「私の事…愛してるなら…キスして、そして抱いて」
こんなこと言うつもりじゃなかったのに。
ニアがあまりに切ない顔で愛を囁くから…苦しくなっただけ。
私を"愛してる"というくせに、触れても来ないから切なくなっただけ。
貴方を彼の代わりにするつもりなんて、初めから、ない――
僅かに寄せられた唇からニアの愛情が注ぎ込まれる。
強くしがみつけば次第に啄ばむような甘いキスへ変わっていく。
それが繰り返されるうちに頭の奥が痺れるような感覚になって、気付けば求めるように抱きしめていた。
「……」
苦しそうな息が洩れ、名前を呼ばれる。
唇が愛おしそうに肌を掠めていくたび、私の体が熱くなって感じた事もない感覚が襲ってきた。
「…ん、」
「…愛してます…」
その愛の言葉を聞いていると、初めて体の中心から溢れてくるものがニアの指を受け入れるたびに音を立てる。
その反面、ピリピリした痛みがかすかに、そこから体全体に広がっていく。
「…大丈夫、ですか…」
「…ん、やめないで…」
顔を歪めた私を気遣うように動きを止めるニアの首に、腕を回した。
息を乱しながら、口づけるニアを心の底から愛しい、と、この時、素直にそう思った。
それは彼の影をニアに見てるからなのか、それとも傷つきながら私の傍にいてくれたニア自信に対してなのか。
考えるより先に激しい電流のようなものが体全体を突き抜けた。
「……ッ」
「…痛いですか?」
息を乱し、熱い掌で私の頬を撫でるニアに何度も首を振った。
初めて受け入れた他人の体が、こんなに熱いなんて初めて知った。
ゆっくりと目を開ければ、切ないような、苦しいような顔をしたニアの顔が心配そうに私を見つめている。
この時、私は初めてニアの顔を見たような、そんな気がしていた。
柔らかい銀色の髪、滑らかな肌、そして優しい瞳。
意識が白濁した中、今見てるのは確かにニアだ。
何もかも受け止めて私の傍にいてくれた人。
「…愛してます」
甘い蜜を含んだ唇で翻弄されながら、耳を掠めていく声に心が震える。
その度に彼を受け入れた場所から蜜が溢れて不思議な感覚を覚えた。
痛みも次第に麻痺していく中、愛しそうに私を抱く彼がとても大切な人だと知った。
いや、知った、というより分かった、という方が正しいのかもしれない。
それとも私はもう随分と前から気付いていたんだろうか。
自分が、ニアの事を愛していると――
何度も名前を呼ぶたびに、彼女の体が震えて涙を流す。
恐る恐る触れた彼女の肌に、気付けば溺れていた。
最初は触れるていどに、少しづつ啄ばむようにキスをしていると、感じた事もない痺れが頭を麻痺させる。
そのうち彼女の目に涙が光り、強くしがみ付いてきた。
抱いてと言ったのは彼女の方だが、初めての行為に怖くなるのは当然だろう。
それでも言われるがまま彼女に触れた。
肌を合わせることで、が何かから救われるなら、それでいい。
蜜が溢れてくる場所を慣らし、ゆっくりと侵入すれば彼女は苦痛で顔を歪めた。
「…痛いですか」
私の心配をよそに、は涙を流しながら何度も首を振る。
涙で濡れた頬を優しく撫でると、ゆっくりと目を開けたが泣き顔のまま見つめてきた。
「…愛してます」
一方的な愛情でも、それでも。
私はを確かに愛していた。
それが伝わっていなくても、何度だって言葉にする。
そうする事で彼女の意識を私に向けられるなら、憎まれても疎ましがられても構わない、という気さえしていた。
体の繋がりはハッキリ言って私には何の意味も持たない。
私が求めているのは、心の、繋がり。
気遣うように奥へと腰を進めると、背中に回った細い腕が強く抱きしめてくる。
息を乱しながら、小さく啼く唇を塞ぐ。
彼女の涙の味がするそのキスは、甘い吐息と交わった。
何もかも終わった後、私達は一緒に眠った。
抱き合ったからといって、これから二人の関係が変わるなんて思ってはいない。
ただ苦しみから解放する手段として、彼女の望みを叶えただけ。
それなのに初めて彼女を抱きしめて眠った夜。
何かが変わって欲しい、と願う自分がいた。
「一緒にアメリカに行くわ」
朝、目が覚めると彼女はそれだけ言って部屋を出て行った。
例え"行かない"と言われても連れて行くつもりだったけれど、素直に行くというに少しだけ不安も覚える。
それが夕べの事と関係があるならば、彼女の中で何かが変わったのだろうか。
それから荷造りを終えたが部屋に戻ってきた。
久しぶりに明るい色の服を着て、軽くだが化粧をした彼女は、とても綺麗で。
だからこそ自分の中に芽生えた"恐怖"が胸を疼かせる。
今までは傍にいるだけでいい、と思っていたはずなのに。
傍にいて危険に曝すより、守りたい、と、それまで以上に思ってしまった。
苦しみから解放するはずの行為が、自らを追い込んでしまったのかもしれない。
「…」
目の前の彼女を見上げれば、前以上に深い愛情を感じる。
この時、私は心を決めた。
はいつもより、ほんの少し優しい視線を私に向けると小さく首をかしげた。
それは彼女のクセであり、とても可愛らしい、とずっと思っていた仕草で、それを見た瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ躊躇う。
「何、ニア…」
目の前にしゃがんだは、そっと私の手をとった。
弄ぶように指先を触りながら、まるで昔の二人に戻ったような感覚になる。
抱き合った事で、彼女の何かが変わったのなら、何て皮肉なことなんだろう。
全く逆の、感情が芽生えた私にとっては。
「貴女は…ここに残ってください」
私の一言で、はゆっくりと顔を上げた。
清らかに厳かに、哀しげに
――NO.03
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ニア三弾ー。
何だか時間がなくてバタバタ更新;;
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【SICILY...管理人:HANAZO】
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