さらさら、指を滑っていく








普通の恋がしたい、とは言う。
でもオレにとって"普通"なんてものが、どういうものなのか、普通の恋とはどういうものか、よく分からない。
オレにとっての全ては、あの施設にあったし、今はキラを追うことだけに全神経を注いでる。
そんなオレの傍に当たり前のようにがいて、これがオレにとっての普通だった。
こいつが傍で笑っててくれればオレはきっと他に何もいらない。
でもは別にオレのものじゃないし、他に好きな男が出来れば、きっとアッサリここを出て行くんだろう。


「普通ってどんな?」


そう問いかけると、はニッコリ微笑んだ。
狭い部屋の中、狭いソファの上で、オレ達は体を寄せ合いながら他愛もないおしゃべりをする。


「好きな人と、どこかに出かけたり?」
「どこかって?」
「ん〜、だから映画館に行ったり、遊園地に行ったり…」
「…そんな事して何が楽しいんだ?」
「好きな人と一緒だと何してたって楽しいじゃない」
「だったら別に、ここにいても同じだろ」
「そうだけど…たまには二人で出かけたりしたいの」
「…矛盾してるな」
「人を好きになるって事は矛盾ばかりだよ」


オレの言葉には少しだけ寂しそうな顔をした。
の言っている事は分かる。
でもオレは彼女がいるなら、外へ出ようが、部屋にこもってようが、同じ事なのだ。


「映画のような恋じゃなくていいから、普通の恋をメロとしたいの」


小さな告白がオレの耳に届く。
オレだって出来れば、普通という生き方をしたかったさ。
平々凡々の家庭に生まれて、普通の奴が通う学校へ行って、勉強をして。
友達とバカをやったり、恋をして、熱くなったり。
でもこれがオレの人生なんだから仕方ない。
待つのは想像もつかないような、真っ黒い闇ばかりだし、それを照らしてくれてるのはなんだ。
今日まで大切なものを失ってばかりだったけど、たった一つ、まだこの手に残っている。


「キラを捕まえたら、が呆れるくらい、傍にいてやるよ」
「でもメロがキラを捕まえれば、きっと英雄になっちゃうでしょ?そしたらLみたいに次から次へと仕事が入って、また忙しくなる」


そしたら会う時間すらなくなる気がする、とは呟いた。


「"L"の名を継ぐのはオレの目標なんだ」
「"二アに勝つ事が"でしょ?」
「同じ事だ」
「そうかな…メロはニアを負かして一番になりたいだけじゃない?」
「それだけじゃないさ」
「ふーん…でも私は…二番のメロの方が好きだな」


そう言いながら細い腕を首に回してくるから、その体を強く抱きしめた。


「何でだよ。は昔から頑張れって言ってただろ」
「そうだけど…でもホントは二番のままのメロが好きなの。一番を取ろうとして頑張ってるメロが好きなの」
「やっぱり矛盾してるよ、お前」


オレが苦笑するとは少し唇を尖らせて不満そうな顔をする。
その唇に触れるだけのキスを落とすと、すぐにそれは深いものへと変わった。
何度も舌を絡めながら、彼女の上に覆いかぶされば、遠慮がちにまわされる細い腕。


「メロが一番になったら…私は傍にいられないんじゃないかな…」


乱れた呼吸の中、そんな言葉が洩れてくる。


「オレから逃げたければ逃げればいい。の思うように生きろ」
「メロ…冷たい」
「勘違いするな。お前がどこへ逃げたって…どこまででも…追いかけてやる」


何を失っても、お前だけは。
は涙を溜めた瞳で、優しく微笑んだ。


「ねぇ、メロ。一番になんかならなくていいから…だから、生きていてね」


は涙交じりでオレを見つめながら、消え入るような声で呟いた。
熱い吐息とは裏腹に、その肌は心を映すようにどんどん冷えていく。
どれだけ体を繋げようと、未来にある別れを想像すれば、二人とも凍えてしまうだろう。


「オレは…今、ここに生きてるだろ」


彼女が寂しがらないように、絶望を感じないように、その肌へ熱を与えた。
過去は変えられないけど、約束なんか出来ないけど、でも今のオレは、確かに生きている。
いつ死ぬかも分からない、この世の中で、彼女だけが唯一、オレの生きてきた証。
どこに行こうと、地の果てまでも追いかけてやるさ。




「…メロが…この手をすり抜けて、遠くへ行っちゃう気がする」




いつの世も、大切なものだけが、この手から零れていくんだよ。




は小さな手をかざし、遠くを見ながら呟いた。
彼女のその瞳には、どんな未来が映ってるんだろう。
















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久々お題メロ夢です。
残り一話、頑張ろう。
早くアニメでメロ見たい。




皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【SICILY...管理人:HANAZO】