私の好きな人は何を考えてるのか、サッパリ分からない、不思議な人だ。
世にも有名な名探偵ホームズなんか足元にも及ばないくらいの名推理をするクセに、子供みたいにオモチャで遊んだりする。
最初は何だコイツ、なんて引いてしまったくらいだ。でも慣れてくると、そのギャップが面白いと思うようになって、
気づけば、淡い恋心なんか抱いてしまった。、一生の不覚だ。こんな変な男を好きになるなんて。


「もうーまた散らかしてる」

一歩、部屋に入った瞬間、ウンザリした。
今朝、一時間もかけて片付けた、オモチャの電車や、積み木が、床一面に並んでいたからだ。
そのオモチャの真ん中に寝そべっている二アの手には、これまたオモチャの飛行機。
彼は特に気にする風でもなく、「片付けなんか頼んでいません」と言った。
その態度にカチンとする。でも怒ったって私が彼に勝てるはずなどないから、言い返すような事はしない。
ただ、こんな人を好きになった自分を呪うだけだ。

「それより、頼んだ資料は出来たんですか?」
「…出来ました。はい、これ」
「ありがとう御座います」

二アは片手に飛行機を持ったまま、その資料を受け取ると、すぐに目を通し始めた。
その間、私は大人しく待っている。どうせやり直し、と言われるからだ。

「ダメですね。これじゃ分かりにくい。もっと誰にでも分かるようにまとめて下さい」
「それでも分かりやすくまとめたつもりなんだけど」
「私やに分かっても、他の者には分かりづらいですよ。やり直してください」

バッサリ切られるとはこの事だ。まあ分かっていたけど。

「じゃあ、どの辺りを直せばいいの?詳しく教えてくれないと、直しようがないわ」

自分の男の見る目のなさに嘆きながら、彼の前にしゃがむ。
二アは仕方ないですね、と言いつつも、私に分かりやすいよう、どこがダメなのかを説明し始めた。
資料を覗き込んでの会話だから、自然と互いの顔も近づく。
ふと二アの大きな瞳に目が行って、その睫の長さにドキっとした。
綺麗だなぁ、なんて男の人にいう事じゃないけど、でもホントに綺麗なんだから仕方ない。

、聞いてるんですか?」
「…え?あ、ゴメン、何?」

二アに見惚れていて、肝心な事を聞き逃していたようだ。二アが呆れたように溜息をつく。

「全く…は優秀ですが集中力がなさすぎます。ジェバンニを見習ってください」
「…はーい」
「ホントに分かってるんですか?」

二アの大きな瞳が半分に細められる。何だかそんな顔すら可愛いく思えてしまうんだから、相当の重症だ。
銀色のクセっ毛も、色白の肌も、柔らかそうな唇も、全てが愛しい。まさに痘痕もエクボだ。
以前の私は、もっと筋肉質で、男らしい人が好みだったはずなのに、何で間逆なタイプの二アを、好きになったんだろう。
いつの間に、こんなに大切な存在になっちゃったんだろう。

「…だいたいは……」

説教が延々と続く。でも変なことに苦痛じゃない。二アが私を見てくれるなら、説教されてる時間も幸せなのだ。
普段、それほど話さない彼も、こういう時だけはよく口が動く。それを見てるのも楽しい。
その良く動く唇を見ていたら、怒られてるのに、キス、したいなぁ、なんて不謹慎な事が頭を過ぎった。
と言うより、それが行動に出てしまったようだ。
気づいたら、私は二アの唇に自分のそれを重ねていて、彼は驚いたように目を見開いていた。
思ったとおり、二アの唇は柔らかくて、気持ちがいい。ずっと抑えていた欲求が満たされていく気がした。

「……な…何するんですか」
「何って…キス…したいなぁと思ったから」
「お、思ったからって、普通しますか?いきなり!」

二アにしては珍しく、動揺している。色白の頬も薄っすらと赤い。

「だって二アの唇、柔らかそうだから…」
「な…何を――」
「もう一回、していい?」

一度溢れた欲求は、そう簡単には消えそうにない。
二アの返事も待たず、私はもう一度彼に口付けた。

「…セクハラで訴えますよ…?」

長いキスの後、二アが真っ赤な顔で呟いた。
普通、逆だよね、と笑えば、二アも呆れたような笑顔を見せる。

「どうやら私は、女性を見る目がないらしい」

そう呟いた後、今度は二アからキスをしてくれたのは、内緒の話。


怒った?
それとも照れてるだけ?

皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…【Nelo Angelo...Owner by.HANAZO】