六本木心中


それはまるで花のようだった。汚れのない真っ白な景色に降り注ぐ赤は、そこで生まれた真紅の薔薇のように見えた。わたしの指先から咲いた、枯れゆく薔薇だ。
あれは15歳の冬――まだ何の力もない、ただの子供だった。





――10年後――



「……く…っ」
「どうやって…死にてえ?」

(何故、こんなことに――?)

男は無機質な、闇を思わせる瞳でわたしを見下ろした。首にかかった手には容赦ない力が込められる。酸素が途切れ、わたしは魚のように口を、ただ動かすことしか出来ない。

(何故、わたしは――)

思考が追いつかないうちに、意識が朦朧としてきたのを感じて目を閉じた。こんな豪華なマンションの一室で、自分の人生が幕を閉じるなんて思いもしなかった。なんて呆気ない最後なんだろう、と苦笑が洩れる。
でも――これもわたしの犯した罪の、罰なのかもしれない。

わたしはただ幸せになりたかっただけだ。誰もが羨む人生じゃなくていい。ただ平凡に、他の多くの人がそうであるようなありふれた日々を送りたかっただけ。その為にはお金が必要だった。頼れる親も、身内さえいないわたしが、生きていく為には。

「……

その時、男が小さな声でわたしを呼んだ。ゆっくり目を開ければ、泣きそうな瞳が薄闇でゆらゆらと揺れている。

「ごめん…」

その言葉を最後に、何故――?というわたしの疑問ごと、思考は遮断された。

そもそもの始まりは一か月前の夜。
わたしの働く店に、一人の男が客として来たことだった――。