※軽めの性的描写あり
――を自分の世話係に。
五条がこの世に生を受けてから初めて――多分――の最大級の我がままを通したのは、を自分の傍に置いておくためだ。
は五条にとって大切な幼馴染であり、家族でもあり、誰より理解し合える唯一の存在だから。
だからこそ絶対に守る、なんて幼いながら真剣に思ったりもしたし、約束もした。
幼い頃から彼女を常に傍に置いて、何をするにも一緒で、このままずっとそれが続くのだと思っていた。
なのに――と離れて暮らすことになる現実が明日に迫っていた。
「悟兄さま。他に持っていくものってありますか?」
大きなボストンバッグに衣類を詰めながら、彼女――は振り向いた。
出会った頃は可愛らしい女の子だったも、もう15歳。
肩までだった黒髪も今では胸元まで伸びて、最近はすっかり女らしくなってきた。
代々御子の家系で、彼女の持つ神秘的な雰囲気は、いつだって五条の胸を疼かせる。
心配なのは、その容姿のせいで同じ中学の男どもがを狙ってるということだ。
五条が目を光らせていた間は誰ひとりに告白をする男はいなかったが、明日からはそれも難しくなる。
なぜなら――。
「もう~悟兄さま?聞いてる?」
不意に視界を遮る影が落ちて視線を上げれば、目の前に怖い顔で五条を見下ろすがいた。ソファで横になり、荷造りをしてくれている彼女をボケっと見ていた五条に、は少しイラだってるようだ。
「え…っと何だっけ?」
彼女の迫力にずり落ちたサングラスを直しながら体を起こすと、は「やっぱり聞いてない」と軽く唇を尖らせる。
その可愛い怒り方を見た五条の口元が、自然に緩んでしまうのは仕方のないことだ。
「ごめん。ちょっとボーっとしてた。明日からに会えなくなんのが寂しくて」
「またそんな大げさなこと言って…。海外に行くわけじゃないのに。同じ東京じゃない」
は困ったように笑っている。
それはそうなのだが、やはり毎日会えてた昨日までとは全く違う。
「東京つっても郊外だしめっちゃ遠いだろ、あの学校」
五条がサングラスを放り投げ、溜息交じりで説明しても、はまだ笑っている。
(オレと離れ離れになっても寂しくないのかよ…)
そんなことを考えたら余計にへこんだ。
「悟兄さま?それで荷物は他に―――きゃっ」
「荷造りなんて後でいいって」
まだ荷物のことを気にしているの手を強引に引っ張り、無理やり隣に座らせる。
は驚いたような、それでも何も分かってない様子で五条を見上げた。
「悟兄さま…?何を怒ってるの?」
「怒っては…ねえけど」
「その顔は怒ってる顔です」
「………」
僅かに首を傾げ「わたし、何かしました?」と不安げに聞いて来るは、やっぱり何も分かってない、と五条は思った。
だいたい二人きりの時は敬語を使うなと言ってあるのに、と内心溜息を吐く。外ではともかく、屋敷内だとは使用人、または義妹モードに切り替わってしまうらしい。
「はさ、オレと会えなくなって全然平気なわけ?寂しいとか思わねえの?」
「え…?」
「オレはめちゃくちゃ寂しいんだけど」
どストレートにそう伝えると、の頬がかすかに赤く染まる。
いくら同じ東京都でも、電車で30分、車だと一時間もかかるような場所で明日から暮さなきゃならない。
何度も家から通うと言ったのだが、高専の学長ときたら頭が固くて辟易した。
「急を要する場合、迅速に任務に当たれるよう、高専の学生は全員寮に住むのが規則だ!それが守れないなら入学はさせない」
の一点張りだった。
高専に入学しない、という選択肢はあるものの、呪術師をしていれば必ず高専の力が必要になることは五条だって分かっている。だからこそ渋々寮に入ることを決めたのだ。だがやはり、この家に残していく存在が心配だった。
「…はオレと離れて暮らすの平気なのかよ」
だんだんと切ない思いがこみ上げてきて、ついそんな女々しい言葉が口から零れ落ちる。
ガラじゃないのは分かっているが、やはりが平然と自分の荷造りをしていることが、五条には我慢ならない。
五条の問いかけには思い切り首を振りながら、その綺麗な瞳を揺らした。
「へ、平気では…ないです。わたしだって…その…」
「わたしだって…何?」
「う……」
答えを急かす五条に、彼女は困ったように目を伏せた。
こういう時、は決まって恥ずかしそうに下を向く。
でも今日はハッキリと――。
「さ、寂しいです。悟兄さまと会えなくなるのは…わたしだって」
そう言いながら頬を染めるは、五条の男の部分をくすぐるほどに可愛い。
(やっぱり一緒に連れていってしまおうか……)
内心そんな無謀なことを思いながらも、目の前で恥ずかしそうにしているの手を引き寄せた。
「さ、悟兄さま…?」
