02:フェードアウトにはまだ早い [ fade out ]




発覚 × ト × 目撃者


少女がやっと安心して眠れる"場所"を見つけていた頃。
街の劇場で起きた事件が発覚し、有名女優の一人娘が浚われたと世間が騒ぎ出していたことを、まだ旅団の誰も知らなかった――。



『私の後ろに見える黒い残骸が、あの大きな劇場だったとはとても信じられません!全焼しています!そして今回のオペラに出演していた者はおろか満員に入っていたであろうお客さん達までが皆殺しにされていたのです!』

朝からひっきりなしに流れているニュースに、街の人々は釘づけだった。昨夜からスタートした有名なオペラは今もっとも勢いのあるスター女優が主演で、実の娘との共演も話題になっていた。しかしクライマックス直前で何者かに襲撃され、会場にいた全員が惨殺されたのだ。近年まれにみる大量殺人事件とマスコミが騒ぐのも当然だった。
それも犯人として名が挙がったのは―――。


「まさか幻影旅団だったとはなあ……。噂通り恐ろしい集団だ」

テレビのニュースを見ながら老人が溜息をつく。長い年月の象徴ともいえる目尻の皺が目を細めた事によって更に深く刻まれる。後ろでは老人の妻が朝食後の片づけをしながら、「娘さんは大丈夫なのかしらね」と心配顔で呟いた。この事件の一報が流れた時は、まだ警察の方も手掛かりを掴んではいなかったが、先ほど目撃者が出て来たことで更にマスコミが騒ぎだしたのだ。

『本当に見たんですか?』
『そうなんだよ!燃えてる劇場から長身の黒いコートの男と例の女優の娘さんが一緒に出て来たのを確かに見たぜ!』

今は何度も繰り返し流される目撃者のコメント映像も、最初に流れた時は街中の人間が驚愕した。その目撃者は劇場近くの公園をねぐらにしている浮浪者だった。男は明け方近く、急に辺りが明るくなったのを不審に思い、劇場の方へと足を向けたらしい。
そこで彼が見たものは燃え盛る劇場と傍に佇む数人の男女。そして――

『いや見間違えるはずねえさ!あのオペラのポスターは一日に何度も目にしてハッキリ覚えてんだ。あれは間違いなく、あの女優の娘さんだったぜ?綺麗な子だから良く覚えてんだ。あの子の傍らに黒づくめの男がいて――』

男は興奮した様子で話し続けている。警察もこの証言をもとに劇場にある無数の遺体を詳しく調べているようだ。

『ありゃあ幻影旅団だよ!間違いねえ。大男が一人いてそいつの背中に蜘蛛のイレズミがあったのをオレはハッキリこの目で見たんだ!きっとあの子はあいつらに浚われたに違いねえよ!』

何度も流れる映像に、洗い物を終えた妻が溜息をつく。

「娘さんは幻影旅団に浚われちまったんだよ。可哀想だねえ。母親まで殺されたっていうのに。今頃どんな酷い目にあってるか」
「だとしても誰も助けられないだろうよ。旅団相手じゃ警察も迂闊には手を出せないさ」
「そうだよねえ。本当に可哀想に……。夕べの舞台がデビューだったのにねえ。そのうち街の隅で死体になって見つかるのかしら…」

妻の言葉に夫も相槌をうつ。こんな会話が街のいたるところで交わされていた。しかしこの老夫婦の予想を裏切る形で、警察は浚われた娘の捜索を始めるという意向を昼の会見で発表した。

『我々警察は行方不明となっているさんの捜索を今すぐ開始します。相手が誰であろうと警察の威信にかけて――』

有名女優の娘が誘拐されたまま放置したとなれば世論が黙ってはいない。半ばマスコミに背中を押された形で一人の少女の行方を追って、街中の警察が動き出そうとしていた。



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