
ずっと君が好きでした-02
再びリョータくんと会う約束をしたのは一週間後の金曜日だった。この日はバイトもなかったことで学校が終わると真っすぐ家に帰って来た。でもいざコーヒーを淹れようと豆を保管している容器を開けたら中が空っぽでガックリした。きっとお母さんかお姉ちゃんが飲んだ後、豆を買い足すのを怠っていたに違いない。ウチは全員コーヒー党で豆がなくなるのも早いのだ。
「はあ…コーヒー脳になってるのに…買いに行くしかないのか…」
軽くシャワーに入り、着替えた後なのですっかり気持ちは寛ぎモードだった。それだけに今からコーヒー豆の売っている店まで出るのはとてつもなく億劫だ。いつも豆を買う店は駅前にあるからバスに乗って行かなくちゃならない。着替える為に重たい足を引きずりながら自分の部屋へ向かう。とりあえず学校へ行く時のバッグから財布を出し、普段用のバッグへ移してるとポロっと名刺が一枚落ちて来た。ん?と思って拾ってみると、そこには【Bica】と書かれている。
「あ…これ帰りにマスターがくれたんだっけ…」
もう店の場所は覚えたけど、マスターが挨拶代わりにとわたしにくれたものだった。そこで唐突にマスターの淹れたコーヒーが飲みたい、と思った。
「そっか…こういう時に誘えばいいのかな」
ふとリョータくんに言われたことを思い出し、もう一度バッグを漁ると、この前電話番号を書いてもらった紙を手帳の中から取り出した。電話していいと言ってくれたものの、いつかければいいのかタイミングが分からず、そのまま一週間が過ぎていたのだ。
「今日は豆も切らしてるし…コーヒー飲みたいし…いいよ、ね」
いい言い訳が見つかってしまった。そう考えると少しドキドキしてきた。すっかり思い出に変わったはずだったのに思いがけない再会で、しかもふたりきりで喫茶店にまで行ってお話出来たことは何気にわたしの中では大事件だ。いや、以前にもあんな風に喫茶店に行ったことがある。でもあの時はアヤちゃんも一緒で、リョータくんは終始アヤちゃんに話しかけていた。あれはバスケ部の練習試合の日で、わたしはアヤちゃんと帰ってるリョータくんとバッタリ会った。そこでアヤちゃんに誘われ、三人でお茶を飲むことになったのだ。あの時は恋する瞳でアヤちゃんを見ているリョータくんが微笑ましくて、羨ましいなあと思った記憶がある。
そう、わたしはきっとアヤちゃんのことが羨ましかったんだと思う。あんなにリョータくんに想われてるアヤちゃんがずっと羨ましかった。わたしもこんな風に誰かに愛されてみたいって心の底から思ったんだ。そんな思いがあったからなのか、気づけばわたしがリョータくんに恋をしていた。誰かを一途に想っている人は素敵だと思う。眩しいくらいにキラキラしてる。わたしにはいつだってリョータくんは輝いてて眩しい人だった。
「よし…」
あの頃の自分の気持ちを思い出すと更にドキドキが加速していく。こんな状態で普通に会えるのか不安になった。でもリョータくんともう一度会って話したいと思う気持ちの方が勝ってしまった。勇気を出して部屋の電話の受話器を上げる。プッシュホンを押す指が何気に震えている気がしたけど、頑張って最後の数字を押し終えた。プルル…っと呼び出し音が始まった時は心臓の音が外に漏れてるんじゃないかと思うくらいに大きく感じられた。でもコールしても、なかなか相手は出ない。次第にドキドキしていた心臓もゆったりとしたものへ変わっていく。
「そっか…今日週末だもんね…さすがに出かけてるかな…」
それか練習してるのかもしれない。リョータくんは大学のバスケ部でもレギュラーで頑張ってるみたいだし、忙しいのかも。そんな弱気な心が顔を出し、溜息と共に受話器を耳から離した。その時、かすかに『…もしもしっ』という声が聞こえてドクンと心臓が跳ねた。慌てて受話器を耳に戻すと『あれ?もしもーし』というリョータくんの声が聞こえて来た。
「も…もしもし」
さっきの緊張で喉がカラカラだったせいか、少しだけ声が上ずってしまった。でもリョータくんは『あれ??』とすぐに気づいてくれてホっと息を吐き出す。
「う、うん。ごめんね、急に。今、大丈夫?」
『ああ、全然。ってか今ちょうど帰って来たとこでさ』
「あ…そうなんだ」
『あ、そーだ。オレ、今からマスターんとこ飲みに行くんだけどもどう?』
「…えっ?」
わたしから誘おうと思っていたことを先に言われて凄く驚いた。それも…
「えっと…飲みにって…コーヒー?」
