私はニアが泣いているところを、今日まで一度も見た事がなかった。
そのニアが泣いている。
私は、それ以上、責める言葉を失った。
「泣かないで…ニア…」
震える指先を伸ばし、ニアの頬に触れる。
透明の雫が私の指先を濡らし、心の奥まで沁み込んだ。
「…分かったから…泣かないで…」
もう一度、そう言うと、ニアは僅かに顔を上げ、少し驚いたように自らの頬に触れた。
まるで泣いている自分が信じられないとでも言うように。
そんなニアを強く抱きしめる。
「……?」
「…ごめんね…ごめんね、ニア…」
本当は、凄く貴方が大切だった。
今更ながらに気づいて、自分の愚かな言動を悔やむ。
ニアの胸に顔を埋めながら、私も泣いた。
今日までの日々を、思い出しながら。
ニアは何も言わず、ただ黙って私を抱きしめ返してくれた。
「…久しぶりに…海へ行きましょうか」
涙も乾き、呼吸も落ち着いた頃、静かな声でニアが言った。
元気のない私を、ニアが何度となく連れて行ってくれた海。
「でも…」
もう発つんでしょう?と言いかけた私に、ニアは優しく微笑んだ。
その瞳にはもう涙の色は見えない。
「少し…寄り道するくらいの時間はあります」
そう言った数分後には、迎えの車が到着した。
二人で、発つために用意された車。
それにニアだけの荷物が積み込まれるのを、酷く寂しい気持ちで眺めながら、私は後部座席へと乗り込んだ。
ニアは何も言ってこない。
私も何も言わない。
これ以上、ニアを困らせるのは嫌だから、黙って残るしか、私に出来る事はない。
こんな事になるなら、ニアをもっと大切にすれば良かった。
こんな事になるなら、ニアをもっと愛せば良かった。
私は今日まで…ニアを傷つけてばかりだった――
静かな車内、無言のままと体を寄せ合う。
責められても仕方のない事をしたのは私の方なのに、彼女はあれ以上、何も言う事はなかった。
本心を言えば、を一緒に連れて行きたい。
でも、それが出来ない。
Lを失った事で、想像以上に、キラは恐ろしい敵だという事は、だいぶ前から分かっていた。
私がキラを追えば、周りにいる人間に危害が及ぶ。
それを必要な犠牲、とはもう思えなくなっていた。
前のように、傍に置いても、守りきれる保証はどこにもない。
数パーセントでも、に危険が及ぶ可能性があるならば、やはり連れていくべきでなはない。
その気持ちを、彼女は理解してくれたんだろう。
時折、触れる指先は、頼りなさげに私の手を包み込んだ。
「…暖かいですね」
の体温を感じ、胸の奥までが何故か暖かくなった。
「ニアの手が冷たすぎるんだよ…」
「そうですね」
「いつも思ってた…ニアって冷え性?」
「…そうかもしれません」
そんな他愛もない言葉を交わしていると、懐かしい風景が見えてきて、少しすると車が静かに停車した。
二人で車を降りると、人気のない砂浜をゆっくりと歩いていく。
前は私が無理やりといった感じで、を外に連れ出すたび、ここへと来ていた。
自分の心に閉じこもってしまう彼女を、どうしても明るい場所へと連れ出したかった。
は私と違い、本来、太陽の下が良く似合う。
「もう太陽が上がりきったね」
波打ち際まで来ると、は眩しそうに手をかざし、太陽を見上げた。
日の光に透けて、彼女の髪は綺麗な天使の輪を作る。
それに見惚れていると、不意に冷たい水が顔にかかった。
「…あはは!ニア、びしょ濡れ」
「誰のせいですか」
思わず顔を顰めて頭を振ると、濡れた髪が水滴を飛ばした。
そんな私を見ては楽しそうに笑った。
「ニア、犬みたい」
「…拭くものないですから」
そう答えながら、私は久しぶりに見たの笑顔に心の底からホっとしていた。
まるで昔の彼女に戻ったようだ。
ずっと一緒にいた時間、一度も見れなかった。
「ニア、覚えてる?初めて海に行った時のこと」
寄せては引いていく海水に足を浸しながら、は振り向いた。
そんな彼女が数年前の記憶と重なる。
「ええ…Lが…連れて来てくれた」
「…うん。あの時は…楽しかったね。私とニアと、メロとマット、それにリンダも、凄くはしゃいじゃって」
「私は遊んでいる皆を遠くで見てましたけど」
「そうそう!おいでよって言っても、ニアだけ砂浜で、ずっと本読んでたね」
は苦笑しながら髪をかきあげた。
あの頃と変わらない、私の心を動かす、唯一の存在。
「そう言えば、Lがヒトデふんづけて大騒ぎしたの、覚えてる?!」
「ええ。いつも冷静なLが子供みたいに騒いでました」
「あれには笑っちゃった!それでメロがLの弱点、見つけたなんて言って、ヒトデ持ってLを追いかけて―」
「その後にLは転んでびしょ濡れになりました」
