02-1:フェードアウトにはまだ早い [ fade out ]




仲間 × ト × 笑顔


警察が会見を開く少し前。パクノダに新しい服を用意してもらったは、クロロとルクソ地方に向かうべく、アジトを後にしていた。同行するのはウボォーギン、ノブナガ、フェイタン、フィンクス、シャルナーク、フランクリン、マチにパクノダ。この8名だ。劇場を襲ったメンバー全員が昨夜の疲れも見せず参加する事になった。特に戦闘好きのウボォーギンは緋の眼よりも、クルタ族の戦闘能力に興味を示したようだ。

「おいガキ。本当に強い奴ばっかなんだろうな?」
「うん。男の人はみんな子供の頃から鍛えてるの。少数民族だから身を守る為にそうしてるってサイが言ってた」
「サイ?誰だ?そりゃ」
「……幼馴染だった男の子」
「へえ。仲良かったのか?」

ウボォーギンの問いに対し、はすぐに応えることが出来なかった。それでも思い出を振り切るように首を振ると「……昔は」とだけ答えた。

「おい、ウボー。そいつはだ。ちゃんと名前で呼んでやれ」
「あ~そうだったな。悪い悪い」

咎めるような口調で振り返るクロロに苦笑しつつ、ウボォーギンはその大きな手での頭を撫でようとした。しかし頭の上に来た手を見た途端、咄嗟に首を窄めるを見てウボォーギンは慌ててその手を引っ込めた。

「な、何だよ?殴るわきゃねえだろ?お前はもうオレ達の仲間だぜ?」
「ご、ごめんなさい!つい……」

困り顔で目線を合わせるウボォーギンを見て、は泣きそうな目でクロロを見た。クロロもその様子に気づきの元へ歩いて来る。

「ウボー気にするな。のソレはクセだ。さっき話しただろう?」

の過去については、あの後クロロからみんなに説明された。蝶よ花よと育てられたと思っていた女優の娘――。予想外とも言えるその悲惨な生い立ちに、みんなは流星街の子供達を重ねたのか、彼女を団員に迎えるとクロロが言いだした時、異議を唱える者はもう一人もいなかった。

「ああ…分かってるよ。気にしちゃいねえ。もそんな顔すんなって」

申し訳なさそうに俯いているを見てウボォーギンは今度こそ、優しく頭を撫でた。最初こそビクリと肩を揺らしたものの、髪の毛をぐりぐりとされる感触に思わず笑みが洩れる。

「こんな風に頭撫でられたの初めて……」

それは少女が初めて見せた自然な笑顔だった。の嬉しそうな顔を見て、ウボォーギンもまんざらでもなさそうな様子だ。

「こんなんでいいなら何度でも撫でてやるぜ」
「……い、いたたっ。痛いよ、ウボーさん」

力任せに髪をクシャクシャとすればから可愛い抗議の声が飛ぶ。それを見てシャルナークとノブナガが呆れたように笑った。

「お前のバカ力で撫でてたらの頭がもげるだろが」
「そうだよーウボー。少し加減してやらないと」
「わ、分かってんだよ!――痛かったか?」

ばつの悪そうな顔でを気遣うウボォーギンに、パクノダもクロロと視線を交わし微笑んだ。

「どうやら仲良く出来そうね、団長」
「ああ。死ぬほど意外だがウボーはああ見えて、あんがい子煩悩なんじゃないか?」
「……ぷっ!やだ……。凄く似合わない」

クロロの言葉にパクノダは思い切り噴き出した。団員一、暴れん坊のウボォーギンでも、新しく仲間になった少女をどう扱っていいのか分からない様子だ。

「でも流星街では良く下の面倒を見てたろ?」
「ああ、でもそれは男の子達でしょ。オレがお前らを鍛えてやるとか言って。は女の子だもの。扱いに困るでしょうね」
「……なるほど。男女の違い、か」

クロロはを肩車しだしたウボォーギンを見て、確かに似合わないな、と苦笑を洩らす。他のみんなも同じ意見のようで散々からかっているが、特にフェイタンに至っては少女を肩車しているウボォーギンの姿を見て、元々細い目が驚きの表情で点になっている。

