愛情は爆発だ



ハッキリ言って、オイラがこの組織に属してるのは、何もボスに忠誠を誓ったからじゃない。
誘われた時に見せられた力の差って奴を越えたいからってのが一番にある。
それに何だかんだと多い任務も、これはこれで強い奴を吹っ飛ばせるから楽しいしな、うん。
で、もう一つ理由があって、その理由ってのが……


?どうした、その怪我!」


任務を終えて戻ってきたイタチ、鬼鮫きさめ、そしての三人。
でも、いつもと違うのは明るい笑顔で「ただいま」と微笑んでくれるが、グッタリした様子でイタチの腕に抱かれている。
それを見て、オイラも、隣にいたトビも、ゾンビコンビの角都かくず飛段ひだんまでが、一気に青くなった。


「おい、何があったんだんだぁ?」
「……見れば分かるだろう。が怪我をした」
「んな事は分かってんだよ!だから何で怪我なんかしたって聞いてんだっ」
「落ち着いてください、飛段さん…。とにかく今は彼女の治療が先です」


鬼鮫は冷静にそう言うと、イタチと共に奥の彼女の部屋へ入っていく。
それを見て他の皆もついて行った。


「あれ?デイダラ先輩、行かないんスか?」


隣にいたトビも、オイラが一向に動こうとしないのを見て、訝しげに振り返る。
そりゃオイラだって行ける事なら走って行きたいさ。
でも体が何だか硬直しちまって、足が動かないときたもんだ。
全く、オイラも焼きが回ったね。


「トビ…」
「はい?」
「……無事かどうか…見て来い」
「はぁ?一緒に行きゃいいじゃないっすか〜心配なんでしょ?」
「うるせぇ!行けるなら、とっくに行ってんだよ!いいから見て来い!吹っ飛ばすぞっ」
「…はぁ…はいはい。分かりましたよ…。ホント理不尽な先輩なんだから」


トビはブツブツ言いながら、皆の入っていった部屋へと向かう。
それを見て軽く深呼吸をする事、数回。
さっきの様子じゃ軽い怪我じゃなさそうだったし、嫌な想像ばかりが頭を過ぎる。


(クソ…イタチと鬼鮫がついてて何やってやがったんだっ)


最初にボスから彼女がイタチ達と組むと聞いた時、納得いかなかったけど少しだけホっとしたんだ。
アイツラなら彼女を守ってくれると思ったから。
なのに、この始末…冗談じゃないぜ、うん…


やっと心拍も落ち着いて、金縛りにでもあったように動かなかった足が動かせるようになった時、
様子を見に行かせたトビが走って戻ってきた。


「せんぱ〜い!さんの怪我、相当ヒドイっすよ!」
「……っ?!」


ハッキリ言い切る無神経な物言いに、再びオイラの体が固まった。


「って、大丈夫っすかぁ?顔色悪いっす」
「うるせぇ!ヒ、ヒドイってどうヒドイんだよっ?うん?」
「だから自分で見に行けばいいのに」
「うぉ!な、何しやがるんだ、おいっ」


トビは固まったままのオイラの体をガバっと抱えると、そのままのいる部屋へと直行した。
それにはやっと落ち着いてた心拍数もどんどん上昇していく。


「お、おい待てトビ!まだ心の準備が――」
「何言ってんすかー?皆だって同じ思いしてんのに、さんの傍についてるんすから先輩も覚悟決めましょうよっ」
「か、覚悟って何の覚悟だ、コラ!はそんなにヤバイってのか?うん?!」
「それは自分の目で確かめて下さい」


そう言って部屋に飛び込んだトビに、オイラは慌てて目を瞑った。
可愛い彼女の笑顔が脳裏を過ぎると共に、血まみれで冷たく横たわる姿までが浮かんでくる。


(ああ……こんな事ならもっと早く気持ちを伝えておくべきだったな…皆に遠慮してる場合じゃなかったぜ、うん…)


彼女との出会いから、一緒に過ごした日々が、まるで走馬灯のようにオイラの脳裏を駆け抜けていく。
胸が痛くて、情けないけど涙がじわりと浮かんできた。
きっと皆も同じ気持ちで泣いてる―――






「あ…デイダラ…」


「―――ッ?!」







いつものように、小鳥がさえずるかのような可愛らしい声に名前を呼ばれ、オイラはパチっと目を開けた。
が、トビの肩に抱えられたままだったから、まず視界に入ったのは、今入って来たドアと、そして近くに立っていた渋い顔の角都…


何だよ、何でそんな呆れた顔でオイラを見てやがるんだ?角都…あ、溜息までつきやがった…オイラのアートで爆死させるぞ?うん。
あ、こいつ死なないんだったっけ……


そんな事を思っていると、いきなり視界がグルリと回転し、オイラの尻に衝撃が走った――!