『ああ、いや。あの店、夜はお酒も出してんだ。だから週末はだいたいマスターんとこで飲んだくれてる』
「そ…そーなんだ」
気分はコーヒーだったはずが、リョータくんからお酒を誘われたことですっかり舞い上がってしまった。だってふたりでお酒を飲むのってことは何となく大人のデートみたいだ。
『あ、悪い。ってかの用を聞くの忘れてるよな、オレ』
「え?」
『どーした?何か用だった?』
「う、ううん。あの…わたしもマスターのとこ行こうと思ったからリョータくんもどうかなって思って…」
そうだ、最初はそのつもりでかけたのだ。でもリョータくんのペースにすっかり乗せられ、言うのを忘れるところだった。リョータくんは『マジ?じゃあちょうど良かった』と言って笑ってくれた。それから一時間後に、わたしはリョータくんとマスターの店で待ち合わせをした。この前のバス停からバスに乗って3分。バスを降りたらマスターの店が目の前にある。この前は昼間だったけど、夜に来てみるとアンティーク風のライトが木製のドアを良い感じで照らしている。確かに夜の【Bica】は喫茶店というより住宅街にポツンとあるお洒落なバーにも見えた。
(だ、大丈夫かな。こんな服装で…)
夜、それもリョータくんと一緒にお酒を飲むということで、少し大人っぽい恰好をしてみた。黒のニットワンピにブーツ。髪も撒いてふんわりとアップにしてみた。メイクも普段よりは顔色が悪く見えない程度に色を足して口元だけ薄目のピンクにしておいた。こんなメイクしていったら気合入れ過ぎと思われないか不安だったけど、すでに来てしまったのだから入るしかない。リョータくんは先に行って飲んでると言ってたから、もう来てるはずだ。
「よし」
電話をかける時と同様、気合いを入れて深呼吸をすると、わたしは木製のドアをゆっくりと開けた。来客を知らせる鐘がリンリンと二回鳴るのは前回と同じだ。
「いらっしゃい、ちゃん」
寒い外とは裏腹に店内はほんわかとした温かさに包まれていて、マスターの優しい笑顔と相まってホっと息を吐く。
「こんばんは、マスター」
「リョータくん、この前の席にいるよ」
「あ、はい」
店内は先日とは違い、カウンターやメインテーブルはお客さんで埋まっていた。見る限り殆どがカップルばかりだ。
「ああ、そうだ。先に飲み物だけ聞いておこうかな」
奥へ歩きかけた時、マスターに言われ、わたしは「あ、じゃあグラスビールありますか?」と尋ねた。まさかこんなお洒落な店でジョッキでは出てこないだろう。マスターは「あるよ」と笑いながら応えた。それを注文し、わたしは今度こそ奥にいるリョータくんのところへ歩いていった。仕切り代わりの棚の奥を覗くと、リョータくんはこの前と同じ椅子に座り、どこか落ち着かない様子で足を揺らしている。わたしが遅くてイライラしてるのかと少しドキっとしたけど、気配に気づいたのか、振り返ったリョータくんの顔はすぐ笑顔になった。
「…おー。迷わなかった?」
「迷わないよ。隣の停留所で店は目の前だもん」
「だよな」
笑いながら応えると、リョータくんは頭を掻きつつ笑って「あ、ここ座れよ」と隣の椅子に置いてあった自分のコートを避けた。ふと壁を見ればコート掛けが設置されている。わたしはリョータくんのコートをそこにかけて自分のも隣にかけた。
「あーサンキュー」
「ううん。遅くなってごめんね」
「いや…そんな遅くねえよ」
リョータくんはどことなく落ち着かない様子で笑っている。わたしが隣に座ると、ちょうどマスターがグラスビールを運んで来てくれた。見ればリョータくんも同じものを飲んでいる。
「はい、グラスビール」
「ありがとう御座います」
「ああ、ふたりとも何かフードでも食べるかい?」
マスターは言いながらメニューを見せてくれた。昼間とは違うメニューで、なかなか美味しそうなものがある。
「うわ、生ハムとか美味しそう。チーズの盛り合わせもいいなぁ…」
お腹が空いているせいで、どれも美味しそうに見えてしまう。わたしが迷っているとリョータくんがメニューをめくってあるものを指さした。
「これ、おススメ。マスターの作るラザニアはちょー美味いから」
「え、ほんと?」
「オレ、大好きで週3は食ってるよな」
「そうだねー。リョータくんは飲みに来たらだいたいラザニアだね」
そんな会話を聞いていると、わたしもそれを食べたくなって来た。
「じゃあラザニア下さい。あ、あとやっぱりチーズの盛り合わせも」
「了解。リョータくんもそれでいいかい?」