「何か気色悪い光景見てるね。ワタシ吐き気してきたよ……」
「ああ?誰が気食悪いって?」
「お前だよッ!」

本気で吐き気を催している様子のフェイタンに代わり、ノブナガが口を挟む。

「何だそりゃあ。親父にでもなったつもりか?ウボーさんよ!」
「誰が親父だ!せめて兄貴くらい言えっ」
「ぶははっ!その汚ねえツラでの兄貴名乗っても誰も信用しねえよ」
「更に汚ねえツラのてめえにだけは言われたくねえぞ、コラァ」
「……あ?やんのか?」
「上等だぁ」

いつの間にか互いにキレている。ふたりの"じゃれあい"はいつものこと、と他の団員達は呆れ顔だが、肩車されたままの状態にあるはオロオロと困った様子だ。あまりにうるさくて放っておいたクロロも呆れ顔で溜息をついた。

「おい、団員同士のマジギレは――」

「あ、あのウボーさん!ありがとうっ。もう下ろしてくれて構わないからケンカしないで」
「…………」

クロロが口を挟む前にが慌てたように叫び、ウボォーギンは振り上げた拳を、ノブナガは抜きかけた刀を、ピタリと止める。どうやらは自分が原因でふたりが揉めていると思ったようだ。

「ケンカじゃねえって。その、何だ……ただの…こ…口論だよ」
「同じじゃねえか?それ」

ウボォーギンのボケにノブナガが突っ込む。そして互いに顔を見合わせ苦笑を洩らした。

「ったく……。調子狂うぜ」
「だな。まあ……このムカつきは今から会いに行く奴らにぶつける。同胞の敵討ちとしてな」
「そうだな。って、そういや4番の奴はどうした?クルタ族の話は以前あいつが持ってきたネタだろ。夕べも姿を見せなかったじゃねえか」
「ああ、連絡はしたんだけどね。あいつは何考えてるか分からない奴だから、そのうちフラっと来るんじゃない?」

シャルナークが苦笑交じりで応える。ウボォーギンは軽く舌打ちすると、

「チッ、オモカゲのヤローやる気あんのか?」
「オモカゲ……?その人も仲間なの?」

少女が小首を傾げる。

「ああ、まあな。そのうち現れるだろうよ。ってぇ事で!腹減らねえか?」
「凄い話が飛んだね、ウボー」
「うるせぇぞ、シャル!お前ちょっと近くの店で何か食う物盗んで来いよ」
「やだよ。この辺じゃカード使えそうにないし。ってか、こんな田舎に来てからじゃ店なんかないよ」

シャルナークは携帯をいじりながら電波が悪いとブツブツ文句を言っている。今は大都市を出て隣の小さな街まで徒歩で向かっていた。その街の外れに盗んだ車を二台隠してある。盗難車であるだけに警察に通報でもされ移動したい時に使えないと困る為、人気のない場所に隠したのだから当然気の利いた店などない。

「オレは盗って来いって言ったんだぜ?カードって何だそりゃ。仮にも旅団の一員なら、ちまちまカードで支払ってねぇで全部盗めってんだよ」
「いいんだよ。情報とかは金がないと手に入らないだろ?現金も下ろせるし念の為に持ち歩いてた方が何かと便利――」
「けっ!情報なんざ、拳一つでどうとでもなるぜ」
「いやいやいや……ウボーが殴ったら情報話す前に相手が死んじゃうって」
「そりゃ言えてる。筋肉バカは加減を知らねえ」
「だな」
「うるせぇぞ、ノブナガ!フランクリンもバカにしてんのか」

そんな他愛もない皆のやり取りを聞きながら、は楽しそうに笑っている。クロロは口を挟むのを止め、後ろで騒いでいる仲間の笑い声に耳を傾けた。一時の、平穏な時間。楽しそうに戯れる姿を誰かが見ていたとしたら、これから一つの里を襲撃しようとしている者達には到底見えなかっただろう。ウボォーギンやノブナガが言い合っているのを聞きながら暫し進むこと数十分。隠していた車のある場所まで辿り着いた。

「すぐ出発するぞ。夜にはついていたい」

太陽が陰ったのを見上げながら、クロロが静かに言った。


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