※軽めの性的描写あり



一日の授業が終わりを告げるチャイムが鳴ると、教室内が一気に緩んだ空気になる。学校という拘束が終わるこの時間はも好きだった。と言って別に学校が嫌いなわけでもない。五条家の仕事以外の時間、は普通の中学生でいられるからだ。
それに今日はテスト前という理由で授業は早めに終わった。滅多にない自由な時間ができたことで、は気分も軽く帰る用意をしていた。

、真っすぐ帰るの?」

そう声をかけてきたのは後ろの席の田所夏奈だった。忙しいせいでクラスメートとの交友が少ないにとって、夏奈は数少ない友人でもある。

「一応。どうして?」
「ほら、いつもより早めに終わったし、たまには寄り道でもどうかなーと思って」
「あ…うん…じゃあ――」

行こうかな、と言いかけた時だった。突如として教室内がざわつき、軽く女子の甲高い声が上がった。何事かとと夏奈が声のした方へ視線を向けると、出入り口から長身の男が教室を覗いているのが見えた。男は真っ白い絹のような髪を垂らし、真っ黒なラウンド型のサングラスをかけていたが、に気づくと指でクイっとサングラスを下げて、誰もが見惚れるほど美しく輝く碧眼を晒した。

「お、いたいたー。~」

を見つけて嬉しそうに手を振るのは、の主でもある五条悟その人だった。クラスメートが一斉に振り返り、視線を浴びたはギョっとしたように立ち上がった。慌てたせいで机に太腿をぶつけ、ガタガタと耳障りな音を立てる。

「ねえ、あれ悟さまじゃない?。え、、約束してたの?」
「し、ししてないっ。でも…ごめん、夏奈ちゃん。わたし、行かなくちゃ…」
「うん、仕方ないよね。悟さま直々にお迎え来たんじゃ…でも羨ましい~!迎えに来てもらえて!義妹の特権ってやつだよー。あっ田所夏奈がくれぐれも宜しく言ってたって伝えておいてね?ね?」

哀願するようにしがみついてくる夏奈に引きつった笑みを見せながら、は急いで鞄を手に持ち、五条の元へ駆け寄った。周りの女子たちの視線がますます鋭くなるのを感じながら、は五条の腕をガシっと掴むと「…行こう」と強引に歩き出す。
五条は全てを分かった上なのか、楽しげに口端を上げていた。
この学校でも有名人の五条に憧れている女子は大勢いる。夏奈も五条のファンだと公言しており、その他の女子も似たようなものだった。だからこそは余計に目立ちたくないのだ。
人混みを抜け――五条についてきた生徒ばかり――二人はすぐに玄関へと向かった。

「ど、どういうつもり?教室には来ないでって何度も――」
「べっつに良くねえ?学校くらい自由に会おうぜ」
「そ、そういうわけには…って、どこ行くの?悟…っ」

校舎を出てすぐ、今度は五条がの腕を掴むと「いい場所見つけたんだよねー」と楽しそうに歩いて行く。学校から五条家へ向かう道のり。この辺の地域は五条家の親戚連中が多く住んでいる高級住宅街となっており、二人の通う中学校はその敷地ギリギリの場所にあった。その為、登下校中も油断は出来ない。は辺りを気にするように確認したが、五条は急に方向転換し、学校裏へ続く細道を入って行った。

「ねえ…どこに行くの?」
「二人きりになれるとこー」
「え…」

五条の言葉にドキリとして、自然と手に力が入ってしまったらしい。それに気づいた五条はふと振り返ると「今日は変なとこじゃねえよ」と苦笑した。
以前にも教室まで迎えに来た五条は、を少し離れた場所にあるラブホテルへと連れ込んだ前科がある。この歳で大人の空間とも言える場所へ連れて行かれた時の気まずさは、の中で軽いトラウマになっていた。
五条としてはと関係を持ってすぐの頃で、自分の中のモヤモヤを今以上に持て余していた。そのせいで自制が効かず、少々強引なことをしてしまったと反省している。

