五条悟



いつにも増して大きな月は、明かりを消した寝室に幻想的な光を降り注いでいる。その光に包まれたベッドで寝転がりながら、わたしと彼は今宵の月を見上げていた。今夜久しぶりに悟と会って、彼が部屋を訪れた瞬間、会えなかった時間を埋めるように互いを求め合った。その後の気怠さに身を任せながら、こうして月見をしている時間は何よりも幸せだ。

「今夜はスーパームーンなんだって」
「そう言えば七海もそんなこと言ってたな」
「七海くんて意外とロマンティストだよね。能面顔なのに」
「うわ、それ酷い。ロマンティストに顔は関係ないよね。言いたいこと分かるけど」
「分かるんじゃない」

お互い後輩の顔をいじりつつ笑いあう。我ながら酷い先輩たちだ。

「あ~喉乾いちゃった…」
「僕も」
「悟は何飲みたい?」
「マンゴージュース」
「さすが甘党」
はビールだろ」
「んー今は違う。何かさっぱりしたのが飲みたい」
「例えば?」
「例えば…ライムサワーとか」
「やっぱ酒じゃん」

悟はわたしの髪に指を通しながら頬を撫でてくちびるを重ねる。戯れるように何度か啄んでちゅっと音を立ててから離れていく彼のくちびるは、青く輝く瞳と同じくらいの造形美を感じる。悟にキスをされるたび、もっと触れて欲しいって思ってしまう。抱き合った後の方が悟は優しくて、どこかしらわたしに触れていないと気が済まないみたいだ。だけど喉が渇いたのも本当で、悟の長い指先に口付けながら、「ね、カフェに行かない?」と訊いてみた。わたしのマンションは住宅街にあって、近所にはお洒落なカフェバーがある。昼間は普通のカフェだけど、夜はお洒落なバーになり、オープンテラスの席はわたしと悟のお気に入りだった。

「ん~。着替えるの面倒」
「言えてる。でもスーパームーン見ながらオープンカフェでドリンク飲むのも惹かれる」
「確かに。じゃあが僕に服を着せてくれるなら行く」
「えーじゃあ、わたしは?」
「僕が着せてあげるよ、もちろん」
「何か手つきがエッチ」

悟の指の動きを見て思わず笑ってしまった。普段はお互い忙しくてなかなかゆっくりとした時間は取れないけど、悟が出張のない時はこうして二人で休怠するのが至福の時間でもある。悟はいつもわたしのペースに合わせてくれて何でも聞き入れてくれる随分と甘い恋人になった。付き合う前は、悟がこんなにもわたしを慈しんでくれるような人だとは思わなくて、当初は驚かされたりもしたけど、今はすっかり悟のくれる優しい時間に甘え切ってしまってるかもしれない。

「まだ夜の8時だよ。行こうよ」
、酒飲みたいだけでしょ」
「違うよ。悟と飲みたいの」
「僕、酒は飲まないし」
「知ってるもん。そうじゃなくてー」
「分かってるよ」

悟の胸元に顔を摺り寄せると、ふわりと大きな手が髪を撫でていく。それが気持ち良くて目を瞑っていると、このまま寝てしまいそうだと思った。

「おーい、。行かないの?」
「え、いいの?」

その一言に顔を上げると、またしてもちゅっとキスをされた。ついでに視界までが反転して、気づけば悟を見上げてる。月の光を遮っている綺麗な空色の虹彩は、たっぷりと熱を孕んでわたしを射抜くから、それだけで頬が熱くなった。

「悟…?行かないの?」
「行くけど…その前に僕の渇きをに潤してもらおうかなと思って」
「え…したばっかりなのに…?」
「あれで足りると思った?甘いな、は」

わたしの額にかかる髪を指で避けながら、悟がうっそりと微笑む。この瞳に見つめられると身動きすら取れず、わたしは彼の好きなように食べられるただの獲物になってしまう。

「わたしの喉の渇きは…」
「あとでの好きなカクテルいっぱい飲ませてあげる」
「ほんと…?」
「ほんと」
「でも酔っ払っちゃうかも」
「いいよ。僕が優しく解放してあげるから」

耳元で艶のある声に囁かれると、それだけで酔わされてしまう。結局、わたしも悟で渇きを潤してもらってるに過ぎないのかもしれない。