「あははっ、そうそう!それでメロは後でこってり小言を言われてたのよね」
お腹を抱えて笑う彼女は、あの日と同じ。
皆にからかわれてるLを、愛おしそうに、その綺麗な瞳で見つめてた。
私はきっと、あの頃からに惹かれてたように思う。
太陽のように笑う彼女が、私にはとても眩しかった。
「…あの時はホントに楽しかったな…」
「…そうですね」
「ニアは本に夢中だったじゃない」
「そうですけど、でも楽しかったです」
そう言って一歩、へと近づく。
「の笑顔を見れるだけで、私は何をしていても楽しかったですから」
「…ニア…」
そこで、ふと寂しげな顔をするを、私はそっと抱き寄せた。
最後の最後に、また彼女の笑顔を見れて良かった。
「…今まで…すみませんでした」
「…何で謝るの?」
私の言葉には不意に体を離した。
「謝るのは…私の方だよ…」
「どうしてが謝るんですか?」
悲しげな顔で目を伏せるを見つめると、彼女の瞳に涙が浮かんだ。
「今日まで…ずっと私を支えてくれてたのはニアなのに…酷いことばかり言って傷つけた…」
「……?」
「それでもニアは…私を見捨てないで傍にいてくれたのに…」
そう言った後、は私に抱きついた。
その体はかすかに震えていて、彼女は泣いているようだった。
さっきまでの楽しそうな笑顔は、なりの強がりだったのかもしれない。
「笑顔で送り出そうと思ってたのにな…」
ふと、がそう呟いた。
「さっきの笑顔で…十分です」
心からそう言うと、を思い切り抱きしめる。
ここで別れてしまえば、今度はいつ会えるかなんて分からない。
キラとの決着がついた時、私はこの世に存在していないかもしれない。
その時は…私の死が、彼女に優しく届く事を祈ろう。
「行かないで…って言っても…行くんでしょ?」
「約束しましたから」
「…約束…?」
「ええ。"敵を討つ"と」
その言葉を呟くと、の体がビクっと跳ねた。
「ニアは…負けない?」
「負けるつもりで戦いを挑んだりはしません」
「必ず勝って…戻ってくる?」
「何年後になるか分かりませんけど」
「…待ってても…いい?」
最後の言葉は、集中していなければ聞き逃してしまいそうなほど、弱々しい物だった。
波の音に浚われそうな、そんな言葉は、幸いにも私の耳に届いた。
「私からは…それを言えません。の時間を縛る事になりますから」
抱きしめる腕の力を強めながらも、囁くように答えると、はゆっくりと顔を上げた。
「私、待ってるから。ニアが戻ってくるのを、ずっと待ってる」
でもニアは気にしないで。
捜査に集中して。
私がニアの帰りを勝手に待ってるだけだから。
は何度もそう言って、最後に綺麗な笑顔を見せてくれた。
「今までニアが私を支えてくれたように、今度は私がニアを支える存在になりたいの」
その言葉さえあれば、私はどこへ行っても、きっと救われるだろう。
誓いの代わりに、優しいキスを交わして、私はを手放した。
最後の海へ出掛けましょう
――NO.5
※ブラウザバックでお戻りください。
ひゃー久しぶりに更新しました;;>ニア夢!
もし待っていてくれた奇特な方がいましたら、ホントお待たせしました(;^_^A
初ニア夢も残り一話となりました。
あと遅くなりましたが、更新処で、この作品にコメントを下さった方々へレスです<(_
_)>
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●ニア大好きなんです!Lも好きですが。更新頑張って下さい!(中学生)
(ありがとう御座います!更新、ホント遅くなってしまって申し訳ありません;;)
●ニアがほんっとーに好きなんです!!めっちゃかわカッコいーのがすきですvv(大学生)
(ありがとう御座います!ニアはなかなか感情を出さないので描きにくいキャラですが頑張ってます(;^_^A
●ニア大好きですvLよりもある意味変?なところとか…存在そのものが愛しすぎますっっ(高校生)
(確かにLより感情は出さないですよね(笑)やはり私はLが一番ですが、プチLとして(笑)彼はナイスキャラですかね!)
●ニアのお題夢も好きですが、メロの連載も大好きです。これからも頑張って下さい(高校生)
(デスノ夢、読んで下さってるようで、ありがとう御座います!デスノは暫し休息中ですが、今後も頑張りますね(>д<)/
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【SICILY...管理人:HANAZO】
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