「うん。あ、それとパンもね。手作りパン最高なんだよなーふわふわで」
「はいはい。パンもね」
マスターは笑顔で頷くとカウンターへ戻っていく。他のテーブルからも注文が入って忙しそうだった。
「よし、じゃあ~乾杯」
「あ、うん、乾杯」
ふたりでグラスを合わせると、チンという小気味いい音が響く。冷えたビールを一口飲むと、乾いた喉に刺激が来て凄く美味しく感じた。リョータくんも「うまー」と言いながら、ビールを美味しそうに飲んでいる。その姿を見て、こんな風にお酒を飲める歳になったんだなぁと何故かシミジミしてしまった。
「ん?どした?」
「あ…うん…。ほら、わたしたち高校卒業してから会ってなかったし…こうしてお酒飲める歳になったんだなーと思って」
「あー確かになー。は酒強いの?」
「そんなには…でも嫌いじゃない、かな」
「じゃあ大学の友達とかと飲み会とかやったりするんだ」
「うん、時々は」
「へー」
お酒を飲みながらだとほろ酔いで緊張も解れるし、この前とは違った会話も出来るのが嬉しい。リョータくんもビールの次はハイボールを飲みだして、わたしも同じものを頼んでみた。
「うわ、美味しいけどこれ度数強いから酔いそう…」
「飲めなそうなら無理すんなよ?」
「うん、これ一杯でやめとく」
ビールも結構飲んでしまった後だから余計にふわふわしてしまうけど、今日のお酒は特別美味しいかもしれない。リョータくんの言った通りラザニアも美味しいし、飲む相手が違うだけでこんなにもお酒って楽しくなるんだ。大学の友達との飲み会も楽しいけど、それとはまた別の楽しさがある。やっぱりリョータくんとだからかな、なんて思ってしまった。
その後も食べて飲んで、いい感じに酔いが回って来た頃、リョータくんが不意に訊いて来た。
「そう言えば…は…さ」
「ん?」
「彼氏とか…いんの?」
「えっ?」
突然のぶっこんだ質問に思わず声が大きくなってしまった。リョータくんが少しだけ驚いた顔をしている。
「やっぱ、いんのか…」
「え?あ、いや、いないよっ」
リョータくんの反応に驚いて慌てて否定する。もし彼氏がいるなら、こんな風にリョータくんとふたりきりで会ったりはしない。でもわたしは大学生にもなって彼氏のひとりも出来たことはなかった。大学の男の子と何度かそういう空気になったことはあるけど、どうしてもそれ以上踏み込むことは出来なくて、結局最後は相手も焦れてしまうのか、すぐ他の女の子の方へ行ってしまうのだ。それを見てわたしも"何だ、そんな好きじゃなかったんだ。軽い気持ちだったんだ"と思うようになった。リョータくんがどんなに冷たくされても一途にアヤちゃんを想っていたように、わたしも誰かに一途に想われたい。そんな風に思うようになったのは、リョータくんが原因だ。きっとあの頃から、わたしはリョータくんにあんな風に想われたかったんだと思う。
「え、いない、の?」
少し驚いたようにリョータくんはわたしの顔を覗き込んで来た。こんな近くで目が合ったことなんてないから心臓にかかる負担がヤバい。
「恥ずかしながら…。リョータくん、は?」
さりげなく尋ねると、リョータくんはあっさり「オレ?オレはいない」と応えた。でも絶対モテるはずなのに、彼女がいないと聞いて少し驚いたけど、どこかでホっとしていた。アヤちゃん以外の女の子を見ているリョータくんはあまり想像できない。
「そうなんだ…リョータくんいそうなのに。モテるでしょ?」
「え?いや…オレ、フラれてばっかだったじゃん。高校ん時」
高校、と訊いてドキっとした。アヤちゃんのことを言ってるんだろうかと思ったけど、リョータくん曰く「10連敗してバスケ部のコーハイと公園で泣いた」そうだ。そんなの初耳でわたしは思わず「ウソ…」と言ってしまった。
「え、嘘じゃねえって。マジだよ、マジ。あん時はキツかったなー」
リョータくんは苦笑しながらハイボールを煽っている。でもわたしは少し納得がいかなかった。
「で、でもリョータくん…アヤちゃんのこと好きだった…よね」
「………」
気づけばそんなことを口走っていて、しまったと思ったけどもう遅い。古傷を抉ってしまっただろうかと凄く後悔した。
リョータくんが黙ったままグラスをゆっくりとテーブルに置くのが見えて、鼓動が少しずつ速くなっていく。
「まあも知ってるよな、確かに。アヤちゃんと仲良かったもんな」
「う、うん…まあ。リョータくんは……今もアヤちゃんのこと…」
好きなの――?
