いつものホテルで、私は退屈な時間を持て余していた。
持って来た本や雑誌は全て読んだ。オヤツも飽きた。紅茶のポットも空になった。
外は雨、大好きな彼はパソコンに夢中。
何度目かの溜息をついて、視線を窓の外から、パソコンと睨めっこしているLへと向ける。
相変わらず、淡々とキーを打っている姿に、また溜息が出た。
一度、興味の沸いた事件に取り掛かると、数週間はこんな感じだ。謎を解くまで外にも出ないし、殆ど寝ない。
いつか倒れるんじゃないかと心配だけど、言っても無駄だと分かってるから大人しく見守るしかない。困った恋人だ。

「…なるほど」

不意にLが喋った。かれこれ10時間と34分ぶりだ。
Lの声のトーンが、事件の解決を思わせる。これで寂しい時間も終わりを告げた。

「…そう言うことですか」

独り言のようにブツブツ言いながら、再びキーを打ち込んでいく。
そして親指を唇にあてながら、考えること数分。足の指もせわしなく動かしながら、彼は納得いく答えを導き出そうとしている。
こういう時のLを見ているのは好きだ。とても満ち足りた表情をしているから。
少しづつ、モノトーンだった私の世界も色づく瞬間。

「…、終わりましたよ」

導き出した答えを、どこかへ送信すると、Lはやっと椅子の上から足を下ろし、ゆっくりと立ち上がった。
ずっと同じ体勢でいたせいで、固まった体を軽くほぐした後、やっと私に視線を向ける。
この瞬間、Lは私だけのものになるのだ。
遠慮なく彼に抱きつける、至福の時。ぎゅっと細い身体を抱きしめると、Lの唇が額に触れた。

「かまってあげられなくて、すみませんでした」
「…いいよ。これから嫌って言うほどかまってもらうから」

そう言って顔を上げると、苦笑いを零したLと目が合う。
そのまま唇が近づいて、互いの距離がゼロになった。
彼に触れられた瞬間、視界が急に色づき始め、鼓動が少しづつ早くなる。やっと息を吹き返した。そんな感じだ。

「これから、どこかへ出かけますか?と言っても外は雨のようですけど」

何度かキスを繰り返しながら、Lが囁く。抱きしめる腕に力が入って、私は小さく首を振った。
そんなのは後でいい。今はLが足りないから、すぐに補給しないと、私は干からびて死んでしまう。

「…その前にベッドに運んで欲しいな」

大胆な台詞を甘えた声で言えば、Lは「まだ昼間ですよ」と照れたように笑う。
でも私には昼も夜も関係ない。Lを独り占めできる時間は一分一秒でも貴重なのだ。
Lがまた新しい事件に興味を持つ前に、自分でも持て余している、この感情を消化しなくちゃならない。

「明日の朝まで離さないから」
「朝までなんて言わず、ずっと離さないで下さい」

クスクス笑いながら、再び唇を重ねる。何だかんだ言って、結局彼も寂しがり屋だ。
私が傍にいないと、仕事もはかどらないらしい。
その分、私はどこにも出かけられず、さっきまでのような退屈な時間を持て余してしまうんだけど。
でもそれは幸せな悩みだと思う。
キスを交わしながら、ソファへ倒れこむ。この際、場所なんてどうでもいい。

「やっと戻ってきた」
「何です?」
「Lが足りなかったの」
「何だか栄養補給みたいですね」
「そうよ。Lは私の栄養剤だもの」
「それなら私も同じですよ。が傍にいないと推理力は半減ですから」

これから、いっぱい補給させてもらいます、と言って、Lは何度もキスを繰り返した。
その度に、私の身体は熱くなり、心も色づいていく。
100万回の"愛してる"より、たった一度のキスで、私は満たされる。彼への想いが、溢れてくる。
唇や身体を触れ合う、それだけの行為が、何より大事な時もあるのだ。
Lの唇が肌に触れるたび、少しづつ荒くなっていく息が、その事を証明してる気がした。

「…私も…満たしてください」

切なげに囁くLが愛しくて、思い切り抱きしめた。


心も身体もいっぱい、

そのやかなってあげる

皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…【Nelo Angelo...Owner by.HANAZO】