裂。見事に入って五条はその場に崩れ落ちた。

「ってぇー…何すんだ、硝子っ」
「はは!アンタ、は術式解除してたのねー!ザマーミロ」
「ちょ、何してるんですか、二人とも」

今の光景を見ていたが慌てて腹を押さえながら蹲る五条の顔を覗き込む。

「大丈夫ですか?五条先輩…」
「いや…大丈夫ではない…」
「え…?どこか痛みますか?」
「んー…がちゅーしてくれたら…治る気がする」
「……平気そうですね」

五条のふざけた言葉にの目がスっと細められ立ち上がった。

「行きましょう、硝子先輩」
「そーねー。そうしましょ」

女同士、結託したようで五条を放って歩き出す二人に「え、ちょっと!」と驚きながら五条も立ち上がる。

「婚約者を放置って酷くない?」

後ろから聞こえる五条の悲痛な叫びを聞きながら、と家入は顔を見合わせて軽く吹き出した。

「全く五条のヤツ、浮かれ過ぎ。すっかりに惚れちゃったみたいねー」
「そ…そう…なんですか…?」
「どう見てもそうでしょ。女のことであんな浮かれてる五条、初めて見たもん」
「……」
「あれ、照れてる?ってかが男のことでそんな顔するのも初めて見たわ」
「か、からかわないで下さい…」
「いや、マジで。ってば男の趣味悪かったのねー」
「……自分でもそう思います」
「はははっ。それ五条に言ったら軽く2~3日はヘコむわよ、きっと」
「ま、まさか」

家入の言葉にの頬がかすかに赤くなる。それでも幸せそうに微笑むのだから、家入も何とも言えない気持ちになった。それでも、堅物すぎて男にフラれた頃に比べたら何倍も幸せそうだ。

「…
「はい?」
「婚約、おめでとう」
「……ありがとう御座います」

幸せそうに微笑むを見て、家入も何故か幸せな気持ちになる。来年、紫陽花の咲く頃には可愛い後輩の花嫁姿を見られるだろう。

「ところで……五条とついに最後までヤったの?」
「…えっ?!」





.....END