そう聞きたかった。けど聞くのが少し怖いと思ってしまった。まだ好きだと言われるのも、もう好きじゃないと言われるのも、どちらも怖い。わたしはアヤちゃんに一途なリョータくんを好きになったから、どっちの答えでもきっと切なくなるのは目に見えている。だからその先の言葉は言えなかった。なのにリョータくんはふとわたしを見ると、
「オレ、がっつりフラれたんだよ」
「……え?」
「卒業式の時、改めて告白して盛大に失恋した。まあ…分かってたんだけど」
「リョータくん…」
「でも何かスッキリしてさ。そっからはバスケが恋人って感じ。まあ、そんで燃え尽きたみたいに恋愛とか興味なくなっていって…」
「そ……そーなんだ…」
あのリョータくんがまさかそこまでダメージを負っていたとは思わなくて胸が苦しくなった。大好きな人に失恋したらそうなってしまうのも分かる気がする。
「って思ってたんだけどさ」
「え?」
不意にリョータくんが顔を上げて、わたしを見た。その瞳の奥にはあの頃のようなキラキラした熱があるように感じて、かすかに頬が赤くなる。こんな風にリョータくんに見つめられる日が来るなんて思わなかった。
「何かこの前からオレ…変なんだよな」
「…へん?」
「………」
リョータくんは不意に黙りこんで、困ったように目を伏せた。心なしか頬が赤い気がするけど、それはアルコールのせいかもしれない。というか急に元気がなくなったように見えるけど、どうしたんだろう。
「あ、あの…どうかした?酔っちゃった?」
そっと顔を覗き込むと、リョータくんはハッとしたように顔をあげてわたしを見た。その時の表情は前にも見たことがある。顔を赤くして照れてるような、そんな顔。アヤちゃんを見ていた頃の、リョータくんだ。
「酔って…んのかもしんねぇけど…でも今から言うことは…マジだから」
「…え…何を――」
と訊こうとした時、リョータくんは真剣な顔でわたしを見つめた。
「オレ…のこと今すごく…気になってる」
「……えっ!」
あり得ない言葉が聞こえて来て、わたしはまたしても声を上げてしまった。というか聞き間違いかもしれないとも思った。だってリョータくんはわたしのこと女として見てないと思ってたから。アヤちゃんの友達その1くらいに思われてたはずなのに。
「えっと…リョータくん、それって…」
どういう意味?と訊きたかった。でもその前に彼はハッキリと言った。
「オレがのこと好きになったら…迷惑?」
「………」
今度はわたしの頬が赤くなったかもしれない。あまりに夢のようで思考が一時停止している。でもそのせいでリョータくんは勘違いしたようだ。
「やっぱ…迷惑か…」
ズーンと音が聞こえてきそうなほどに項垂れて、背景に黒を背負ってるみたいに暗くなってしまった。それを見てあたしはハッと我に返ると「ち、違う」とリョータくんの顔を覗き込んだ。
「め、迷惑じゃない…ただ驚いちゃっただけで…」
「…マジ?」
ガバっと顔を上げたリョータくんの顔に僅かながら笑顔が戻ってホっとした。っていうかそんなホっとしている場合じゃないかもしれない。だって今、わたしがリョータくんに告白されるとか、そんなあり得ないことが起きている。
「良かったあぁ…」
リョータくんはホっと息を吐き出していて。その姿を見て、ますます謎が深まっていく。
「でも……何でわたし…?」
思わず気になったことを訊いてしまった。だってリョータくんがわたしのことを好きになる要素ってどこにあったんだろうって思ってしまったから。
「え、何でって?」
リョータくんは驚いたようにわたしを見て不思議そうな顔をしている。
「だ、だってわたし…アヤちゃんとタイプも全然違うし、リョータくんの好きなタイプから外れてると思ってたから…」
こんな時にアヤちゃんの名前を出すのはどうかとも思ったけど、でもやっぱりリョータくんと言えばアヤちゃんなわけで、わたしの中ではどうしたって外せない存在だ。それにやっぱり一番聞きたいのはそこだった。
