綺麗、と思った。
流れるような動作で動く指先。
細くて、長くて、でも少し骨ばっていて。
男の人の手だなぁ、って思う。

「どうしました?
「え?」
「ボーっとして」
「あ…すみません…」

笑って誤魔化すので精一杯。
Lの指先が綺麗だったから、目が離せなかっただけなの。
と言って、その綺麗な指先が今摘んでいるものは、Lの主食でもある甘い甘いお菓子。
最初にとったのは動物の形をしたクッキー、その次に取ったのは三角型のチョコレート。
そして今はつぶつぶ苺ポッキーをひょいっと摘んだ。
せわしなく動く、それは、まるで子供が沢山のお菓子を目の前にして、どれを食べようか迷っているようだ。

向こうでは皆が忙しく仕事をしてるというのに、この一角と言えば、テーブルの上にはお菓子やデザートの山。
私が持って来た書類も、今はLの足元に無造作に置かれたままで、一向に目を通す気配はない。
この人は仕事をする時と、休む時をキッチリ分けている。
今はひと時の休憩タイムというところだろうか。

私はと言えば、Lが書類に目を通し、OKを出すまでは動けない。
だから皆が仕事をしているというのに、こうしてLの隣に座り、彼がやたらと甘い物を口に運ぶのを黙ってみている。
でも、この時間は嫌いじゃない。
皆から少しだけ離れたこの場所は、いつも静かな時間が流れていて、何となく気分が落ち着く。
でもきっと、それはLがいるから。

「紅茶、飲まないんですか?」
「え?あ…飲み…ます」

いつまでも紅茶に手をつけない私に、Lは不思議そうな顔をした。
言われるがまま、少し冷めてしまった紅茶を口に運ぶと、Lはふわりと笑った。
他の人から見れば、それは笑った、とは言わないくらいの、ほんの少しの表情の和らぎ。
でも普段、彼は滅多に笑ったりしないから、こうして見れるのは貴重だな、と思う。

――好きだな、って思う。

はいつも美味しそうな顔で紅茶を飲んでくれますね」
「え、そう、ですか?」
「ええ。見ていて、嬉しくなります」

いつも見られてたのか、と頬が少し赤くなった。
でもそうじゃない。
私はLといるから、そんな顔になる。
Lがいるから、こんなにも楽しい。
何もしない時間でも、Lが子供のようにお菓子を選んでいる姿を見ているのが楽しい。

「Lも…美味しそうに食べますね」
「ホントに美味しいですから」

またLが頬を綻ばせた。
こんな風に柔らかく笑う彼を、何度も見れるなんて、今日はついてるのかな。

「それに楽しそう、です」

機嫌がいいのか、と思ってそう口にすると、Lは私の方に顔を向けて、ジっと見つめてくる。
一人分空いてるとは言え、この距離で彼の大きな瞳に見つめられると、心の奥底まで見透かされてしまいそうで恥ずかしくなった。
そう思っていると、私とLの間にあった空間が、少しだけ埋まった。
私が近づいたんじゃない。
Lが、その隙間を埋めたのだ。

「そう見えるなら、そうなんでしょうね」

さっきまで見惚れていた手が、そっと頬に触れるのを、まるでスローモーションのように見ていた。

といると、いつでも私は楽しいんです」

暖かい感触が背中に感じるのと同時に、唇に柔らかいものが触れた。
意識を集中していなければ、何が起きたのか分からないほどの、掠めるくらいの、軽いキス。
何度か瞬きをした私を見て、Lはやっぱり柔らかい笑みを浮かべた。
背中に回っていた腕に、少しだけ力が入ったのと同時に、Lの肩が顔にぶつかる。

も、そんな顔をしてました」

ああ、やっぱり見透かされてる。
Lには、敵わないなぁ。
ぶつけた鼻が、少しだけヒリヒリするけど、こんな痛みなら、いつだって受け入れたいよ。


少し離れたところで、皆は仕事をしてるのに、私はLの腕の中で。
また唇が重なって、何度も触れ合って、言葉を交わさない静かな空間が二人を包む。
私達は、何度もキスをして、そして、


何度も唇だけで呟いた

…好き

久々のLで短編。
恋人じゃなく、片思い中のような、でも両思いだったよって感じの二人。
もどかしいけど、でもそんな関係も好きだな。

皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【SICILY...管理人:HANAZO】