04-男の思惑-

 
彼女の細い体を抱きしめながら、いつになく心が凪いでいるのを感じていた。大嫌いな雨の日なのに、といると穏やかな気持ちにさせられる。他の女じゃこうはいかない。なのに彼女とだけはこうしていつまでもベッドの中で微睡んでいられるのだから不思議だ。
数か月前、彼女にはある目的の為に近づいた。
東卍の縄張りで敵対してる組織の奴らが、どこからかヤクを入手して売りさばいてる。そんな情報が流れてきて、鶴蝶や九井が調べ出してくれたのは、ある小さな製薬会社に勤める女の情報だった。敵対組織の男の恋人で、その女が会社の薬をその男へ横流ししているらしいとのことだった。
ヤクの出所が分かれば後は簡単だ。九井が奴らの資金源を削る為、その製薬会社を買収した。元から絶ってしまえば簡単な話だ。後はその横流しをしている女を探し出して始末する。東卍の不利益になることをしでかしたのだから、一般人と言えど罪は重い。

ただ女の情報は少なすぎた。名前も、どこの部署かも分からない。男は巧妙に女の存在を隠していたようだ。
そこで行き詰った時、九井が女の年齢が24~26歳くらいらしい、と情報屋から聞きだしてきた。何でもその情報屋が一度だけ、男が女と一緒のところを目撃したことがあったらしい。多分ヤクの受け渡しをしてたんじゃないかという話だった。外見の特徴と年齢だけでもかなり絞れる。

組織の男の方は鶴蝶に任せ、女の方は九井か乾に任せるつもりだった。適当にそれらしい女に近づき、片っ端から調べろ。そう命令したものの、そんな特徴の女はあの会社に山ほどいる。かなり時間のかかる作業だった。
そこでオレも暇ついでに女を探すことにした。いつもの気まぐれ。暇つぶし。理由と言えばそんな感じだ。幸い、女を引っかけるのは得意だった。

まずは情報屋の話してた外見に近い女へ近づき、軽く話をするだけ。白か黒かは一時間ほど話せばわかるからだ。酒を飲んで酔っ払わせれば更に女の口は軽くなる。でも話を聞いた女の中に、男の恋人はいなかった。
オレが声をかけた三人目の女がだった。
会社帰り、一人でバーへ向かったのが怪しく見えた。男と待ち合わせかと思ったのもある。でも彼女はただ単にリストラを嘆くだけの普通の女だった。
思っていた以上に酔っぱらっていた彼女を送って、介抱したのはただの気まぐれで、「まだいて欲しい」と言われて傍にいたのも他に理由はない。いや、なかったはずだった。

あの夜、彼女は「寂しい」と言った。その寂しさはオレと同じような境遇からきているものだということも、関係してたのかもしれない。
何となく、昔の弱い自分を見ているようで帰ることが出来なくなった。この世界で一人という孤独は、オレも痛いほどに理解できるから。
最初はある種の同族的な感情だったのかもしれない。
あの日以来、オレはの元へ帰るようになっていた。
この感情が愛とか恋と呼ばれるものなのかなんて分からないし、どうでもいい。
ただといると安らげる。ピタリと波長が合う。オレの欠けた部分を補ってくれる。同じ孤独を味わった者同士というだけじゃなく。オレに縋って来たあの夜の彼女が心に絡みついて離れなかっただけ。それは時間を増すごとに伸びる蔦のように、オレを絡み取っていく。
ただ、それだけだ。