リョータくんは一瞬キョトンとした顔をしたけど、すぐに真剣な顔で「外れてねえよ」とひとこと言った。
「っていうか…オレ、アヤちゃんがタイプだから好きになったとかじゃねえし…のことも同じなんだ」
「え…それってどういう…」
「しいて言えば…好きになった子がタイプってこと。だから…が今のオレのタイプって言えば分かる?」
「………」
ストレートに言ってくれた言葉にドキっとさせられた。リョータくんがわたしのことを好きだと言ってくれてるって、他人事みたいに感動してる。
「オレ、この前と再会した時に凄くドキっとした。まあ…パンツ見ちゃった直後ってのもあったからかと思ったんだけど――」
「ちょ、そ、それは…」
「ああ、いや違うよ?それで好きになったとかじゃなくて!」
リョータくんは真っ赤になって首を振っている。わたしも改めて下着を見られたんだとハッキリ分かって物凄く恥ずかしくなった。でもリョータくんは真面目な顔で言葉を続けた。
「オレ、さっきも言ったようにアヤちゃんに失恋してから燃え尽きたみたいに女の子に興味なくなってさ。どんなに可愛い子ばっかの合コンに行っても全然その気になれなくて。少しもときめかねえし、オレ終わってんじゃんとか思ってたワケ。なのにあの日と目が合った時、すっげードキドキしたんだよ。その子がだって分かって何か勝手に運命感じたっつーか…。それにと久しぶりに話が出来てめちゃくちゃ楽しかったのと、改めていい子だなーって思ったら…凄く気になってきてさ。思わず先走って電話番号なんか教えちゃったし。でもアヤちゃんの時みたいに暴走したら嫌われるかもって思ったからまあ…ちょっと抑え気味で今日は誘ってみたんだけど…やっぱちゃんと気持ち言いたくなった。ごめん」
一つ一つ、リョータくんの素直な言葉が胸に沁みてくる。きっと言いにくいこともあったんだろうけど、逆にそれがリョータくんの本心なんだって思えるから凄く嬉しい。
「ぼ…暴走してもいいのに…」
「え?」
「わたしね…高校の時からリョータくんのこと…」
「は?えっ?」
「ずっと好きでした」
正直に告白してくれたリョータくんに、わたしもお酒の力を借りて、きちんと気持ちを伝えたくなった。案の定、リョータくんは物凄く驚いてた。まさか高校の頃からだとは思わなかったみたいだ。でも確かに他の子に夢中になってる人を好きになるだなんて、普通は思わないだろう。そこで正直にわたしもリョータくんを好きになった理由を話した。
「…え、…それってアヤちゃんを好きなオレを好きだったってこと…だよな」
「う、うん…まあ…」
「ってことは……今のオレじゃダメって…こと?」
もっともな質問だと思う。でも少し違うんだって気づけたのは、リョータくんと再会できたからかもしれない。
「わたしは…リョータくんの一途なところが好きなの。だからその…」
わたしのことも一途に好きでいて欲しい、なんて恥ずかしくて言えなかった。なのにリョータくんは「そこだけは誰にも負けねえ」ときっぱり言ってくれた。
「ってことで…改めて言うけど」
「う、うん」
不意に私の方へ向き直るリョータくんを見て、わたしもつい背筋がピンと伸びてしまった。
「オレと…付き合って欲しい」
夢にまでみたリョータくんからの告白は、思ったよりも酔っていたわたしの涙腺を甘く刺激したらしい。その言葉を耳にした時、目の奥が凄く熱くなって涙が予告なしに零れ落ちてしまった。
「え、何で泣くの」
「…う、嬉しいから…」
「いや、嬉しいのはオレの方なんだけど…」
リョータくんは突然慌て出して「オレ、ハンカチとか持ってねえよ」と言いながら、わたしの頬を指で拭ってくれた。あの頃と同じ優しさが、今も彼の中にたくさん溢れているみたいだ。
「リョータくん……」
「ん?」
「大好き…」
高校の時からひた隠しにしていた想いを初めて解放したら、リョータくんの顏が真っ赤になった。
後日談もぼちぼち…笑