※性的描写あり



猛暑日の多かった夏も終わり、秋の入り口に差し掛かった頃、この五条家では今日、園遊会などという皇后陛下が開催するような茶会が開かれていた。招待されているのは、呪術界を筆頭に政財界などの上流階級と呼ばれる人間達で、こういった名目の茶会は年に数回開かれている。

――今日はお日柄も良くて結構なことですわね。
――本当に。恵まれましたわね。そうそう、恵まれたで思い出したんですけど、わたくし先日、オペラを観に行って…

上品ぶった他愛もない会話が庭の方からかすかに届く。それを耳で拾いながら、五条は着物の胸元へ差し込まれた手を、やんわりと静止した。

「いけません…悟兄さま」
「何で」
「悟兄さまがあの場にいなければ不審に思われます」

言った途端、降ってくる舌打ちにドキリとして、顔を上げたはかすかに瞳を揺らした。

「じゃあ何でオレについて来たんだよ」
「…わたしは悟兄さまの世話係ですので」

俯き加減でポツリと呟くを見下ろしながら、この家の嫡男である五条悟は大げさな溜息を吐いた。同時に骨ばった指先が名残惜し気に着物の襟もとをなぞっている。

「またそれかよ。つーか敬語やめろ。は世話係の前に五条家の巫女でオレの幼馴染だろ。オレのいうこと聞けねーの?」
「………ごめん」
「もっと堂々としてろ。オマエはオレの巫女なんだから」
「…うん」

軽く頭を抱き寄せられ、五条の胸元へ額をくっつける。だがそれもすぐに離れていった。着物を着るのにセットされた髪が崩れるのを恐れ、また五条の着ているスーツに自身のファンデーションが移ってしまうのを恐れたからだ。

は代々、五条家当主に仕える巫女の家系で、五条と幼少を共に過ごしてきた。その頃から「お前は将来、五条悟さまに仕えるのだ」と親から説かれ続けて育った。十歳の頃には先に倣い、五条家の養子に入り、巫女としての役割を担う為の修行を重ねている。
五条家にとっての"巫女"とは、当主を守護し、清める存在であり、巫女となる女性は当主が呪霊との戦いで穢れに触れた後、それを祓い、マナ(鎮魂)を付与する職掌である。それでも現代の呪術界においては「女」と言うだけで周りに軽く見られる傾向にあった為、昔よりは巫女の役割も重要視されてはおらず、は五条家の養子となった後も、修行時以外は五条の身の回りの世話をする使用人扱いとなっていた。
それでも今日のような公の場では巫女としての立ち居振る舞いを求められるので、普段の着物ではなく、今日は十五歳らしい艶やかな総絞りの振袖を身に着けていた。

腕に収め、手の内に入れたと思った瞬間に逃げられたことで、五条はまたしても不満そうに、その美しい碧眼を僅かながら細めた。
それに気づきながらも、は五条が無理やり着物を崩してしまわないかとハラハラしていた。先ほど開かれた襟元をしきりに気にしている。崩れてしまえば最後、また一から着物を着直さなければならない。普通の着物とは違い、振袖を一人で綺麗に着直すのは地味に重労働だ。今のにはそんな時間も、また五条に抱かれる時間もなかった。
今、二人がいる場所は本家にある五条悟の自室であり、ここから庭先に下りるまでは少なくとも数分では無理な距離があった。

「そろそろ戻ろう、悟兄さま」
「…その兄さまってのもやめろ。オレはオマエの兄貴じゃねえだろ」
「え、だ、だって…」
「養子っつったって形だけのもんだ。分かってんだろ、オマエも」
「…うん」

は頷きながらも、困ったように視線を泳がせた。頷いたものの、やはり次期当主となる五条に対しての遠慮が伺える。五条はそれに気づくと、仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いた。

「わーった。じゃあ二人きりの時だけならいいだろ」
「え…」
「悟って呼んでみ」

意地の悪い笑みを浮かべた五条は、人差し指をの顎にかけ、くいっと持ち上げた。たったそれだけで純情そうな可愛らしい顔が、ほんのりと頬を染める。

「さ…さと…る」

淡い色を纏った艶のある唇が、自身の名前をなぞる。昔は何度もそう呼ばれたはずなのに、今はこうして頼まなければ呼んではくれない。そのせいだろうか。久しぶりに名前を呼ばれただけなのに、胸の奥が彼女への恋慕で疼いてしまうのだから困りものだと、五条は小さく失笑した。
互いに幼い頃は良かった。次期当主だとか、五条家に仕える巫女だとか、そんな肩書に邪魔されることもなかった頃は。