「ここ…?」

細道を少し行ったところに大きな一軒家が現れ、五条が足を止めた。

「そう。前の住人は先月引っ越して、今は空き家なんだけど、何でも変な現象が起きるとかで、オレが祓徐を頼まれた」
「あ、この前の…?」
「そうそう。に清めてもらったろ」

そう言われても思い出した。学校の近所に呪霊が沸いていて、知り合いに頼まれたと話していたのを。
そして祓徐後、が巫女として五条を清めたのだ。

「え、でも何で…」
「ああ、その知り合い、この家のオーナーなんだけど、次の買い手が見つかるまでの間、好きに使ってくれていいって」

五条はポケットから鍵を取り出し、指でくるくると回して見せた。

「ここはウチの敷地とは逆方向で近所の奴らも親戚はいない。二人で会いたい時は使えるかなーと」

五条は鍵を使ってドアを開けると、の手を引いて中へと足を踏みいれた。ドアが閉まれば確かにここは二人きりの空間になる。

「ん…っ」

入った瞬間からもつれあうように始まった深く絡み合うキスを、は受け入れるだけで精一杯だ。いつもとは少し違う強引さがドキドキを加速させていく。五条はの膝裏へ手を差し込むと、軽々と抱き上げた。そのまま少し埃っぽい廊下を歩き、寝室らしき部屋へ入る。そこには大きなベッドが鎮座しており、空き家のわりに真新しいシーツがセットされていた。その上には寝かされ、五条が覆いかぶさりながらも再びキスをしかけてくる。同時に制服の上着を脱いでいく五条を見て、は慌ててその手を止めた。

「ん…さ、悟…ちょっと待って…」
「…何、また焦らす気かよ」
「そ、そんなんじゃ…た、ただ急すぎるし、ほんと今日みたいなの困る…」
「………」

上体を起こしながら抗議をすれば、五条は溜息交じりで項垂れた。

「オマエ、困る困るって、そればっかりな」
「…だ、だって…クラスの子、殆ど悟のファンだし、また陰でアレコレ言われるのわたしだもん…」

シュンとしたように今度はが項垂れるのを見て、五条は僅かに目を細めた。サングラスを外し、そっとの頭を抱き寄せると「ごめん」とひとこと呟く。五条にしてみれば、と二人きりになれる少ない時間を大事にしたかったに過ぎない。しかしにとっては、立場の違いとか人の目が気になってしまうのだ。

「それに学校って言っても従妹もいるんだし気をつけないと…」
「別にオレとオマエが会ったところで今さら怪しまれねーって。やましい気持ちがあるから気になってるだけだろ、オマエは」
「それは…」
「そもそもさ。オレがオマエを好きなのはそんなにいけないことかよ。やましいことか?」

五条の問いに、は俯いたまま何も応えようとはしない。
普通の恋愛だったなら、そんなことはないと言えるのに、どうして自分の恋はこんなにも罪悪感がこみ上げてくるんだろう。
しばし二人はベッドの上に座ったまま沈黙が続いた。その静寂を破ったのは五条の方だった。

「オレはさ…学校でも家でものことを考えると会いたくてたまらなくなる。こうしてといると時間が止まってしまえばいいと思う。オマエは違うの?」
「…悟…」

自分の方へ伸びてきたの手を握り、その細い指先へ口付ける。綺麗に切りそろえられた形のいい爪を口へ含むと、の肩がビクリと跳ねた。軽く舐めてからちゅっと音を立てて指を吸うだけで、白い頬が朱色に染まっていく。