小柄な身体を腕の中におさめながら少しだけ力を入れる。
そしてふと幼いの頃もこうして彼女を抱きしめたことを思い出した。
あの頃よりも大人になった五条の腕に、今ではすっぽりとおさまってしまう。
「やっぱ抱き心地いいな、は」
「……な、何を言って…」
の頭に頬ずりすれば、彼女はすぐに五条の腕から逃げようとする。まるで子猫が暴れてるみたいに見えて、五条は苦笑いをこぼした。
「逃がさねーよ」
「さ、悟兄さま?」
抱く腕に更に力を入れる。こうしてるだけで安心するんだから不思議だ。
守ると決めてから、は五条にとって唯一無二の存在になった。
六眼なんてものを持って生まれてきたばかりに、子供の五条に寄ってくるのは大人ばかりで。
格式ばった話しかしてこない親と一族の人間たち。
あれやこれやと言ったところで、オレが一番強いんだから説得力も何もあったもんじゃない、と五条は思う。
結局今ではこの家も五条悟のワンマンチームと周りに言われるくらい、全ての決定権が五条にある。
そしてそうなるであろうことは最初から知っていた。
それくらい機嫌を損ねないように、腫物を触るみたいに、五条は扱われてきた。
そんな冷めきった一族の中で、ずっと孤独だった五条を、人の温もりに飢えていた五条悟を、救ってくれたのがだった。
自分にも人並みにそんな感傷があったんだと気づかせてくれたから。
妹のように、時には友達のように、または恋人のように。
はずっと五条の傍にいてくれた。
(この存在なしでは、もうオレは――)
「…悟…兄さま?」
(ったく…何度言っても普通に呼んでくれないんだよなぁ…)
まあ書類上は兄妹なのだからおかしなことはない。だが五条としては「悟」と呼んで欲しい。
しばらくの体温に癒されていると、苦しくなったのか彼女が軽く五条の背中を叩いてきた。
「……そろそろ離して下さい」
「ん…もう少し。今パワー充電中」
「じゅ、充電って…わたしは悟兄さまの充電器じゃないです」
少しだけ力を込めて彼女の顔をぎゅっと胸に押し付けると、くぐもった声でそんな苦情を言ってくる。
この愛しい存在を守らなければ、と改めて思う。
「はー…充電完了」
そう言いながら少しだけ腕を緩めれば、が不満げな顔で五条を見上げる。その顔は真っ赤になっていて、苦しいよりも恥ずかしかったんだろうと思った。
「ぷ…っ、真っ赤じゃん。リンゴみたいになってるし」
「リ、リンゴって…悟兄さまってそういうとこ、ちっとも変わらないです…」
「変わらないって?」
「わたしをからかって楽しむとことか」
ジトっとした目で俺を睨んでくるを見て、五条は更に吹き出した。可愛いからついからかってしまうってことに気づいてないみたいだ。
(…ってオレは小学生か…。好きな子いじめて喜んでるガキみてーじゃん)
明日から世間でいうところの高校生になるってのに、のことに関しては全く成長してないな、と少し落ち込む。
そんな五条の気持ちを知ってか知らずか、
「そ、そろそろ離して下さい。他にもやることあるんですから」
「ダーメ。がオレを追い出すための荷造りならしなくていーし」
「お、追い出すって…」
「さっきからせっせと服詰めてただろ」
「あ、あれはわたしがやらないと悟兄さまが何もしないから…朝になって慌てるの目に見えてるし…」
「あ~言われてみれば……だな」
妙に納得してしまい、五条は苦笑いをこぼした。
「まあ、でも…」
「え?」
「まだこうしてたいから、やっぱ荷造りは後でいい」
そう言いながらもう一度を抱き寄せた。明日になれば、しばらくこの温もりを感じることもできない。
「もう…悟兄さまってほんと甘えんぼ……」
ついに諦めたのか、はそう言いながらも五条の腕の中で大人しくなった。
(甘えんぼ…ねぇ…)
それは違う、と思った。五条はにだけ甘えたいし、甘えられるのだ。
内心苦笑しつつ、明日からの彼女がいない生活を思った。
「なあ、」
「……なんですか?」
「一週間に一度、オレに会いに来てくれるってあり?」
「…無理です」
「は?即答かよ?」
「学校の他に五条家の厳しい呪術訓練や、他にもやらなきゃいけないことがいっぱいあるんです」
「呪術のことならオレが手取り足とり教えてやるって言ってんのに…」
「悟兄さまには自分のことだけ考えて欲しいから」
そこまで言われると、さすがの五条もスネたくなった。もちろん呪術師として、やるべきことは多くある。だが大切な子のことを、それが理由でないがしろにしたくはない。
そんな五条の気持ちを知ってから知らずか、は明るい笑顔で五条を見上げた。
「それに来年の春にはわたしも高専に入ることになったから、また毎日会えるもの」
「まあ…それはそうだけど…」
それを言われると何も言えない、と溜息をつく。
