07-2:きみが囚われたフィルター [ filter]



決意 × ト × 表明



ウボォ―ギンと思わぬ再会を果たしたは、アジトでシャルナークとも再会した。前に会った時、シャルナークとはそれほど長い時間、交流したわけではない。突然クロロが連れて来た少女に戸惑っている様子だった。けれど、4年ぶりに会ってみればの記憶とほぼ変わりなく、気さくで明るいお兄ちゃんのままだ。

「マジで大きくなったなぁー!すっかり大人の女じゃん」
「そ、それやめて下さい…恥ずかしい」

マジマジと見られ、過去の自分と比較されるのを感じ、はかすかに頬が赤くなった。隣ではクロロが笑いを噛み殺している空気が伝わって来る。少し目を細めて睨むと、クロロは澄ました顔で「決心がついたのか?」と尋ねた。

「…うん。色々考えたけど…私やっぱりクロロといたい」

ウボォ―ギンが盗って来たものを食べながらお酒を飲もうと言い出したシャルナークを眺めながら、はポツリと呟く。その横顔に迷いは見えない。

「本当にいいのか?オレ達と来ればオマエも賞金首になる。オマエを面倒みていたあの雇い主の男も裏切ることになるぞ」
「……いい。それに私がいることのほうが余計カノイさんに迷惑かけるって気づいたの」
「それは…ハンターや復讐者が来たからか?」
「…うん。どうやっても過去のことは消えない。そこからクロロ達との繋がりを知った人間がいつまた店に来るかも分からないでしょ。だから私はあの店にいない方がいい」
「好きな歌を歌えなくなっても?」
「歌はどこでも歌えるもの」

は微笑みながらクロロを見た。コンクリート壁の亀裂から差し込む光に溶け込み、の自然な笑みはクロロが見惚れてしまうほどに眩しい。心と体にいくつもの傷をつけて生き抜いた少女は、この街でその傷を癒したんだろう。羽を休める蝶のように、いつ来るか分からない迎えを待ちながら。

「ほらー乾杯しよう、。団長も」

シャルナークがビール瓶をクロロとに持たせる。ウボォ―ギンが盗んで来たものだ。は手の中のビールを見下ろし、クロロの持つソレと合わせた。カチンという音が鳴る。

「お帰り、
「ただいま、クロロ団長・・

わざとらしくその名で呼ぶを見て、クロロは苦笑した。そこからは四人で酒盛りのようになった。とにかくウボォ―ギンはと乾杯したがって、離れていた間に彼女が何をしていたのか聞きながら、その話をツマミにして大いに飲んだ。足りなくなると、またどこからか盗んで来る。は一ジェニーも持っていないというウボォ―ギンに驚いていたようだった。

「何、いきなり酒盛り?団長まで」

集合時間が近づいてくると、次々に団員達がアジトへ現れた。シズクはその光景に目を丸くし、コルトピもふらりと現れたものの、見知らぬ顔がいることも特に気にしていないようだった。クロロに説明され「宜しく、エレナ」とシズクが表情のない顔で挨拶をする。コルトピは優しい音で「初めまして」と言ってくれた。

「シャル、私、ウイスキー飲みたい」
「そこに山ほどあるから好きなの飲みなよ」

アジトの隅っこにはウボォ―ギンが盗んできたスーパーのカゴが並んでいる。シズクやコルトピがそこから好きなお酒を選んでいく。中にはが普段買い物でよく行く店のカゴも含まれていて、何となく複雑な気持ちになった。これまでは当たり前のように働いたお金で買い物をしていた。でもこれから状況に応じて盗むといった行為をしていくことになるんだと頭に入れておく。しかしシャルナークは笑いながら「別にお金が必要な場面はオレだって使うよ」と説明した。

「ウボーが特別なの。一切お金を持たないなんてオレには考えられない」
「あ?オレたちゃ盗賊だろ。欲しいもんは盗めばいーんだよ」
「盗賊の鑑だね」

二人の会話を聞いては笑ってしまった。急に変わらなくても、クロロ達と一緒にいれば、今度はそれが普通になる。そう言われてるような気がした。

「他の人達はまだ?」

ふとがクロロを見た。クロロはビールを一口飲んでから「そろそろ来るだろ」と時計を確認する。残るはパクノダ、フェイタン、マチ、フランクリン、ノブナガ、ボノレノフ、ヒソカだ。

「ああ、が知らない団員がまだ二人ほどいるな。例の里の襲撃時にはまだ旅団クモにいなかったメンツだ」
「え、そうなの?」
「ああ。一人は前のメンバーと入れ替わったんだ。4番がな」

その話を聞いて、はふと思い出したようだった。

「そういえば…団員になるには番号の入ったタトゥーを入れるってパクノダさんが教えてくれたっけ」
「まあ、そんなものはいつでも入れられる。それより
「え?」
「オマエはいつオレ達と合流するんだ?今日からか?それとも…」

返事を促すように見れば、はゆっくりと首を振った。

「今日は決意表明しに来ただけだから一度戻る。荷物を置いて来ちゃったし…」
「…この期に及んでまだ迷ってるとか言うなよ?」
「まさか…違うよ。今日は競り市に誘われたから荷物は持って出られなくて…」

からかうクロロにがムキになって言い返す。そういうところは幼い少女のようだが、実際は昔の方が大人びていた気がする。暴力と凌辱の日々に耐えるには、普通の子供より早く成長する必要があったんだろう。健気なほどの純粋は、今もクロロの記憶にこびり付いたままだ。

「だから夕方になったら一度戻って荷物を取ってきていい…?」
「ああ。オレも一緒に行こうか」
「大丈夫だよ。すぐそこだし…」
「そのままアイツに何も言わないで出てくるつもりか?」
「………」

クロロの問いに、は応えられなかった。迷いがあるとすれば、そこなんだろうとクロロは思う。少なくとも四年世話になった相手だ。何も告げずに姿をくらますのはの中の良心が痛むのかもしれない。

。アイツを巻き込みたくないなら何も言わないで出て来い」
「…え?」
「知らない方が傷は浅くて済む」
「うん…そう、だね」

もそこは考えていたようで素直に頷いた。家を出るとなれば理由を聞かれる。行き先も。誰を選んだのかさえ。は本当のことなど言えるはずもない。言ったところでカノイという男を傷つけるだけだと彼女も分かっているのだから。
その時、シャルナークの明るい声が響いた。

「パク!久しぶり」

その声にが弾かれたように立ち上がった。シャルナークやウボォ―ギン達と挨拶を交わしたパクノダが、二人に何かを言われ、ふと瓦礫の上部を見上げる。すぐにクロロを見つけて笑顔を見せたが、隣にいるを見た時、瞳を大きく見開いた。

「………?」
「パクノダさん…」

警察に包囲された夜以来の――再会だった。


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