01:バスタブに愛は浮かない [ bathtub ]




少女 × ト × 幻影旅団


「……団長、その子供、どうした」

燃え盛る劇場から普通に歩いて出てきたクロロの手に引かれているのは、小柄な少女。その光景が信じられないといった様子で先に口を開いたのは、フェイタンだった。皆殺しにしたはずだという気持ちと、例え奇跡的な確率で生き残りがいたとしても、どうしてクロロが殺さず連れて来たのかという疑問。言葉にしなくても、他の団員達すらフェイタンと同じような顔でクロロと少女を見ている。

「無傷のままステージの裾に隠れていた」
「……無傷?ありえないね」

鋭い目を細め、フェイタンが顔を顰める。しかし目の前に立つ少女の身体には傷一つない。

「おかしいね。手加減した覚えないよ」

言いながら他の団員達――この場合シャルナークとマチだ――を睨む。当然睨まれたふたりは徐に顔をしかめた。

「私達が手加減したって言いたいの?」
「ちょっとちょっとー。散々暴れたの見てたでしょっ」

そんなふたりに対しフェイタンが更に何かを言いかけた時、クロロが間に入った。

「そうじゃないのは分かってる。だが……」

クロロはそこで少女を見下ろした。少女もクロロを見上げると、縋るように繋いだ手を握り締める。まるで置いていかないで、と言わんばかりだ。

「この通り、この少女だけが生き残っていた。きっと何かの力を持ってる」
「……この子供がか」
「ああ。何の力か興味がある。ついでに言えばは流星街の奴らと同じ目をしていた。だから――連れて来た」
「同じ、目?」

そこでフィンクスが眉間を寄せた。この小奇麗なガキがオレ達と同じ?とでも言いたげに目の前の少女を見つめる。は大勢の団員達を目の前にしても怯えた様子もなく、無表情で立っていた。その瞳は暗く何の希望も抱いていない冷めたもので、綺麗な虹彩を放つ瞳すら、ガラス玉のようだ。フィンクスは僅かに笑った。

(――このガキ、確かに全てを受け入れてる。たとえここで殺されそうになっても命乞いなどしないだろう)

「で……どうすんだよ、そのガキ。まさか―――」

長身でちょんまげの男、ノブナガが驚いた表情を見せた。

「そのまさか、だ。こいつの親はさっきオレ達が殺した女優だったらしい。行くあてもないというしは一緒に連れて行く。」
「マジかよ…。っつー事は旅団クモに入れるって事か?」
「今はそこまで考えていないが…入れる入れないにしろ暫くは傍に置く。少々気になる事もあるしな」

ノブナガの問いにクロロは楽しげな笑みを浮かべる。こんな団長を見るのは久しぶりだ、とその場にいた全員が思った。

「嫌か?どうしても反対するなら一応みんなの意見も聞くが」

何も言おうとしない団員達にクロロがとりあえずそう提案する。幻影旅団のルール上、通常ならば団長であるクロロの命令は絶対だ。しかし時に団員同士の意見が分かれた場合、団長であるクロロも団員各自の意見を最大限に尊重しつつ、重要な事は団員全員の合議によって決めるという形をとる場合もある。その他に団員同士の揉め事はコイントスで決めるというルールがあり、それで勝った者の意見が優先される事になっていた。

「どうする?」

クロロからの申し出に団員達は互いに視線を合わせる。その様子は必ずしも大反対という空気でもない。

「……ま、面白そうじゃない?団長が目に留めたんだし。こんなの久しぶりじゃん」
「シャル…お前はホント呑気だな。オレ達はこのガキの親を殺してんだぞ。いつ復讐者になってもおかしくねえ」
「ノブナガが考えすぎなんだよ。その時は―――」
「殺せばいい。簡単ね」

フェイタンが薄く笑い、シャルナークも笑顔で肩を竦める。他の団員達もその通りと言わんばかりに笑った。

「――決まりだな」

皆の顔を見渡し、クロロは笑った。



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