六本木心中


※性的表現あり




バスルームのマットの上に押し倒されて、射抜くように見下ろしてくる万次郎の瞳の熱に自然と頬が熱くなる。だから思わず顔を反らした。

「あ…あまり見ないでってば」

耐え切れずに言えば、万次郎がかすかに笑った気がした。次の瞬間、腕を引かれたと思ったら抱きしめられて濡れた肌が密着する。思っていたよりも広い胸に抱きこまれて身動きが取れなくなった。

「可愛い。照れてんの」
「…だ、だって…こんな格好だし…」

今じゃ全身びしょ濡れでどこもかしこも透けてしまっている。鏡に映る自分の姿は驚くほどに厭らしくて、これじゃ全裸の方がマシだと思った。それに出しっぱなしのシャワーの湯気がどんどんバスルーム内にこもっていくせいで少し息苦しい。

「綺麗なのに」
「…んっ」

いきなり身を屈めた万次郎が首筋に吸い付いて、そこからピリピリとした刺激が生まれた。

「ここも」
「…ちょ…」

鎖骨を舌先でなぞように舐められ、ゾクリと肌が粟立つ。

「…ここも」
「…ん、ぁっ」

更に下がったくちびるが膨らみをなぞって、キャミソールの上から先端を舌先でつつく。それほど強い刺激じゃないのに、またゾクゾクとしたものがそこから体の中心へとゆっくり広がって、万次郎の熱に侵食されて行く気がした。

「ちょ、まんじろ――」
「こっち来て」

力を少し緩めながらも腕を外さないまま、万次郎はさっきまで座っていたお風呂用の椅子に座った。そのまま腕に引きずられるように、彼の膝の間に後ろ向きに座らされる。そうされることで今度はわたしの上から直にシャワーが降り注いだ。

「これ脱がしちゃっていい?もうこんなに濡れてるし」
「え、ちょ、っと待って――」
「この恰好じゃ恥ずかしいんだろ?」

万次郎はキャミソールの肩紐を下げながらわたしの背中にちゅっと口付けた。

「…ん…っ」

背骨に沿うようにてろてろと舐め上げられてゾクゾクする。キャミソールを腰まで下げられた時、背中に冷んやりとした液体を塗られた感触にビクリと肩が跳ねた。

「や…な、何――」
「ここまで濡れたんだしも風呂入れよ。ってかジっとしてて。洗ってあげるから」

その液体はボディシャンプーだった。万次郎の手がヌルヌルと背中を滑って脇や腰にも下りていく。それがやけに恥ずかしくて、自然と背中が丸まってしまう。

「ひゃ」

脇を撫でていた手のひらが後ろから前に移動して、胸の膨らみを包むように動く。そのままグイっと体を起こされた。

「隠すなよ」

万次郎はちょっと笑いながら胸全体を手のひらに包み込んでゆっくりと揉み込んだ。次第に先端がボディシャンプーの泡の合間から硬くツンと立ち上がる。そこを指で優しく撫でられると、ひゅっと息を吸い込むほどに体が反応した。

「ま…万次郎…酔ってる…?」

これまで万次郎はキス以外、わたしに触れようとはしなかった。それも私の反応を楽しんでからかう程度の戯れ的なキスばかり。だから万次郎がわたしに求めてるのは女としてというより、自分に最後まで寄り添ってくれる存在なんだと思ってた。なのに急にこんなことをされて戸惑ってるわたしがいる。
万次郎はわたしの問いにちょっと笑うと、素直に「酔ってる」と応えた。言いながら指の動きも大胆になっていく。泡で滑らせた手が胸をやんわり揉んで形を変えてくのが、目の前の曇った鏡に薄っすら映っていた。それが余計にわたしの羞恥心を煽っていく。

「ちょ、ダメ…」
「洗ってるだけだし」
「う…そ…あっ」

さっきから刺激され、更に敏感に立ち上がった先端をきゅっと摘ままれ、思わず声が出る。万次郎は「どうした?」と含みのある声で言った。絶対意地悪な笑みを浮かべてる気がする。

「も、いい加減に…」
の反応が可愛いから意地悪したくなんの」

苦笑交じりで言うと、万次郎は露わになっている項にキスを落とす。それだけで火照って来た体は素直に反応してしまう。

「あ…やっ」

胸から脇腹を滑り落ちた手が、スルリと脚の間に入り込んだ。濡れて張りついたペチコートの裾から滑り込んだ指先が、明確にそこを捉えると下着の上から優しくなぞられる。思わず手で彼の手首を掴んだものの、あまり力が入らない。

