あ、また笑った。
今日はお盆と正月が一度に来たような日なのかもしれない。
珍しい事があるものだ。
「何ですか?人の顔、ジィっと見て」
「だって、Lってば今日はよく笑うなぁと思って」
「そうですか?」
「そうだよ。今朝から数えて…10回は笑ってる」
「そんなもの数えてたんですか…」
「だってLの笑顔って貴重なんだもの」
「私はといられれば、それだけで楽しいですから」
そう言って甘いキスの後、彼はまた、とびきりの笑顔をくれた。
パキっという音がして、顔を上げる。
メロはまた、チョコを片手に双眼鏡と睨めっこ中みたいだ。
そんなに双眼鏡が好きなのか。(違うけど)
たまには私の方も見て欲しい。
これほどメロの気を引き付けている、日本人が羨ましいなんて、私ってば、かなり愛情欠乏症みたいだ。
だって、こんなに傍にいるのに、何だか一人ぼっちの気分なんだもん。
寂しい、寂しい、寂しい。
愛しい恋人より、そんなに日本人の男が好きか。(違うけど)
こっち見ろ、見ろ、見ろ……
「…何だよ、その顔」
私の念(?)が届いたのか、メロはやっと私の方を見てくれた。
でも私の顔は相当、不満顔だったらしい。
「何が?」
本心なんて言えないから、澄ました顔で問いかける。
言わなくても、少しくらい私の気持ちに気づいてよね。
そう思って黙ってメロを見ていると、彼は呆れたように溜息をついて、
「、お前………そんなに腹減ってんのか?」
「…は?」
ほらお前の分、なんて目の前に差し出されたチョコを見て、私は言葉を失った。
そうじゃないって怒りたいけど、でも苦笑いしている、その瞳が、意外にも優しいから許してあげる。
(私も単純)
「…ありがと」
チョコを受け取る代わりに、メロに軽く口づける。
メロのキスの方が、よっぽど甘い。
静かな部屋に溜息一つ。
そんな呆れた顔しなくたっていいじゃない。
誰のせいで泣いてると思ってるの?
「なあ……いい加減、泣きやめよ」
「…マットのバカ。死んじゃえ」
「そんなに泣くと化粧がはげるぞ」
「…そんな厚化粧じゃないもん」
グスグスと鼻をすすりながら睨むと、マットは苦笑しながらもティッシュを数枚、私の顔に押し付けた。
ふぐっと息苦しくなったのと同時に、力強い腕に抱きしめられる。
「ま、泣いててもいーや。の泣き顔、可愛いし」
こんな一言で私の機嫌なんか直ってしまう事、マットはよく分かってる。
今度は嬉し涙が溢れてきたけど、これくらいは許してよね。
「あまり夜遅くまで起きてたら体に悪いですよ」とか、「一人で出かけたら危ないです」とか、etc…
二アはまるで、私の保護者みたいだ。
「うるさいなぁ…二アは」
風の強い日に、外に出ようものなら、二アが慌てて私のショールを持ってくる。
私より一つ年下のクセに、何だかお兄さんのようだ。
「はすぐ風邪引くでしょう?」
「…大丈夫よ」
「大丈夫じゃないから言ってるんです。ほら、これを」
「いらない。すぐ近所の本屋さんに行くだけだもん」
「なら私も行きます。ちょうど欲しい本がありましたから」
「………」
いつも口うるさい二アに、辟易してる私の気持ちなんか、ちっとも分かってないみたい。
「何で、いつも私に構うの?」
勝手についてくる二アにムっとしながらも尋ねてみる。
でも応えはいつも同じ。
「の事が好きだからですよ」
何度言わせれば気が済むんです?なんて、二アは当たり前といった顔で、そう言いのける。
もっと違うシチュエーションで言ってくれれば、もう少し考えてもいいのに。
なんて…素直じゃないのは私の方かもね。
二アの優しさが、いつも私の傍にあるなんて、この先の事は、何も分からないのに。
静かな部屋に、Lと二人きり。
何をするでもなく、ただ寄り添ってるだけ。
時々降って来るキスの余韻に浸りながら、窓の向こうに光ってる月を眺める。
他愛もない時間なのに、Lといると、何よりも大切で、幸せ。
「こうしてといると、時間が経つのを忘れてしまいます」
「…私も。ずっとこうしてたいなぁ」
そんな言葉を言い終わらないうちに、また唇が塞がれる。
愛しい人の体温と、優しいキス。
そして「愛してます」という甘い囁き。
私の知りえる限りの幸せを、Lにもらってる気がする。