(※注⚠ 死ネタです。苦手な方は注意して下さい)



1.

死ぬ瞬間は走馬灯が見えるってよく言うけれど、あれは本当なんだと実感した。
よりによって団長に貸してる時に襲撃されるなんてついてない。いや、だからか。
致命傷を受けた瞬間、ガキの頃から今日までの映像が一気に頭へ流れこんで来る。
最後に脳裏をよぎったのは――泣き虫の彼女の顔だった。



2.

「ほんとに…ウボー死んじゃったの…?」

ウボーに懐いていたは、アイツが戻らないと知って大泣きし始めた。旅団一非力だけど、流星街の頃からみんなのマスコット的な存在のをウボーもかなり可愛がっていた。も兄貴みたいにウボーを慕っていたから、家族を失ったような感覚が強かったんだろうと思う。パクが死んだ時はもっと悲惨だった。目の前でそれを見てしまったは、ウボーを失った傷もまだ癒えてなかったから、ショックで気を失って一週間も意識が戻らなかった。きっとツラい現実から目を反らして、優しい夢の世界に留まりたかったのかもしれない。

「シャルは…死なないでね」

意識を取り戻してすぐ、がオレに言った言葉。大きな瞳に涙をいっぱいためて、声も震えてたっけ。あの時は「縁起でもないこと言うなよ」って笑ってしまったけど、だけは真剣だった。一番弱いクセに、いつも仲間の心配をしてばかりの彼女のこと、オレは大好きだった。流星街にいた頃から、いつも後ろをくっついて来る小さな女の子のことを、ずっと大切に想って来た。

オレはウボーみたいに頼りがいのある兄貴にはなれなかったけど、が泣きだした時はオレが彼女を慰める役まわりで、泣き止むまで何時間でもの傍にいた。宥めたり、頭を撫でたり、抱きしめたり。が泣き疲れて、眠ってしまうまでがデフォルトだったなぁ。キメラアントが流星街に侵略してきた時も大変だった。虫が大の苦手なは終始顔面蒼白で、最後は泣きながら女王アリの部下と戦ってたと、近くにいたフェイタンが教えてくれた。

の泣き声うるさかたね…」

耳を塞ぎながらフェイタンは愚痴ってたけど、意外とその顔は優しいもので。何だかんだアイツものことを妹のように大事にしてるのをオレは知ってる。フェイタンだけじゃない。フランクリンにフィンクス、ノブナガとマチ、そしてもちろん団長も。

は意外と泣いてた方が強いんじゃないか?」

いつか団長がそんなことを言ってからかってたけど、オレもそう思う。泣いてオーラを爆上げするなんてらしいと笑ってしまう。けど、これからは彼女が泣いたら誰が慰めてやれるんだろう。オレがいなくなった後は、誰か泣き虫の彼女の涙を拭いて、頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめてあげて欲しい。そして大好きだよって言ってあげて。
きっとはすぐに笑顔を見せてくれるから。

(ああ…オレが死んだと知ったら…はまた泣いちゃうんだろうなぁ…)

せめてオレの死が、彼女に少しでも優しく届くよう願わずにはいられない。
もうオレは涙を拭ってあげることも、頭を撫でてあげることも、抱きしめることさえ、してあげられないから。