L



Lって猫みたいだなぁと常々思っている。だいたい背中を丸めて歩くし、お風呂上りにバスタオルを使わず頭を振って水気を飛ばすし、寒いとすぐわたしにくっついて来るし。本人にそう言ったら心外な、みたいな顔をされた。

「くっついて来るのはの方でしょう。今もほら」
「えー先にくっついて来たのはLの方だもん。冷たいのに足だって絡めてるし」

そんなことを言いあいながらも、結局くっついているのは同じだ。どちらが先でも結果として、互いの体温を貪る時間は嫌いじゃない。いつもは仕事の邪魔をしちゃいけないから我慢してるけど、寝る時だけはLを独り占めできるから。

にくっつくと温かくて幸せな気持ちになりますから」
「わたしも」

そう言ってLの洗いざらしのような真っ白なシャツに顔を埋めると、かすかに甘い香りがした。いつも甘いものばかり食べているせいかもしれない。

「L、甘い匂いがする。いい匂い」
もですよ。コーヒーのいい香りが」

Lはわたしの髪に口付けながら、くんくんと香りを嗅ぎだした。何気に恥ずかしくて「嗅がないでよ」と抗議をしたけど、Lには通用しない。

「美味しそうな匂いです」
「あ…そう言えばベッドに潜り込む前、飲んでたかも」
「え、ひとりで飲んでたんですか?ズルいです」

ベッドに横になりながら互いに向かい合ってると、Lがわたしの額にキスを落としてスネたように言いだした。その顏はとても24歳の大人の男には見えない。

「だってLはお仕事中だったし…」
「でもそこで持って来てくれたら私だって飲みますよ」
「嘘ばっかり。前はパソコンに夢中でコーヒー冷めるまで気づかなかったくせに」
「そんなことありましたっけ」

Lは凄く頭がいいのに、自分に不都合なことはすぐ忘れるタチらしい。全く困った恋人だ。でもそういうすっとぼけたところも好きと思ってしまうのだから嫌になる。今の距離をもっと縮めたくてLの方に身を寄せれば、「あ、ほら。の方がくっついて来ました」なんて言いながら笑ってる。

「仕方ないじゃない。Lが好きだからくっつきたくなるんだもん」
「………その不意打ちの告白はズルいです」

ふと顔を上げると、ほんのりと頬を赤らめたLがわたしの鼻先にちゅっと口付ける。そのうちくちびるにも優しいキスが降って来て、わたしはLにしがみついた。

「どっちが猫なんだか」

額にも口付けながらLが笑う。でもLにキスをされると幸せすぎて、本当に喉を鳴らせるような気がしてくる。隙間を埋めるように抱きしめ合って、時々縫うみたいなキスを交わす。この瞬間、世界の名探偵はわたしだけのものだ。