サソリの毒は、恋の味?



静かな部屋の中、背中に視線を感じる。
殺気とかではない、何だか変なオーラを全身に感じ、何とも言えず嫌な気分だ。

「…………」

傀儡をいじりながら、時々部品を取りに部屋に戻るが、それでも背中に感じる視線はついてまわる。
どこへ移動しようと、何をしてようと、それは消えたりしない。

「……おい、
「何?サソリ!」

名前を呼んだだけで犬のように視界に飛び込んでくる女に、深々と溜息をつけば、はシュンとしたように視線を下げた。

「言わなくても分かってんだろ…。いい加減、くっついてまわるのはやめろ。うぜぇーんだよ」
「……だって」
「だって、じゃねぇ。オレは忙しいんだ。次の任務の為に傀儡を修理しなくちゃならねぇ」
「だったら私も手伝う!いつも見てるから傀儡の組み立て方も分かるし――」
「バカか、てめぇ。これには死ぬほど毒が仕込んであるんだ。素人がヘタに触って仕込みの毒にでも触っちまったら、それこそ即死だぜ」
「大丈夫!どこに毒が仕込んであるかも知ってるし!だからそれ貸して!」
「あ、おいバカ――」

「まーたが旦那の邪魔してるぜ、うん」
「……も、あんな冷たい奴など放っておけばいいものを」
「そりゃ無理だよ。だっては旦那をストーキングすんのが趣味だしな、うん」

後ろからデイダラとイタチの会話が聞こえ、ジロっと睨みつける。
ったく人事だと思いやがって……下らねぇ会話してるくらいなら助けろってんだ。
まあ、あいつらはにめちゃくちゃ甘ぇーし、逆にこの状況を楽しんでるんだろーがよ。

「…いたっ」
「―――ッ?」


その声に振り向けば、が指先を口に含んで顔を顰めている。
嫌な予感がして、その指を口から出させると、指先からジワっと血が流れてきた。

「ばかやろう!何やってんだっ」
「ご、ごめ…」
「何が仕込みを知ってる、だ!だから言わないこっちゃねぇ!」
「サソリ…」

大きな瞳に涙を溜めるを、有無も言わさず部屋に連れて行く。

「ごめんね、サソリ!もうしないから怒らないで――」
「お前の"もうしない"は聞き飽きてんだよ!いいから来い。サッサと解毒しないと、お前死ぬぜ?」
「う…」

オレの毒はそんじょそこらのモンとは違う。
ちょっと刺しただけでも、素早く全身に行き渡る、優れものだ。
しかも、さっきの傀儡には次の任務用に作った、いつもより強力な毒が仕込んであった。
早くしないと手遅れになっちまう。
死なれでもしたら、それこそを可愛がってる奴らにボコられそうだ。


「クソ…どこにしまったっけな…」

傀儡だらけの部屋に入り、邪魔な部品を蹴飛ばしながら、解毒剤をしまった棚を漁る。
この毒の解毒剤はまだ一つしか作ってないが、確かこの前、ここに放り込んだはずだ。

「…グス…サソリ…ごめんね…」

後ろではがグスグス泣いてるし、うるさいったらねえ。
あげく、この騒ぎを聞きつけたデイダラのバカとイタチの野郎がオレの部屋に入ってくるなり、「早くしろ」「旦那、薬まだ?!」などとうるせーし最悪だ。

「…サ、サソ…リ…」
「おい、!」
「しっかりしろっ」
「………っ?」

その声に振り向けば、が苦しげに倒れこみ、それをイタチが支えている。
きっと毒が回り、体が痺れてきたんだろう。
普段使ってる毒は体内に入っても三日はもつが、今回の毒はそれ以上に強いものだ。

(…こりゃ急がないと、マジでやべぇ)

「サソリ!解毒剤はまだかっ」
「うるせー!今、探してんだよっ」

いつになく本気で怒っているイタチに怒鳴り返し、棚の中のものを全て引っ張り出した。
その中には傀儡の部品になる細かいネジやクナイといったものが入っていて、面倒くさい状態になっている。

