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大怪我をしてベッドに寝ている俺の横で、はもう、かれこれ30分はバカだのドジだの文句を言って泣いている。
十代目の右腕ならばコレくらいの怪我なんか当たり前だって言ってんのに、ちっとも泣き止んでくれない。
女嫌いの俺が好きになった女なんだから、もう少し強かったはずなのに、ここ最近のはこんな風に泣いてばかりいる。泣かせてるのは…他の誰でもない、この俺だ。


「…いい加減泣き止めって…大した怪我じゃねーだろ」
「肋骨三本に足に、ヒビが入ってるんだよ?!大した怪我だよっ」
「…別に痛くねーし平気だって……うわっぃってぇーな!テメー!」


いきなり胸を押され、そのせいで激痛が走った。は暴れる俺を見て「ほら痛いんじゃない」と唇を尖らせている。
こいつホントに俺の心配してんのか?と疑いたくもなったが、今はケンカなんかしてる元気もない。舌打ちをしての額を軽く小突くだけにしておいた。


「…隼人、最近怪我ばっかしてるじゃない。少しは心配してる私の身にもなってよね」
「…分かってるよ」
「ぜーんぜん分かってない!隼人の無事な顔を見るまで、いつも不安なんだから…」


グスグスと鼻を啜りながら再び泣き出すは、どう見てもガキみたいだ。あのバカ牛と重なり、軽く噴出せば、何笑ってるのよ、とまた怒り出す。
ったく泣くか怒るか、どっちかにしろってんだ。


「だいたい隼人なんか十代目、十代目って言ってばかりで、私のこと放置してばっかりじゃない。それで帰ってきたかと思えば、こんな大怪我してるし!」
「仕方ねーだろ!十代目の為に俺は命懸けてんだ。俺の女なら少しは我慢しろよ」
「何よそれ!何で私がこれ以上我慢しなくちゃならないの?これまでもずーっと我慢してきたのにっ」
「…う…」


それを言われると辛い。確かにこいつは良く我慢してる方だと思う。俺の立場を理解して、きちんと俺を立ててくれる可愛いところもある。そんなのは分かってるんだ。
なのに俺はこいつを泣かせてばかりで、自分でも嫌になってくる。好きなのに、ちゃんと大事にしたいのに、それができてない。
シャマルからだって、いつも女心を分かってねぇだの、すぐ振られるだの言われてるし、出来れば愛想つかしてくれりゃいーのに、と時々思ったりもする。
でも、こんな俺の為に泣いてくれる女はだけで、こうして傍にいてくれるのもだけなんだ。
ガキの頃からどうしようもなくて、一匹狼だった俺のことを、好きだと言ってくれるのも、だけなんだ。


「わりぃ。いつも心配かけて、ホント悪いと思ってる」
「……ホント?」
「ああ…。だからもう泣くなって…」


の頭をそっと抱き寄せると、額に軽くキスをする。こんなこと素でやんのは、かなり照れ臭いけど、が泣き止んでくれたから、まあ良しとしよう。
抱きしめて、腕にの体温を感じると、少しは甘い空気にもなってくる。自然と二人の唇が重なって、やっと俺も素直になれた。


「…俺はお前の笑顔が好きなんだからよ」


言った後で顔から火が出るかと思った。でもが凄く嬉しそうな顔をするから、こんな夜もたまにはいいか、とふと思う。


「私を残して死んだら嫌だからね」
「俺が十代目残して死ぬかよ」
「…む、私はー?」


案の定、頬を膨らませるに苦笑いをしつつ、もう一度唇を重ねる。


「お前は俺の横でずーっと笑っときゃいーの」


出血大サービスで付け加えると、やっぱりは嬉しそうな笑顔を見せた。その屈託のない笑顔が、俺は一番好きだ。
出来れば、とずっとこうして笑いあえたらいい。俺たちの世界では、未来に何の保証もないけれど。





















君と過ごした日々が、十年後、 笑顔がいっぱいの思い出になりますよう