「…ここ、気持ちいいんだ」
「ちょ…やぁ…動かさ…ないで…っ」

もう片方の手で胸を弄りながら、脚の間で器用に動く指先。ゆっくりと何かが上り詰めていく。わたしの体の奥で灯った火を少しずつおこすような指の動きに、たまらず身を捩った。

「ここ、触られんのイヤ?」
「…ん、ぁっ」

下着の上を往復していた指先が淵をなぞって中へ侵入し、直にそこを撫でる。あまりに強い刺激にビクンと背中が反った。

「…濡れてる」
「や…万次…郎…」

体の異変に気づかれ、カッと頬が熱くなる。

「か…からかってるなら…やめて…」
「…からかってない」

そう呟いた万次郎が、わたしの肩に優しく口付ける。たったそれだけで肌が粟立つ。

「酔…ってるクセに…」
「酔ってるけど…いや…酔ってるから…かな…」
「…え…」
に触れたいって正直に言える」
「…んっ」

耳の中に侵入してきた舌が、ぬるりとした音を流し込んでくる。

「ま…万次郎…?」
「…力、抜いて」

後ろから耳を優しく食みながら囁くと、万次郎は容赦なく指を中へ突き立てた。

「ん…ぁあっ…」

ゆっくりと押し込まれていく刺激に思わず背が反ってしまう。指が周囲の壁を掻き回すようにゆっくりと動いた。いやらしく湿った音を立てながら出し入れされると体が何度となく跳ねて震えてしまう。

のここ、とろとろ。オレの指めちゃくちゃ締めつけてくる」
「…ぁ…あ…んっ」

囁きながら、万次郎が耳をぺろりと舐めて、首にちゅっと吸い付かれると、また体が震えた。息が苦しくて何も考えられない。呼吸が浅く早くなっていくたび、意識が朦朧としてくるけど、さっきから腰に硬いものが当たっていて万次郎は本気なんだと思った。

「…

不意に顎を掴まれ、上を向かされた。彼の唇がわたしを塞ぐ。そのあいだも指の動きが止まることはなくて、卑猥な音を立てながら万次郎は優しく激しく掻き回し続けた。

「んっ…ぁ…ダメ…ぁあぅ」

快感と酸欠で身悶える。ぬるりと入り込んだ舌に口内を犯されて、全身が粟立った。

「…イキそう?」
「…ゃあ…んん…っ」

卑猥な問いかけが鼓膜を刺激して、万次郎のくちびるが耳たぶを甘く噛む。追い討ちをかけるように敏感な芽を指先でやんわりと揉まれて全身に力が入った。

「んん…っぁ…っ」

瞼の奥がチカチカして、快感が突き抜けるのと同時に、体を抱え込まれて再びマットの上に押し倒された。抵抗する力もなく、ただ降り注ぐシャワーに顔を背けると、キュっとコルクを捻る音がしてシャワーが止まる。

の恰好、エロ過ぎ」
「…や…見ない…で」

キャミソールは腰の辺りで丸まって、すっかり存在意義を失くしてる。慌てて体を捩ろうとしたけど、万次郎の手に手首を掴まれマットへ固定された。軽く達したせいですでに体には力が入らないくらい全身が気怠い。お酒の酔いと湯気が立ち込める息苦しさでクラクラしていた。

「…ん…っ」

わたしの腕を掴んだまま、万次郎は身を屈めると、硬くなった乳首をちゅっと音を立てて吸い上げた。舌先で器用にぐにぐにとこねられて腰が跳ねる。

「…あ…っぁあ…ゃ…」
「一回イったからすげー敏感になってる。可愛い」

万次郎が満足そうに呟いて、わたしのくちびるをちゅっと啄む。膝裏を持ち上げられたのが分かった時、すっかり濡らされた場所に硬いものが押しつけられた。

「ま…万次郎――」
「オマエを抱いたら…もう手放す気はねえけど…いいの?」

その言葉に驚いてふと見上げれば。意外にも万次郎は真剣な顔でわたしを見つめていた。それはまるで最終確認のようにも聞こえる。わたしを好きにすることなんて、万次郎には簡単なことだったはずだ。でも今日までそうしなかったのは、彼の中でそんな迷いがあったからなのか。愛情とも少し違う強い感情は、まるで毒のようにじわじわとわたしを侵食していく。

「…わたしは…そばにいるって言ったでしょ…?」

その気持ちに変わりはない。あの夜、わたしは一度死んだも同然だ。
黒い瞳を見つめながらハッキリと意志を伝えると、万次郎はわたしのくちびるを塞いで、強く腰を押し付けた。一気に奥まで貫かれ、背中が反りかえる。この衝動的で刹那的な行為に意味はないのかもしれない。
ただ、肌と肌を合わせながら、互いの熱で満たされることがあるというのを、彼は知っているだけだ。それが、甘い毒だということも。