「チッ。何だこりゃ…汚ねぇーな…」
「旦那が普段、掃除しないからだな、うん」
「うるせー!粘土バカ!てめーはに水持って来い!」
「…おっと、そーだ!水、水っと!」

デイダラはそう言って慌てて水を取りに行った。
水は少しでも毒を薄める為に使う。
まあオレの作った毒は、そんな応急処置だって大して効果はないが。
イタチはイタチで、何度かの頬を叩きながら、「目を開けろ、!」なんて珍しく慌ててやがる。
って、オレだってこれでも結構、慌ててんだけどよ。

「…ん?」

入れ物をひっくり返し、探していると、小さなボトル容器が数本、部品の中から出てきた。
つーか、何でオレ、こんな部品と一緒に薬入れたんだ?(自分でもわけわかんねー)

「あった…!」
「何?じゃあ早くそれをに!」
「旦那ー!水持って来たぜー」
「もういらねーよ!」
「えぇっ?」
「うっせーな。薬が見つかった!」

明らかに不満顔をするデイダラを押しのけ、の口を無理やり開けさせる。
そして解毒剤の蓋を外し、それを自分の口に一気に流し込んだ。

「えっ?何で旦那が――」

デイダラの素っ頓狂な声を無視し、薬を口に含んだオレは、そのまま紫色に変色し始めたの唇に、口付けた。


「うぎゃぁぁ!!!」
「……くっ」

デイダラのアホな奇声と、イタチの何とも言えない声を聞きながら、全ての薬をの口内に注ぎ込む。
体が痺れてる状態じゃ、こうしないと飲み込む力もないはずだ。


「ん…ゴホッ…ゴホッ」
「…飲んだか…」

意識を失いかけてたが、ゆっくりと目を開けたのを確認して、ホっと胸を撫で下ろす。
そのまま彼女を抱き上げ、部屋のベッドに放り投げた。

「…ぅきゃっ」
「暫く、そこで寝てろ。まだ体、痺れてんだろ」
「…サソリ…」
「乱暴だなー旦那は…。死にかけてた女の子を放り投げるか?普通…」
「うるせぇ、デイダラ。元々はこいつの自業自得だろが。ったく…これに懲りて、今後一切、オレの傀儡に勝手に触るなよ?」

少しづつ顔色の戻ってきたを見下ろしながら、そう言えば、分かったのか、それとも懲りてないのか、は「えへへ…」と笑顔を見せた。

「死にかけたってのに何笑ってやがる…」
「…だって…サソリが必死になって助けてくれたから…」
「バカか、てめーは……オレは別に放っておいても良かったんだ。こいつら二人が泣きそうな顔でオレを見るから――」
「何だよ、それ。オイラ別に泣いてなんかないぞ、うん!」
「…サソリ…失礼な事を言うな…殺されたいか?」

オレの一言にムキになって言い訳するデイダラと、らしくもなく動揺しながら、オレに殺意むき出しのイタチ…
ったく、どいつもこいつも、うぜえ仲間どもだ。

「おら、てめーら、サッサとオレの部屋から出て行け。作業の邪魔だ」
「えぇっ?ってか旦那!部屋に二人きりでこもって、にいやらしい事する気じゃ――ぅぎゃ!!」

デイダラに向かって毒をしこたま塗ってあるクナイを投げれば、器用にも全て交わして部屋を飛び出していく。
気づけばイタチもいなくなってた。
やっと静かになった事にホっとし、さっき散らかした部品を元に戻していく。

「はぁ…面倒くせぇなあ…」
「…サソリ…」
「お前はしゃべるな。黙って寝てろ」
「…ごめ…んね…?」
「だからお前のごめんは聞き飽きたっつーの…」
「…じゃ…ありが…と…」

弱々しい声でお礼を言うに、胸の奥が痛くなった気がした。
オレの体にまだ心なんてもんが残ってるなんて、笑い話にもなんねぇ。
そもそも、こいつがオレに異様になついた原因は、任務中、殺されかけてたこいつをオレが助けた時からだ。
オレにとっちゃ仲間が一人死ぬくらい何て事なかったが、あの時は自然に体が動いちまって…気づけば助ける形になってた。
それからだ。
あまり話した事のなかったが、オレの周りをウロチョロするようになったのは。
他の奴らの方が、よっぽど優しくしてくれるってのに、こいつは何故かオレにまとわりつく。
こんなオレの事を……好きだ、と言う。