「…嫌なら抵抗しろよ」
「………」

泣きそうな顔で首を左右に振るは、どこか子供のように頼りなげな表情で五条を見つめた。その潤んだ瞳を見て、五条の中でざわりと欲が掻き立てられる。再びをベッドへ転がし、制服のボタンへ手を伸ばせば、はもう抵抗することはなかった。上着を剥ぎ取り、シャツも乱して、露わになった肌へ口付ける。同時に彼女のスカートの裾から手のひらを滑りこませ、ショーツを強引に下げていけば、それは簡単に足から引き抜くことが出来た。
眩しいくらいに色白な太腿を開くと、は恥ずかしいのか、頬を染めながら顔を背けている。その恥じらう姿も五条の欲を煽るだけだった。未だ処女のように閉じている場所へ無遠慮に舌を這わせ、無理やり快楽を引きずり出す。淫らに舌を動かせば、そこはすぐに潤みを帯びてきた。静かな空間にの控え目な喘ぎが響き、五条の動きに合わせて、時々小さく跳ねた。
たっぷり慣らした後で痛いくらいに硬くなった劣情を、五条は小さな入り口に捻じ込んだ。の体はそれを従順にも受け入れ、快感で体を震わせている。五条はのその顏が好きだった。
羞恥に震えながらも、五条の与える快楽に溺れて喘ぐ姿がたまらなく愛しいと感じるからだ。

「…オレの方が…」
「んん…な…に…?」
「溺れてるよな…確実に…」
「そ…んなことな…ぁっ」

一番奥のいいとこを突いてやれば、可愛い声が跳ねて五条がかすかに笑みを浮かべた。無垢だった身体が、今ではすっかり五条の思うように感じてくれるのが嬉しいと思う反面、他の男の食指が伸びやしないかと不安になる。もうすぐ思うように会えなくなるから自分のものにしたはずなのに、奪ったら奪ったで急に怖くなった。たった一人に溺れてしまえば、そのたった一人を失っただけで、人は容易く壊れてしまうのを、本能的に分かっているから。

…オマエはオレのものだから…」

それは彼女にかけた呪いの言葉に等しい。
分かっていながらも言わずにはいられなかった。
そしてその言葉に、彼女が幸せそうな笑みを浮かべたのを、五条は知らない。
せっかく二人きりの空間にもかかわらず、早急な行為を終えた後、五条は服を乱して横になるの肩に、自分の上着をかけてやった。その上から抱きしめると、優しく髪を撫でる。
は気持ち良さそうに目を瞑った。

…」
「…ん?」

髪を撫でる五条の手が心地よく、一瞬だけウトウトしかけたは、名前を呼ばれてふと目を開けた。

「…ごめん。また我慢出来なかったかも…」

少し元気のない声で謝罪する五条は、強引に抱いたことを謝っているようだった。怒ってる?と訊いてくる声は、機嫌を取りたがっている時の声色だとは気づいている。

「怒ってないよ…」
「ホントかよ」
「ほんとに怒ってないもん」

言いながら顔を上げると、どこか気まずそうな五条と目が合う。

「別にこの家…こういうことばっかしようと思って借りたわけじゃねえから」
「悟…」

コツンと額を合わせて呟く五条の顔は、どこか叱られた子供のようだ。

「ハァ…何でオマエといると、こう…そういうことしたくなんだろな…好きだから、なるべく自制したいと思ってんだけど」
「…ふふ。何それ。今更だよ」
「…うっせぇ」

照れ臭そうに視線を反らしたものの、五条もすぐに苦笑を洩らし、の頬に口付けた。
ずっとずっと好きだった子をやっと手に入れたというのに、どうして大切にしてやれないんだろう。
胸の奥にぽっかりと穴が開いたような空しさを感じて、五条はをきつく抱きしめた。

「やっぱオレの方が溺れてるだろ」

そんなことはない、とは言いたかった。これ以上、五条にのめり込まないよう、自制してるのはわたしの方だと。
五条はと違い、大事な使命がある。それを邪魔したくはないと思うのだ。
同時に、まだまだ青い春を謳歌する年頃で、初めての恋を諦める勇気など持てないのもまた事実。
こうして好きな人に抱きしめられれば、弱い心が一時でも満たされたいと思ってしまうのはも同じだ。

「なあ…もっとオレを好きになって」

そんなのとっくになってるよ、とは、やっぱり言えなかった。