「いってぇ!!」


あまりの痛さに思わず、飛び上がった。
それを見て、オイラを床に投げ捨てた張本人がゲラゲラ笑ってる。


「あはは!先輩、もろ尻から落ちましたねー♪」
「てめぇ、トビ!!吹っ飛ばされたいのかっ?」
「冗談じゃないですか〜!しかも、ここで爆発させたら皆、巻き込まれちゃいますよ!ね?さん♪」
「………ッ」


その名前を聞き、ハッと息を呑む。
視線を向ければ、さっきの角都と同じような顔のイタチ、鬼鮫、飛段がいる。
そして、その奥には……


…」
「……ただいま、デイダラ」
「………」


いつものように微笑む彼女を見て、一気に体の力が抜けた気がした。
ベッドの上で微笑むは、少し顔色が悪いものの、想像してたような姿じゃない。
それだけでも心の底から安堵した。


「て、ってか…大丈夫なのか?…怪我したって――」
「うん。ちょっと油断しちゃって足をね……少しの間は動けないけど、命に別状はないって」
「そ…そっかぁ……良かった…うん」


包帯を巻かれた足を見て、ホっと胸を撫で下ろす。
そうか、足を怪我したからイタチに抱えられてたのか…オイラてっきり意識を失ってるもんだとばかり思ってたぜ、うん。


「心配かけてごめんね?」
「い、いや。無事ならいいんだ、うん…。それより…誰にやられたんだ?お前らの任務は確か…四尾を生け捕りするんだったよな?」


そう言ってイタチを見ると、小さく息を吐き出し、鬼鮫と顔を見合わせている。
すると鬼鮫が軽く肩を竦め、「四尾を捕まえようとして、ちょっと暴れられましてね」と、苦笑いを零した。


「そんなに強いのか?四尾は」
「ええ。私一人でやるはずが少々手間取りまして…そこにが助けに入ってくれたんですが…私をかばって足に怪我を」
「足と言っても、もう少しで切り落とされる所だった。全く無茶をしたな、…」
「ごめんね、イタチ…」
「…………」


(あ…足を切り落とされるとこだった?!)


はシュンとしてイタチに謝っているけど、それより怪我のひどさを聞いて軽い眩暈がした。
オイラはハッキリ言って、鬼鮫がどうなろうとしったこっちゃない。
も放っとけば良かったのに、とさえ思う。
でも彼女は優しいから、きっと危険も顧みず仲間を助けようとしたんだ。
そんなのいじらしさに、また胸がぎゅっと痛くなる。


「とにかく今は休め。まずは怪我を治さないとな」
「うん、でも四尾は…」
「そんなものはお前が気にしなくていい。必ず捕まえるから」


イタチはそう言っての頭を軽く撫でている。
あいつが、あんな優しい顔を見せるのは、彼女にだけだ。
それがちょっと、いやかなり気に入らないな、うん。
も何だか嬉しそうな笑顔で頷いてるし、オイラの胸はさっきからズキズキ痛むばかりだ。
まあ、どうやら他の連中も皆、オイラと同じような顔してるし、きっと考えてる事も同じなんだろうけど。


「…じゃあ怪我に触ってもなんだし…皆も部屋から出よう。これからボスにこの事を報告しなくちゃならない」
「ええ、そうしましょう。では…お大事にしてて下さいね」
「うん。あ、でも鬼鮫も怪我したんだし早く治療して」
「はい、ありがとう御座います」


(自分もヒドイ怪我してるってのに他の奴の心配かよ…。つくづくも優しすぎるぜ、うん…)


