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「はーやと♪」 「うわっ」 寝ている顔をいきなり覗き込めば、隼人は驚いたように飛び上がり、すぐにダイナマイトを手にした。 が、私に気付き、呆れたように溜息をついている。 「何だ、か…」 「何だ、はないでしょ、何だは。せっかく起こしてあげたのに」 「起こさなくていいっつーの。次もサボる予定なんだから」 そう言いながら隼人は再びゴロンと横になった。 それ以上、何も言わず、私も彼の隣に腰をかけると隼人が薄目を開けている。 「何だよ…もサボんの?」 「うん。だってそうしないと隼人と一緒にいれないもん」 「何言ってんだよ…誰かに見られたらどうすんだ…?」 「いいじゃない。誰に見られても」 キッパリそう言うと、隼人は軽く舌打ちをして、「俺が困んだよ」と私に背中を向けた。 相変わらず、隼人は冷たい。 と言うか、隼人は誰に対しても冷たい。 学校のクラスメートにも、小さな子供にも、そして幼馴染の私にでさえ。 隼人を追って日本へ来たと言うのに、彼の心を独り占めしてるのはボンゴレ十代目の沢田綱吉という男だけだ。 何が悲しくて、ずっと好きだった幼馴染を男にとられなくちゃいけないんだろう?と自分で自分がおかしくなってくる。 「ねー隼人」 「………」 やっぱり無視か。 でもいいもんね、勝手に話すから。 そう思いながら、隼人が食いついてきそうなネタを口にした。 「もし十代目が不良にからまれてたらどうする?」 「そいつらぶっ殺す!!」 思ったとおり、即答だ。 しかも例え話なのに本当にダイナマイトを出してるから笑ってしまう。 「ふーん。じゃあランボがイジメられてたら?」 「んなの決まってるだろが」 「え?」 「一緒にイジメ倒す!!」 「………へぇ」 当然のように、これまたダイナマイトを出す隼人に苦笑した。 相手が子供でも関係ないのが、隼人のいいところだ。(オイ) 「ねー隼人」 「…んだよ、うっせぇな…寝れないだろ…?」 「もう一つだけ」 「…ったく、何だよ…」 渋々といった顔で寝転がったまま私の方を見てくれる隼人を、上から見下ろした。 「もし…私が悪い男に浚われそうになったら?」 「はあ?」 「その時は十代目と同じように私を助けてくれる?それとも…放っておく?」 真剣な顔で聞いてみた。 でも隼人は徐に顔を顰めている。 「な、何バカなこと言ってんだよ…」 「答えてよ、隼人」 「おい、…」 逃げられないよう、隼人の顔の横に手を付いて上から彼を見つめた。 隼人も驚いたように私を見上げ、僅かに視線を反らしている。 「どうなの、隼人。助けてくれるの、くれないの。どっち?」 「………」 さっきみたいにすぐ返事をしてくれない隼人に少なからず胸が痛んだ。 昔から幼馴染としてしか見られてないんだって分かってるけど、やっぱり少しは傷つくんだから。 だんだん今までの思いまで溢れてきて、悲しくなってきた。 だからあふれ出した涙だって、もう止められない。 「お、おい、…泣いて…んのか?」 私の瞳から落ちた涙は、隼人の頬を濡らしていく。 「バカ…隼人なんて嫌い」 「え、おい待てよっ」 私を助けるって言ってくれない事がショックでその場を去ろうとした。 が、すぐに腕が伸びてきてグイっと引っ張られる。 「きゃ、」 あまりに強く引っ張られ、気付けば隼人の胸元に倒れていた。 彼は寝転がったままだから、その勢いで後頭部をゴンっとぶつけたようだ。 「いってぇ…」 「だ、大丈夫…?」 そう言って顔を上げると、至近距離で目が合った。 ドキっとしたけど、見れば隼人の顔が少しづつ赤くなっていくのが分かり、更に鼓動が早くなる。 「バーカ…」 「…え?」 「お前、ホントしょーもないな」 「な、何よそれっ」 いきなりバカとか言われてムカっときた。 怒りが沸々と湧き上がり、思い切り唇を尖らせ、文句を言おうと口を開きかけた。 その時。 首の後ろに腕を回され、強く引き寄せられたと思った瞬間。 私の文句は隼人の口内へと吸い込まれてしまった。 「…俺がお前、見捨ててくって本気で思ってんのか…?」 ゆっくり唇を離した後、真っ赤な顔で隼人はそう言った。 それって…十代目と同じように大切に思ってくれてるってこと? 初めてのキスが恥ずかしくて、そんな言葉で誤魔化したのに。 隼人は、 「そんなの比べられるもんでも天秤にかけられるものでもねー」 なんて言って私を抱き寄せた。 ねぇ、もう幼馴染は卒業してもいいのかな。 私の子供の頃からの想いは、故郷の地から遥かに遠い、サムライの国で叶ったようだ。
天秤の重さは?
比べられない想いもある
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