君に幸せになってほしいと願うのは罪ですか


      


恋愛とは難しいものだ。


ふと、目の前でふくれっつらをしている恋人を見て、そう思った。
こちらが思っている事を、相手にどう伝えればいいのか、そんな事を考えるだけで朝を迎えてしまうくらい。


…いい加減、機嫌を直して下さい」


子供のように頬を膨らませている彼女に困り果て、私は溜息をついた。


「私の事なんてどうでもいいのね」
「そんな事を言ってるわけではありません」


いや、むしろ大切だからこそ、言っているのに。
どう言えば私のこの心の奥が彼女に伝わるのか。
彼女にしてみれば、私は"女心が分かっていない"と言う事らしいが、それは確かに、どの方程式よりも難しいものだ。


「じゃあ何で私を連れて行ってくれないの?私は一秒だってLの傍を離れたくないのに。Lは会えなくなっても平気なの?」


涙を溜めてそう訴える。
ああ、そうじゃない、そうじゃないのに。
私だって出来るものならば、彼女といつまでも一緒にいたい、傍においておきたい。
出来るものならば、どこかに閉じ込めて誰の目にも触れさせないよう、一生私の元においておきたい。
やろうと思えば出来るのかもしれない。
でもそれをしないのは、彼女の人生全てが私のものではない事を知っているから。


「平気なわけじゃありません。ただを危険な目に合わせたくないから言ってるんです」
「…やっぱりLは分かってない」
「何をです?」
「…女心」


また言われてしまった。
確かに私は女性の深層心理に長けているわけではない。
どこぞの大学教授が頭を悩ませる数式を、簡単に解く事が出来たとしても、女性の心をすんなり解読出来るほど、女性経験もないのだ。
言ってしまえば、と出会うまで、こんな想いがある事すら、知らなかったのだから。
誰かを愛しい、とか、大切、だとか、そんな感情がある事すら、私は知らなかった。


「女はね。どんなに危険な場所でも、例え爆弾が空から降り注ぐようなところでも、愛する人と一緒なら、怖くないの。
怖いのは愛する人が危険な目に合っている時、傍にいれない事よ」


そう言いきった彼女の瞳には強い意思が宿っていた。
どれほど私を想ってくれているのか、その言葉だけで十分過ぎる。


でも、それでも、私は彼女をそんな戦地になど、連れて行けはしないのだ。
誰よりも大切な人だからこそ、幸せになって欲しい。


たとえ、それが私以外の誰かに齎されるものであったとしても――