Christmas tree
ハードな任務を終えて帰宅した、とある冬の日。
自宅のドアを開けた瞬間、チカチカしたものが目に入り、オレは思い切り固まった。
「あ、お帰りースクアーロ!」
「…………ッ?!」
入り口で立ち尽くしてるオレを出迎えたのは、可愛い笑顔を浮かべた…
「な……?!お前……何してやがんだぁ?」
「何って…スクアーロを待ってた」
あっさり返され顔が引きつる。
いくら恋人でも、いきなり予告もなしに出迎えられたのでは、多少は驚くってものだ。
しかも……
「う゛お゛ぉい、!そのチカチカするものは何だぁっ」
がいる事はまだいいとして。
部屋の中央にどーんと居座っているモミの木に、チカチカ光るイルミネーション。
これはいただけない。
「何って…クリスマスツリー作ってみたの」
「作っただぁ?」
大きな瞳をクリっとさせて、これまたアッサリ応えるに、さすがのオレも開いた口が塞がらない。
そんなオレの様子には気づきもせず、は嬉しそうに綺麗でしょ?なんて笑ってやがる。
そんな笑顔で言われても、自分の部屋に勝手にデカイ木を置かれては、迷惑極まりない。
というかオレのキャラにクリスマスツリーは似合わねーだろ。
「あのね、ベルがね、子供の頃に毎年この時期になると本物のモミの木を買ってクリスマスツリーを作ってたって言ってたから
それ聞いたらどうしても作りたくなっちゃって」
「……それで買ってきたのか…このデカイ木を」
「うん!マーモンが格安で売ってくれたの♪」
「……………」
ニコニコしている彼女に、オレは内心、溜息をついた。
というか、マーモンはいったい何をしてるんだ?いつからモミの木商人になったんだ?
色んな事が脳内を駆け巡りながらも、目の前で嬉しそうにしている彼女を見た。
「…スクアーロ、何か怒ってる?」
「…怒ってねぇ!怒ってねぇーけど、オレの家にこんなもん飾るなっ。誰かに知られたらオレが笑われるっ」
どーせベルやマーモンは純粋なの好奇心に付け込んで、こんな事をさせたんだろう。(オレへの嫌がらせに決まってる!今度会ったら三枚に下ろしてやるからなぁ…!)
だいたい疲れて帰ってきたっていうのに、落ち着けるはずの自宅に、こんなチカチカしたもんがあったら疲れも倍増だ。
そう思ってると、不意に目の前の彼女の瞳に涙が浮かんだ。
それにはギョっとして、変な汗が吹き出てくる。
オレはこいつに泣かれるのが一番苦手だ。
「スクアーロ、喜んでくれると思ったの…ごめんなさい…」
「よ、喜ぶって…ツリー見てオレが喜ぶように見えるのかぁ?」
「……そうだよね」
「!!」
そこもアッサリ返され、ちょっとだけ悲しくなったが、は別に悪気があるわけじゃない。
もともと少しトボケた女だった。よくこれでヴァリアーの一員になれたな、と思う、
未だ、ヴァリアー全員の中で、彼女は七不思議のうちのひとつだろう。
「すぐ片付けるね…」
はグスっと鼻をすすると、トボトボとツリーの方へ歩いていく。
が、そんな寂しげな背中を見せられると、オレまでが寂しくなる。
「…もういい」
「…え?」
「そのままでいいって言ってんだぁ」
深々と溜息をつきながら、彼女の頭に手をおくと、とたんに笑顔になる。
それを見てつい笑みが零れた。
「ホントにいいの?」
「ああ…どーせ明日のクリスマスが終わるまでだろ」
「うん!終わったらすぐ片付ける!ありがとう、スクアーロ」
そう言って嬉しそうにオレに抱きついてくる彼女に、内心苦笑が漏れる。
本来、ツリーを飾ってもらった――嬉しいかどうかは別として――オレの方がお礼を言うべきなのに、彼女に先に言われてしまった。
ふと目の前で存在を主張しまくっているツリーに目を向ければ、なかなか凝ったデザインに仕上がっていて、
きっと彼女が一生懸命に飾り付けをしてくれてたんだろう、と思った。
そこは素直に嬉しいし、そんな彼女が可愛いとも思う。
「じゃあ…クリスマスは、ここに皆を招待してパーティでもしよっか」
「……それだけは勘弁してくれ」
笑顔でとんでもない事を言うに、思わず顔を顰めた。
あんな奴らに、こいつとの時間を邪魔されたくはない。
「とりあえず…メリークリスマス」
そう言いながら彼女を抱きしめる。
「もう…日付が変わったぜ」
不思議そうな顔をするにそう告げると、オレは彼女にキスを一つ、落とした。
ささやかすぎるくらいの幸せを感じる、この聖なる夜に感謝しながら――
――オマケ――
「なあ、マーモン。今頃スクアーロの奴、アレ見てキレてっかな♪」
「そうなるよう、ばかでかいモミの木を用意させたのさ」
「うしし♪あんなでっけー木が家の中にあっちゃ、スクアーロも落ち着かないだろうな」
「をからかうだけのつもりが、スクアーロへの嫌がらせになるとはね」
「ま、でも…どうだろうな。スクアーロの奴、にはめちゃくちゃ甘いから」
「今頃……あのツリーの前でイチャついてるかもしれないよ?」
「うわーウゼェーー。乱入してこよっかな…しし♪」
「やめときなよ、ベル。クリスマスは神聖な日だからね。今日くらいは許してあげよう」
「やっさしーじゃん、マーモン。んじゃオレもそろそろ女とデートしてくっかな〜」
「へぇ、そんな相手がいるとは意外だよ」
「いるに決まってんじゃん?だってオレ、王子だもん♪」
――END――
クリスマス用にボソボソ描いてた短編など。
普段あまり描かないキャラを、と思ったんですが、まずはこの三人で(^^;
ほんのささやかなクリスマスプレゼントです♡