ニヤケ顔でに接している鬼鮫を睨みつつ、オイラとトビはイタチに促され、渋々の部屋から出た。
他の奴らも素直に従い、皆が広間に集まると、イタチと鬼鮫は「報告してくる」とボスのところへ向かう。
角都と飛段は「オレ達が行きゃ良かったぜ」と言いながら、外に出て行ってしまった。
その場に残されたのはオイラとトビの二人だけ。
…って事は……今ならコッソリのところへ戻っても、誰も文句を言う奴は―――


「なーに考えてんすか?デイダラ先輩♪」
「………」


足音を忍ばせ、の部屋に近づこうとした瞬間、トビがでかい声を出し、オイラはジロっと睨みつけた。
こいつはホント、場の空気が読めない奴だ。KYだな、うん。


「大きな声だすな、トビ!見つかるだろ?」
「でもさん休ませようって、さっきイタチさんが――」
「分かってるよ、んな事は。でも寝る前にちょっとだけ話を聞きたい」
「……話?」
「四尾のことだ。うん」
「……先輩……まさか……」
「その"まさか"だぜ」


呆気に盗られるトビに、ニヤリと笑ってみせる。
"暁のマドンナ"に怪我させた奴は、誰であろうとオイラのアートで吹っ飛ばすって決めてんだ、うん。って言うか今決めた。


「えぇ?マ〜ズイっすよ、それは〜!四尾はイタチさんと鬼鮫さんのノルマっすよ〜?」
「関係ねぇ。あいつらが失敗したのが悪いんだ」
「ちょっと〜ボクまで巻き込まないで下さいよ〜」
「誰がお前について来いと言ったんだ?オイラ一人で十分だ、うん」
「……えぇ?」


困ったように項垂れるトビを無視して、オイラは静かにのいる部屋へと忍び込んだ。
音もなくドアを開ければ、ベッドの上に彼女が眠っているのが見える。
もう寝ちゃったのか、と少しだけガッカリしつつも、起こさないよう、ゆっくりと近づけば、不意に彼女が目を開けた。


「デイダラ…?」
「…起こしちゃったか?悪いな、うん…」
「ううん。ウトウトしてただけ。痛み止めが効いてきたみたい」
「……痛いのか?」
「…少し。でもさっきよりはマシよ?ここに戻る途中は痛みで何度も意識を失ったし…」
「………」


顔を顰めつつ、そう応える彼女。
自然に怪我をしてる足に目がいき、血が滲んでいる包帯に、胸が痛くなった。


「角都さんに縫ってもらったの」
「え…オイラの腕みたいにっ?」
「うん。でも私は女の子だから、痕が残らないように綺麗に縫ってやるって」
「……………」


(…あんの野郎…!痕が残らないように縫えるのか?!オイラの腕はつぎはぎだらけのブラックジャックみたいだってーのにっ!マジ吹っ飛ばすぞ、うん!)


ふつふつと湧いてくる角都への怒りに、ぎゅーっと拳を握り締め、その怒りを何とか堪える。
せっかく久しぶりにと二人きりだってのに、オイラが怒ってちゃもったいない。
そっとベッドの下に膝をつき、と同じ目線になれば、彼女は照れ臭そうに微笑んだ。


「…ちょっと聞いていいか?」
「…何?」
「四尾って…どんな奴なんだ?」
「…うんとね…見た目はおじいさんなんだけど…これが結構強いの。動きも速いし…鬼鮫もその動きに惑わされて――」
「あんなバカでけぇ刀振り回してっからだぜ、うん」
「また、そんなこと言って…」
「オイラなら…その速さについていける」
「……え?」


その言葉に、は驚いたようにオイラを見た。
キラキラした澄んだ瞳は、いつ見ても綺麗で…初めて会った時、この瞳に、オイラは一発で恋に落ちたんだ。
いや、オイラだけじゃなく、ゾンビコンビの二人も、いつも澄ました顔のイタチや鬼鮫も、あのバカ一直線のトビも…
きっとと初めて会った時、あんな気持ちになったと思う。
たった一人で親の敵だという大蛇丸を探してた彼女を連れて来てくれた、ボスに感謝するぜ、うん。