一年も待つなんて今の五条に耐えられる気がしない。
だがは少しだけ五条の胸に顔を押し付けて、小さな声で言った。
「わたし…それまでにもっと呪術を磨いて悟の役に立てるように…なりたい」
ふと昔のように話しだしたを見て、五条は嬉しそうに口元を綻ばせた。
「…オレの役に立ちたい…?」
「もっとずっと…この先も…悟の傍にいられるように」
小さく囁くような声で、は言った。
たったそれだけで、その一言で、五条の心が満たされていく。
「バーカ…」
「……む」
「それ、オレの台詞だから」
不満げに顔を上げたにそう言ってから、額にちゅっと口付ければ、彼女の顔がまた赤に染まった。
「な…何して…」
「何って…愛情表現にはやっぱチューでしょ。ああ、それとも今夜は一緒に寝る?朝までエッチしようか」
「……あ、朝までって……」
耳まで赤く染めながら、口をパクパクさせるが可愛くて、五条はゆっくりと身を屈めて、彼女の唇を塞ぐ。柔らかいの唇を堪能するように吸いながら、するりと舌を滑り込ませた。
「んぅ…」
口内をかき混ぜ、舌を絡ませ合うと、は苦しげな吐息を洩らす。それごと飲み込むように、余すとこなく彼女の口内を貪った。
「ん…さ、悟…」
ソファに押し倒されたのが分かり、が驚いたように目を開ける。今はまだ夕方であり、抱き合うには少し早すぎる。だが五条は止まらないといったように、の帯を乱暴に解いた。仕事用の着物なので、それは容易く緩んでいく。
「悟…ダメ…まだ――」
「誰も来ねえよ」
五条が耳元で囁く。口ではああいったものの、もそれは分かっていた。五条の自室は本宅の一番高く奥まった場所にあり、この階に足を踏み入れられるのは限られた人間だけだ。
ただ拒む理由を探したかっただけかもしれない。
「…ん…」
長襦袢を乱され、白い太腿が露わになる。手を伸ばし、適度に筋肉のついた五条の体に触れれば、五条がの頬を包んで触れるだけのキスをくれる。そのまま大きな手が下へとおりて、ショーツの中へ吸い込まれていった。今のキスだけで、すでにしっとり濡れているそこは、が自分を求めている証拠のような気がして、五条の体も昂っていった。袖の隙間から右手を差し込み、乳房や乳首を弄ぶだけで、の口から甘い声が上がる。同時に指でナカを掻きまわし、深い口付けを唇へ仕掛けた。
五条のキスは甘く、の脳まで蕩かしていき、次第に熱で浮かされるように快楽の波を漂う。乱れた長襦袢の裾を大きく割って脚を開かされると、余裕のない様子で五条の熱い昂ぶりが入ってくる。
何度も何度も突き上げられて、目の前が真っ白になった。何度体を重ねていても、五条との行為は酷く甘美で、また一つ蜜月に溺れていく。
本当は、泣いて縋って一人にしないで、と言いたかった。
でも言えない。だから明るい自分を演じて、何でもないことのように接した。永遠の別れでもないのに、泣いたらおかしい。
「…悟…」
「…ん?ここ?」
「…んぁ…」
五条がのいいところを突き、そこから一気に快楽が襲う。華奢な身体がかすかに震え、足袋を履いた足がガクガクと揺れるのを感じた。
「イけた?」
「ん…そ、そこや…ぁ…」
激しく打ち付けていた腰を次第にゆったりとした速度に落とし、ゆるゆるとした動きで何度も同じ場所を突いてくる五条に、はいやいやと首を振りながら涙をこぼす。快楽に阻まれ、好きだと、その一言が言いたいのに言えない歯がゆさで、溢れた涙が頬を伝っていった。
「やだじゃねーだろ。気持ち良くねーの?」
「…んん…ぁ…さ、悟…」
「ん?もっと?」
最奥をトントンと強く突かれて、甘い痺れが再び広がると、それが一気にはじけ飛んだ。
「ぁあっ…あ」
「…やべ…オレもイク…」
ナカで収縮し、きつく締め付けられた途端、五条もぶるりと身を振震わせ、快楽を貪るように最後の抽送を繰り返す。
の白く細い腿を大きく広げ、奥深くまで腰を押し付けると、一気に射精欲がこみ上げ、慌てて引き戻す。その浅い場所で何度か出し入れを繰り返した後、薄い腹の上に自身の欲を吐き出した。
「…悟」
「身体…平気か?」
乱れた呼吸の合間、体を起こした五条が訊ねると、が小さく頷いた。この瞬間はいつも小さな後悔が襲ってくる。だがは気にするなと言うように五条の頬へ手を伸ばし、その火照った頬を軽く撫でてくれた。
「悟…大好き…だよ」
涙を浮かべながら微笑むを見て、五条もかすかに笑みを浮かべた。その一言で心が救われ、癒される。
「それ聞けたし…明日から頑張れそう」
に口付けたあと、五条は耳元で囁いた。
今より更に最強の呪術師になって、この腕の中にいる存在を、これから先もずっとこの手で守っていく。
彼女にとっても、オレが唯一無二の存在になるために――。