頭の中身が覗けるものなら覗いてみたい。
そう思うほどに最初は変な人だと思った。
これほど変わった人は、そう簡単にお目にはかかれないだろう。
きっと彼の脳みそは、どのコンピューターよりも正確に物事をインストールしているに違いない。

そして彼はとても残酷。
正義の為なら手段を選ばない。
彼の持つ"正義"と、私の持つ"正義"は全く異なる物だった。
当然のように、彼と、私は悉くぶつかった。

「人の命をゲームに使わないで」

そうなじった事もある。
それでも表情すら動かさず、「キラを捕まえる為です」と言い切る彼は、とても冷たい人だ、とそう思った。
彼には何かが欠けている。
人間としての暖かみが、彼からは感じられない。
そう思っていた。
でもその反面、近づけば近づくほどに、興味をそそられる、目が勝手に追ってしまう。
もっと、もっと、知りたい、と思ってしまう。

はいつも私の事を責めてばかりですね」
「責めさせてるのは竜崎でしょう?」
「…日本人は頑固です」
「そんな事に国なんか関係ないじゃない。竜崎だって、相当な頑固者よ?」

彼は私のその言葉に、ムっと唇を突き出した。
まるで子供がスネた時のように。

「もう少し私のやる事、理解してくれませんか」
「…理解できる事をしてくれたらね」
「…はぁ」

重苦しい溜息が部屋の中に充満している。
昼も夜も、このコンクリートの箱の中にいて、気の合わないもの同志、仕事の話ばかりしている状況なのだから、それも当然だ。

「少し休憩にしましょうか」

同じ事を思っていたのか、彼はそう言うと、ソファの上から足を下ろし、用意されていたポットから紅茶を注いだ。
私は私で、これ以上、話す気はないのだ、と解釈し、資料をまとめると、その場を後にしようとした。

「どこへ行くんです?」

ドアノブに手をかけた瞬間、そんな言葉が追いかけてくる。
振り向いてみれば、彼、竜崎は私の分まで紅茶を入れてくれたのか、カップを二つ手にして、立っていた。

「竜崎が話したくないのかと思って」
「そんな事は言ってないじゃないですか。お茶くらいは付き合ってください」

いつもの無表情だから、彼の真意は分からないけど、ここは素直に言う事を聞くべきだろう。
それに今は仕事の時間ではないし、構える必要もない。

「…頂きます」
「どうぞ」

ソファに座り、紅茶に口を運ぶ。
竜崎は紅茶にうるさいだけあって、その味はなかなかのものだ。

「これ美味しい…」
「お口にあって良かったです」

隣に座った竜崎は、僅かに笑みを浮かべている。
こんな表情、普段は殆ど見る事は出来ない。
そう思っていたら、彼もまた、「やっと笑顔を見せてくれましたね」と一言、呟いた。

「私、普段そんなに仏頂面してる?」
「ええ、かなり」
「はっきり言うのね」
「本当の事ですから」
「…それを言うなら竜崎だってそうでしょ?」
「時と場合によりますけど…今は仕事の時間じゃありませんし」
「竜崎でも人間らしいこと、言うのね」

思わず素直な感想を述べてしまった。
ちょっと言いすぎたかな、と隣に視線を向ければ、案の定、彼の口元は尖っていた。

「私は人間ですけど」
「そ、そうだけど…時々そう思えない時もあるってこと!」

私の言葉に、彼は複雑そうな表情を浮かべ、やっぱり渋い顔をしている。

「キラを追うと言う事は、時に非情にならなくてはなりません。それがにとって、残酷だと思うような事でも、私にとっては必要悪なんです」
「でも死刑囚を自分の身代わりにしたり、容疑者を監禁したりっていうのは行きすぎだと思うわ?"L"という存在はキラと相反していなくちゃならない存在よ?」

いつの間にか私もムキになっていた。
仕事の時間じゃないはずなのに、いつもの問答が始まってしまう。
正直、私だって同じ事を何度も言いたくはない。
彼の能力は認めている。
ただ、もっと人に優しくあって欲しい…と思ってるだけ。
キラと同じような残酷さは、彼にはいらないのだ。

の言っている意味も分かります。でも…私だって人間なんですよ?…」

突然、いつもの力強さがなくなり、呟くような弱々しい言葉にハッと息を呑んだ。
どういう意味なんだろう、と考えていると、彼は静かにカップを置いて、言葉を続けた。

「残酷な事件が起きれば、人並みに悲しくもなりますし、楽しい時には笑ったりも出来ます。さっきのように」
「…楽しい?」

何が?とは聞く必要がなくなった。
いつの間にか私の手に重なった彼の手。
その体温に少しづつ鼓動が早くなっていく。

「好きな人といる時間は、楽しいに決まってるでしょう?」
「…好きな…人…?」

彼の言葉は一つ一つが真剣で、互いの目を見詰め合ったままだと、何故か胸の奥がざわざわしてくる。
私の問いに、竜崎は「気づいてなかったんですか?」と呆れたように溜息をつき、重ねたままの手を、少しだけ握り締めた。

「私だって、人並みに恋というものくらいはするんですよ。人並みに恋をし、その人を守りたいと思う。そのためには手段を選ぶ余裕さえなくなってしまう事もあります」

たとえ、その相手から"残酷だ"などと罵倒されたとしても。

竜崎はそこまで言うと、黙って私を見つめた。
この彼の告白すら、あとから思い返せば竜崎なりの洗脳だったような気さえしてくる。

「恋…?」
といると胸の奥がざわざわします。最初は何かの病気かと思ったほどですが(!)それとも違う。
その症状はといる時にしか起こらないですし、またその症状が起こる時、私は不快ではなく、むしろ楽しい時が多いんです」

淡々と説明してくれる竜崎に、暫し呆気にとられる。
でもそれを言うなら、今、私だって胸の奥がざわざわしてる。
竜崎と見つめあい、彼に手を握られた、この状況に、ドキドキ、してる。

「この想いを恋と呼ぶなら、そうですね、私はに恋をしているんでしょう」

(しているんでしょう、なんて他人事みたく言われても!)

内心、突っ込みながらも、思ってもいなかった、この状況に鼓動が早くなるのと同時に顔が熱くなる。
真剣な瞳で私を見つめている竜崎は、どこか知らない男の人のようで、それでいて、ずっと前から知っていた気さえする。

は…私の事、好きになってくれますか?」

その告白に返事をするのは、少しの時間が必要だった。
私の本心を伝えるのは、少しだけ悔しい気がするから。

竜崎に優しくなってもらいたかったのは、それだけの理由が、私の中に確かにあったからなんだ。

優しいあなたは好きだけど、残酷なあなたは嫌い。


恋はいつでも矛盾している。


たまには"竜崎"でドリを書いてみたり。
一緒に仕事をしてる仲間同士、みたいなノリで;
私はLなら何でも許せちゃいますけどね。例え変態でも―(ヤメレ)
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【SICILY...管理人:HANAZO】