「デイダラ…まさか――」
「…の綺麗な足に傷つけた奴は、誰であろうとオイラのアートの餌食にしてやる」
「デイダラ…」
「ノルマなんか関係ない。イタチや鬼鮫には悪いが、オイラの相手と交換してもらうぜ、うん。オイラの相手は鬼鮫の方がやりやすそうだしな」
「でも…」
「いいからは何も心配しないで怪我治せよ。が元気ないと皆も…もちろんオイラも元気でないからさ」


素直に思っている事が口から出て、ちょっとだけ照れ臭い。
でもが嬉しそうに微笑んで、「ありがとう、デイダラ」と言ってくれたから、何だか腹の奥から力が湧いて来た。


「でも…怪我しないでね」


そう言って少し心配そうな顔をしてくれる彼女、それだけで嬉しくなる自分がちょっと単純すぎて笑えるけど、でも嬉しいものは嬉しい。
しかも、そっと手を差し伸べ、オイラの手をギュっと握ってくれるもんだから、ガラにもなく顔が赤くなった、


「…ま、くっついたばかりの腕のリハビリもしたいとこだったし、軽く運動してくるぞ。うん」


照れ臭くて、パっと彼女の手を離せば、はちょっと笑いながらオイラに小さく手招きをした。
それを見て何だろうと顔を近づける。
その瞬間、頬にちゅっとキスをされ、突然の事にまたしても体が固まった。


「…怪我しないように、おまじない。気をつけて行って来てね」
「…お、おう……」


真っ赤になった自分が分かり、慌ててから離れると、「じゃ言って来る!」と、そのまま部屋を飛び出した。
ドアを後ろ手で閉め、その場にへたり込んだオイラを見て、待ってたトビが驚いたように走ってくる。


「ど、どうしたんすか?先輩、顔真っ赤っすよー」
「…………」


一気に打ち出した心臓の音がうるさくて、トビが何て言ってるのかも分からない。
ただ顔が熱くて、その熱がどんどん上昇してくのを感じながら、自然と顔がニヤケてしまう。


「…あれ、今度はニヤけてる…気持ち悪いなぁ…先輩…」
「よーし!行くぞ、うん!」
「は?」


今はトビの嫌味も気にならない。
体中からパワーがみなぎってくるようで、オイラは早々に外へ飛び出した。


「ちょ、待って下さいよ、先輩〜!」
「何だ、トビ。お前行かないだろ?うん」


粘土で作った鳥に飛び乗りながら、そう言えば、トビのバカは苦笑しながらオイラの後ろに飛び乗った。


「仕方ないから行きますよ〜。ボクと先輩はコンビですし、何よりさんに怪我させた尾獣にはボクもムカついてますからね〜」
「ふん…なら勝手にしろ、うん。飛ばすし、落ちんなよ?」


そう言った瞬間、ふわりと空に舞い上がり、目的地に向かって飛んでいく。
下ではアジトの前でサボっていた角都と飛段が何やら叫んでるけど、すでにここまで届いてこない。


「あははー♪二人とも必死に叫んでますねー」
「どうせ手柄横取りされると思って焦ってんだろ、うん」
「まあ、ボクと先輩なら、四尾だろうと軽いもんっすよねー?」
「オイラだけで十分だ、うん」
「あれれー先輩ノリノリっすねぇ〜♪まあさんの為なんでしょーけど、分かりやすすぎ」
「うるせぇ!落とされてーか!」


後ろでケラケラ笑ってるトビにそう怒鳴りつつ、それでも確かに分かりやすいかもな、うんと自分でも思う。
でもこの気持ちはやっぱり抑えられない。
この気持ちは何て言えばいいんだろう。
ああ、そうか、オイラ風に言えば―――







「―――愛情は爆発だ!」





「何すか、それ?新しい術っすか?かっこ悪いっすよ、その命名」





「………てめぇやっぱ落ちろ、うん」





「え?あぁぁぁ〜〜〜〜っっ」








腹を軽く足で蹴れば、見事な悲鳴を上げて、トビは空中へと吹っ飛んだ。




オイラは今、気分がすこぶるいいからな。これくらいで許してやるよ、うん。







何故か暁デイダラ夢(笑)
ヒロインに片思いしてるんだけど、上手く伝えられないシャイな奴って感じで(え)
デイダラとトビのボケ(嫌味)突っ込み(殺意OR暴力)コンビ、何気に好きです(笑)