しばし見つめ合い、先に限界がきたのは五条の方だった。身を屈め、その滑らかな唇に唇を優しく重ねる。振袖の長く垂らした帯を乱さぬよう、そっと細い腰を抱き寄せると、今度はも抵抗しなかった。触れるだけのキスを何度も角度を変えながら繰り返し、互いの熱を確かめ合う。やがて唇の間を五条の舌がぬるりと舐めていく。の体が反射的に跳ねて、少しだけ身を離そうとした。それが合図になったように、最後にちゅっと甘い音を立てて唇を離した五条は、の額にこつんと自分の額を合わせながら「逃げんなよ」と苦笑を洩らした。

兄妹のように育ってきた二人が関係を持ったのは一カ月前。の十五歳の誕生日だった。来年の春に中学の卒業を控えている五条は、その後に呪術専門高等学校へ入る予定となっている。
だからこそ、これまでのように会えなくなるとの間に、二人だけの形を残しておきたくなった。
そしてそれは必ずしも彼女の本意ではなかった。いつものように五条の世話をしに行ったは突然部屋へ連れ込まれることになり、彼女は幼馴染のベッドの上で、着物を一枚一枚と半ば強引に脱がされてしまった。最初こそ驚き、抵抗を見せたも、最後はされるがまま無垢な身体を捧げたのは、五条と同じ想いだったからに外ならない。
それ以来、二人は周りにバレないよう、こうして逢瀬を重ねている。

「やっぱダメ?」
「…そ、それは…だから…」

それまで腰を抱きよせていた五条の手が、の尻の丸みを撫でていく。その刺激でゾクリとしたものがの背中を駆け抜けていった。同時に五条があることに気づく。

「…つーか…オマエ、まさか下着つけてねえ?」
「き、着物だし…」
「いや、普段仕事用のは穿いてんじゃん」
「こ、こういう公の場では昔に倣って…下着はつけないのっ」

恥ずかしさのあまり、つい昔のような口の利き方をしてしまった。しかし五条は怒るでもなく、むしろ嬉しそうに口端を上げている。その笑みは悪戯を思いついたと言いたげな悪い笑みに見えて、は軽く笑みを引きつらせた。

「さ、悟…?あの、ほんとに戻らないと――ん…っ」

スーツの上からでも分かる筋肉質な胸を両手で突っぱね、体を離そうとした瞬間、着物の裾から冷んやりとした手が侵入し、の内股を撫でていく。その刺激で思わず声を洩らしたを見て、五条は更に悪い笑みを浮かべた。

「着物、乱さなきゃいいんだろ?」
「え、ダ、ダメ…ぁっ」

内股を撫でていた手がするすると上がり、彼女の秘めた部分へ触れると、五条の指先にとろりとしたものが絡みつく。その瞬間、男の欲を煽られ、腰の辺りにずん、と滾るものがこみ上げた。

「ダメっつっても…のここ濡れてる」
「や…ぁっ…ん…う、動かさないで…」

着物を乱さない程度に足を開かれ、無防備な場所を指先で擦られるたび、体の奥から熱いものが溢れてきてしまう。それがどうしようもなく恥ずかしい。言葉とは裏腹に、体は五条を求めているのは自分でも分かった。五条もそれに呼応するよう、次第に息を乱し、の白い首筋へと口付ける。すっかりと濡れた場所を何度も指を往復させ、本能のままに泥濘の奥へと指を挿入すれば、すぐにきゅぅっと締め付けられた。

「…指挿れただけでイったのかよ…えろ…」
「…やっぁ…さ、悟…」
「は…こういう時のは素直で可愛いし好き…」

真っ赤な顔で五条の胸にしがみついてくるの額に口付けながら、つい口元を緩ませる。すっかり濡れてぐずぐずになったナカを掻きまわすように抽送すれば、静かな室内に卑猥な水音が響き、の嬌声がいっそう息を乱していく。その顏はすでに少女ではなく、女そのものだ。

