人肌の罪「俺の女になるか?」 そんな甘くもない台詞を言ったら、目の前の女は一瞬だけ、眉を顰めた。 女なんて何も言わなくても勝手に寄ってくる。 俺が望む、望まない関係なく。 それこそ選び放題で、ヤリたくなったら、その中のどれかを選び、一方的なセックスをするだけ。 俺にとっての"女"とはそれだけの存在でしかなかった。 なのに―― 「何言ってんの?」 目の前の女は驚いたように、そして呆れたように目を細める。 「とうとおかしくなっちゃった?」 「そうかもな」 「他にたくさんいるじゃない」 「そうだな」 俺にはやる事があるから。 それ以外のことは何も本気じゃなくていい。 女を抱くのも、拾うのも、ほんとに一瞬の気まぐれでしかなかった。 今、隣で訝しげな顔をしているだって、同じだった。 一人で泣いてるとこを声かけて、拾って、ここまで連れてきた。 それもただの気まぐれ。 あの日からはここに居座ったけど、何となく抱く気がしなくて、今では体の関係もないのに傍にいる唯一の女だ。 は何も知らないまま、ただ傍にいる。 俺が人を殺してきたって、女を連れ込んだって、は顔色一つ変えないで、それでも傍にいてくれる。 朝、起きたら朝食が用意してあって、帰ってきた時には"おかえりなさい"という言葉をくれる。 いつの間にか、それが当たり前の事になって、何となく居心地がよくなって、だから今もまた、ただの気まぐれで言っただけなのかもしれない。 「メロは私のこと、女なんて思ってないでしょ」 さっきまでの強気な瞳とは違い、何となく悲しげに俺を見るは小さく息をつく。 その表情は何となく俺の胸を痛くさせた。 「そんなことはない」 「嘘だ。どうせ野良猫を飼ってる、くらいにしか思ってないのよ」 スネたように睨む彼女に、つい笑みが零れる。 「じゃあお前は俺の事をどう思ってるんだ?」 「……………」 俺の問いには俯いてしまった。 そんな顔をされたら、気まぐれが本気になる。 数センチあった距離を埋めるように細い腰を抱き寄せ、の髪に口付けた。 「…私のこと、好きじゃないくせに」 「何でそう思う」 「好きじゃないでしょ?」 「…好きだよ」 「嘘つき…」 かすかに体と声を振るわせたは泣きそうな顔で俺を見上げた。 女に好きだなんて言った事がないのに、初めて言った女には嘘つきと言われる。 俺が連れ込んだ女に、そんな言葉を言ってないことくらい、お前なら知ってるだろう? これ以上、何かを言っても信じてもらえない気がして、俺は抱きしめる腕の力を強くした。 「いいから俺の女になっておけ」 「偉そう…」 「嫌か?」 「……嫌、じゃない」 目を伏せて小さく呟いたの言葉に苦笑が洩れる。 細い体を抱きしめる腕から暖かい体温が伝わってきて、ああ、人間てこんなに暖かいものなんだ、と実感した。 そしてと一緒に住み始めてから、少しづつ心が温まってた事に、この時気づいた。 「…飼いならされてたのは俺の方か…」 「…何か言った?」 「いや…は暖かいな」 「今頃、気づいたの?」 今日まで触れもしなかったくせに、と彼女は笑う。 「今から、存分に触れてやるよ」 いつもの口調でそう言えば、初めての頬が赤く染まった。 「じゃあ…もう一回、言ってくれる?"好きだ"って…」 「好きだよ、」 「私も…好きだよ、メロ」 言われた瞬間、触れるだけのキスを落とせば、彼女の体がかすかに熱を持った。 ※ブラウザバックでお戻りください。
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