静かな物腰、柔らかな笑顔。
優しい空気を持つ彼を、いつからか好きになっていた。
憧れから尊敬、そして一人の男性として…
けど今は…彼と同じ空気を持つ少年が私の傍にいる―――
彼の顔や声をハッキリとは思い出せなくなってきた今も、ニアは私の傍にいた。
私が怒りを吐き出して、どっかに行っちゃってよって怒鳴っても、それでもニアは何も言わずに傍にいてくれた。
悲しいのは皆も同じなのに、ニアだって、あの雨の日に出て行ったメロだって、きっと同じなのに。
「、一緒にアメリカへ行って下さい」
いつも穏やかなニアが強い口調で言ってきた。
あの頃のような苛立ちも薄らいではいたが、やっぱりどこかで素直になれず、無言のまま顔を向ける。
ニアはそんな私に、いつものように優しい笑顔を見せる。
その笑顔には、いつだって彼の面影が見えて、忘れかけてた傷を疼かせるんだ。
「…何のために」
「大統領に今までの捜査の報告をしに行きます」
「…どうして私も行かなくちゃならないの」
ニアはメロが出て行ったすぐ後に、私を連れて施設を出た。
そして独自にキラの捜査を続けて、Lが暴いたであろう事実を彼も調べつくしたようだ。
その資料を大統領に報告する。
それはこれから本格的にキラを追う、というニアの意思表示なんだろう。
「には私の傍にいてもらいます」
「どうせ嫌だって言っても無理やり連れてくんでしょ…?施設を出た時みたいに」
「そうですね」
「私が離してって言っても離してくれないんでしょ?」
「そうですね」
「ニアの顔なんて見たくないって言っても―」
「だって好きですから」
ごく当たり前のように、ニアはその言葉を口にする。
「そればっかり…」
「本当の事です」
そっと包まれる私の体が敏感に反応する。
後ろから彼の吐息を感じて眩暈がする。
目を瞑れば彼の面影が重なって胸が痛い。
「…どうして苦しめるの」
「苦しめてるわけじゃありません…」
「だって、苦しいもの」
「私も苦しいですよ」
すぐ後ろで囁くように零れ落ちるニアの言葉に、涙が浮かんだ。
私たちは同じ痛みを抱えてるはずなのに、今は私がニアを苦しめてる。
私の瞳はあの日以来、色を失って、世界全てがモノクロに見えてるから、誰かを傷つけずにはいられない。
「苦しいなら…私を捨てればいいじゃない」
抱きしめている腕を振り払って、そう言えば悲しげに揺れるニアの瞳。
その顔が、彼の面影と重なって、暖かい涙が頬を伝っていった―
彼女の苛立ちが伝わるたび、私の心は錆付いた鉛のように重く沈んでいく。
体中の熱を奪うような、冷たい瞳で見られれば、伝えたい言葉すら凍りつく。
それでも決してその感情を彼女には見せまいと、その手を離すまいと今日まで傍にいた。
彼女に見えている影の存在に気付かぬフリをし、傍にいる事しか出来ない。
「が好きです」
いつからか素直に想いを言葉にするようになった私に、彼女はいつも悲しい顔をする。
受け入れてもらえないと分かっていても、それでも傍にいたかった。
も心の奥では、一人になることを恐れているのが分かるから。
無理やりでも、何度、怒鳴られも、彼女を手放す気はないし、彼女の悲しみを受け止められるのは私しかいない。
そう、今でも信じている。
「苦しいなら…私を捨てればいいじゃない」
吐き出される言葉に、"捨てないで"という響きが混じっていることを私は気づいていた。
「…こんなに愛してるのに、捨てられるわけがないでしょう」
振り払われた腕で、再び彼女を抱きしめる。
少しは抵抗するかと思えば、彼女は黙って私の腕に収まった。
「…キス、して」
「…?」
小さく呟かれた言葉にドクンと鼓動が跳ね上がった。
少しだけ腕の力を緩めると、は涙で濡れた瞳で見上げてくる。
「キスして、ニア」
もう一度、彼女がハッキリとした声で言った。
「私の事…愛してるなら…キスして、そして抱いて」
彼女の瞳から、零れ落ちた涙が、冷たい感情を洗い流して行く。
私を通してが誰を見ていても、それはそれで構わないと、この時思った―
底冷えするような瞳の色
――NO.02
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今日もデスノ病を発症してます(笑)
言葉を吐きだしても、まだ足りない。
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【SICILY...管理人:HANAZO】
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