「…ふふ…このベッド、サソリの匂いがする……」
「……そりゃ毒の匂いだろ」
「…………」
「心配すんな。匂いだけじゃ死なねーよ。オレの体には毒の匂いが染み付いちまってるからな」
「…知ってるよ。それがサソリの匂いだもん」
「…………」

(何で、そんな嬉しそうな顔してんだよ…)

馴れ合いなんて好きじゃないのに、のおかげでオレのペースは狂わされっぱなしだ。

「…まだ体痺れてるか?」

軽く咳き込んでいるに気づき、ベッドの端に座って顔を覗き込む。
そんなオレを見て、はニッコリ微笑んだ。
こいつはいつも、太陽みたいな笑顔でオレに笑いかけてくる。

「…痺れてる…。また解毒剤飲ませて欲しいな」
「はあ?あいにく、さっきの一本しかまだ作ってねぇ。それに解毒は効いてるはずだ。二度飲まなくても死には――」
「そうじゃなくて……サソリがさっきみたくしてくれたら……早く元気になるよ?私」
「…………?」

頬を赤らめ、半分、布団で顔を隠しながら、そんな事を言って来るに、一瞬、首をかしげた。
が、言ってることの意味が分かり、全身の力が抜けていくのが分かった。

「てめぇ…もっぺん毒まみれにしてやろうか?」
「…っぃたっ」

ピンっと鼻先を指で弾いてやれば、は両手で鼻を押さえ、潤んだ瞳で見上げてくる。
その顔は叱られた子犬みたいで、ちょっとだけおかしくなった。

「あ…サソリが笑った」
「…………笑ってねぇ」
「嘘、笑ったよ?」
「うるせぇ、笑ってねーっつってんだろーが」
「絶対笑ったもん。私、サソリの笑った顔、初めて見た―――」
「あーもう、うるせぇっ」
「――ん、」

うるさい口を塞ぐと、大きな瞳が見開かれ、ぎゅっと腕を捕まれた。
いや、もう感覚はないから、そんな気がしただけだ。

「……オレが毒、含んでなくて良かったな…」

唇を解放し、そう言ってやれば、は真っ赤な顔のまま、

「サソリの毒なら……いつでも大歓迎」
「…チッ。マゾか、てめぇは……」
「違うよ?サソリが好きなだけ」
「…好き好きうるせぇなぁ…。もっかい口塞ぐぞ、コラ」

そう言って顔を近づけると、は耳まで真っ赤になった。





「ねぇねぇ、イタチ…」
「何だ…」
「サソリの旦那も何だかんだ言って、の事、可愛がってる気がしない?」
「…ああ。自分で気づいてないというところが困ったものだ」
「…そう言えばさ…。さっきから静かなんだけど…中で何してると思う?」
「さあな…。オレの写輪眼でも透視は出来ない」
「チェー。もしが襲われてたら、オレは旦那を吹っ飛ばすぜ、うん」
「…オレも万華鏡写輪眼で応戦しよう」
「ラッキー♪イタチがいれば百人力だな、うん。旦那にも勝てるぞ」
「だがデイダラ……」
「ん?」
「借りに襲われたとして…が喜ぶことはあっても……傷つくという事はない気がするが?」
「…………それもそうだな、うん。はサソリオタクだしよ…やっぱムカツクな、うん」
「時に…いつまでこうしているつもりだ?」
「………クソ、聞こえねーな…うん」

「トビ……あの二人、何やってるんですかね?」
「さあ?鬼鮫さん、聞いてみて下さいよ」

買出しから戻ってきた鬼鮫とトビは、ドアに耳をくっつけ、中の様子を伺っているデイダラとイタチを見て、互いに首をかしげつつ、暫く二人の様子を伺っていたとさ。







サソリって一体何歳なんですかね?
見た目は美少年なのに、口が悪いし、どこかオッサン臭さがありませんか?(笑)
これはサソリが大好きで仕方ないヒロインと、ウザいと思いつつ、実は何気に放っておけないサソリを書いてみましたとさ。