04-4:ニアミス以上でも以下でもなく [ near miss]





真夜中 × ノ × 訪問者


静かな店内にピアノの音が響く。が奏でるのは≪魔笛"夜の女王のアリア"≫。あの夜、劇場で公演されていたオペラの劇中で流れる曲だ。この曲を聞くとは何故か心が落ち着いた。普段のは歌をメインにしているが少しならこうしてピアノも弾ける。レッスンをやらされていた時ピアノもその項目の一つだったからだ。

「はあ……今夜も遅いのかな」

ふと演奏を止め、時計を見れば午前0時を少し過ぎている。カノイが出かけて行ってからゆうに3時間半は経っていた。

「友達がオレに紹介したい人がいるって言うんでちょっと行って来る」

カノイがそう言い残し急いで出かけて行ったのをは呆れ顔で見送った。今朝も昼帰りをしてがそれを怒った直後の外出。本当に友人と会うのかな、と多少の疑問は残る。ヒソカのことではないと言いきっていたから安心はしたが、それにしても最近のカノイの様子はおかしい。

(やっぱり話をしたあの夜……私が変なこと言ったせいかな……)

ふとそんな事を考え、は溜息をついた。カノイはの事を心配してヒソカのことを忠告してくれたのに、自分は人殺しを肯定するようなことを言ってしまったのだ。それが本音であろうとカノイには言うべきじゃなかった、とは反省した。

(カノイさん、とんでもない奴だと思ったかな…。少なくともカノイさんはヒソカさんに先輩を傷つけられてるんだもんね……)

だとて意味なく人を傷つけたり殺したりするのは良くないこと、という認識はある。しかし子供の頃のは"意味なく傷つけられた"側の人間だ。常に孤独で、誰かに怯え、死を受け入れてきた側の人間なのだ。

"殺らなきゃ殺られるぞ。諦めるな。強くなれ"

クルタ族を襲撃した時、クロロのその一言で救われた気分だった。あの夜、はやっと自身の大切さに気づいたのだから――。

誰かに必要とされたかった。それすらも諦め、自分はいつ死んでもいい存在なのだと思っていたにとってはクロロに感謝こそすれ、たやすく犯罪者などと責める気にはなれない。だからこそカノイに「あいつは人殺しなんだ。危険だから近づくな」と言われた時、まるで自分が責められているような気分になった。自ら手を下していないとは言え、同胞を死に追いやったのは自分なのだという思いが心の中にいつもあるからだ。

――後悔はしていない。

だけど敢えて罪人だと言うなら自分もヒソカも対して変わらないのではないか。はそう思ったからこそ、一概にヒソカを「人殺し」と責める気にはなれず、カノイにあんなことを言ってしまったのだ。


(そう言えばヒソカさん元気かな。カノイさんに言われたことを気にしてなきゃいいけど……。まあ店もここのとこ開けてないし来たくても来れないか)

何となく思い出しはピアノのキーを一つ叩く。ぽーんという高い音が静かな店内に響いた。カノイはヒソカのことを敬遠してか、あの日を境に店を一度も開けていない。
はそれも少々不満だった。いくら気まぐれで開けている店とは言っても、こう休んでばかりじゃ常連すらも来なくなってしまう。

「店を閉めてばかりじゃ今月の光熱費とか支払いきついのに…。ハンター業ってそんなに儲かるわけ?こっちは暇つぶしの遊びでやってるのかな」

そんな文句を言ったところでカノイの呑気さは変わらないのだ。どうにかするしかない。

「人がやりくりしてるって言うのに自分は飲み歩いちゃって」

そんなことを考えていたら腹がたってきて、は鍵盤を思い切り叩いた。バーンと更に大きな音が鳴り響き、その音に自分でドキっとする。だから――気づかなかった。店の扉が静かに開き、ひとりの男が入って来たのを。
鳴らしたついでに再び先ほどの曲を弾き始めたは、メロディに合わせて歌を口ずさむ。だから気づかなかった。男が足音を忍ばせ、に近付いて来た事を――。



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