「も、無理…挿れるぞ」
「え…ひゃ…」

ナカから指を引き抜いた瞬間、五条はの体を反転させ、着物の裾をまくった。そのまま彼女の細い腰を引き寄せると、五条に向かって尻を突き出す格好になり、の頬が別の意味で赤く染まる。

「は…恥ずかしい…悟…」
「仕方ねえだろ。こうすれば髪も着物も崩れないって…ちゃんとここに掴まってて」

五条はベルトを緩めながら、の手を取って壁に置く。その体勢のまま、自身の屹立を濡れそぼった場所へと宛がい、一気に挿入した。

「んん…っ」
「…は…ヤバ…のナカ、熱くて蕩けそう」

呼吸を乱しながら呟くと、五条はゆっくりと腰を動かし始めた。こうなればの理性も崩れ去り、後は五条の好きなように揺さぶられる人形になり果てる。

「…

後ろから五条の手が伸びて、顏を後ろへ向けられると、すぐに唇を塞がれる。

「んん…っ」
「可愛い、…」

キスを交わしながらも後ろから腰を打ち付けると、が苦しげな声を上げて唇が離れた。いつもは下ろしている長い髪を上げているせいで、普段は隠れている項も、そこを飾る後れ毛さえ、五条を煽ってくるほど色っぽい。

「ん…っぅ」
「あー…ヤバ…んな可愛い声出されたら理性飛ぶ…」
「…っひゃ…んっ」

急に動きが激しくなり、声も絶え絶えになりながら、は必死に壁へ縋っていた。気を緩めたら全身の力が抜けてしまいそうなほど体のどこもかしこも性感帯になっているようだ。項に五条の吐息がかかるだけで、ゾクゾクとしてしまう。

「あ~…そんなひっかくな…爪…割れちまう」

快楽に耐えるよう壁に添えていた彼女の手を、五条の大きな手が包む。男らしい指先が、白く細いの指に通され、ぎゅっと握られた。

「あー…イク…っ…」

夢中で快感を貪っていた五条が呟いた途端、何度か打ち付けた後、ナカから自身を引き抜き、もう片方の手に射精した。

「ハァ…頭クラクラする…」
「え…だ、大丈夫…悟?」

五条の体が離れたことで、乱れた裾を手早く元に戻すと、が慌てたように振り返る。しかし五条はニヤリとしながら「が良すぎて」と付け足し、舌を出した。その一言では耳まで赤く染まってしまった。

「バカ…」

普段は決して言わない軽口を吐きながら、はティッシュで五条の汚れた手を丁寧に拭いていく。

「着物、大丈夫か?」
「うん。それより悟も手を洗ってきて。シャツ乱れてるからそれも直さないと」
「……」

終わった途端にテキパキと仕事のように世話をしてくるを見て、五条だけは不満そうだ。余韻を楽しむ暇もないとばかりに、自分の服の乱れを直しているをぎゅっと抱きしめた。

「さ、悟…?」
「お前、もう少しこう…余韻を楽しもうとかないわけ」
「…よ、余韻って…だって時間が――」

そう言いながら顔を上げた途端、ちゅっと唇を啄まれた。その後、濡れた唇を五条の指が優しく拭っていく。塗っていた口紅はすっかり落ちてしまったものの、今も赤く色づいているのは、少々強引な幼馴染のせいだ。

「好きな子とエッチした後くらいはこんな風にイチャつきたいんだけど」

五条に好きな子、と称され、の心臓が素直に反応する。まさか、五条が自分のことを好きになってくれるとは、彼女自身考えてもいなかったせいで未だに信じられない。

「わ…わたしも…悟とゆっくりしたいけど…」
「ってかさー。別に二人で会うたびエッチしたいわけじゃなくて…」
「え…?」

抱きしめていた腕を解き、五条は困ったようにそっぽを向く。その頬はかすかに赤くなっていた。

「……もっと…と普通にデートとか…してぇんだけど」
「悟…」

ポツリと漏れた呟きが、五条の本心なのだと伝えてくるから、余計にの中で切なさが広がっていく。本当なら、巫女の自分が安易に手を伸ばしてはいけない相手だ。五条悟は今後の呪術界、または世界の救世主ともなれる存在なのだから。
それでも夢を見てしまう。いつか、この人の隣で真っ白なドレスを着られたら、どんなに幸せなんだろう、と。